北の鉱山に時鉱石を採りに来たスレイン一行。  
 しかし、鉱山の中は思ったより広く、そして入り組んでいた。坑道が幾つに  
も枝分かれして複雑に絡み合い、どこまで行っても真っ暗で、じとじとと湿っ  
た空気が澱む虚ろな穴ぐら。頼れるのは、スレイン達が持ってきたランプの小  
さな灯りのみだった。  
 時鉱石は最深部にあるとは聞いたものの、どこをどう辿ればその最奥に行き  
着くのかまでは聞いてなかった。それに気付いたのは鉱山に到着してからだっ  
た。しかし、鉱山ならば坑は比較的整然と通ってて進み易いだろうとたかをく  
くった。  
 実態を見たスレイン達は呆然とした。どうやら、放棄された後にモンスター  
の巣窟と成り果て、無秩序に拡張されたらしい。  
 想像とはまったく異なる様相と化していた鉱山に、スレイン達は当惑したが、  
とにかく最深部を目指せばいいだけだと、とにかく進み始めた。だが、何回も  
行き止まりに当たって引き返したり、ひとつ下の階層に降りる道を見つけるだ  
けでも何時間も手こずったりするにつれ、楽観的な見方は影を潜めていき、代  
わりに不安と焦燥が首をもたげていった。  
 
 この鉱山で目的の鉱物一つ探す困難を、スレイン達ははっきりと感じた。そ  
こら辺に転がってる石ころでは用をなさない。どうしても時鉱石でなければ駄  
目なのである。だが、どうすれば最深部に到達することができるのか。皆目見  
当もつかなかった。  
 ひょっとしたら、引き返した方がいいのではないか……。  
 周りを囲う土壁の圧迫感が、山の中にいるのだという息苦しい窮屈さを絶え  
ず意識させる。次々といびつに分岐する道が、冷静な判断力を少しずつ削ぎ取っ  
てゆく。そして何よりも、暗闇で突如遭遇するモンスターの脅威。  
 鉱山というより、これではまるで一つのダンジョン――  
 なかなか深部に到達できず、ただいたずらに時だけが過ぎてゆき、スレイン  
達の疲労は溜まる一方であった。  
 あと何時間、このダンジョンに潜っていればいいのか……  
 そして。  
 気づいた時には、パーティーの一番後ろを歩いていたモニカの姿が無くなっ  
ていた。  
 
 
 モニカは独り、広大な坑道内のどこだか分からない位置に佇んでいた。周り  
は不気味なほど静まり返っている。この土の壁の向こうはどこまでも土石がつ  
まってるのだという、押し潰されるような感覚がひしひしと伝わる。近くに水  
脈でもあるのか、それとも長雨がここまで浸透しているのか、土壁にじっとり  
と水気がにじみだしていて、空気もひんやりと冷たかった。  
「困ったわ……」  
 ぽつりと呟くモニカ。暗い坑道の中、仲間達とはぐれないように気を付けて  
進んでいたのだが、恐れていた事が起きてしまった。  
 何十回目かもう分からなくなったモンスターとの戦闘中、後ろからもモンス  
ターが現れ、最後衛のモニカが対応しなければならなくなった。もとより接近  
戦は得意ではない。何とか距離をとって戦おうと苦闘しているうちに、仲間達  
の戦いの場から離れてゆき、ようやくそのモンスターを屠れたと思っ周りを見  
回してみると、まったく覚えのない坑道に独りだったのである。ここは一本道  
だったが、来るまでに何回か分かれ道を通った気がする。しかし、どこをどう  
通って来たのか、道筋を覚えている余裕は無かった。同時に出口への順序も分  
からなくなったわけである。  
 頼りはリング・ウェポンと、片手に持ったランプだけであった。  
「疲労が招いた判断ミスね……」  
と、モニカは冷静に自分の行動を分析しつつ反省した。  
 表面上はいつものようにそう澄んだ顔だった。だが、胸中は違った。  
 不安が渦巻いていた。  
 
