昔はここからの景色に憧れていた。でも今は白雪の降るあの景色が見たい・・・。
窓を通してイライザの瞳に映るのは憎らしいほど緑の木々。これが美しく見えていたのは、ファンデルシアの雪景色と異なる趣があったからである。ファンデルシアがデュルクハイム軍に占領された今、屋敷から雪景色を眺めることは二度と叶わないことかもしれない。
また、ファンデルシア解放のためにレジスタンスを組織しているらしいという彼女の父親のことも気掛かりであった。イライザにできることはただ彼の無事を祈ることだけである。
「帰りたい・・・」
もたれかかるように窓に左手をかけながら呟く。
口にしたからといって帰れるわけではない。故郷に、そして平和だった日々に。
イライザが気付いたときには、緑だった景色に白が混ざっていた。
「え?」
よく見るとそれは窓で反射して映るフレーネの姿だった。いつの間にか寝室にまで入って来ていたらしい。
「・・・出て行って」
振り返ることなく、イライザは声を絞り出した。
しかし、フレーネは首を横に振ってイライザに近づいてくる。
「・・・出て行って」
今度は瞼をぎゅっと閉ざして同じ言葉を発するイライザ。
フレーネにはその様子が強がっているけど心の底では安心できる何かを欲しているように感じられた。
「怖く、ないですから」
フレーネが後ろからイライザをそっと抱き締めると、イライザの瞼を閉ざす力が少しずつ緩んでいった。
「このままでいさせて」
イライザは目をゆっくり開けて、しばらくフレーネの温もりに包まれていた。
少しの間を置いてイライザは窓の中のフレーネに語りかけた。
「このごろね、夢を見るの。お父様やお母様が消えてしまう夢。クリスやアルフ、それにレヴァンもいなくなって、闇の中で一人取り残されて。
どれだけ叫んでも誰も応えてくれないし、どれだけ走っても光が見えてこないの。夢から覚めてもね、いつもと同じ屋敷なのに私だけどこか別の世界にいるような気がして・・・」
イライザは右手をそっとフレーネの右手に重ねた。
「ねぇ。フレーネは怖くないの?気が付けば知らない世界にひとりでいるわけでしょう?」
「初めは怖かったです。でも、この世界にいることができてよかったです」
イライザの耳元でフレーネは優しく答える。
「どうして?」
「大切なひとが出来たから・・・」
答えてからすぐに、フレーネはイライザを強く抱きしめた。
窓に触れていたイライザの左手は力が抜けてするすると滑り落ちてゆく。
「イライザさんが置かれている状況は分かってます。でも、ひとりでそれを悩んで抱えたままでいるのはもっと辛いはずです。わたしはその辛さを一緒に分かち合いたい」
イライザの後ろから伝わってくる胸の鼓動が次第に速くなる。
「あなたを・・・愛しているから・・・」
気が付いた時には、その言葉を紡いだフレーネの唇はイライザの頬に優しく触れていた。
「え?何を言ってるの?そんなの、そんなのって・・・」
イライザの瞳からは涙がぼろぼろと零れ落ちる。フレーネに辛い気持ちをぶつけているのか、不意の告白を受けたからなのか自分でもわからない涙。
鼻をすんすんと鳴らしながら肩を震わせて泣き続けるイライザが泣き止むまで、フレーネは強く抱き続けた。
「・・・泣いたらすっきりしたわ。お父様やファンデルシアのことを考えても、今の私には何も出来ないのは分かっているの。駄々をこねてるだけってことも」
指先で涙を拭い、窓に映るフレーネの輪郭をその指でなぞりながらイライザは呟く。
「でも、貴方達と一緒に戦い続ければいつかファンデルシアへ帰れる時が来るって信じているわ」
「ええ。みんなで協力してこの戦争を早く終わらせた時には・・・。」
「みんなで・・・ね。そうよね、私はひとりじゃない。今更だけど私も仲間なのよね?」
「もちろんです。ただ、わたしにとってイライザさんは―――」
「単なる仲間ではなくて愛してるひと、でしょう?」
