疲労で重い体を引きずるように部屋に入り、ベッドに身をなげる
平隊員用の宿舎だが、宿のおやじが気を使ってくれ、ほとんど俺専用になっている
クイーンスクリーパーを倒した英雄様のはずが、気が付けば司令の御曹子に全て手柄を持ってかれ、未だに平の隊員としてこき使われる毎日だ
対スクリーパーの生物兵器に、人間様並の待遇は勿体ないらしい
名誉や地位どころかプライバシーも必要と思って無いようだ
そう、正直俺は女に飢えていた
維持軍に入る前、ワースリーにいたころは、こんなことはなかった
親のないガキばかりで監視の目のないなか、好奇心のみで抱き合うことが唯一の娯楽だった
しかし、今この人外の悍ましい体を維持する為に、常に妖精の魔素が必要なのだ
コリンはいい子だが女の子だ
まさか、彼女の前で女を抱く訳にもいくまい
もっとも優しいお坊ちゃんが「俺の親友を怪物扱いしたら許さない!」など公言してくれたため、惨めな化け物は女を引っ掛けるどころか、商売女にさえ断られる始末だが
自嘲といきどうりで悶々とするなか、明るい声が耳に飛び込んで来た
「たっだいまあ〜」
細く開いた窓からコリンが帰ってきた
「お帰り」
鬱屈がひどくなり、前にもまして無愛想になった俺が、この子にだけは優しくなれる
自分を嫌わずにいられるのは、悪い気がしないものだ
「あのね、エイミーにお洋服貰ったんだ〜
着替えるから待っててね」
いそいそと「コリンの部屋」と書かれた戸棚に入っていった
気分的にはそれどころではないが、付き合わないと後がうるさい
枕元に置いていた酒を一口煽りコリンを待つ
戸棚の中からきぬ擦れの音のほかに、「アッレ〜」「おかしいな〜」などの呟きが聞こえてきた
「どうした」
異常に冴える聴覚にうんざりしながら声をかけた
「あのね」
戸棚から目の前に飛び出してきて不満げに布を見せるコリン
「これ見てよ」
布は服らしかったか、目に入らない
妖精は、一糸纏わぬ姿だった
「服と一緒に入ってたんだけと、この小さい布な〜に」
コリンは尋ねるが応える余裕は全くない
抜けるような白い肌、ひかえめだが形のよい胸、細い腰から陰りのない股間まで一切隠すことなくさらしたまま空中に浮かんでいる
美しさと愛らしさの権化に魂を奪われ、一瞬も目を離すことのが出来なくなった
「どしたの?」
突然固まった俺を不審に思ったかコリンが近付いて来た
視界いっぱいに広がる美に反応すらできなかった俺の鼻を
「ねぇねぇ」
とコリンがつつく
「うわぁ」「キャアッ」
我に返った俺の叫びに驚き飛びのくコリン
「びび、びっくりするじゃないの。ナンナのよ。モォ〜」
ちょっと足を広げ、腰に手を当て、上体をかがめるように顔を近づけ睨むコリンのかわいらしさに、また心を奪われそうになりながら俺はようやく言葉を発した
「なっ、なんで服を着ていないんだ」
「えっ、ああ、ちょっと着方がわからなくって」
「そうじゃないだろ。女の子が裸でっ」
自分の言葉に興奮し続けられなくなった俺を不思議そうに見ながら
「だってこれが普通の姿だよ。なにかおかしいのかな?」
自分の体を点検するように、あちこち調べるコリンから、意志を総動員して目をそらし
「とにかく服を着ろ!」
怒鳴りつけるように言うと部屋を飛び出した
限界だった。女の身体にはなれきっている筈なのに、確かに溜まっていが相手はコリンだぞ
小さく可愛い妖精だ
俺を助けてくれる大事な相棒だ
とにかくエイミーは帰ってるようだ
相手をたのもう
俺が人でいられるために
終