 フェザリアンの血が半分流れているモニカは、暗く狭いところはあまり好き  
ではない。特にここは山の中である。まるで幽界を彷徨っているような、時々  
生きた心地がしない錯覚に陥った。この鉱山に潜ってもうだいぶ時間が経って  
いるが、我慢し続けられているのは、人間の血と、仲間と一緒だったおかげだ  
ろう。  
 それが、独りになってしまった。  
(ひとりぼっち――)  
 きゅっと心細そうに眉根をひそめるモニカ。  
 父も母も小さい時に無くしたが、モニカは決して孤独ではなかった。母方の  
祖父と一緒に暮らしているし、ポーニア村の人々もよくしてくれる。フェザリ  
アン達だって一応は彼女の存在を受け入れてくれる。  
 だが今は、頼れるのは自分以外になかった。  
(いえ、違うわ)  
 モニカは首を振り、その考えをすぐに否定した。  
(スレイン達は私を捜しに来てくれるはず……)  
 決してまだ独りじゃない。  
 冷静な判断力を失うまいと、唇を一文字に引き締めた。  
 こういう場合は、むやみに動いても仕方ない。  
 モニカはこの場で待機していようと、坑の端に腰を下ろそうとした。  
 
 その時だった。  
 
 ウジュル……ウジュル……  
 
 ――怪しい変な音が、幽かに聞こえた気がした。  
「……」  
 モニカはしゃがもうとする動きを途中で止めた。  
 じっと耳を澄ませる。  
 
 ウジュル……ウジュル……  
 
 まだ幽かだが、今度は前よりはっきりと聞こえてくる。  
 坑道の闇の奥から、何かがこちらに近づいてくるようであった。  
「……」  
 モニカは片手に持っていたランプを見た。この光を目指しているのかもしれ  
ない。しかし、このランプの光が無ければ、この坑道内を一歩も進めない。  
 それとも、すぐそこに転がっているモンスターの死骸から漂う血の臭いに誘  
われて来たのか。  
 一本道の場所であった。来るとしたら、前か、後ろである。  
 モニカは精神を集中し、リング・ウェポンを静かに発動させる。たちまちの  
うちに、空いている方の手の指の間に四本の鋭利な短剣が具現した。  
 それをいつでも投擲できる体勢をとり、モニカは立ちつくした。  
 
 ――静寂。  
 ランプがなめらかな光を放ちながら虚ろな坑内を照らし出している。  
 前……? 後ろ……? 音がくる方向がまだ分からない以上、動きようがな  
かった。できれば前から来て欲しかった。後ろは来た道である。  
 どうしようか。  
 モニカはじっとしたまま考えた。  
 戦うか、逃げるか。独りで戦うのは危険だった。それほどモニカは自分に過  
信を抱いていない。よほど与し易い相手ならばいいが、モンスターは危険だか  
らモンスターと呼ばれるのである。  
 だが、どちらから来るのかが分からなければ、逃げ出しようもなかった。  
 モニカはじっと動かず、聴覚に全神経を集めた。  
 
 トクン……トクン……  
 
 これは彼女の心臓の音。モニカの控えめな膨らみの下で、そのリズムは正確  
に刻まれていた。冷静に事態に対応している今は、興奮も極力抑えられていた。  
 
 ウジュル……ウジュル……  
 
 音が大きくなってきていた。近くまで来ている。  
 後ろからだった。  
(仕方ないわね……)  
 モニカはだが、落胆しなかった。物事が思い通りにいかないことは、自分の  
背中にある飛べない翼が何よりも教えてくれる。  
 
 ゆっくりと身体の向きを変え、後ろに振り返った。ランプを掲げてみたが、  
照らされる範囲にはまだ見えない。音の遠さはまだ光の外、闇の向こうだった。  
 だが、着実にこちらに来ている。  
 短剣を握る手に、わずかに力がこもった。  
 現れるものが彼女にとって敵である可能性は極めて高い。こんな気色悪そう  
な音をたてるのは、十中八九、モンスターだろう。  
 モンスターであればこの短剣を投げつけ、怯んだところを距離を取る。追い  
かけてくればさらに投げつけて牽制しつつ戦う。接近戦にはしない。  
(非力で魔法も拙い私にはそれしかない)  
 それが失敗したら――どうあがこうが、今は独りなのである。死ぬ可能性は  
高かった。  
 
 ウジュル……ウジュル……ウジュル……ウジュル……  
 
 すぐそこまで気配が近付いている。もう10メートルも離れてないだろう。  
モニカの手に緊張が篭もる。  
(それにしても、気味の悪い音を出すやつね)  
 まるで腐食物でいっぱいのゴミ溜めを掻き回すような……  
 自分で想像してげんなりした。そんな事を考えるのは止そう。  
 ふと――  
 匂いが漂ってきた。  
(……?)  
 モニカは鼻を少しひくひくさせてその匂いを嗅いだ。  
(甘い……?)  
 
