心地良い風が火照った顔を撫でる。その風に誘われて目を覚ますと、綺麗な指先があった。
「気が付いた?」その指の主が話し掛けてきた。
わたしは起き上がろうとするが、「まだ横になってる方が良いわ」と言われたので、その言葉に甘えて身体を仰向けに戻した。
状況を理解できていないでいると、その人が状況を説明してくれた。
「アネットさん・・・だったかな。あの赤い髪の方が私達のためにパーティを開いてくれたの。そのパーティの最中にあなたが倒れたから、わたしが介抱してベッドまで連れてきたの」
どうやらここは、アネットさんの家の客室らしい。ベッドの横には机と椅子(今はわたしを仰いでくれているこの人が座っている)がある。
「ありがとうございます。ええと・・・」
お礼を言うものの、相手の名前が分からない。
「アリエータ=リュイス」と、その人は答えてから、
「未来世界から召喚されたうちの1人よ」と、そのまま続けた。
「み・・らい、せかい」
聞き慣れぬ言葉を繰り返す。
そういえば、「研究室のトランスゲートから未来の人が来た」ってモニカちゃんが言っていた気がする。今日はその人達への歓迎パーティやってたんだっけ。
パーティに呼ばれた人々はモニカちゃんやスレインさん、そしてヴィンセントさんやお兄さまなど、戦いで活躍した人ばかり。
わたしは戦ったわけでなく、逆にスレインさん達に助けてもらっただけ。なのに、どうしてここに呼ばれたのだろう?
―――そんな思いに支配されて目頭が熱くなり、しだいに視界が滲む。溢れた涙が目尻から零れ落ちてゆく。
「あ・・・」
仰ぐのをやめたアリエータさんの指がその涙を拭うように触れ、手のひらをそのままぴたりと頬にくっつけてくれた。
「泣かなくて良いのよ。あなたも十分戦ったのだから・・・」
戦った?いつ、どこで?わたしは最近までずっと自分の部屋にいたのよ?それにモニカちゃんのように武器で戦ったことなんてないのよ?ただ慰めるだけの言葉なの?
「お兄さんのために戦場へひとりで行ったのはミシェールちゃんが立派に戦ったということだと私は思うけど・・・」
確かにあの時はお兄さまのためだけにリンデンバーグへ行ったのは間違いないから、そう言われるとわたしも戦ったって言って貰えて素直に嬉しい。
「ありがとうございます。でも、どうしてわたしのことを?」
自分のことを何も言っていないのにどうして私やお兄さま、そしてリンデンバーグに行ったことを知ってるんだろう。
わたしが泣いちゃった理由もわかってたみたいだし・・・。
「ミシェールちゃんのことなら何でもわかるわ」
思っていた疑問に微笑みながら答えてくれた。読心術でもマスターしてるのかしら?
「・・・だって、私はあなただから」
頬に触れていたアリエータさんの手がその言葉とともにわたしの前髪をかきあげ、額にキスをしてくれた。
「・・・なんてね、ふふっ。ホントはこの子たちが教えてくれたの」
ベッドから起き上がったアリエータさんの周りには、白い光がふわふわと漂っていた。最初からいたのかもしれないけど、言われて初めて気が付いた。
「え?精霊が見えるんですか?」
「ええ、私はグローシアン・・・こっちの世界での精霊使いみたいなものだから」
「精霊が見える人ってめったにいないのに・・・」
嬉しさのあまり、わたしは飛び起きるようにさっと上半身を起こした。
「ミシェールちゃんのことはこの子たちが色々教えてくれたわ。私も病気じゃないけどずっと死と隣り合わせで生きてきたの」
アリエータさんはいろいろと自身のことを話してくれた。世界は違うけど死と隣り合わせ、しかもずっと孤独だったことなど、殆どわたしを鏡に写したようだった。
初めて会った人なのに、ただの他人でもなく、友達でもない、どちらかというとお兄さまに対しているような―――感じがして。
「お姉さま」
と、わたしは呟いてアリエータさんの後ろに腕をまわすと、アリエータさんはわたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
