デュルクハイムとの戦いも一応の決着がついて大陸全土を巻き込んだ戦争は終結へと向かっている。ファンデルシアも取り戻すことができたし、お父様もお母様も無事だった。  
 この辺りのことはアリシア姫たちが何とかしてくれるだろう。  
 私たちがしなければいけないことは魔法を消すこと。マギーさんが魔法消去装置を完成させるまで、戦いでの疲れを取ることも兼ねて明日は休暇を取ることとなった。  
 今は何も考えずに寝てしまうのがいちばんいいのかもしれない。でも、シャワーを浴びてベッドに入っても私はあの人のことを考えてしまって寝ることができないでいた。  
 そんな時、あの人の方から私の部屋にわざわざ来てくれた。私は嬉しくて、彼を部屋の中に招き入れた。  
 そして、思いきって、彼に私の想いを伝えた。本当はファンデルシアでお父様を助けに行くときに伝えたかったのだけど・・・。  
「返事を、きかせて。もし、貴方も私と同じ気持ちなら・・・」  
 言葉で思いを伝えたときも怖かったけど、彼の返事をきくのはもっと怖かった。  
 返事なんかきかずにこの場所からいなくなりたかった。  
 だって、ふられちゃったらどうしようって嫌でも考えちゃうから。  
 だけど、それって勝手に気持ちを押し付けているだけで彼に迷惑がかかるし、「私は臆病です」って言っちゃってるようなものじゃない?  
 だから、私は勇気を持って彼の目をじっと見つめた。  
 永遠のように感じられる、ほんのわずかな時間。  
 どきどきしながら待つ私を、彼は優しく包みこんでくれた。  
「ありがとう。私・・・貴方が好き。他の誰よりも・・・」  
 夢、じゃ、ないよね?確かめるように私は彼の背に手をまわす。  
「ずっと・・・ずっとそばにいてね・・・」  
 顔を胸に埋めて彼の鼓動を耳に入れながら呟く。  
 それに応えるように、彼の指が私の頭を撫でて、髪を梳いた。  
 指が髪を通りぬけるたびに、私の鼓動が乱れる。  
 身体の中から湧きあがってくる衝動を抑えきれなくなって、私は顔を上げ、キスをした。  
 マーキュリアでしたときと同じように、つま先で立って彼と高さをそろえて。  
 
「ん・・・っ」  
 しっとりとした温もりとマシュマロのようにふんわりとした優しさ。  
 それが唇だけでなく全身に染み渡ってゆく。  
「きゃぁ」  
 つま先で立っていられなくなって身体のバランスが崩れる。  
 倒れてしまいそうになった私を、彼はぐっと抱き寄せて支えてくれた。  
「・・・ありがとう」  
 言葉は素直に出たけれど態度では素直になれず、私は顔がかあっとなって俯いた。  
 自分からキスをしたのにこんなのじゃ恥ずかしかった。それに、キス以上のことをしたいっていう気持ちが強くなってまともに彼を見ることができないでいた。  
「あ、あのね」  
 思いきって顔を上げて彼を見る。  
 もう、私が私じゃなくなったような感覚。  
 女の子から求めるのってはしたないことかもしれない。それでも私は求めずにはいられなかった。  
「貴方と・・・したいの」  
 この言葉を耳にした彼はかなりびっくりしていた。まぁ、その前にもいきなりキスしたっていうのもあるけど。動揺を落ちつけるように一度ため息をついてから、彼は私に聞き返した。  
「結ばれて、1つになりたい。私のすべてを、もらってほしいの」  
 軽い気持ちで言ってるんじゃないの。さっき、倒れそうになった身体を支えてくれたように、心を支えて心を貴方で満たしてほしい・・・。  
 ねぇ、私の目を見て。嘘、ついてないでしょう?心の底から望んでいるんだから。  
 彼はこくんと頷くと、しゃがんで私の膝のうしろに片腕をくっつけた。  
「え?」  
 ぐらりと背中から倒れそうになる。と同時に、ふわりと脚が浮く。  
 気がついた時には、私は彼の腰の高さで抱きかかえられていた。  
 この格好って“お姫様抱っこ”じゃない。本当にアリシア姫がされていたら思わず笑ってしまいそうだけど。それだけ私のことを大切にしてくれているって考えて良いのかしら。  
 寝室への扉を開ける時はちょっと大変だったけど、彼は私をベッドの上まで運んで仰向けにしてブーツを脱がせた。  
 
