「んっ……」
バーンシュタイン王城の中庭。そこに生えてある木の下で寝ていた青年が目を覚ます。
「こんにちは、カーマインさん」
灰色の髪を長く伸ばした女性の顔との距離は目と鼻の先、吐息の暖かさまで伝わるほど近い。
「リビエラさんか。こんにちは」
「……普通、起きて目の前に女性の顔があれば驚くものじゃないの?」
「そういうものなのか?」
「そういうものよ」
リビエラと呼ばれた女性の顔がカーマインから少し離れる。
「この前ウェインにこれをしたら、驚いて跳ね起きたわよ」
「そうか……ところで、どうしてリビエラさんが俺に?」
顔にかかるリビエラの髪を手でどけながら寝ているカーマインは訊ねる。寝る前は木の根を枕にしていたはずなのに後頭部がやけに柔らかいのは、当然カーマインの目から上半身がローアングルで映っているリビエラに膝枕をしてもらっているからだろう。
「したいからしてあげているのよ、文句ある?」
「いや、気持ちいいから何も言うことは無い……ところで、ウェインはどうした?手合わせの約束をしていたはずなのだが」
ローランディアの特務騎士であるカーマインが理由も無く他国の中庭で昼寝をしているわけではない。この国の新米インペリアルナイトであるウェイン・クルーズとここで会う約束をし、その待ち時間に少し休むつもりで寝そべっていたのだ。
「えっとね、そのウェインだけど……んっ、ちょっと派手に怪我をしちゃってすぐに手合わせすることができなくなったのよ。その……シャルローネとアリエータ達と喧嘩しちゃって」
「あの二人と?」
カーマインが知る限り、ウェインと少女二人は仲が悪くは無いはずだ。むしろ、非常に仲がいい。
「はっ、朝シャルローネがウェインを起こしに行ったら、パジャマ姿のウェインに裸のアリエータが抱きついていたんですって。ふぅ、それでまずひと喧嘩。」
「昼前にウェインに会った時、やけに首の向きがおかしいと思ったらそれが原因だったのか」
「それで昼頃にアリエータが食堂に行ったら、そこではウェインに口移しで食べさせようとする、んっ、シャルローネの姿。そこでもうひと喧嘩」
「やけに食堂がある建物が騒がしいと思ったらそんな事があったのか」
「はぁ、そんなわけで現在ウェインは治療中。少し前までどちらが治療するかであの二人がもめていたから、まだ回復しきってないの。ところでカーマインさん」
顔を赤くしているリビエラはもじもじと身を揺らす。
「あまり頭を太股に摺り寄せないでくれるかしら。んんっ、なんと言うか、その……」
「そうだな、ありがとう」
カーマインはそう言ってリビエラの股から頭を離して立ち上がる。
「はふぅ……ねぇ、あなたはいつも膝枕をしてもらう時こんないやらしい事をしているの?」
「大体そうだな。とても心地よいから、ついしてしまう……いやらしいことなのか?そう言われた事は無いのだが」
カーマインは体を伸ばしたあと地面に腰を下ろし、リビエラの顔をじっと見る。
「……なんでもないわ。忘れて頂戴」
リビエラは髪をかきあげながら溜息を付いた。