最後の頁に署名をし、捺印を終えると、オスカーはペンを机に置いて一つ伸びをした。  
 目の前に並んだ書類には全て目を通した。必要事項も全て埋めた。当面抱えている仕事は全て終えた、と思われる。  
 そう急ぐ書類でもなかったが、明日からの休暇までには片付けたかったので、これで無事に目標を達成することが出来た。  
 青年は一息ついて、満足気に頷く。  
 折角戴ける正式な休みだ。執務などで時間を潰すのは勿体無いし、それに。  
「……」  
 オスカーは卓上にある暦の記されたカードに目をやった。  
 丁度、一年が経つ。現陛下からの恩情で、彼がバーンシュタインの地へ帰ることを許されたあの日。  
 今すぐにではなかった。けれど一年後。また同じ地に立ち、同じ空気を吸い、同じ道を歩めるのだと告げられ、そして親友にそう告げた日。  
 あれから一年が経ったのだ。  
 翌日の日付を手袋に包まれた指でなぞる。如何にも待ち遠しげな仕草は似合わないなと自分で苦く笑いながら、それでも気分は浮かれていた。  
 馬車を駆って迎えに行こう。そして手を差し伸べ歓迎の言葉を言おう。  
 彼の好まない恭しい態度で、お帰りなさいませライエル卿、なんて言ってやるのもいい。久々にあの苦虫を噛み潰した顔が拝めそうだ。  
 思わず笑みを漏らし、そして頬杖をついた。  
 その時のことや、王都に戻った後のことでも考えながら、ワインでも呷ろうか。  
 ジュリアとウェインも誘ってみよう。久し振りに親友のことが語りたいし、彼等なら喜んで聞いてくれるだろう。  
 思いながら、机を占領する書類を軽く整頓して、手の中に束を乗せた。どちらにしても、まずはこれを片付けなければならない。  
 文官を呼びつけるよりは自分の足で届けに行った方が早そうだと思い、立ち上がって椅子を引いた。  
 その帰りにでも部屋へ寄り二人を誘えばいいだろう。そう執務室を後にしようとした。  
 と、その時。  
 ――――――こんこん。  
 扉の目の前に来た所で、遠慮がちなノックが響いた。  
「入って、いいですか」  
 此方が返事をするより先に、聞き慣れた声が入室の許可を求めた。  
 今から誘いを掛けようかと思っていた人物だったので、丁度良かったと思った。出向く手間が省ける。  
 
「ああ」  
 いいよ、どうぞ入って、とオスカーが続けようとした。  
 ――――――ところで、ばんっ、と勢い良く扉が開いた。  
 ドアの間近に居たオスカーは、あわやぶつかりそうになったが、何とかすんでのところで後方に身をかわした。  
 少しだけ冷や汗をかいたが激突は避けた。咄嗟の判断力と身のこなしの素早さは、流石インペリアル・ナイト、と言って良い。  
 だが、勢い良く開いた扉から勢い良く飛び出してきた人物は、流石の彼でも避け切ることが出来なかった。  
「う、わ……」  
「オスカー先輩!」  
 どん、と全身で打撃を食らった。書類で手が塞がっていたため受け身が取れず、盛大に倒れ込む。ひらひらと数枚の書類が宙を舞った。  
 そして、背を思い切り打ちつけた上から、更にその人物が全体重で圧し掛かってきた。  
 どさりと腹の上へ倒れ込まれて息を詰める。痛いし、重い。  
 重いが、意外にその体重が軽かったのはせめてもの救いだろうか。  
 それよりも、いやそれを踏まえて気になることが―――。  
「…っ、ウェイン?」  
 胸の辺りに顔を埋めているその後輩は、自分と同じく今まで仕事だったのか、これも自分と同じで見慣れた制服姿だった。  
 オスカーはその制服を凝視した。いや、問題は服ではなく、ぴったりとした服が作る身体の線なのだが。  
 何やらオスカーの腹部には倒れ込んでいるウェインの胸がありえないほど柔らかく当たるし、彼の腰から尻にかけては男にあるまじき柔らかい曲線が描かれている。  
 ばっと顔を上げたウェインの、その少女のような面差しよりも鎖骨から下の胸元に注目してみる。  
 そこにはやはり―――。  
「オスカー先輩、お願いが」  
 ―――白く柔らかそうな、双丘の谷間。  
 うるうると懇願の眼差しを向ける後輩の事情を察したオスカーは、背中が痛いなとは思いつつ、それを表情には出さず苦笑して見せた。  
「……うん、いいよ」  
 お願いの内容を聞く前に了承されたものだから、ウェインは半分泣きそうだった顔を思わずきょとんとさせた。  
 