 天井を見ながらこれからのことを思うと、期待と不安が入り混じっている。  
 不安な部分は2人で和らげることができるといいな。  
 ベッドがきしみ、私の身体が少し沈む。彼が靴を脱いでベッドに上がってきた。  
 適度に筋肉のついた上半身が私の目に映る・・・って、上は全部脱いじゃったの!?  
 枕元に脱いだ服を置いてから、私の耳元で囁いた。  
「わ、私にも、服を脱いでほしい、ですって?」  
 そんなの反則じゃない。だって、貴方は上を脱いでも下はズボン穿いてるけど、私の服ってワンピースのドレスなんだよ?上を脱いだら下も脱げちゃう。  
 しかも、この服って胸の部分が開いているからブラをつけていないの。  
「後だと、だめかな?」  
 彼はあいまいに微笑むだけ。脱いで、って言われているようなものね。  
「わかったわよ。すぐに脱ぐわ。・・・でも、恥ずかしいから、後ろを向いていてくれる?」  
 彼は少し顔を曇らせたけど、素直に後ろを向いてくれた。  
 私は起き上がって服を脱いで彼の服の隣に並べた。  
「いいわよ」  
 胸を両手で覆い隠してから私は彼に声を掛けた。  
 服を着ていない姿をはじめて見られる。今の私の姿、貴方にはどう見えているのかしら?  
 彼の視線が顔から胸、そして腰の辺りへと落ちてゆき、再び顔へと戻って私たちは見つめ合う。  
 彼が身体を寄せてくる。そして、私の頬に手を添えて唇を重ねた。  
「んっ・・・」  
 二度目のキス。一度目よりも彼の唇は熱くなっていた。  
 彼の舌先が私の舌を撫でる。  
 口を少し開けると、彼の舌が滑りこんできて私の口のなかをなぞってゆく。  
 私はおそるおそる舌で彼の舌に触れてみた。  
「んんっ・・・んむっ・・・」  
 ほんのちょっと触れるだけだったのに。いったん触れると止められなくて私は彼の舌を何度も求めていた。  
 舌が絡むにつれて私の口のなかで2人の唾液が混ざり合う。  
 ときどき飲みこむけれども、飲みこみきれなかった分が口元から溢れて顎まで伝う。  
 彼は唇を離すと舌を這わせて溢れた分を掬い取っていった。  
 
 首に巻いている紅いバンダナに彼の指がかかる。  
 ほどきやすいように私が顎をそらすと、バンダナはするりと解かれた。  
 これって、プレゼントのリボンが解かれるのと似ていないかしら?  
「ふふっ」  
 思わず私が笑みをこぼすと、彼は不思議そうな表情をしていた。  
「唇だけじゃなく、全て貴方のものだから・・・あっ」  
 三度目のキス。バンダナを巻いていたところを彼の唇がなぞってゆく。  
 彼が動くたびに前髪が私を掠めて、くすぐったい。  
 身体に力が入らなくなって私は崩れるように後ろに倒れた。  
 それでも彼のキスは止まらなかった。  
 胸を隠していた手が取り払われて露わになると、彼の唇は胸の谷間にも熱を落とす。  
「はぁ・・・」  
 彼の手が私の乳房へと降りる。ふくらみが手のひらにおおわれて優しく撫でられ、時には強く揉まれる。  
 そのたびに先端部は甘い疼きを私に伝えていつの間にかぴんと硬くなっていた。  
「ひゃ・・・あっ・・・んんっ」  
 胸から手が離れたと思ったら今度は彼の口が乳房を撫でる。  
 唇がふくらみを辿ったり、舌が先端を舐めたりつついたり。さらには口に含まれてちゅっと吸われたり。  
 彼が乳房に熱を伝えた分だけ、私の身体はかぁっと火照って頭のなかがぼーっとなっていった。  
「やっ・・・ああっ・・・ふぅっ・・・」  
 胸から離れていた彼の手が私のウエストから腰、太腿をゆっくりと撫でまわす。  
 最初はウェストのあたりがぞくぞくってなったけど、幾度と無く愛でられるうちに私の体はくすぐったさを通り越して彼の愛撫に心地よく浸りだしていた。  
 