微笑みで応えるフレーネにイライザは胸が締めつけられる感覚をおぼえた。
「教えて下さい。イライザさんにとってわたしは・・・」
答えを探すように窓の表面をイライザの指がさまよう。
(マーキュリアに漂着した時からずっと気になっていた。確かに歳の近い女の子で私に妹ができたような親近感もあった。けど、それだけじゃない。この胸の疼きは・・・)
窓をさまよっていた指がフレーネの唇でぴたりと止まる。
「私は、貴方のことを―――」
想いを伝えてくれたフレーネを。
気弱で儚いように見えるけど心の奥に強い芯を持っているフレーネを。
今みたいに私の心を優しく包んで満たしてくれるフレーネを。
「―――愛してる」
そのことばを合図に2人は唇を重ねた。
「んっ・・・」
想いを遂げた相手からのやわらかな温もりが唇を通して伝わってくる。
窓から手を離してイライザが身体の重みを預けてきたとき、フレーネは抱きとめてから彼女に囁いた。
「わたしは、イライザさんをもっと感じたい・・・です」
イライザはこくんっと頷き、腕を伸ばして窓のカーテンを閉ざした。
はじめてみせる、自分のありのままの姿。はじめてみる、相手のありのままの姿。
2人は裸でベッドの上で向かい合って座っているが、少し恥ずかしいようで視線を合わせようとしない。
どこに目を向けて良いのか、どう声を掛ければ良いのかお互い分からず、しばらく沈黙に身を任せていた。
「抱いて、いいですか?」
フレーネが沈黙を破る。
「ええ」
フレーネはイライザの背に腕を回し、ふわりと包みこむ。
「不思議ね。貴方の温もりって私の心の隙間を埋めてくれるみたい」
今度はイライザがフレーネとの距離を縮め、胸と胸をぴったりくっつけた。
「わかるでしょう?胸がどきどきしているの。」
「はい。わたしの胸にイライザさんの鼓動が伝わってきます。もっと、どきどきしてくださいね」
フレーネはイライザに軽く唇を重ねた。
「あっ・・・」
イライザは声を上げる。
「もう一度・・・」
フレーネは再びイライザに口を重ねた。
「んっ・・・」
自然に力が抜けてイライザの口が少しずつ開くと、フレーネも口を開いて舌をイライザの口の中へ入れてゆっくりと撫でてゆく。
「んっ・・・んむっ・・・んん・・・」
イライザはフレーネに圧されるように手を横について体を支えながらも少しずつ後ろにもたれる。
はじめはフレーネにされてばかりだったが、イライザは時折フレーネの舌に自分の舌を絡み合わせた。
フレーネはそれが嬉しくて、舌の動きを早めて夢中でイライザの口内を貪った。
顔を離すと2人は唾液の糸で繋がっていた。しかし、すぐにその糸は切れてイライザの口元から胸板にくっついてしまった。
フレーネはそれが名残惜しくて、イライザの体についた糸に舌を這わせていく。
「あっ・・・や・・・っ」
イライザの口元から零れる甘いBGMを耳にしながら、フレーネは口元から胸板まで綺麗に糸を舌で掬いとっていった。
「ふふっ。ごちそうさまでした」
イライザの胸元から上目遣いでフレーネは微笑む。
「・・・ばかっ」
真っ赤な顔をそっぽ向けてイライザは小声で返した。
「だって、とってもおいしかったから」
そう言ってフレーネはイライザの乳房を指で突いた。
くすぐったいだけだったその感覚は何度も指で突かれるたびに心地よいものへと変わり、さらに手のひらで乳房が覆われて何度も撫でられるうちにイライザは腕で身体を支えきれなくなってそのまま仰向けに倒れた。
「ねぇ・・・こっちにも・・・お願い・・・」
フレーネは手の動きを止めることなく、もう片方のふくらみも唇で撫で始めた。
「ふぅ・・・んっ・・・はぁっ・・・んんっ」
時折舌で舐められているのが感じられる。五指と唇、そして舌の動きはちぐはぐだったが、それが逆にイライザを更なる快感へと突き動かす。
「あっ・・・はぁ・・・んぅ・・・っ」
ばらばらだった動きが初めて揃う。フレーネは片方の先端を指で摘むと同時にもう片方の先端を軽く噛んだ。