 まるで甘い蜜のようないい薫りであった。芳しい、とまではいかないが、モ  
ンスターが放つ匂いにしては珍しい。毒気は含んでいないようで、しばらく嗅  
いでも身体に変調などは起こらなかった。ただ少し妙なことに、気分が良くな  
るというか、緊張がほぐれるような気はした。あくまで気がしただけだが。  
 モニカは注意を緩めず、この匂いの主の出現をじいっと待った。  
 
 ジュル……ジュル……ジュル……  
 
 ランプが照らす範囲内に、何かが揺らめいた。モニカの背より高いところ。  
 モニカの身体に緊張が走る。  
 見ると、それは一本の触手であった。子どもの腕ぐらいの太さはあるどす黒  
い肉色のロープの先端が、中空で何かを探しているように揺らめいている。  
 モニカはにじり下がった。不意にその触手が攻撃に転じるのを最大警戒する。  
(触手……)  
 モニカは触手について考えた。触手は油断ならない。これを武器にするモン  
スターは、鞭のようにしならせて攻撃してくる。時にはまっすぐ突きかかって  
くるし、見た目通りの長さでない場合もあり、油断はならなかった。  
 厄介な敵かもしれない。逃げるのならば、急いで離れる必要があった。  
 そんな風に対策を考えていると、触手に続いて、本体がランプの光の中にゆっ  
くりと入ってきた。  
 それを見たとき、  
(こ、これはなに……!?)  
 感情の発露が乏しいモニカでも、思わず、顔いっぱいに嫌悪を広げていた。  
 それは――世にもおぞましい肉の塊であった。  
 
 モンスターといえども、それなりの体裁を整えてるのが普通だが、これは全  
く違った。  
 坑道の幅高さとも半分以上は占めているだろうか。モニカの何倍もある、ま  
るで小山のような体が、饅頭のようにぶよぶよと盛り上がっている。その表皮  
は斑紋のような赤黒いまだら模様で、無数の皺でたるんでいた。粘液でも分泌  
しているのか、黄ばんだ膜で全身テラテラと気色悪く濡れ、まるで肉自体が生  
きて動いているようでもあった。もっと濡れて水気があれば、考えたくもない  
が、まさしく臓物そのもの。汚物の山。  
「やだ……」  
 あまりの気色悪さに、にじり下がっていくモニカ。  
 肉塊の特徴は、しかし、その姿よりも目を引くものがあった。触手である。  
やはり粘液にまみれ濡れた触手が体のあちこちから無数に伸び、気味悪く蠢い  
ている。触手は、色も形状も千差万別であった。太い腸のような触手があると  
思えば、蔓のように細長いものもある。イボイボがびっしり生えた触手がある  
と思えば、先ほどの肉色ロープ状もある。先端に口が開いてバクバクしている  
触手があると思えば、ベルトのように平べったい触手もある。その統一性のな  
い混沌ぶりがまた、気持ち悪さに拍車をかけていた。  
 モニカはこのおぞましい物体を見て、未だかつて味わったことのない激しい  
生理的嫌悪感に震え上がった。  
(これが生物……!? いや、魔物でもこんな……)  
 吐き気をこらえる。肌が粟立って総毛立ち、背中に嫌な汗が流れた。これで  
匂いも腐っていたら、本当に吐いてしまっていたかもしれない。こんな甘い匂  
いを放つ主が、こんな想像を絶するモンスターだとは、思いも寄らないことで  
あった。この鉱山内で初めてみるモンスターであったし、今まで見たこともな  
い醜悪な化け物であった。  
 しかし、これこそがある意味、モンスターと呼べる存在かもしれない。  
 
