「はぁ・・・、よくこんなこと考えついたわね」
少し溜息をつきながらケイトは小冊子のページをぱらぱらとめくってゆく。
彼女が読んでいる小冊子はブラスト研究報告書。
魔石「マテリアルマスター」生成の際に使ったものである。
しかし、この冊子にはそれ以外に、まだ誰にも言い出せなかった内容が書かれていた。
「でも、いつかは言わないといけないことだからしょうがないか」
冊子をぱさっと閉じて、ケイトはそのことを伝える相手の到来を待つ。
少し待っていると、ドアをノックする音がした。
「どうぞ」
返事をすると、ドアが開き、2人の少女が部屋へ入ってきた。
「それじゃ、ここに座って」
ケイトが促すと2人はソファーに腰を下ろした。
「私達に大事な話ってなぁに?」
オレンジ色のドレスを着た少女が口を開いた。
「えっとね・・・ラインファルツ基地にあった報告書のことなの」
少し口篭もりながら答えるケイト。
「ブラストと、そこから派生する協力魔法は教えていただきましたけど?」
今度は薄紫の髪の少女の問いかけ。
「確かに協力魔法は教えたわ。でも、貴方達にしか言えないことがあるから来てもらったの。協力魔法はお互いの魔法エネルギーを合わせることで発動することは以前教えたよね?」
「ええ、その魔法エネルギーを協力用エネルギーと発動用エネルギーに分化させることで協力魔法が使えるんだったかな」
「そう。イライザちゃんの言う通りね。それじゃ、フレーネちゃん。限られた魔法エネルギーの中で魔法の効果を最大限高めるにはどうしたら良いか、わかる?」
「協力用エネルギーをできるだけ減らして発動用エネルギーにそれをまわすこと、ですか?」
「全部を発動用エネルギーにしたらいちばん良いみたいだけど、それだと協力魔法にならないじゃない」
イライザが思わず口を挟む。
「ところが、全部を発動用エネルギーにしても協力魔法にする方法がレポートに書かれていたの」
「どうしてそれを早く教えてくれなかったのよ。早速教えて頂戴!」
少し怒りながらイライザはケイトに迫る。
「イライザちゃん落ちついて。今から言うわよ」
決心がついたらしく、一度深呼吸してからケイトは切り出した。
「『協力用エネルギーが必要とされるのは、協力する相手との魔法基盤の共有化のためであることは先に触れた通りである。
これが無ければ、理論上、全ての魔法エネルギーが発動用エネルギーとして用いられることになり、協力魔法とならないはずである。
しかし、協力する相手との魔法基盤の共有化が既にできている場合は魔法エネルギーを協力用エネルギーにまわす必要が無いことがわかった。
つまり、予め魔法基盤の共有化を行うことによって協力魔法の効力を高めることができる。
(中略)
以上のような実験結果から、お互いの身体を昂ぶらせた状態で粘膜的接触を行うことで魔法基盤の共有化を図っておくことができるといえる』」
報告書のページをめくってその箇所を読み上げていくケイト。
フレーネとイライザは難しいというような表情を見せた。
「簡単に言うとね、協力魔法の効果を高めたかったら・・・2人でエッチしちゃいなさいってこと」
言ってて恥ずかしいらしく、レポートで顔を隠すケイト。
「・・・なっ・・・」
顔を真っ赤にしながら絶句するイライザ。
「そんな・・・」
その横でフレーネも顔を真っ赤にさせて俯いた。
「でも、どうして私達だけにこういう話を?」
少し気を落ちつかせながらのイライザの質問。
「女同士じゃないとこういうことって言えないから。それに、魔力が高くて頻繁に協力魔法を使ってて、仲が良さそうだから・・・かな。でも、実際にするかどうかはあなた達次第よ」
「わかったわ。・・・ありがと、ケイト。」
イライザはソファーから立ちあがって、ケイトの部屋を後にした。
一方、フレーネは俯いたまま少しぼーっとしている。
「フレーネちゃん・・・」
ケイトが声をかける。
「え?・・・は、はい」
「絶対にしないとダメってことじゃないからね。大切なのは気持ちよ。理論上はどうであっても、好きな人とするべきことだから」
フレーネを慰めてやるようにぽんっと頭に手を乗せる。
「ま、今日はもう帰って寝た方が良いわ。明日になれば落ちついて考えられるでしょうし」
「はい・・・」
フレーネは気持ちを整理できないまま、自分の部屋へ戻ることとなった。
フレーネはシャワーを浴びながら胸中を整理しようとしていた。
(イライザさんのことは好き。でもそれはただの好意か恋心かわからない。仮にこれが恋心だとしたら女同士って許されることなの?)