 床に散乱する書類を片付けながら、後輩の話を聞く。  
 今日は、陛下に謁見している最中で女になってしまったらしい。幸いエリオット陛下は頭は良くていらっしゃるけど、そこまで鋭敏ではない。体調が優れないのですか、と心配されただけで済んだそうで。  
 それでも、いくら気づかれなくても、嫌なものは嫌だろうとは思うけれど。  
「明日には、アーネストも帰って来るっていうのに……」  
 一つ呟いて、ウェインは黙り込んだ。確かに親友が晴れて帰国出来る日にまで女だというのも、何となく嫌な話だ。帰ったその足で寝室に誘うのもどうかと思うし。  
 身体が女性に変化してしまうのは彼の―――彼女の意思ではないので、本当に同情する。  
 災難だったねと背中を叩き、項垂れる頭も撫でてやる。すっかり落ち込んだウェインはオスカーのなすがままに彼へと凭れ掛かった。  
 ウェインには少しだけ申し訳ないと思いながら、その姿は可愛いなと思った。  
 借りてきた猫の子のように自分の腕へ収まる少女は愛おしい。元々、自分を慕ってくれる可愛らしい後輩ではあるが、異性になっている時は特別に。  
 ―――と、余り時間を掛けさせてはいけないか。  
「ほら、戻りたいんだろう。そんなに泣いてばかりいないで」  
 あやすように半身を起こさせると、涙するまでには至っていないのだが、それでもこの上なく沈んでいるウェインがどんよりと此方を見る。  
 まとめた書類を机の上に置き直すと、オスカーはその縁に座った。椅子は一人掛けだし、床は冷たいし痛いので遠慮しておきたい。  
 余り行儀は良くないが、場所が場所だけに今回は此処しかないかなと思いつつ、手袋を外し書類の上へ落とす。  
「おいで」  
 裸の片手を差し出すと、出来る限りの優しい声音でウェインを呼んだ。  
 ゆらりと覚束ない足取りで近寄る少女を、自分の膝の上へ招き、抱きかかえた。そのまま向かい合わせに座らせる。  
「いい子だね」  
「……そんな、子供扱いしないでください」  
 拗ねたようなひどく幼い面持ちでそんなことを言う少女に、オスカーは笑った。片手で腰を支えもう一方で彼女の制服の前を全て開く。  
 すると、下着を着けていない裸の胸が現れた。肌寒さからか興奮からか、薄い紅色の先端は既に固く立ち上がりかけていた。  
 
 目先にある乳房の間から、下から上へ顔を覗き込む。じいっと窺い見るとウェインは頬を赤く染め、琥珀の瞳を逸らした。  
「期待していた?」  
 オスカーが楽しげな声音で問い掛ける。  
「なに、を……」  
「こうされること」  
 少女の上擦った声が返ると、青年は指で尖った乳首を摘まんでみせた。びくりと、ウェインの細い肩が大きく震える。  
 指先で軽く挟んでは、くりくりと転がす。抓って引っ張ったり、少し痛い程に刺激する。釣られて白い胸もふるりと揺れた。  
「……んっ…」  
 ウェインは唇を噛んで、きつく目も瞑った。そして誤魔化すように、ぎゅうとオスカーの肩にしがみついた。  
 くすり、と青年の笑う声が胸元でくぐもる。視界が閉じられるとその分、感覚が鋭敏になることは解っているだろうに。  
 オスカーはそのまま強く細腰を抱き返し、指の腹で乳首を引っ掻くように幾度か擦り上げた。  
「……」  
 震えて上手く噛み合わない唇の隙間から、少女の上擦った呼吸が漏れた。  
 確かに気持ち良いけれど、ウェインにはそれ以上に羞恥の方が強かった。オスカーは知っているのか、意地悪なことばかりを口にする。  
 ―――愛撫されることを期待しているか、なんて。  
「ひっ……あ…」  
 ウェインが思わず細く喘ぎを上げると、青年は一層笑みを深めた。腰を抱いていた手を下降させ、臀部を辿り、スラックスの上から股間を撫でたのだ。  
 声を出させるなんて簡単なことだ。汗ばむ柔らかな胸に頬を押し当て、オスカーは満足そうな微笑を浮かべた。  
 手指で弄っていない側の乳房に唇を乗せ、突起を柔らかく食む。これにも敏感に反応し、少女は堪らなさそうにふるふると首を振った。  
「返事は?」  
 乳首を舌で転がしながら、もう一度問う。  
 別にウェインも、好んで男に抱かれている訳ではないだろう。元の身体に戻れる方法がそうするより他無くてのことだ。  
 元々その事情に付け入って、彼女を抱いている訳だし。  
 それを解った上でこんなことを聞く自分は、相当性格が良くないなと思う。  
 けれど。  
 