 肉の塊は、  
 
 ウジュル……ウジュル……  
 
と、ナメクジのように地面を這い進んで来る。大きすぎて光の中に収まりきら  
ず、後ろの方はまだ闇の中に残っている。  
 モニカは肉塊と一定の距離を保ちながら下がっていたが、脳内では危険信号  
がけたたましく打ち鳴らされていた。この間合いはもう、単純にあの触手が伸  
びる範囲内である。もっと離れなければならない。しかしそれ以上に、もうこ  
んなおぞましい物体とは一秒でも相対していたくはなかった。  
 モニカはランプを真上に放り投げた。天井すれすれまで昇る光明に肉塊の意  
識が向く。その下では、ユラ――と、闇を吸い込むようにモニカの体が回転し  
た――必殺の狙いを定めた円舞──瞬間、細い腕が豪速で打ち出された投槍の  
ように一閃。いや二閃。いつの間にか空いた手にも揃っていた短剣が間髪入れ  
ず飛ぶ。一回で投げたように錯覚してしまうほどの疾風だった。  
 八条の死の翼が白光を煌めかせ、闇と甘い匂いを切り裂いて肉塊に殺到した。  
 肉塊が震えた。あっけなく全てがその体に突き刺さったのだ。  
 だが、這いずる速度は少しも変わらなかった。  
「!?」  
 短剣はしばらく肉に挟まれるように突き立っていたが、そのうち内側から押  
し返され、ポロポロと落ちていった。そして形を成す力を失い、消えてゆく。  
 傷――ついていない。刺さったのではなく……埋まった!?  
 
 まったく効いてないようだった。  
「うそ……!」  
 落ちてきたランプをキャッチしながら、モニカは驚愕に目を瞠(みは)った。  
得意の二連八刃投。投擲のタイミングに狂いはなく、正確なリズムを刻んで完  
璧に投げた。身体が無意識までに覚えた、何千回と繰り返したモーションから  
放つ攻撃は、充分な殺傷力を持つ必殺技なのである。  
 いやそういう問題じゃない。私の攻撃が不十分というわけではなく、この肉  
塊の表皮が厚いのか柔らかすぎるのか、刃物が通用しないのだ。これでは撃退  
は不可能である。  
 モニカの背筋に冷たいものが流れた。  
(魔法――は駄目。のんきに詠唱してられない)  
 その時、一本の触手がビュンッ!と唸った。  
「!!」  
 モニカはとっさにしゃがんだ。  
 
 一瞬前に胴があったところを恐ろしい勢いの横薙ぎが奔(はし)る。  
 見事なほどに空を切った触手は壁をしたたかに打った。  
 
 ビシィッッッ!!  
 
 聞くだけで痛くなるような音が立ち、打たれた部分が派手に砕けた。ぼろぼ  
ろと広範囲に土がこぼれる。避けられたのは奇跡に近かった。  
(あんなのを喰らったら――)  
 骨折。吐血。筋肉断裂。内臓破裂。様々な痛い単語が頭を飛び回る。  
 敵う相手じゃない。判断力がそう急告していた。生死が賭かった戦いで、早  
すぎる決断ではなかった。  
 逃げるしかない。逃げたほうがいい。  
 もうこんなものに関わりたくない。  
 幸い、肉塊はこの鈍重ぶりだった。これなら容易に逃げられる。  
 モニカは恐怖で浮き立ちそうな体躯を叱りつけ、くるりと方向を転換し、少  
しでも早く遠く離れたい一心で脱兎のごとく一目散に駆けだした。  
 
 だが、その逃走劇は無情にも、短い幕切れを迎える。  
 しばらくもいかないうちに行き止まりに突き当たってしまったのだ。  
「そ、そんな……!」  
 モニカは呆然として行き止まりの壁を見つめる。袋小路の一本道にいたのだ。  
 あまりにもあっけない、最悪の展開だった。  
 後戻りは出来ない。  
 肉塊は、もうすぐそこまで迫ってきていた。  
 壁を叩きながら、モニカは叫んだ。  
「スレインー! アネットー! ヒューイー! 誰か助けてー!」  
 せめて壁にではなく、来た方に叫べばいいものだが、モニカは後ろを振り返  
りたくなかった。  
 やっぱり魔法を使おうか。今のうちに詠唱を始めれば――でも、魔法は得意  
じゃない。私の貧弱な魔法で渡り合えるのか――あんな――あんな――  
 匂いが漂ってきた。戦慄で背筋が細かく砕けるような衝撃が走る。心臓の鼓  
動が耳元で鳴って、這いずる音が聞こえない。もう近くまで来てる。  
 どうしよう。どうしよう。  
 いつもの冷徹なほど論理的な思考回路が、今に限って働かなかった。いや、  
実は働いていた。怜悧なほどに働いて、もうすでに無慈悲な結果を弾き出して  
いたのだ。  
 勝てない。独力ではあまりにも選択肢がない。  
 しばらく声を涸らして助けを求め続けていたが、あの甘い匂いを背後から濃  
密に感じ、モニカの声は途切れた。  
「……あ……あ……」  
 おそるおそる――振り返る。  
 
