「んっ……」
ぎゅっと抱きしめられ、鼻にかかった声を上げる。
「カレン?」
「だっ、大丈夫です。痛くないです」
体から離れかけた二本の腕を慌てて掴み、カレンは首だけ動かし振り向く。
「つ、つい声が漏れちゃって……さっ、続けてください」
「そうか、判った」
彼女の後ろにいるカーマインはその言葉に小さく頷き、腕に軽く力を入れる。
「はぁ」
身体が軽く締められ、そして同時に触れられている部分にほんのりとした温かさを感じはじめる。
「やっぱり、好きです……あなたに、カーマインさんにこうやって抱きしめれる事」
ラングレー宅寝室、緊急時には患者を寝かせることにも使ったベッドの上で、カレンはカーマインに後ろから抱きしめられている。
「あなただけの、この温もり。本当に、心地良いんです……」
「そうか」
時刻は昼間。自宅も兼ねている診療所には客はおらず、カレンはカーマインと昼食をとったあとに、彼を寝室まで連れ込んだのだ。
「そう、なのか」
「カーマインさん。少し笑いませんでしたか?その……やっぱり子供っぽいです?」
カーマインの声から微妙なずれを感じ取り、カレンは再び振り向く。
「そうだな……少し、甘えっぽいと感じただけだ」
「別にいいじゃないですか。こういうときくらい、甘えたって。それに、こうやって私が甘えるのは、あなたの前だけなんですから」
二人は一糸纏わぬ姿――ではない。カレンは愛用しているエプロンドレスで、カーマインはいつもの服装からジャケットを脱ぎ捨てた姿だ。明かりもつけずただ窓からの陽光だけを部屋の照明にして、カレンはカーマインに抱かれている。
「あっ……それとも、その……退屈、ですか?」
顔をやや赤くして、カレンは尋ねる。
「じゃ、じゃあ……その……いろいろと、その……触って、いいですよ」
そう言って視線をカーマインから外す。
「いや、別に退屈ではないが……そうだな」
カーマインはそう言って、腕をずいっと。
「ひゃっ!?」
カーマインの右手が太股の間に入り、スカートの越しにそっとなで上げていく。
「あっ、かっ、カーマインさん。いきなりだなんて、ずるいっ、です」
「いきなりじゃないと面白くない」
カーマインは右手をカレンの両太股を布越しに膝上から股下まで指で撫でながら、空いている手でムニュッと胸を掴む。
「あんっ、はぁ、ふぅ」
「気持ちいいか」
耳元でふっと息を吐きながらカーマインはカレンに聞いてくる。
「はっ、あいぃ。あふぅ……でも、私だけ気持ちよくても……」
「別に構わない。公務中の寄り道だし、後でブラッドレー学院長とコーネリウス王にも会わなければいけないからな。それに、カレンとこうしているだけで、俺は嬉しいし楽しい……シャンプー、変えたのか」
「えっ、ええ……南門付近に住んでいる新婦さんに一瓶頂いて……どう、です?」
「そうだな。いつもより甘い香りがする」
カーマインは右手を股から抜き取り、金の髪を弄る。髪の先を抓んで鼻先まで持っていき匂いをかいだ後、それでカレンの首筋を軽く撫でてやる。
「ひゃんっ。くすぐった……んんっ」
首筋に微かな痛みを感じる。同時に穏やかな吐息も。
「うっ、カーマインさん。噛むのは」
「駄目か?」
「い、いいんですけと……マークつけるのは、見えないところに。この前、街の子供達に聞かれて大変だったんです」
カーマインは無言で承知したとばかりに襟を捲られ、そこに口をつけはむはむと甘噛みする。
「どう誤魔化したんだ?」
「えっと……ひ、秘密ですっ。恥ずかしいですから……んんっ、ハァ……あっ、はぁ、ああっ」
ビクビクとカレンの身体が震える。
「カレン……どうした?」
「どっ、どうしたじゃありません!激しすぎです」
カレンは今だ胸を揉んでいるカーマインの手を掴んで……
「激しすぎて、もう……だから、指だけでも……して、ください」
カレンはそう言ってスカートを少したくし上げ、スカートの中にカーマインの手を導いた。
その頃……
「すみませーん。ちょっと子供が風邪ひ――」
「喉が腫れてる?じゃあ、この薬草煎じて飲ませろ!」
「すみません、子供がこれを口にし――」
「手足が少し痺れるくらいの毒性弱いキノコだから、それ以上酷くならねぇよ!気になるってんなら、これを飲ませた後、腹一杯まで水飲ませるんだな!」
「エーンエーン!」
「ちび助!男なら膝すりむいたくらいで泣くな!ほれ、これでも舐めてろ!」
「あっ、チャンピオン!もうチャレンジャーが1時間も待ちぼうけ――」
「どうせ1分ありゃあ倒せる相手だ!闘技場締まる直前まで待たせる!」
「すみません、カレンさんは――」
「取り込み中だ!あと……2時間位してから来い!……ふぅ。まあ、カレンの幸せは俺の幸せ。折角の時間を邪魔しちゃ悪いわな」
妹思いの剣闘王は診療所の前で忙殺されていた。