お湯を止めて、絞ったタオルで身体を拭う。
(それに、イライザさんにこの身体を捧げることでみんなの危険を軽減できるのだったら)
バスタオルを手に取り、ぐるっと身体に巻きつける。
(イライザさんさえ良ければ、わたしは・・・)
フレーネが浴室のドアを開いて寝室に戻ると、ベッドの上にはいるはずのないイライザの姿があった。
「イライザさん!?どうしてここに?」
部屋の入口と寝室にある扉には鍵をかけたはずなのに、どうやって入ったのだろう。
「ごめんね。どうしても貴方と話がしたくて、マスターキーで入ったの。あ、もちろん、今はちゃんと鍵をかけてあるわ」
屋敷の主人だからこそできること。いわゆる管理人特権である。
フレーネはそのまま黙ってイライザの隣に座った。
「協力魔法のためだから来たというわけじゃないの。
私はさっきまで貴方の事をずっと考えていたの。私はどう思っているのかなって。私にとってフレーネは大切な仲間だって思ってた・・・はずだった。
それが、本当はそうじゃないことに気付いたの。
もしかしたら初めて見た時から思っていたことかもしれない。他の誰よりもずっとずっと貴方のことが気になっていた。
でも、怖かったの。貴方に嫌われたら・・・って考えると言えなかった。
確かに協力魔法のことに便乗しているようで卑怯かもしれない。でも、それは私の想いを後押ししてくれただけに過ぎないわ」
イライザは今まで抱えてきた想いを一気にフレーネに伝えてゆく。
フレーネはその気持ちを受けとめるように左胸に手を添えた。
「私は・・・フレーネが・・・好・・・き」
イライザが一番伝えたかったことば、でも一番言い辛かったことば。
そのことばを発するや否や、フレーネを押し倒してイライザは唇を重ねた。
「んっ・・・」
唇を重ねるだけのキス。やわらかな感触が唇に伝わってくる。
イライザは唇を開き、フレーネの唇に舌先で触れる。
フレーネの唇はそれに抗うことができず、少し開いてイライザの舌を受け入れた。
「んんっ・・・」
ゆっくりとイライザの舌が入ってゆく。それにあわせるように、フレーネの口が少し開く。
そしてイライザの舌はフレーネの口内で動き回る。イライザの舌に触れないように、逃げるように舌を動かすのがフレーネのささやかな抵抗だった。
抵抗しきれなくなり、フレーネの瞳から涙が零れ落ちる。
イライザは思わずフレーネから一旦唇を離した。
「どうして・・・ですか?」
フレーネが尋ねる。「どうして」はキスしたことに対してか、それともキスをやめたことに対してか、イライザには分からなかった。
「嫌なのでしょう?」
拒絶されたならここで潔く引く覚悟でイライザは問い掛ける。
フレーネはその言葉で自分の本当の想いに気付いた。
(嫌・・・じゃない。わたしはイライザさんとこのまま結ばれたい)
指先でイライザの服の袖をくいっと軽く引く。
「いいのね?」
イライザの言葉にこくりと頷き、今度はフレーネから唇を重ねた。
「んっ・・・んむっ・・・」
フレーネは積極的にイライザの舌に絡みながら、時折イライザの口に舌を入れる。
イライザも懸命にそれに応え、お互いの口の中を撫でまわす。
次第に紅潮してゆくフレーネの頬にそっと手を添えて、イライザは唇を離した。身体を起こし、フレーネの瞳を見つめながらゆっくりとバスタオルを開いて隠された部分を露わにする。
「あ・・・」
恥ずかしさのあまり、フレーネは思わず声を上げる。