 ランプの光に照らされて、のそりと肉塊が見下ろしていた。押し潰されるよ  
うな重圧感。不気味に脈動する臓器のごとき肉まんじゅう。獲物を追いつめた  
歓喜に打ち震えているように、小刻みに揺れていた。  
 そして、モニカの周りに群がる無数の触手。  
 頭の上を揺らめいていた腸のような触手から、ねっとりと黄ばんだ粘液がね  
ろー……と垂れ落ち、モニカの顔にかかる。これは甘い匂いではなく、ツンと  
すえたような醜悪な臭気だった。  
 ゾゾゾ、とモニカの背に悪寒が走った。  
「ひっ……ひゃっ……やああっ……! ヤアアアーッ!」  
 背中の翼が潰れるのも構わず壁に張り付き、心の底から悲鳴を上げた。こん  
なの厭。人間もフェザリアンもなく、非力なただの十二歳の少女には、目の前  
の現実はあまりにもおぞましすぎた。闘志が萎えしぼむほどに。  
 こうなってはもうダメだった。脅威に立ち向かう固い意志が剥がれ落ち、無  
防備になった柔らかい精神が表にあらわれる。  
 モニカは恐怖に涙をこぼした。足腰が立たなくなり、ずりずりと壁をずり落  
ち、小さくうずくまる。その分触手が近づいてきて、さらに恐怖が増す。  
「ひ……や……!」  
 ガタガタと震え縮こまった哀れな少女に、何本もの触手が一斉に襲いかかっ  
ていった。  
「いやあーーーッッッ!!!!」  
 恐怖に震える儚い翼から、純白の羽根がはらはらと堕ちていった。  
 
 
「いやー!」  
 モニカは這うようにして、肉塊の脇の隙間をすり抜けて逃げようとしたが、  
二三歩も歩かないうちに足首を捕らえられ、その場に引き倒れてしまった。  
「いたっ!」  
 固い地面に体をしたたかに打ち付けるモニカ。拍子でランプと帽子がとんで  
しまった。だが、その衝撃が去る間もなく、彼女の腕よりも太い触手が何本も  
背中の上から襲いかかってきて、モニカの胴や腕に巻き付き、そのまま中空に  
持ち上げられた。  
「いやっ、いやあっ!」  
 モニカは身をよじって逃げようとした。だが、足がかりもない宙に浮いた状  
態で反動もつけられるわけがなく、吸い付くように巻き付いて離れない触手は  
びくともしなかった。  
 抵抗も虚しく、完全に捕まってしまった。  
 もう一方の足首を掴まれ、両脚をぐいっと広げられる。腕も伸ばされてがん  
じがらめにされる。大股を開いて万歳するような、恥ずかしい格好で吊される  
モニカ。スカートがめくられ、黒いタイツで覆われた秘部が露わになった。  
「ひゃっ、やっ、やああっ! 何するの!?」  
 他の触手たちがまるで吸い寄せられるようにモニカの股間に伸びてきた。そ  
して、モニカの秘奥の熱と匂いが嗅ぎ取れる間近まで迫ると、本当に嗅いでい  
るかのように、ヒクヒクと先端を蠢かせた。  
 モニカは羞恥に顔を赤く染めた。「な……何してるの、やめて!」  
 すると、触手たちに変化が起こり始めた。  
 
「……!?」  
 モニカの目の前を揺れていた触手たちもしばし動きを止め、小刻みに震えた  
かと思うと、  
 
 ヌ"ロンッ!  
 
