コトコトと煮込む音。ジュワと焼く音。  
ここは、ローランディア王国は西の一帯を占める、領主の屋敷の調理室だ。  
領民の雇用も兼ねて、大所帯と化しているので、この朝食の時間がもっとも騒がしい。  
その片隅で、ボールを抱えて、一心不乱に黄色い中身をかき混ぜるだけの私がいる。  
たかだか卵溶きに、これだけ時間をかけるのは、これしかすることがないためだ。  
悲しいことに私の料理の不器用さは、今や知る人ぞ知る事実であり、行く先々ですっかりネタにされている。  
これでもIK(インペリアルナイト)時代、部下のシャルローネに教わったケーキ作りのように、  
中身を飛散しまくることがなくなった分、ましなはずなのだが。  
 
「奥様。そろそろだんな様を起こしに行っていただけますか?」  
「ええ、わかりましたわ。」  
この屋敷の侍女が、私に呼びかけた。  
いよいよだ。  
返事する声も、どことなく上擦ってしまっている。  
エプロンで洗った手を拭いた後、そのまま調理室を出て、二階に上がる。  
愛する人の奥様、と呼ばれるのはすごく気恥ずかしい。  
が、目先の大仕事の前に、浮かれた気分も吹き飛ぶ。  
もはや、これは戦争といっても過言ではない、危険な任務なのだ。  
 
主寝室の扉をあければ、そこには半端にシーツをひっかけたまま、朝日をうつぶせに浴びて、  
裸で眠りこけているカーマインの姿があった。  
 
「マイ……こほん。貴方? 起きてください。朝食の時間です。」  
「……。」  
「貴方?」  
寝起きの悪さ、は出会った頃から知っている。  
あの頃は羽虫がいて、無遠慮の過激なキックをお見舞いしていた。  
さすがに連れ添いを蹴り起こすなど、恐ろしい発想は真似できない。  
抱かれなれた肩に手を置いて、ゆさゆさと揺り起こしてみる。  
 
「……。」  
「……貴方?」  
恐る恐る顔を近づけて、彼の顔を覗きこむ。  
 
「……。」  
「……。」  
互いに目を合わせて、沈黙が降りる。  
次の瞬間、抱き寄せられてベッドに引きずり込まれた。  
知り尽くされた体からブラウス、スカート、そして下着まで手際よく剥ぎ取られていく。  
 
ああ!   
今日もしてやられてしまった、と己の未熟さを腹立たしく思う。  
 
--- 
 
俺は非常に満足していた。  
純白のエプロン一枚だけになってしまった、新妻ジュリアを見下ろしている。  
お約束の抵抗があったため、陽を浴びて煌く白金の髪は乱れ放題。  
ベッドのなかで、細い肩を激しく上下させて息をついている。  
思ったより小さめのエプロンをしていたため、豊かな胸はあふれ気味で、下からは暗いところでは銀……  
今は秘裂が見えてしまいそうな程、淡い薄白金の茂みが覗いている。  
それを恥ずかしそうに気にしながらも、潤んだ瞳でこちらを射殺さんばかりに睨んでいる。  
 
実に扇情的な光景だ。  
エプロンとは、かくも魅力的なアイテムに早変わりするものだと感心した。  
後ろのリボンが少々緩くなってしまったのが残念だが、今朝の脱がし技はまずまずか。  
どこから攻めようか。上か下か、それとも背後から。  
人生は素晴らしい。  
 
しげしげと見惚れていたら、胸元の少し厚めの布を突き上げて、とがりきった乳首に目がいった。  
触ろうとすると、ぺしりと叩き落された。  
そのまま俺に隙を与えず、胸元を両手で隠してしまった。  
泣きそうな顔をしているくせに、抵抗を緩めない健気なジュリア。  
もう襲いたくてたまらない。  
 