「……して…ました」  
 ごく小さく、消え入りそうな声で肯定の返事をする彼女も悪いのだ。こんな風に言われるから、強制したくなる。  
 仮に言わなくても言う気になるまで待つだけだし、抱いて貰っている(と彼女は思っている)引け目もある(らしい)ので、やはり言わざるを得ないだろうけど。  
 閉じていた琥珀の瞳は涙を溜めてうっすらと開かれ、許しを乞うように此方を見下ろしていた。  
「うん」  
 頷いて、ごめんね、と心の中で謝罪をした。そして胸元にキスを落とす。  
 可愛いものをつい苛めたくなるのは男の性だろうか、などと思いながら、背中を軽く叩いてやる。  
 そしてもう一度下へ向かって手を滑らせ、やわやわと足の間を撫で摩った。  
 ファスナーを下ろし、片手で器用にスラックスをずり下ろす。と、男物のトランクスに包まれた下腹と太腿が覗いた。  
 いつ女になるか解らないし、流石に辛い物があるので、下着はいつも男の時のままらしい。少女に取っては恥ずかしいというか、情けないものもあるようだが。  
 萎えてしまう前に、さっさと自分で下ろしてしまおうとウェインはトランクスに手を掛けた。  
 が―――。  
 その細い手首を掴み、他ならぬオスカーがそれを止めさせた。  
「……先輩?」  
 ウェインが首を傾げ、彼を見下ろす。  
 オスカーは悪戯な笑みを浮かべると、男の下着ならではの開いている部分に手を突っ込んだ。  
「な……!」  
 その部分は既に水気を含み、僅かに暗い色となっていた。布を広げると、その部分だけが外気に晒された。  
 隙間から湿った恥毛と、濡れて布と糸を引く秘唇が覗く。碧の目が細められ、そこを舐めるように見つめた。  
「こういうのも意外と便利だね」  
「ちょっと、先輩……!」  
 丁度、ショートパンツに穴を開けたような感じで、性器だけが冷たい空気に触れる。  
 その妙な感触と、何より視覚的な羞恥に耐えられず、ウェインは慌ててオスカーの手を振り払おうとした。  
 だがそうする前に、ひんやりとした手が陰毛の上を滑り、熱をもった秘裂をきつくなぞらえた。  
「やっ…」  
 
 下着の前だけが大きく開き、差し込まれたオスカーの手が揺らされる。絡みつく唇がちらちらと覗いた。  
 幾度か下腹を彷徨うように行き来を繰り返した後、滑らかな指が尿道の上の辺りを擦った。しこった肉芽をぐりぐりと押し潰す。  
 花弁を上下に擦り指先を押し当てたりしながら、緊張したそこを解そうと手が動く。その度、遮る物の無いそこでくちゅりと濡れた音が立つ。  
 抜き差されるほっそりとした指は、ぬらぬらと愛液で濡れていて、何とも淫靡に見えた。  
「あ、も…やめ……!」  
 親指でぬるりとクリトリスを刺激し、奥には指を差し込まず、ぐちゃぐちゃと大袈裟に音を立て浅いところを掻き混ぜる。  
 感じる箇所を的確に捉えた愛撫。呼び起こされるあからさまな性感に、堪らず少女は青年の肩にしがみついて身を震わせた。  
 顔が少女の胸に押しつけられたので、再度オスカーは軽くキスを落とし、先端を口に含んだ。思い出したかのように、片手でも固くなったままの乳首を弄くる。  
 そうしてやると、いとも容易く。  
「いっ、く、…あぁっ…あー……!」  
 少女のそこはひくひくと痙攣を繰り返し、緩く、きつく、青年の指を締め上げた。  
 軽く絶頂に達したウェインは、くたりとオスカーの肩口に頭を凭せ掛けた。  
 