と、その先端の包皮がめくれるようにして、中から綺麗な肉色をした、まるで  
人間の亀頭のようなものが出てきたのである。大小様々なエラ張ったカサ、太  
いのや広いののカリ首――見事に人間のそれを模していた。半数以上がそんな  
淫頭をまろび出しただろうか。  
「……!?」  
 さらにおぞましい物体と化した触手に、モニカは開いた口が塞がらなかった。  
性教育を受けているとはいえ実物を見たことがないモニカには、それが何かに  
よく似ているような気はしたが、何なのかは思い出せなかった。不吉さを感じ  
る不安だけが胸に渦巻く。  
 どちらにしろ、これからこれで何かされる事は間違いないのである。  
(どうにか……どうにかしないと……)  
 その時、モニカはリング・ウェポンが無事なことに気付いた。手首は縛られ  
てしまったが、そこから上はまだ動かせる。  
 まだ反撃の力は残されている――。  
 モニカは恐怖で乱れがちになる精神を必死に研ぎ澄ませると、手の中にいつ  
もの短剣をイメージした。  
 彼女の必殺の武器、八枚の死の羽根が手の中に具現化された。  
 
(やったわ……! これを使って――)  
 モニカの瞳の中にわずかな希望が灯される。  
 が、それも束の間、淫頭を剥き出した触手たちが活動を再開し、タイツ越し  
に秘裂や会陰、アヌスなどに取り付き、その先端でぐりぐりと押しはじめたの  
である。  
「ひやああッ!」  
 股間から発生した異様な感触に、仰け反って悲鳴を上げるモニカ。  
 その拍子に、手からバラバラと短剣がこぼれ落ちてしまった。  
「あ、ああっ――はうんッ!」  
 後悔する暇もなく、次々と股間から無視できない振動がモニカを襲う。  
「い――いやっ! そんなところ弄くらないで……!」  
 しかし、そんなモニカの懇願など考慮することなく、まるで独立した生き物  
のように蠢き、強弱をつけながら執拗にぐりぐりと押し続ける触手。オナニー  
すらしたことのない無垢な少女は、股間から生ずる奇妙な感覚に、ただただ体  
を震わせて耐えしのぶしかなかった。  
 そのうち周りで手持ちぶさたように浮いていた余った触手たちも、昂奮して  
きたように震え、モニカのからだに近付くと、ぐりぐりと淫頭を押しつけたり、  
服の上から擦るように動いたりし、あちこちで少女のからだを弄くりはじめた。  
「やっ……やめてぇ……」  
 食べられる――生きたまま食われる――!  
 モニカはそう思い、一層の恐怖に駆られた。  
(だめ、焦っちゃ――もう一度……)  
 モニカは震える手にもう一度短剣を生み出そうとする。  
 
 その時、何本かの触手が伸びてきて、モニカの手の平に淫頭をぐりぐりと押  
しつけてきた。粘液にまみれた軟骨のような気味の悪い触感。  
「ひいいっ!」  
 手を引っ込めようとしても出来ない。手首を抑えられているのだ。指を動か  
して何とか退かそうとするが、それがかえって触手を撫でさする結果となり、  
触られた淫頭が気持ちよさそうにビクビクと震えたかと思うと、ブシュッ、ブ  
シュッと黄色く濁った体液を手の平に吐き出した。  
「いやあああっ!」  
 でろりと黄ばんだ粘液にまみれる両手に悲鳴を上げるモニカ。それは蜜の匂  
いなどではなく、ツンとした鼻が曲がるような汚臭だった。性臭を知らないモ  
ニカは、ただただその気味の悪い臭いに嫌悪感を露わにした。これこそがこの  
肉塊に相応しいような匂い。  
 しかし、それだけでは終わらなかった。からだのあちこちを弄くっていた触  
手たちも誘発されるように、次々と黄ばんだ濁液を噴き出しはじめたのだ。股  
間を嬲っていた触手たちも熱い液体を噴射し、服といわず顔といわず、全身が  
みるみるうちに穢れ濁った黄土色に塗りたくられる。  
 まるで黄泥のシャワーであった。  
 服や髪にベットリと黄色い粘液がつき、顔や股間にも容赦なく浴びせかけら  
れるモニカ。  
 必死に顔を背けながら、「やっ、いやあ! やめてえ!」と、熱くむせかえ  
る汚濁の洗礼に悲鳴を上げる。  
 甘い匂いがたちこめる中、ツンと独特の臭気で充満する空間。顔から垂れた  
ものが口の中に入り、その苦さに思わず吐き出す。  
「うええ……な、なにこれ……」  
 