 太腿を撫でていた彼の手がショーツにかかる。  
「どう・・・かな?」  
 白地に紅いギンガムチェックの柄で、真ん中にリボンが付いていて可愛いから、私のお気に入りなんだけど。  
 でも、こういう時って大人っぽい方が色気があっていいって言う人もいるみたいだから、ちょっと不安・・・。  
「あん・・・」  
 よく似合ってるって言いながら、彼は下腹部にキスをした。  
 そしてリボンを指で数回突いてからゆっくりとショーツを引き下ろしていく。  
 これって彼に気に入ってもらえたってことかしら?って思っている間に脚からショーツが抜かれた。  
 彼は私の脚を開いて頭を潜りこませる。そして、脚の付け根にある女の子の大切なところに口づけた。  
「ああ・・・は、恥ずか・・しい」  
 自分でもあんまり見たことのないところを見られて、口づけされて。  
 しかも私は脚を開いて彼にされるがままになって。  
 でも、その相手が好きになったひとだから、彼だから、こんな格好になってこんなことをされてもいいって思う。  
「ふぅ・・・んっ・・・あんっ・・・」  
 身体は素直に彼に応える。  
 扉や入口を彼の舌が撫でるたびに甘い声と吐息を零し、身体の奥からはこんこんと蜜が溢れ出る。  
「やぁ・・・はっ・・・んんっ」  
 入口にある敏感な部分も彼の舌が撫でる。  
 つつかれたり、転がされたりと彼の舌の動きに翻弄されて、そこから伝わる快感に私は身体だけじゃなくて頭のなかまで蕩けてしまいそうになっていた。  
 
 顔を上げて彼が尋ねてきた。  
 私が何も言わずにただこくんと頷くと、彼は穿いていたものを脱いだ。  
 待ち望んでいたことだけど、怖い。彼とひとつになりたいって思っているけれど、私のなかに入ってくるときの痛さを想像してしまう。  
 彼が私の脚の付け根に何かをあてがった途端、思わず逃げるように腰を引いてしまった。  
 身体ががくがくと震える。首を左右にぶんぶんと振って怖さを紛らわそうとしたけれど、身体の震えはもう止まらなくなっていた。  
 彼はそんな私をぎゅっと抱き締めて耳元で囁いた。  
「なっ・・・」  
 その言葉に私は絶句してしまった。  
 これからのことに怯えている私に「杞憂だ」なんて、かけるべき言葉じゃないでしょう?  
 そういえば、ファンデルシアでお父様を助けられるのか不安だったときも同じ言葉を掛けてくれたわね。  
 あの時もとんでもないことを言うのねって思ったけれどもその一言が私の心を楽にしてくれたの。  
「ふふっ・・・。ファンデルシアの時と一緒ね。本当に、貴方の言葉には妙な響きがあるわね」  
 止まらなかった体の震えがぴたりと止まった。  
 なぜだかわからないけど、彼の言葉は私にとって魔法のようだった。  
 再び脚の付け根に熱い何かがあてがわれたけれど、今度は逃げなかった。  
 入口に押し当てられるような異物感に私はシーツをぎゅっと掴む。  
 私のなかに彼がほんの少し入ってくる。身体のなかから切り開かれる痛みに私は歯を食いしばった。  
 彼は私に気を使ってくれたようで、ゆっくりと少しずつ入ってきた。  
 一気に貫かれるような思いをしないのはいいけれど、それでも少しずつ身体を裂かれるような痛みは戦いで受けたどんな痛みよりも辛くて、優しかった。  
 