「朝食の時間です!」  
「ん。わかった。それじゃあ手早く済ませるから、まずはお前を食べさせてほしい。」  
「貴方という方は――――――――っ!!」  
ジュリアが切れた。側のクッションを掴み取ると、俺を叩き倒しにかかる。  
一応名匠が作った特注品なんだが、羽毛が舞い散り、刺繍糸が解けまくっている。  
この絶叫に近い抗議の声が、俺の屋敷に響き渡った後は、事情を察した執事が配慮して、当分誰かが呼びに来ることはない。  
毎日のことなのだが、ジュリア自らが窮地に追い込んでいくのが面白い。  
IKとして、時に三連隊を率いる程戦術に長けた女なのに、俺にかかわると、こうもあっさり引っかかるところが楽しい。  
 
さてと、極上の麗しき女神を、ありがたく頂戴するとしよう。  
 
「……だと。聞いているのですか!?」  
まずは振り回している、そのしなやかな二の腕から。  
捕らえると頬を寄せて擦る。内側の、もっとも極めの柔らかい肌を愉しむ。  
びくりと体が震え、振り払おうとするのをそのまま強引に抱き込んだ。  
頭を肩先に埋める。  
余計なものを含まない、純粋な女の香り。  
暴れるたびに、俺の胸板で揺れ動く、布越しに感じる二つのふくらみ。  
 
「ああぅく! いい加減に健康的な朝をっ、ご一緒に……って、こらっ。そこを触るな。話を聞け!」  
さらくびれを滑らかに降って、その流線具合を確かめた後、小ぶりな尻をたっぷりと撫でてから、背後から泉を探る。  
ここ一ヶ月あまりの間に散々馴らしてきたせいか、既にぐっしょりと濡れて、愛されるのを待っていた。  
その手を逃れようと腰を前に引きかけたところで、正面から俺の熱くたぎった欲望の塊を、優しく差し込んでいく。  
 
「ああ! だから……ぅ駄目だといって……あ、やめろ……んんっ!」  
体をのけぞらせて、快楽から逃げようとするのを、両手で押さえつける。  
すっかり俺好みに育てられた彼女の体が、言葉とは裏腹に俺を欲しがる。  
ここまでくればジュリアに勝ち目はない。  
 
目が覚めれば、まずは一発。  
気が向いたら、いつでもいくらでもヤらせてもらえる立場。  
新婚家庭で、長期休暇を満喫できるありがた味に、今とても感謝している。誰に。いや、今はどうでもいい。  
 
結婚前から、何度か肌を重ねる夜はあったが、やはり毎日こうして一緒にいる間に、気づく点は多い。  
女の体は繊細にできているらしく、感じる時期と鈍くなる時期があるらしい。  
愛液にもその兆候があり、あふれる量や、その粘り気具合、それから味でも、乗る日とそうでない日が  
あることもわかってきた。  
においについては、もともとジュリアの体臭は強くない。  
香水も強いものはつけないし……もう少しチェックを、厳しくしてみるべきか。  
 
危険日――  
正しくは妊娠可能日という概念が、この世界にあったかと言われれば、旧世界時代からあった。  
しかしそれも体調や相性とか、様々な要素が加わって、微妙にずれてしまうこともあるらしく、  
考慮すべき点、というくらいにしか認識していない。  
それに、俺は最初からそういうことは考えていなかった。  
グランシルの時から彼女に夢中だったし、波動を失って瀕死の頃は禁欲生活だったし、  
コムスプリングスの頃には開き直ったりしたし、特使のときはまあ、それなりに愉しんだ。  
できちゃった婚――  
これなら確実に、ジュリアをIKから剥ぎ取れると思っていたから、実のところ、手ぐすねひいて、  
連絡がもらえる日を待っていた。  
まさか俺が先に折れる羽目になるとは……結果的には、彼女の勝ちか。  
 