 
 力の抜けた少女を抱え上げ、制服のスラックスも濡れたトランクスも爪先から引き抜いた。  
 そうして、自分の腰を挟むように彼女を膝立たせ、ファスナーを下ろし自身を取り出す。  
 さあ挿入しようかと思ったところで―――。  
 ウェインのぼうっと蕩けた目が、一連の動作と、晒された自分の陰茎に向けられていることに気づいた。  
「……」  
 無意識だろう、けれど物欲しげな瞳。  
 ―――それを見て、また一つ、オスカーは悪戯に目を光らせた。  
「欲しい?」  
 女性なら思わずうっとりしてしまうような優しい笑みをウェインへ向ける。  
 少女の目元がぱっと朱に染まった。気まずそうに視線を逸らして、だけどこくりと首を縦に振った。  
 オスカーは彼女の顔に手をやり、手のひらで赤くなった頬をなでなでと撫ぜた。暫く幼子にそうするように頬や耳を撫でていたが、つとその指先がウェインの小さな口に押し当てられる。  
 
「じゃあ、まずはこっちにあげようか」  
 言いながら、少女の肢体を自分の身体から降ろさせた。  
 床にぺたりと足をつくことになったウェインは、気の抜けた顔で机に座ったままのオスカーを見上げた。  
「……先輩…?」  
「口で、出来るかな」  
 ウェインにしたように、今度は自分の唇に指を押し当てた。  
 言葉の意味を考えて、少女は彼の顔と、目前にある猛ったものを見比べる。  
 すると、息を呑んで、ウェインは先程以上に顔を真っ赤にした。漸く意味を飲み込めたのか、目を見開き瞬きを繰り返す。  
 足の間からオスカーを見上げるも、彼は微笑したままで何も言わない。  
 嫌だと言えば無理に強いられることはないだろう、けど。  
「あ……」  
 ほんの少し迷ったが、ウェインは彼に近づくと、既に開いていたスラックスの前をくつろげた。  
 おずおずと勃ち上がったものに触れる。自分以外の男のものなんて、間近で見る機会も触る機会も余り無い。  
 女になった時に何度か受け入れたりはしたが、ウェインの方からそこへの愛撫をすることは皆無だった。  
 今までアーネストも目の前に居る彼も、そういったことを強要したことはなかった。別に、今だってそうされている訳ではないが。  
 なので―――。  
「……」  
 どうしたものだろう、と悩む。  
 とりあえず、ただ見つめていても何も始まらないので、鼻先を近づける。思ったより性臭は薄かった。  
 触るだけならそこまで抵抗は無い。自分の持っていたものと似たような感触だ。  
 他の部分より皮膚が薄く、体温が高い。時折脈打つそれは、自分のそれも彼のものも大差ない。  
 すべすべと手のひらで撫でたり指を触れさせると、不思議と気持ちが落ち着いた。  
 この分なら大丈夫かも、などと楽観的に考える。そして、思い切って口の中に入れてみた。  
「ん…」  
 そのまま仄かに熱を持つ彼自身を、舌でくるんだ。吐きそうになったらどうしようかと思っていたが、何とか大丈夫そうだ。  
 
 飴や氷菓子を舐る要領で、陰茎全体を舌先で舐め上げる。ぴちゃぴちゃと自分の立てる音で昂ぶりそうになりつつ、闇雲に。  
 触られてもいない自分の股間が熱くなるのは何故だろう。オスカーの手がゆるゆると自分の髪を撫ぜた。それだけで、もどかしい快感が生まれた。  
「ぅ…く……」  
 濡れた音を立て、ミルク皿を舐める猫のようにねっとりと舌を動かしていると、時折頭を撫でる手が止まった。注意すると、爪先も僅かに跳ねることもあった。  
 その時に愛撫している箇所を強く擦ると、頭上でそっと息が漏らされた。  
 彼の感じる場所を何となく掴み、後は男だった時のことを思い出しながら、暫くの間吸って舐る。  
 苦味の滲む亀頭を臍で擦り上げると、低く掠れた声が耳に響いた。首を上向けると、ウェインの視線に気づいたオスカーが上気した顔で笑いかける。  
「いいよ。……上手だ」  
 感じているだろう相手の顔を見、そうしているのが自分だと思うと、ますます身体が熱を持つ。無意識に潤む内腿を擦り合わせた。  
 先端を口に含んだまま、唾液に濡れた裏筋を指で擦る。青年の顔から笑みが消え、少し苦しげに溜息をついた。  
 いつも責められてばかりいるので、趣向返しとでもいうのだろうか。得意になり愛撫を施し続ける。  
 ―――すると。  
「ウェイン、口に、いい?」  
 ふと、きつく髪が掻き混ぜられた。  
 いつもは落ち着き払い余裕のある青年の声に、切羽詰まった色が滲んでいる。口の中のものはびくびくと震え、苦い液体が先端から零れていた。  
「…んっ、……うん」  
 多少不安になりつつも、ウェインは頷いた。そのものを口に含んでも大丈夫だったので、こっちも意外と平気なのではないか、と。  
 頭部が強く掴まれた。そしてゆっくり、大きく上下させられる。喉元に届きそうな肉棒に噎せそうになりながら、口を窄め、溢れる先走りを吸い上げた。  
 そうして―――。  
「っく、…んむ……!」  
 竿が震えたかと思うと、先からびゅく、と青臭い液体が散った。舌の上で苦味が広がる。  
 断続的に吐き出されるどろどろと粘っこいそれが喉にも絡んで、息が詰まる。苦しくて思わず咳き込みそうになった。  
「は…」  
 