「―――っ!・・・痛・・・い・・・」  
 一段と大きな痛みが全身を支配する。彼に心配をかけまいと堪えていたけれど、この痛みには我慢できずに声を上げてしまった。  
 彼が心配そうに私をみてる。  
「大丈夫。大丈夫だから・・・」  
 嘘をついた。泣きたいぐらいに痛くて痛くて、本当はもうやめてほしかったけど、彼を最後まで受け入れたいっていう気持ちが痛みを上回った。  
 彼の動きが止まった。  
「全部・・・入ったの?」  
 彼が首を縦に振る。彼をすべて受け入れた喜びがしばらくの間、私の痛みを忘れさせてくれた。  
 彼が私に覆い被さってぎゅうっと抱き締めてくる。私も彼の背に腕をまわして抱き返す。  
 2人の鼓動が1つになってる。鼓動だけじゃなくて、2人のすべてが1つに繋がっているんだね。  
「んっ・・・」  
 2人の唇が重なる。いままでのなかでいちばん熱いキスだった。  
 彼が身を起こしてから腰を少し動かす。身体のなかの痛みが呼び戻される。  
 でも、いいの。気持ちいいとは思えなくても。この痛みは彼に愛されているからこそ感じることができるものだから。  
「あんっ・・・はぁ・・・ああっ・・・」  
 なかから突き動かされるたびに私の身体が揺れる。  
 私はその動きに身も心も委ね続けていた。  
 しだいに身体の奥が熱くなってきて、頭のなかに白いものがぼーっと浮かぶ。  
「貴方を・・・愛し、て・・・る・・・っ」  
 意識が沈んでいきそうな感覚のなかで私は彼への想いを何度も繰り返す。  
「あい、して・・・あぁっ、ああぁっ」  
 身体が強張って、頭の中が真っ白に染まる。  
 そのとき、私はいたわってくれるような心地よい圧迫感に包まれていた。  
 
 気がついた時には彼が寄り添うように私の隣にいた。  
 私が意識を戻したのに気付くと髪を撫でてくれた。  
 彼とはもう繋がっていないけど、脚の付け根がじんじんしている。でもそれ以外の何か違和感を感じてそこに目をやると、ハンドタオルが宛がわれていた。  
「あの・・・これは?」  
 彼に聞いてみると、シーツが汚れないようにとのことだった。  
 初めてだったら血が出るらしいからって、そこまで気を使ってくれてたのね。  
 もう一度ハンドタオルを見ると紅い染み―――彼と結ばれて“純潔の証”を捧げた印―――ができていた。  
 洗っても洗ってもその血は洗い落とすことはできないだろう。むしろ、ずっと残ってくれてばいいって思う。タオルとしては使い物にならなくなってしまったけど、見るたびに初めて結ばれたこの夜のことを思い出してほしいから・・・。  
「ありがとう」  
 その優しさに。そして私とひとつになってくれたことに。  
「んっ・・・」  
 私は彼と唇を重ねる。いままでのなかでいちばん甘いキスだった。  
「あのね」  
 今の私と彼の姿を見てふと気付いたことがある。私、裸よりもえっちっぽい格好してる。髪飾りはともかくニーソックスを穿いたままだったの。  
「これは・・・貴方の趣味?」  
 彼の顔が真っ赤になる。私と視線を合わせようとしてくれない。  
 もしかして、図星だったのかしら。  
 悪戯っぽく笑って私は彼の頬を小突く。  
「ふふっ、いいわ。今度もニーソックスを穿いたまましてあげ・・・んんっ」  
 言い終わらないうちに私の口が彼の口で優しく塞がれてしまった。  
 2人でこうやってじゃれあってるのってすごく心地いい。  
 “純潔の証”を捧げたけれど、彼への気持ちはずっとずっと純粋なまま、これからも変わらないわ。  
 だから、これからも一緒にいて・・・ね。  
(Fin)  

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