「こっちにいる間、ミシェールちゃんのこと、妹だと思って良いかしら?」
その問いかけの答えはもちろん1つ。答える替わりにわたしはもう一度「お姉さま」という言葉を発した。
が、こんな素敵な雰囲気はぎゅるるるるという音で一蹴されてしまった。
「あ・・・」
恥ずかしさのあまり、わたしの顔が真っ赤になる。
「そういえば、何も食べていなかったのね?じゃ、可愛い妹のために何か持ってきてあげるわ」
そう言うと、お姉さまは部屋を出て行った。
「ミシェールちゃん、お待たせ。これしかもう残っていなかったから、このまま持って来ちゃった」
戻ってきたアリエータが手にしていたのは少し大きな器だった。
中身はいろいろなフルーツのシロップ漬けだった。シロップの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「さ、食べて食べて。私も少し貰うけど」
「それじゃ、いただきます」
早速2人でフルーツを食べてゆく。口当たりが良くてどんどんと食べて、結局すぐに無くなってしまった。シロップも2人で半分ずつ飲み干してごちそうさまとなった。
「それじゃ、器を返してくるから」
と、アリエータが椅子から立ちあがり、身体の向きを変えたその時、白い光が彼女に語りかけてきた。
「え?ミシェールから・・・離れるな・・・って?」
頭の中に直接響くことばを反芻しつつ、アリエータは身体の向きを戻した。視界に映るミシェールの姿にただごとではない予感がして、抱きかかえていた器を机の上に置き、再度椅子に腰を下ろした。
ぎゅっと目を瞑り、口は固く閉ざし、両腕を胸のあたりでクロスさせて、脚も閉ざし気味に片膝を少し上げた状態で、布団を掛けずにミシェールは仰向けになっていた。
アリエータはまず、軽く自分の頬をぺしぺしと叩いてみた。これは幻でも夢でもない。現(うつつ)なのだ。
次に口の中に意識を集中させた。一切の苦味を伴わない甘い感覚。頭の中がぼーっとするわけでもなく、舌もちゃんと動く。別にシロップにお酒が入っててその勢いで、ということはないみたいだ。
ミシェールは自分の意思でこのような姿勢をとっているのだと悟り、アリエータもベッドの上へ上がった。
「本気・・・なの?」分かっているがとりあえず意思確認。ミシェールは姿勢を変えずに首を少し縦に振った。
「わかったわ。じゃ、続きは私の部屋でね」
言いながら、アリエータは机に手を伸ばしてペンでメモ帳に何か書く。
「ちょっと我慢してね」
と言い、アリエータはスペルを紡ぐ。「テレポート」と口にして指をパチンと鳴らした。
机上には「アパートにミシェールちゃんを連れて帰ります。今夜は私の部屋で泊めるから心配しないでくださいね。あと、器はここに置いておきます」というメモが器に添えられていた。
場所は変わって私の部屋。2人はベッドの上に無事転送となった。流石に精霊も気を使ってくれたのか、2人きり。
ミシェールちゃんの姿勢は変わることがない。もう一回意思確認してみる。
「本当に・・・私と、良いのね?」
「アリエータさんに、して・・・ほしいんです」
彼女は固く閉ざしていた口を開いた。「お姉さま」ではなく、「アリエータさん」と呼んでくれたってことは姉妹以上の絆が欲しい、一線を超えたいと願う気持ちの表れだと思う。
それに応えるように、ミシェールちゃんの唇を指の腹でなぞってゆく。鼻からの暖かな息が指に伝わってくる。
「初めてだから、上手く出来るかわからないけどね」
そう言って今度は私の唇を彼女の唇に重ねる。
「・・・んっ」
先ほど食べたフルーツの甘さ、いや、それ以上の甘さと温もりがある。
唇を重ねた、ミシェールちゃんの頬を軽く撫でると、閉ざしていた瞼の力がだんだんと緩んで目を開けてくれた。
怖くないから。私が優しくしてあげるから。だから、できれば私を見て欲しい―――至近距離でのアイコンタクト。
ミシェールちゃんは頷くように今度はゆっくりと瞬きした。
それを合図に、私は唇を重ねたまま、プレゼントの包装を解くように、胸を覆うように組まれていた両腕を解く。