「くっ、あぁっ」
左右のふくらみから同時に雷撃のような感覚が一瞬、イライザの身体を駆け抜けた。
フレーネは胸から下の方へと唇で撫でてゆき、ついにイライザの秘裂に辿りついた。
「ああっ」
甘い悲鳴を上げ、身体を強張らせるイライザ。
フレーネはイライザの潤んだ割れ目に沿ってゆっくりと舌を往復させる。
「はぁっ・・・あっ・・・んっ・・・んんっ」
イライザは呼気を荒げながら快感に身を委ね、フレーネを誘うように脚を少しずつ開いていった。
フレーネは指でその付け根を開き、花弁の入口に舌を進ませた。
「ふぅっ・・・はぁ・・・」
イライザは表面を撫でられているときよりも敏感にフレーネの舌に応える。
なかから少しずつ湧き出る蜜を掬い取りながら、フレーネは花芯を舌でつついた。
「やっ、ああっ」
イライザが脚をぎゅっと閉ざす。頭が脚に挟まれるのを感じながらフレーネは花芯を舌で撫でまわす。
「んっ・・・ふぅ・・・んんっ・・・はっ・・・あぁ」
イライザは抗えず、再び脚を開いていった。
未知なる刺激に瞳はとろんとして、顎がだんだん反ってゆく。
顎がある程度反った時、イライザは思わず声を上げた。
「フレーネ。・・・どこ?フレーネっ」
怖くなって愛しいひとを呼ぶ。
さっきまで見えていたフレーネの姿が、顎を反らしたことでイライザの視界に入らなくなったのである。
イライザは、フレーネが見えなくなったことで夢の中のようにひとりだけ取り残された錯覚に陥った。
「ここにいます」
フレーネは顔を上げて、何かに怯えたような表情のイライザの手をぎゅっと握った。
「だめ。・・・顔を・・・見せて、頂戴」
フレーネはイライザの頬に手を添えて顔を近づけた。
「わたしは、フレーネは、ここに」
その言葉と共にフレーネの顔がはっきり見えて、イライザは漸く安堵の表情を見せた。
「こうすれば顔が見えますよね?」
フレーネは身体をイライザの方へ向けて横になった。
「ええ」
イライザも仰向けの身体を捻ってフレーネと向かい合った。
「怖くなったら、握ってください」
フレーネが顔の前に片手を差し出すと、その手はイライザの両手で包みこまれた。
もう片方の手はイライザの脇腹から太腿を優しく撫で、さらに内腿にそって往復する。
「ふ・・・あぁ・・・」
脚をもじもじさせながらイライザは甘い溜息を零す。
フレーネは中指を内腿の付け根の溝にあてがい、何度も軽く曲げては伸ばして柔らかな感触を楽しんだ。
指が溝に食い込むたびに水の音が聞こえる。目の前にいるフレーネにも聞こえていると思うとイライザの中からますます蜜があふれ出る。
「やっ・・・恥ずか・・・しい・・・っ」
「嬉しいです。こんなに・・・なって」
フレーネの言葉がイライザを煽りたてる。
「んっ・・・言わない・・・で」
フレーネをもっと求めるように身体から蜜が溢れ出しているのは自分でもわかっている。
突然、フレーネが指の動きをぴたりと止めた。
「指、入れていいですか?」
「う・・・うん」
フレーネの問いかけにイライザは少しの間を置いてから答えた。
人差し指と薬指で扉が開かれ、中指の先がイライザの入口に触れたとき、イライザはフレーネの手をぎゅっと握った。
「本当に、いいんですね?」
もう一度イライザの意思を確認。
「貴方に・・・貰ってほしいの。中でフレーネを・・・感じていたいから」
イライザの決意を耳にしてフレーネはイライザの中にほんの少し指を進めた。
イライザの中にフレーネの指が入ってくる。
さっきまでフレーネに愛でてもらったおかげで、蜜が指と内壁との摩擦を和らげて、痛みを少し軽減してくれた。それ以上にフレーネの顔が見えていたことがイライザを安心させてくれていた。
時々激しい痛みが伴ったが、それに耐えるように顔をしかめたりフレーネの手をぎゅっと握ったりすると、フレーネは指の動きを止めてくれた。表情が戻り、握力を緩めるとフレーネはまた指を進めた。
