とんとん、とわたしの部屋の扉を叩く音がした。
「あ、レオニャちゃん。・・・どうしたの?」
「ちょっとフレーネと話したいことがあって来たニャ」
「じゃ、中に入ってお話ししましょうか」
と、いっても今はソファーの上には描きかけの絵や画材が置かれているのでふたりで座って、というわけにはいかなかった。
「悪いけど、ベッドの上で、いいかな?」
「いいニャ」
レオニャちゃんは寝室へ入るとどすんっとベッドにとびこんだ。
「ニャ〜。フレーネのベッド、フカフカで気持ちいいニャ」
「ふふっ、そうかな?」
「それに・・・フレーネのニオイがするニャ」
そう言いながら、レオニャちゃんはベッドの上で何度も身体を弾ませる。
そんな彼女を見ながらわたしはベッドの縁にそっと腰を下ろした。
「話って、何かな?」
「フレーネも、ホントはこの世界じゃないところから来たってホントかニャ?」
「ええ。よくわからないけど、千年以上も昔の世界から来たみたいなの」
「フレーネは、寂しくないのかニャ?」
どうしたのだろう。レオニャちゃんの表情が曇り、声のトーンが落ちた。
「え?」
「レオニャは、ご主人様達に会うまではこの世界にひとりぼっちだったニャ。どこへいってもニンゲンには追い出され、モンスターには襲われて・・・とっても辛かったニャ」
わたしは、目が覚めた時からずっと彼やレムスさん達のそばにいたからひとりぼっちで寂しいって感じたことはない。
でも、レオニャちゃんはわたし達に出会うまでずっとひとりだった。わたしよりも小さなこの子が長い間孤独だったことを思うと、心がずきりとした。
「・・・でも、いまはひとりぼっちじゃ、ないから。だから、寂しいだなんて思っちゃだめ。ほら、わたしはちゃんとレオニャちゃんの近くにいるでしょう?」
ベッドの上で横たわっているレオニャちゃんの額にわたしはそっと手を重ねた。
「温かい・・・。フレーネの手、とっても温かいニャ」
言いながら彼女は安心したような表情を見せた。
だけど、その次の言葉は彼女の口から出たとは思えないものだった。
「フレーネ。レオニャとせっくすするのニャ」
「な・・・」
わたしだって一応、それがどういうことをするのかぐらいは知っている。だけど、いまここでそんな言葉がどうして彼女の口から出たのか、まったくわからなかった。
「レムスから聞いたニャ。せっくすって大好きな人とハダカで抱き合うことなのニャ」
「え?・・・でも、それは・・・」
わたしが返す言葉に困っていると彼女の言葉はなおも続いた。
「レオニャは、フレーネのこと、大好きニャ。だから、フレーネとせっくすがしたいニャ。・・・それとも、フレーネは、レオニャのことが嫌いなのかニャ?」
「ううん。レオニャちゃんのことは大好きだよ。だけど・・・あっ」
それは仲間として―――と言い終わらないうちにわたしはレオニャちゃんに手をぐいっと引かれてバランスを崩し、彼女に覆い被さってしまう。
とくん、とくん。
ふたりの鼓動が重なる。
それ以外の音が遮断された状態でわたしはレオニャちゃんと見つめあった。
レオニャちゃんの腕がわたしの背に回ってもわたしは抗うことができなかった。できない、じゃなくて、抗うということなんて考えもせず、不思議と自然にそれを受け入れていた。
レオニャちゃんがわたしを抱き締めたまま身体を捻る。さっきとは逆に、レオニャちゃんがわたしに圧し掛かっている。
「さっき、フレーネもレオニャのこと、大好きって言ったニャ。だったら、レオニャとフレーネ、ふたりでハダカになるニャ。ぎゅ〜ってフレーネを抱きたいのニャ」
レオニャちゃんは起きあがるとすぐにレオタードとニーソックスを脱いだ。
「これが・・・レオニャの生まれたままのカッコなのニャ。ちょっと恥ずかしいけど、フレーネに見て欲しいのニャ」
わたしは起きあがってレオニャちゃんを見る。
彼女は両脚を折って身体の前にまっすぐ腕を伸ばして両手をつき、ちょっと前かがみになっていた。腕で少し隠れているけど寄せられているために胸のふくらみが否応にも強調されてる。
レオニャちゃんはペサック族でわたしは人間。
でも、ふたりとも女の子なんだなって、今更ながら彼女の身体を見て思った。
「フレーネも脱ぐニャ」
「え?う、うん・・・」
わたしは身を起こしてふたたびベッドの縁に座った。
服に指を掛け、上から少しずつ脱いでゆく。
そんなわたしを、レオニャちゃんは見ている。
服を膝の辺りまで脱いだ時、その視線がずっとわたしの胸に行っているのに気付いた。
「あ、あんまり胸ばかり見ないで・・・」
わたしは顔を真っ赤にして俯き、思わず右腕で胸を隠した。
「綺麗な胸ニャ。おっきくて、ふかふかしてそうで、レオニャもフレーネみたいな胸がほしいニャ・・・。だから、胸を隠さないで欲しいのニャ」
わたしは腕を下げて、再び胸を露わにした。
その途端、レオニャちゃんは飛びかかるようにわたしの胸に顔をうずめた。
「やわらかい、あったかくて、こうしているとなんだかとっても心地いいのニャ」
レオニャちゃんはわたしを抱き締めてきた。抱き返すかわりにわたしは彼女の頭をそっと撫でる。
そのまま、わたしは身体を支えきれずに半ば押し倒される感じでベッドに倒れこんだ。
(Fin)