「ねぇ、乗っても大丈夫?」
流石に病を抱えていた彼女にいきなり覆い被さるわけにはいかないので、唇を離してたずねる。
こくりと頷くのを確認してから、私は彼女に覆い被さる。
胸と胸を重ね、お互いの鼓動を感じる。鼓動を直に感じていたい。
一度身体を起こし、ミシェールちゃんの服のリボンをするすると解く。
「あ・・・」
身体を撫でていないのに、彼女は甘い息を漏らす。
彼女の耳元で「ミシェールちゃんの全てが見たいの」と囁く。
そして私たちは着ていた服を全てベッドの下に脱ぎ捨てた。
「や・・・恥ずかしい・・・です」
少し泣きそうな声でミシェールちゃんは訴えかける。服を着ていた時と同じく、両腕を胸のあたりでクロスさせて、脚も閉ざし気味に片膝を少し上げた状態でいる。
「でもね」
私は腕のクロスを解き、露わになった胸に自分の胸を重ねた。
「この姿だから・・・貴方のとくん、とくん、と鳴る心音と温もりを肌で感じることができるの」
「あ・・・ほんとだ」
ミシェールちゃんの表情が和らいだ。
「ふふ、それに、やわらかくて気持ちいいし」
ミシェールちゃんの顔はかぁっと紅く染まり、心音がだんだんと早くなる。
そして私は、また彼女の唇を味わった。
「んっ・・・」
喉元から出るこの声が可愛らしい。
今度は唇を首筋に這わせる。
「あっ・・・はぁ・・・ふぅっ・・・」
甘い溜息が零れ出した。ずっと聞いていたくて、胸までずっと唇を這わせる。
「んっ・・・あっ・・・あっ・・・はぁっ・・・」
唇を離し、包みこむように胸に手を掛ける。
「あ・・・」
あれほど腕をクロスして隠していたのに、今は何の抵抗もなく、私を感じてくれている。ぷにっとしたやわらかな感触を手で味わい続ける。
「ふぅ・・・くっ、くすぐった・・・あっ・・・気持ち・・・い・・・っ」
初めはただくすぐったがっていたようなミシェールちゃんの表情はすぐに恍惚へと変わる。
彼女の胸を撫でているうちに自分の腿が湿っぽくなっている。脚も重なっていたから多分・・・。
手を胸から下腹部へと移動させ、その場所に触れる。間違い無い。
「あ・・・そこは・・・」
触れた途端、ミシェールちゃんの口からささやかな抵抗の声が漏れる。首を横に向け、目をぎゅっと瞑り、脚を閉ざす。閉ざしている脚と付け根が少し濡れている。
女の子の大切なところ。他の人がそれに触れるわけだから・・・ね。
「ミシェールちゃんの、いちばん大切なトコ、だよね?」
尋ねると、彼女は首を横に向けたまま、少し頷いてから、
「か・・覚悟は、できて・・ます」
上擦った声で答えを返して口をぎゅっと閉ざす。
入口の両扉を優しく撫でまわすと、だんだん身体の力が抜けてきたようで、閉ざしていた脚が少しずつ開く。
「んんっ・・・んっ・・・ふっ・・・あ・・・はぁ・・・あっ」
口も開き、可愛い悲鳴を上げる。目も開き、とろんとしている。
とろんとしているのは目だけではない。ミシェールちゃんの秘所も、撫でまわすうちに悦びの涙を溢れさせてとろとろになっていた。
流石に中に指を入れたりすると、壊れてしまいそうだし、私もそれには抵抗があったので、扉だけを指で味わい続けた。
重なっている胸からは甘い鼓動が伝わり、唇からは甘い声が零れ、女の子の唇からはささやかな泉がこんこんと湧き出す。
「うれ・・し・・い。アリ・・エー・・タ、さん・・の・・から・・も」
荒い息遣いで絶え絶えに言われて初めて気付く。
私の脚の付け根からもとろりとしたものがミシェールちゃんの腿を伝っていた。彼女を見ているだけであてられたのか、彼女が脚を動かす度に擦りあったのか・・・。
どっちにしても、このままでは達してしまいそうになって、私は身体をミシェールちゃんから離す。
「一緒に・・・いい?」と聞くと、こくんっと頷いてくれた。
そして今度はミシェールちゃんと180度正反対の位置に仰向けになり、お互いの太腿を絡め合う。お互いの女の子の唇がちゅっと音を立てて重なる。
「あん・・・」
私はその未知なる感覚に思わず声を漏らした。