ジュリアを愛している最中、このように思考をめぐらせるのも、初めの頃は引け目を感じていたが、もう慣れた。  
 
「ああっん! あ、ああ、はあん。はう、んんっ。」  
ジュリアの歓喜を告げる喘ぎが、一段と増した。  
今日は体の調子がとても良いらしい。どこまで耐えられるかな。  
すでに小休憩を挟んで、三回戦目に突入している。  
 
俺は笑みを浮かべると、再び動きを大きくして、刺激を強めてゆく。  
ジュリアの普段は少し低めに通る声が、愛らしい嬌声となって部屋中に満ちる、たまらなく好きな時間。  
彼女の中で暴れまわっていた俺のモノは高まり続け、さらに本能のまま突き上げてはむさぼる。  
 
既に片手で足りない数くらいの絶頂を味あわされ、快楽に耐え忍ぶ権利しか与えられていない、愛しいジュリア。  
その零れる涙を何度も舌でぬぐい、汗で張り付いた豊かな髪を、指で優しく整えてやる。  
でも決してやめたりなどしない。  
 
溢れ出した互いの欲望の雫が、可愛い尻を中心に、エプロンやシーツを大分汚してしまっていたが、  
まだ許してもらえるかな。  
今日こそ、限界まで挑めるかもしれない。  
 
「あぁ! あんん――――――――――――んっ!!!」  
ジュリアが一際大きな声をあげて、失神寸前まで脱力したのを見て、俺も最後の精を放ち、やっとモノを抜いた。  
 
溜め息をついた。  
俺自身も相当酷使しているはずだが、下半身を見れば、まだまだ頑張れそうだ。  
しかも抱いたばかりのジュリアの体、特にそのすっきりとしたへそ周りをじっと見つめていると、  
また欲望がユラユラと勃ち昇ってくるのだ。  
 
アリオストに相談したら、驚かれた。  
苦笑して「直後って、気持ち的にも萎えないか」と聞かれた。  
意味がわからないと告げたら、「羨ましいね。やっぱり君は観察のし甲斐がある」と返されたな。  
満足感は当然あるが、虚しくなる理由がわからない。  
好きな女を愉しめたのに、何でそういう気持ちが芽生えるんだ?  
とりあえず理解する必要性は見当たらない。  
 
許してもらえるなら、このままジュリアに、俺の残りありったけの精をぶちまけてみたい。  
特使時代にパイズリさせてもらったとき、一度だけ胸元に撃ち出したら、すごく嫌がられて、  
その後の諸々が、全部駄目になったことがある。  
以来、外出しさせてもらえていないが、そろそろ明日の入浴あたりで挑戦してみようか。  
まずは胸元。尻、首筋、顔。いずれその体全体を、満遍なく汚してみたい。  
もう一つ望めば、口でも受け止めて欲しい。  
この心底惚れている女のすべてが、完全に俺のものになったことを、この目で確認したくてたまらない。  
 
男としては恥ずかしいことなんだが、グランシルのあの最高の夜を味わってしまった後、  
俺のモノは、他のどんな魅力的な女の誘惑にも、納得しなくなってしまっていた。  
ジュリアだけに感じ続ける性欲。ジュリアにしか満足できない俺。  
結婚が決まった夜、義理の父に責任うんぬんを突きつけられたが、俺のほうこそ  
一生をかけて償ってもらわないと、割が合わない。  
もっともこの話は、俺が先に果てた時にすると決めているので、何年かかかるかわからない。  
ひょっとしたら、永久に話さずじまいかもしれない。  
 
「よく頑張ったな。飯にしようか。」  
「……。」  
まだまだジュリアに試したい性技はいくらでもある。  
彼女はどんな表情でそれを楽しんで、どんな声で俺を喜ばせてくれるだろうか。  
余韻から抜け出せず、腰が砕けたままになっている愛妻を抱いて、朝食――  
もう昼食か、に向かう夫というシチュエーションも、新婚家庭ならではの楽しみになりつつある。  
 