イライザの手がフレーネの乳房を優しく包みこむ。ゆっくりと指を動かしてやわらかな胸を撫でる。
「あっ・・・ふぅっ・・・」
フレーネの口から甘い吐息がこぼれる。
イライザはもう片方の乳房の固くなった先端を口に含み、ちゅっと吸った。
「ふあぁっ」
その刺激を受け、フレーネの身体に少し反るような力が入った。
イライザは身体の向きをかえてフレーネを跨ぐように四つんばいになり、フレーネの脚に唇を這わせてゆく。そして脚の付け根にあるやわらかな溝に唇を重ねた。
「はっ・・・はあっ・・・あああ・・・っ」
フレーネは目をつぶって未知の感覚に身を委ね、甘い吐息を上げる。
フレーネの甘く温かな吐息がイライザのスカートの中に伝わってくる。
吐息をもっと感じたくなって少しずつ身体を後退させていく。
それと同時にフレーネの秘裂の入口をなめてゆく。
「んんっ・・・あぁっ・・・」
イライザが舌を動かすたびに、フレーネは吐息で応え続ける。
吐息があたり続けるイライザのスカートの中は我慢できなくなり、ますますフレーネの顔の方へ腰を下げていった。
「んっ・・・はぁっ・・・ふぅっ」
フレーネの吐息がショーツ越しにイライザの割れ目まで伝わる。
「ねぇ・・・フレーネ。私にも・・・お願い」
小さく腰を振りながら甘えるようにイライザは訴えた。
フレーネがその言葉とともに目を開けると、目の前にはイライザの下腹部があった。
フレーネがショーツを少し下げると、割れ目との間に糸を引いていた。
「嬉しいです。イライザさんもこんなになって」
それを指ですくうように切り、口に含んだ。イライザの顔が思わずかぁっとなる。
「下着、邪魔になってるよね?」
少し恥ずかしそうにしながら、イライザは自らショーツを脱ぎ捨てた。
フレーネの口元に自分の大切な場所を近づけ、自らはフレーネの大切な場所に再び口をつけた。
「んっ・・・ふぅ・・・んむっ・・・ん・・・」
フレーネは手でイライザの花弁を開いてキスをする。
時折、フレーネの吐息がそのなかに入ってイライザの蕾にかかるのがくすぐったかった。
「ふぁ・・・んっ・・・んんっ・・・」
少し声を漏らしながらイライザはフレーネの蕾に舌で触れる。
「はあ・・あっ」
フレーネの一段と大きな鳴き声。
なおもイライザは蕾を舌で味わい続けると、フレーネの中から少しずつ蜜が湧き出てきた。
フレーネは最早イライザを味わう余裕がなく、ただ甘い吐息を漏らすだけである。
「あっ・・・ふぁっ・・あぁっ・はあ、ぁっ」
だんだんとフレーネの吐息が零れる間隔が短くなってきた。
イライザはフレーネの中の蜜を一気に吸いこむ。
「はぁっ、ああぁっ!」
たくさんの蜜を出しながら、フレーネは先に絶頂までのぼりつめた。
「はぁ、はぁ、はぁっ」
フレーネの荒い息を感じながら、イライザはいたわるように溢れる蜜を舐めとってゆく。
「あの、ごめんなさい・・・」
少し身体が落ちつきを取り戻した頃、フレーネが言葉を発した。
先に達してしまったことを申し訳なく思っているのだろう。
「いいのよ。それだけここも私を好いてくれてるってことでしょう?」
指でフレーネの潤んだ溝を撫でながらイライザは言葉を返し、
「今度は、私にして頂戴」
と、言葉を続けた。
フレーネは疲れきった身体で懸命にイライザの中に舌を這わせる。
こんこんと涌き出る蜜を、猫がミルクを舐めるような動きでフレーネの舌は優しく舐めとってゆく。