恐る恐る、擦るようにゆっくりと動いてみると、快感に少し痛みが伴う。慣れてきたら痛くなくなるのかな。
「初めは痛いかも、しれないけど」
話しかけてるのか、強がりの独り言なのか、自分でもなんだかわからなくなってきた。漠然とした恐怖感にはまってしまいそうで、思わず目をぎゅっと閉じる。
突然、身体が温かな圧迫感に包まれる。ゆっくり目を開けた先にはミシェールちゃんの瞳があった。
「2人でなら・・・大丈夫・・・です」
最初に私が解いた、彼女の服のリボンを私の手首に結びつけてくれた。
そして、彼女は身を起こし、ゆっくりと腰を動かす。
「んっ・・・はぁっ、あ、アリエータ・・・さん・・も」
ミシェールちゃんを見ていて、私から恐怖感は消えた。一緒にミシェールちゃんと登り詰めたいという想いに駆られ、ゆっくり腰を動かし始める。
「あんっ・・・んっ・・・ふぅ・・・」
もう痛みはない。気持ち良くて声が漏れる。もっとミシェールちゃんを味わいたくて動きをだんだんと早くする。
「あ・・・んっ・・・ふぁっ・・・はぁ・・・ふぅっ」
身体のなかが熱い。
「ん・・み・・・しぇ・・る・・ちゃ・・んっ・・・もう・・・だ・・めっ」
「はぁっ・・・わた・・し・・もっ。そろ・・そ・・・ろ・・っ」
ちゅっ、くちゅっという水音も大きく、そして早くなってゆく。
「あっ・・ふぅっ・・ああぁぁっ!」
「ふぁっ・・もう・・・やあぁんっ!」
身体ががぐっと強張って、なかに溜まっていた愛の証しを一気に溢れさせながら、今までで一番大きく、そして甘い、叫び声とともに達した。
「はぁ・・・はぁ・・・っ」
満足感を伴う疲労感に包まれて、私は荒い呼吸をしている。
「はぁ・・・はぁ・・・っ」
これは私にぐったりと圧し掛かっているミシェールちゃんの息の音。
どっ、どっと早い胸の鼓動が直に響いてくる。
暫しこのまま身を任せ、私は余韻に浸りつつ、身体の昂ぶりを鎮めていく。
「なんだか、夢みたい・・・」
身体が落ちつきを取り戻しかけた頃、ミシェールちゃんが口を開いた。
「そうね。会えたことだけでも、奇跡なのにね」
違う世界に私と同じようなひとがいるというだけでなく、そのひとをとても愛しいと思い、結ばれたことも奇跡。口にしないけど、多分ミシェールちゃんもそう思ってるはず。
「あの・・・。絶対、わたしを置いてもとの世界に戻らないでくださいね?」
「心配しないで。ずっと、ミシェールちゃんのそばにいるから・・・」
答えながら私は腕をミシェールちゃんの背中にまわし、ぎゅっと抱き締めた。
「わたしの、はじめてを貰ってくれて、嬉しかったです・・・。2度目も3度目も、全てアリエータさんに貰ってほしいです」
その言葉と共に、私にキスをしてくれた。
相似的なわたしに包まれて、私は夜を明かした。
翌朝、私が目を覚ますと、そこには私がいた。正確には私ではなく、私の格好をしたミシェールちゃんがベッドの脇に座っていた。
「あ、おはようございます。どうですか?似合ってます?」
中に着ている黒いシャツとタイツは彼女のものだが、他は全て私の服。
銀色のヘアバンドとオレンジ色の髪飾りは私のもの。何時の間に私から抜き取ったのだろう?
前髪も七三ではなく、真ん中で分けている。
「昨日、言ってくれた『私はあなただから』って言葉が気になっていたんです。どのくらい似ているのかなって思って勝手に着ちゃいました」
少し照れながら言うミシェールちゃん。
髪と瞳の色以外は紛れも無く私そのもの。
ということは、私がミシェールちゃんになるわけね。
「それじゃ、私はこれを着れば良いのね」
「そういうことですね」
下着と黒いシャツとタイツを身につけてから、彼女の服に身を包んだ。
最後に、手首のリボンを解いて、胸元で蝶結び。
「どう?」
くるりと一回転してみせる。
「ホントにわたしですね・・・あっ、動かないで下さいね」
ミシェールちゃんは私の前髪を指で七三に分けて、黒いヘアバンドを着けてくれた。
「これで完璧・・・です」
「ふふっ、そうね」
微笑みながら私はわたしと熱い抱擁を交わした。
(Fin)