---  
 
中庭に設けられた東屋が、私のこの屋敷で一番のお気に入りの場所だ。  
天気のいい日は、こうして二人で、ティータイムを楽しむことにしている。  
午後の日差しを浴びながら、私の手には『奥様に吉報。ご主人を喜ばせる三分料理特集』の抜粋記事。  
カーマインは、ローザリアで大人気の週刊誌を広げていた。  
ちなみにトップ記事は、私たちのことだったりする。  
表紙も、結婚時の花吹雪のなか満面の笑みを浮かべる二人で、恥ずかしいから、  
あまりこちらに向けないで欲しいと思う。  
 
「ジュリアがマイロードなんて変な話をしなければ、とっくに幸せを満喫できたんだ。」  
「ぐっ! で、でもですね。私もそれなりに……。」  
「三年だぞ。三年。相思相愛だったのに、生殺しにされ続けた男の身にもなってくれないか。」  
「しかし……。」  
「きっと今頃楽しく、ジュリアもH大好きな女になって。」  
「ちょっと待てもらおうか! その発言を撤回しろ、カーマイン。絶対ありえん。大好きとは断じて!」  
「俺とするのはいやか?」  
「いや、あ……その、いやではないのだが、つ、つまりだな……。」  
「愛しているからするんだろ。ジュリアはもうヤりたくないのか?」  
「もちろん、や……。」  
「や?」  
「……じゃない。」  
否定した後で、私は赤面してはうろたえる。  
三年――同僚の負担を考え、私はライエルがIK復帰するまで、結婚を伸ばしてもらっていたのだ。  
もちろん生殺しなんてした覚えなどない。  
ちゃんと婚約者としての責務……  
彼は来るたびに、父の監視の目をかいくぐって、私の寝床に押し入っては、しっかり行為を要求していたのだから。  
 
今になって思えば笑い話だろうけど、当時、私は彼には別に、本命の女性がいると思い込んでいた。  
初夜の床で見せた、誤解が解けたときの彼の引きつった、苦虫をつぶしたような顔は、あまりにも強烈で  
生涯忘れられないだろうと思う。  
「俺はそんなに浮気性に見られていたのか……」と、がっくりと彼が肩を落としたあたりから、  
どうも関係がおかしくなってきた気がする。  
以来、こうして彼はこの話をネタにしてからかうようになった。  
 
大体、彼が今もっている雑誌の見出しにもあるとおり、「三国一のエロい男」に選ばれるような男性が、  
私に一途に想いを寄せてくれていたなんて、今でも信じられない。  
だまされている気分だ。  
 
「じゃあ、ヤらせてもらおうかな。」  
「って……何? ま、まさかここでする気か!?」  
「いいじゃないか。自宅の庭で何しようが、俺たちの自由……だろ?」  
自分の席を離れて、こちらに回ってくるカーマインに、思わず飛びのいて後ずさる。  
強姦魔と化した夫の、攻撃の第一手をぎりぎりで避けると、間髪いれず手刀を叩き込んだ。  
女性とはいえ、これでも先々月まで大陸最強騎士団を勤めていた私だ。  
距離さえあれば、迎撃方法もいくらか選択できる。  
油断していたらしいカーマインの首筋に、もろに入ってしまったらしく、あっさりと崩れこんだ。  
 
しまった。もう少し手加減するべきだったか、と近寄って心配したのもつかの間、スカートから伸ばしていた足に、  
カーマインの指がつつつと伸びた。  
続いて片足をとられ、足首から膝へと彼の唇が這い上がる。  
 
私は眩暈にふらつきながら見下ろす。  
無表情な、という表現を返上するべきではと思う程、すっかりデレきった愛する夫の顔がある。  
可愛いと感じてしまったことは別として、これは深刻な事態だ。  
 
結婚すると駄目になる男は、職務上相当数見てきたし、どういうタイプがそうなりやすいか理解しているつもりだった。  
しかし、まさかこの光の救世主、騎士の中の騎士と呼ばれたカーマインに、起こるとは思ってもみなかった。  
しかも大抵の理由は妻側にある。  
つまり私の態度が、カーマインがだらしなくさせているのだ。  
ここはきちんと主導権を掴み取り、より良い理想的な夫婦の形に持っていかねば!  
 
