「言うことに従えば、おまえのマスターには手荒いことはしないでやる」  
そんな言葉を本気にしたわけじゃない。  
けれど、私にそれに抗うことなどできなかった。  
小さな小さな使い魔にすぎない私には…  
 
ルイン・チャイルドを集めて、その能力を解明し、軍が活用する。  
そうした目的のために存在する、知る人すら少ない暗く冷たい石造りの建物。  
私のマスターはルイン・チャイルドだった。  
そしてマスターも軍の手から逃れることは出来ず、他の多くのルイン・チャイルド同様  
信じていた軍によって捕らえられ、収容所に送られた。  
それ以来、私はマスターと会っていない。  
あれからもうどれくらいの時がたったのだろうか?  
同じ場所にいながら顔を見ることはかなわず、異なる苦痛を受け続ける日々を私達はずっと過ごしている…  
 
今日も私に絶望を与える扉が開く。  
姿を現したのは色欲に狂った目をした薄汚れた白衣の男。  
名前は知らない。知りたくもない。  
 
「ヒヒヒ…」  
薄気味の悪い笑みを唇の端にはりつかせ、後ろ手に扉を閉めると何の躊躇いもなくやはり薄汚れたズボンを脱ぎ捨てる。  
既に完全に直立した肉棒が視界に入り、私はこみ上げる嫌悪感を抑えきれずに目をそむけた。  
ここに来てから毎日毎日、一日と欠かさず否応無しに見せ付けられているものであるが、何度見ても慣れるということがない。  
私は他の男の身体を知らないから比較することはできないが、その…特別大きい、とかそういうわけではないような気がする。  
しかし人間より遥かに小さいサイズしかない私にとって、それはとてつもなく巨大であり、グロテスクだった。  
 
「さあ、出るんだ!」  
ドールハウスの扉が乱暴に開かれ、男が性欲を満たすこと以外なにも考えていないような顔で私に命ずる。  
男は荒い息をつきながら、それに似合わぬ慎重な指の動きで私の服を剥ぎ取り始めた。  
こんな掌に乗るような大きさしかない私の肌を見て、楽しいのだろうか?  
 
過去の経験から抵抗しても無駄だとわかっているから、私はつとめて無表情を保ったままされるがままになっている。  
それでも好意の欠片すら感じない、いや侮蔑と嫌悪の対象でしかない存在に肌を見られ、  
身体を好き勝手に嬲られることに自然と身は固くなってしまう。  
 
「…んっ…!」  
全ての服を脱がせると、男はすぐに私の胸に指を伸ばしてきた。  
そして胸肉を押し込み、こねまわし、指先で乳首をひねりあげる。  
それでも加減はしているつもりなのだろうが、なにしろ身体のサイズが違う。  
普通の人間の女性にとって弱い愛撫であろうと、小さな使い魔の身体にとっては強い痛みをともなう。  
しかし男は私があげた苦痛の声を快楽だと都合よく解釈し、一人悦に入ってますます責めを強くしてきた。  
 
「う…あ、ああっ…あ、ん…」  
胸を弄り回していた手の片方が下に下りていき、足の付け根に指が滑り込む。  
「ああっ!」  
秘所に侵入してきた異物の感触に耐え切れず、甲高い悲鳴が口からこぼれてしまう。  
小指一本の挿入だろうと、小さな使い魔の身体には男の肉棒を突き入れられたほどの圧迫感を感じる。  
「ヒャヒャヒャッ! その声だ! もっとその声を聞かせるんだ!」  
気持ち悪く歪んだ顔で歓喜の声をあげ、男は指を前後させて私の秘所をかきまわす。  
 
「ああっ!はあん、は、あああっ!」  
何度味わっても慣れることのない痛み。  
男を喜ばせるのが嫌いで、声をあげまいと思っても強烈な痛みに耐え切れずに声が出てしまう。  
「あははは、濡れてきた! 濡れてきたぞ!」  
自分の指が湿ってきたことにますます興奮し、男の指の動きが速くなる。  
それは快楽によるものではなく、痛みを緩和しようとする身体の働きだ。  
そんなことにすら気づかず自分に酔った男は、やがて満足げに指を私から引き抜いた。  
 
「はあ…はあ…はあ…」  
やっと苦痛から解放され、どさりと倒れて私は疲労の息をつく。  
「おい、何を寝てる! 立て! まだ本番はこれからだろうが!」  
「うあっ!」  
無理やり髪をつかんで引き起こされ、むせかえるような異臭を放つ肉棒に頬をすり寄せられる。  
「いや、いや、いやぁ…」  
何度となく繰り返されてきた行為。  
それでも涙は尽きることなく流れていく。  
しかしそれは男をより興奮させるだけなのだ。  
それがわかっていながら、それでも流れてしまう涙が恨めしい。  
 
「ううっ…いい、いいぞ…!」  
髪をつかんだまま上下に身体をゆさぶられ、不気味に血管を浮き上がらせた肉の塊に強制的に奉仕させられる。  
「抱きつけ! 腕も、足も絡めろ! 舌を這わせるんだ!」  
私は涙を流しながら、ただその言葉に従う。  
何度も拒んで、何度も痛みを植えつけられた記憶が、私を自然、屈辱的な行為へと駆り立てる。  
そんな自分が情けなくて、私は新たな涙を流した。  
 
「いいっ! 気持ちいいぞ! よし、いく…出すぞ…」  
「いやぁ…出さないで、やめて、許して…」  
無駄と知りつつ、哀願を繰り返す。  
そして、今回もそれは同じだった。  
私の願いがこの男に聞き入れられたことなどない。  
私の優しいマスターとは違うんだから。  
 
「おおおおおおおっっ!!!!」  
獣のような品性の欠片もない絶叫とともに、男の肉棒が爆ぜた。  
亀頭の先が開き、そこから白くねばついた液が吐き出される。  
「キャアアアアアアッッ!!!!」  
胸の中の空気を全て吐き出さんばかりの悲鳴が私の口から上がった。  
自分でも信じられないほどに大きな声。小さな私がこんな声を出せるなんて思わなかった。  
 
「あああ…熱い…火傷しちゃう…」  
小さな身体の私にはその精液の量は凶悪だった。  
白い粘液が頭から足の先まで降り注ぎ、全身が白濁液に覆われるとともに、私の身体そのものが  
淫臭を放つものへと変えられていく。  
もう何十回と、何百回と浴びたそれ。  
慣れるということはなかった。  
回数を重ねるごとに、嫌悪感は増すばかり。  
 
 
やがて今日の時間が終わった。  
私を汚した汚液を拭い取り、身体をいやらしい指で撫で回しながらお湯で清めた私に服を着せなおし、  
男は再びドールハウスに私を押し込んで鍵をかけると、満足したように出て行った。  
 
「言うことに従えば、おまえのマスターには手荒いことはしないでやる」  
そんな言葉を本気にしたわけじゃない。  
けれど、私は従い続ける。  
耐え切れないほどの恥辱と苦痛と絶望を感じながら、それでも私は従い続ける。  
マスターの生命の光を、私はまだ感じることができるから。  
元気だった頃のマスターと比べて、それは弱々しい光となってはいるけれど、  
それでも消えることなく輝いている。  
それを感じることが出来る限り、私は生を諦めない。  
いつかこの淫らに彩られた日々が終わり、再びマスターと会えることを信じて。  
私はずっと耐え続ける。  
 
そして今日も私を淫獄へと誘う扉が開いた。  
 

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