「んっ・・・はぁっ・・・」
応えるようにイライザは甘い吐息を漏らす。
いちばん大切な場所でいちばん大切なひとを感じることができて嬉しい。
ついに、フレーネの舌がそのなかでもいちばん敏感な突起に触れた。
「ふあぁっ」
優しく撫でてくれるフレーネの舌を感じながら、イライザは身体を襲う妙な感覚に耐えようとシーツをぎゅっと掴んだ。
フレーネはその蕾を数回舌先で突付く。
「あ・・・はぁ・・・ふぅっ・・・んんっ」
足先をじたばたさせながらイライザは快感に溺れる。
身体の奥から熱いものがこみあげてきそうになった途端、フレーネはイライザから舌を離した。
「んっ・・・どう・・して?」
イライザはフレーネの方を向いてとろんとした瞳で訴える。
「イライザさんと・・・一緒に」
返事を聞いて、イライザは身体の向きを変えてフレーネに覆い被さり、脚を絡ませてゆく。イライザの秘所がフレーネの左腿に、フレーネの秘所がイライザの左腿に触れて、お互いの腿で秘所を感じ合う。
イライザがゆっくりとフレーネの左腿の上に脚の付け根を滑らせると、フレーネもそれを追うように動きだす。
「はぁ・・・あっ・・・んっ・・・んんっ」
「あっ・・・ふぅっ・・・あ・・・はぁ・・・あっ」
相手からの気持ちを返すように、吐息が零れる。
お互いの甘い吐息が零れるたびに、相手を求める動きが増す。
2つのサイクルが次第に加速して身体がどんどん高みへとのぼり詰めてゆく。
「ふ、フレーネっ。私・・・落ち・・・るっ」
イライザは左手でフレーネの髪をぎゅっと一束つかむ。
「わたし・・・わたし・・・も」
フレーネは瞳を虚ろにさせながら両手をイライザの背にまわす。
「私と・・・一緒に・・・。はぁ・・あっ・あああぁっ!」
「イライザさんっ。 イライザ・・さんっ!」
身体の奥からこみあげてきたものを一気に溢れさせ、2人の意識は白く染まっていった。
イライザが意識を戻したとき、頭はフレーネの真横にあり、身体は完全に圧し掛かった状態であった。
身体をフレーネの隣に退かせて、先程の余韻に浸りながら昂ぶった身体を落ちつかせてゆく。
「ん・・・、イライザさん」
フレーネも意識を戻したようだ。
「これで、よかったんですよね?」
顔を横に向けてイライザを見る。
「ええ。私はね」
最愛のひととそれを守るための力を同時に手にしているのだから。
そう考えているイライザに、ふと疑問が浮かび上がった。
「そういえば、私はちゃんと『フレーネが好き』って言ったけど、貴方の気持ちを聞いていなかったわね」
「え?言わなくてもわかってるんじゃないですか?」
「駄目よ。貴方の口からはっきりと言って」
そう言ってイライザは人差し指の先でフレーネの唇をなぞっていく。
「好き・・・です」
と返してもイライザの指先はとまらない。
「愛して、います」
イライザの指がぴたりととまった。
「私も、愛してるわ」
イライザは微笑んで指を離し、すぐに唇を重ねた。
これまで単に援護射撃に過ぎなかった2人の協力魔法は、その後の戦いでは一発で戦局を支配するほど重要なものになっていった。お陰で仲間は誰一人死と隣り合わせに陥る事が無くなったという。
ブラスト研究報告書にあった魔法エネルギーの話は理論としては確かに正しい。
しかし、「愛情の証」―――最愛のひとと息をぴたりと合わせること、そのひとを命を賭けてでも守りたいという想いの実践―――こそが実は協力魔法の要なのかもしれない。