そう握りこぶしを震わせて熱く決意した私は、心を鬼にして、その頭を蹴り落とす。  
さらに常備していた鞭を、ガーターベルトより抜き出すと、ピシリと彼の前で鳴らしてみせた。  
彼がにやついたまま、私を見あげている。  
 
「何か言いたそうだな、カーマイン?」  
「ふっ。やっぱり好きなんだな。そういうのが。」  
「調子に乗るのも、大概にしろ……!」  
誰がこんな態度を取らさせているのか、と私は怒りに震えて、鞭を振り上げる。  
脅すつもりですぐ脇の地面を撃つが、その隙を逃さず、彼の手がその先端をすばやく握りしめてしまった。  
その勢いを生かして立ち上がると、それを手繰るような仕草で、私を引っ張り込む。  
 
「あ……く! 何を……?」  
「俺しばかれるより、縛るのが好きなんだ。」  
あっという間に背後に両腕を捕られ、そのまま鞭で縛り上げられる。  
背後から、彼の押し殺したような笑いが聞こえる。  
だから情け無用と思うのに、愛しい男には本気で挑めなくなっていた。  
 
「まずは下ごしらえしないとな。」  
「!! は、離せ!」  
背後から、カーマインの両手がするりとシャツの下に滑り込み、乳房をふわりと包み込んだ。  
優しく念入りに擦られれば、敏感に反応し乳首が立ってきてしまう。  
それを指先で絡めとり、楽しげに転がしては弄ぶ。  
 
「……く、止めろ。」  
「感じてるんだろ? 素直になればいい。」  
彼は私を拘束したまま、片手でテーブルの食器諸々を器用に、東屋の椅子側に除け始めた。  
その仕草が本当にやたらもったいぶって丁寧なのが許せない。  
そこまで余裕を見せ付けられると、惨めさが増す。わかっていてやっているんだから、始末が悪い。  
それも数分のことで、そのまま私はテーブルに、上半身をうつぶせにされた。  
 
彼の腕が、スカートのなかに忍び込んでくる。  
私の太ももや尻を、何度も往復して這い回る。  
ガーターベルトが外され、パンティーの隙間から指を差し入れてる。  
ぞくぞくと体が反応して、その刺激の呼び水に、次第に体全体が敏感になってきてしまう。  
自分でもはっきり分かるほど、濡れ始めるが分かる。  
彼がそれを恥部からすくい取り、いやらしい音をたてさせながら、指先で満足そうに確かめている。  
 
「さてと、じゃじゃ馬としては、どういう調理法がお希望なんだ? 俺が直接指導してあげよう。」  
「断る……!」  
「泣いて許しを請うてみたら、三分で済ませてあげてもいいな。」  
「だ! 誰が……お前のHのときの口約束ほど、信じられないものは……な、あ! ああっん。」  
時をおかず、パンティがひき降ろされ、スカートを捲りあげた彼のモノが、後ろからあてがわれた。  
今だ。私は彼のモノの先端を、この尻と太ももに力をこめて挟み込み、締めあげた。  
 
「……!」  
「ど、どうだ!!」  
「だんだん知恵がついてきたな。」  
「さあ、さっさとのけ!」  
「ジュリア……股擦りって言葉、知っているか?」  
「ま……たす?」  
彼のモノが、私の愛液の力を借りてするりと股から抜けたかと思うと、次の瞬間太ももの付け根に、  
深く滑り込んできた。  
敏感になりきっていた私の恥部は、そのあまりの過激な感触に悲鳴をあげる。  
 