それを何度か繰り返すうちにフレーネの指先がイライザの奥にある純潔の証に触れた。
「―――っ!」
ところが、フレーネはそれ以上指を進ませず、逆に少し指を引いた。
「え?・・・どうして?」
破瓜の痛みを覚悟していたぶん、拍子抜けしてイライザは呟く。
「指、入れたの初めてですよね?」
「そう・・・だけど?」
一人でコトをしたことはあっても中に指を入れたことはない。
「これ以上、イライザさんが痛がるのを見たくないから・・・」
先ほども指を受け入れただけで痛がっていたのをフレーネは心配してくれていた。これが優しさと言えるのかわからないけど、イライザにはこの心遣いが嬉しかった。
「ありがと。でも、いつかきっと貴方にあげるからね」
「はい」
フレーネはこくんと頷いた。
「今はもう慣れてきたから、指、動かしても大丈夫。・・・だから、私を、もっと感じて」
その言葉を聞いてフレーネはゆっくりと指でイライザのなかをかき混ぜはじめた。
「んっ・・・もっと・・・して、いい・・・よ」
指の動きが少しずつ速くなる。
「あ・・・んっ・・・はぁ・・・あっ・・・んんっ」
イライザの内壁がときどきフレーネの指をきゅっと締めつける。
「イライザさん・・・愛してる」
フレーネは言いながら指を引いたり進めたりする動作も加え出した。
「あ・・・わた、しも・・・ああっ・・・あい・・・して・・・るっ」
イライザの顔が上気し始め、目も虚ろになってゆく。
更なる快感を求めて僅かに腰を振っている。
「はっ・・・あっ・・・あぁ・・・あっ・・・はぁっ」
イライザの両手がぎゅうっとフレーネの手を締めつける。
「だめ・・・んんっ・・・はぁっ・・・」
イライザの内壁がフレーネの指を一段ときつく締めつける。
「フレーネっ、・・・ああぁっ!」
愛しいひとの名を叫びながら、イライザは背中を丸めて頂点までのぼりつめた。
フレーネは内壁の圧力と一気に溢れ出す蜜を感じながら、自分の手を包むイライザの手のひらにそっと唇を重ねた。
意識を戻した時には、イライザの頭の後ろにやわらかな感触があった。
イライザが目を覚ましたのに気付いたフレーネは何も言わず額や頬を撫で続けた。
このままでいることが心地よかったので、イライザも黙ってフレーネの膝枕でしばらく甘えていた。
お互い何も言わないけど、気持ちは肌の温もりから伝わってくるように思った。
もう、怖くない。
私はひとりじゃないから。
みんなが、仲間が、いてくれるから。
貴方が、愛しいひとが、いてくれるから。
この想い、届いているかしら―――イライザがフレーネと目を合わせると、フレーネは微笑みで返してくれた。想いは、届いているよね?
「イライザさん」
フレーネが口を開く。
「あの・・・ウィンドエッジの魔法、レベルは1で唱えてください」
「え?う、うん」
「合図しますから、そのときに発動させてください」
身を起こし、言われるがままに呪文を紡ぐ。フレーネも何か呪文を唱えている。
フレーネが合図を送ってきたので、イライザは呪文を発動させた。
「ウィンドエッジ!」
「アイスバレット!」
フレーネが同時に発した呪文を聞いてイライザはすぐに窓に駆け寄った。
ウィンドエッジとアイスバレットを掛け合わせてできる魔法は―――。
カーテンを開けると、ブリザードの魔法が織り成す白銀の世界。
「ファンデ・・・ルシア?」
雪が舞っている間、イライザは故郷にいるような錯覚を起こした。
やがて魔法は終息し、束の間のファンデルシアは元の風景へと戻ってしまったが、イライザには十分だった。
「どうでした?」
フレーネが隣に来て尋ねてきた。
「ありがとう。故郷を見せてくれて」
「イライザさんの喜ぶ姿を見ることができてよかった・・・」
「でも、いつかきっと・・・ううん、絶対に・・・ファンデルシアを、取り戻すから。その時は貴方と・・・」
「はい」
窓に映る緑の木々を背に、2人は唇を重ねた。
(Fin)