 青年が少女の髪を掴む指を緩め、息をつく。脈打ったものが少し落ち着くと、ずるりと小さな口からそれを抜き取った。唾液に塗れた肉茎がウェインの舌との間で透明な糸を引く。  
 口腔の白濁が生臭く絡みつく。放たれたものは飲み込んだ方が良いのだろうか、とウェインは悩んだ。  
 自分なら、どうだろう。気持ちを男に戻して相手の口腔に射精したことを想定する。自分の場合だったなら、申し訳無いのと恥ずかしいのとで吐き出すことを奨めそうだが。  
 そうこうと考えながら口の中をもごもごとさせていると、つとオスカーの指に顎を持ち上げられた。  
「出していいよ」  
 ほんのりと香水の匂いがする上品なハンカチが口元に宛てがわれる。  
 唇を抉じ開けるような動きをする指先に誘導されそっと口を開くと、端からたらりと精が垂れた。それを拭われ、清潔な布が白濁で汚される。  
「気持ち悪い?水を持ってこようか」  
「や、大丈夫……です」  
「そう」  
 咽喉に違和感が残るので、少しだけ水は欲しかったけれど、そこまでさせるのは悪い気がした。  
 ウェインは首を振り、唇を手の甲で擦ると、口内に残った残滓を飲み込んだ。喉が鳴り、絡みついたものも流れ落ちた気がする。  
「君は、本当にいい子だ」  
 察したのかオスカーが苦く笑った。汚れたハンカチをその辺りの床へ放ると、頭に置いたままの手で優しく黒髪をくしゃりと撫ぜた。  
 少女の細い腕を引き上げて身体を起こさせる。自分を挟むように机の上に乗せ、先刻と同じ体勢を取らせると、立たせた足を左右に思い切り開いた。  
 足の間に、ひやりとした感触。気づかない内に太腿まで愛液が流れていたことに気づかされ、ウェインは恥ずかしそうに俯く。  
 そんな少女に何度目かの笑みを漏らして、オスカーは濡れた自身の上に少女を持ち上げた。  
「……御褒美」  
 耳に熱っぽく囁いて、そして。  
「え、あっ…あああ……!」  
 ウェインの身体を、自分へと落とした―――。  
 
 
 夜が明けるまであと数時間。オスカーは葡萄酒を傾け、私室の窓から月を見上げていた。  
 隣では、自分のベッドにウェインがすやすやと眠っている。  
 
 
 あのまま執務室に放って置く訳にはいかなかったので、此処に連れて来てはみたが。そして何度か声を掛けてもみたけれど、熟睡していて起きなかった。  
 今夜は酒にでも付き合って貰おうかと思っていたのだけれど。  
「……」  
 くるくるとグラスを回し、ぼんやりと親友のことと、隣で眠る後輩のことを考える。  
 彼はいつまで女になったり男に戻ったりを繰り返すのだろう。魔法学院のある魔導研究家の所為でそうなったと聞いたけど、その人物は治療薬を開発はしないのだろうか。  
 そう言えば、最初はアーネストに協力してもらっていたと言っていたか。彼が帰ればどうなるのだろう。  
 ―――と、何故だか、やたらと複雑な気持ちになり、思考することを止めた。  
 馬鹿なことを考えていないで、今はただ、親友の帰りを純粋に喜べば良い。  
「……ねえ」  
 アーネスト・ライエルがバーンシュタイン王都へ戻って来るまで、あと数時間。  
 
 
 
 
                                                               END  
 

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