「!!」  
声を上げてしまったら、多分私は脱力してしまう。  
彼のモノが容赦なく、私の谷間を前後に行き来する刺激に、歯を食いしばって必死に耐える。  
だけど、いくら尻を太ももをきつく締め上げても、彼を感じてしまった体が、欲情の雫で谷間をしどしどと濡らしては、  
彼の手助けをしてしまう。  
悔しい気持ちよりも、快楽のほうがどんどんと心を侵食し、麻痺させてゆく。  
淫猥な水音が東屋に響ている。  
 
「ぁああ。ゆ、許して――……!」  
ついに耐えられなくなり、降参する。  
首筋に当てられる彼の唇と、愛しているとささやく声が、その願いを却下する。  
 
「もう……続けないで!! あうぅんん、あ、も……駄……目ぇ、これ以上……耐えられな……あん!」  
「一度この方法で、お前をイかせてみたかったんだ。」  
「あああ!!」  
その動きが一層加速して、悲しいことに私は堕落する。  
もう声を出すことに慣れてしまい、カーマインの望みのまま乱れ、そのまま気持ちよく頂点を迎えてしまった。  
彼はぐったりとうなだれた私の頭を、優しくあやすようになでると、私のなかにモノを差し込んで、再び動き始める。  
あとはいつものように、この体は蹂躙されつくしてしまうのだろう。  
私の意思なんて、どうにでもなると舐めきっているのか。  
 
「ん。はあ。あ。あん、ひう、あっ、あ、あ、あああぅん!」  
妻たるもの、いかなる時も夫をたて、夫に尽くし、常に影となり……  
どこで聞いた理想の妻の話だろう。  
 
この底なしの種馬相手に、どうすれば対抗できるのだろうか。  
この夫は、私の気持ちを理解してくれるんだろうか。  
 
愛しています。  
だからあなたにとって、最高の妻でありたいのです。  
 
 
 
そう願うのに、道は果てしなく遠い――――――――  
 
---  
 
顔を上げれば、頂点まで舞いあがり、後は落ちるだけになった満月が見えた。  
ローランディア騎士服に身を固め、腕を組んで窓辺に佇んでから大分経つ。  
やっと正門横に授けられている通用口が動き、待っていた相手が中庭を、のっそりと歩いてくるのが見えた。  
振り返ると、ジュリアはまどろみのなかで俺に悪態をついているらしく、時々言葉ならない寝言を紡いでいる。  
苦笑して柱の時計を見れば、まもなく深夜二時を回ろうとしていた。  
気配を消してそっとベッドに近づくと、腰先まで伸びた美しい銀の髪を一房すくいとり、口づけを落とす。  
ゆっくりと音もなく、部屋の扉を開けて廊下に出た。  
 
俺も待たせる身だからな――  
昔ある女シャドーナイトに言った言葉だ。  
シュテーム山麓のとある村で、集団失踪事件が発生したらしい。  
周辺警備を担当するウォレスが、お手上げだと俺に助力を要請してきたのだ。  
正面ホールの、広いカーブ階段を降りながら考える。  
彼女は、自分も連れて行かないことをどう思うだろう。  
腹を立てるか、落胆するか、それとも追いかけてくるのだろうか。  
 
あのグランシルの夜から始まった、俺たちの望み、求める形は、果たしてひとつになったのか。  
闇は、俺のなかに居座り続けている。  
ゲーヴァスに会って、活性化し始めたかもしれない。  
ラルフ、リシャール、ヴェンツェル、そして……俺。  
アリエータだって、自らの意思で追い出せたわけじゃない。  
やつが勝手に、出てってくれただけだ。  
己の力だけで、ゲヴェルらの呪縛から逃れることは、誰にも叶わないのか。  
 
いつかこの幸せも、崩壊する日が来るかもしれない。  
まだ見ぬ未来を、憂いていても仕方がない。  
今この時、この瞬間を、大切に噛みしめて生きてゆけばいい。  
 
 
俺を照らす光と道は、確かにここにあるのだから――――――――  
 
fin  
 

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