 だが、そんな事を考えているゆとりはなかった。粘液を吐いて一層昂奮しだ  
した触手たちが、今度は首まわりの隙間やスカートの中を潜って入り込んでき  
たのである。  
 ヌルヌルとした粘膜触手に直に肌を舐められ、そのおぞましさに震える。  
「あひいい! や、やめて……気持ち悪いいい……からだを……這いずり回ら  
ないでぇ……!」  
 お腹や背中の上をたっぷり汚辱に舐められ、モニカはあまりのショックに拒  
否反応を起こす。しかし、彼らはただモニカの肌を這いずっていたわけではな  
かった。上から入ったものは下に、下からのは上に出ると、少女の身体を覆う  
布切れを、背と腹両方の内側から引っ張りはじめたのである。  
 モニカは蒼白にして叫んだ。  
「やっ――いや、いやあやめてーーーッ!」  
 モニカにぴったり合ったスカイグレイの可愛い衣装がありえないほどまでに  
伸張したかと思うと、  
 
 ブチブチブチイッ!  
 
と、激しい音を立ててボタンや縫い目が引き裂かれ、無惨な残片と化していっ  
た。むしり取られて空中に散らばり、あるいは触手に持っていかれ、元の形状  
など偲ぶべもなく四散していくモニカの服。  
「きゃああ!」  
 乱暴に衣服を引き裂かれた衝撃で揺さぶられ、モニカは悲鳴を上げた。もし  
あれが身体だったら――引きちぎられるのが服ではなく、身体だったら――  
(そんなのいや……!)  
 悪夢の想像に、力が抜ける。  
 
 腰から上はすっかり裸になり、下半身もタイツとショーツ、靴とそして右足  
臑の赤いリボンを残すのみという、恥ずかしい格好になってしまったモニカ。  
「う……う……う……」  
 おぞましい生き物の前で、他人に見せたこともない生肌を晒したフェザリア  
ンの混血少女。細いうなじ、うっすらと膨らんだ乳房、まだ毛の生えていない  
恥部――まだまだ成長途中の十二歳の少女の幼い肢体。背中からは小さな翼が  
力無くしおれている。  
 みじめな屈辱感に、モニカは涙に暮れた。  
 だが、触手は少女に悲しんでいる暇すら与えなかった。  
 
 ヌチュッ!  
 
「はあん!」  
 幾つものぬめった触頭がいやらしい音を立てながら、休むことなく恥部を圧  
迫する。それとはまた別の触手が太いのと細いの二本、いや双つ同時だから四  
本、まだ膨らみかけの淡い胸に伸びた。太い方が乳房に、細い方が乳輪と乳首  
にそれぞれ巻き付き、薄い乳肉と可愛い桜色の乳首をキュッキュッと絞り上げ  
られる。微乳はたちまちのうちに粘液にまみれて蹂躙され、汚辱された。  
「いたあいっ! いや、やめてえ! なんでそんなトコ弄るのおっ!?」  
と、胸を絞られる痛みにモニカは泣いた。  
 
 下着の奥に隠された女の聖地は、恥じらうようにその入り口をぴたりとくっ  
つけていたが、ゆとりのある股の隙間で大陰唇はこんもりと立派に成長し、も  
うまもなく肉体の門を開くという段階であった。  
 そこへ今、生まれてからこのかた経験したこともない刺激が与えられはじめ  
たのである。守護門は、主の意志を守って門扉を固く閉ざしていたが、その媚  
肉に心地よい振動を受け続け、徐々に崩される気配を見せていた。  
 
 股間から広がる甘いさざなみと、胸が千切られるような痛みに震え、モニカ  
はまたも身をよじって抜け出そうとするが、一ミリたりとも身体がずれること  
はなかった。あまりにも筋力が違いすぎた。  
(それならリング・ウェポンを……)  
 モニカはもう一度武器を具現させようとしたが、意識が千々に乱れ、集中で  
きない。リング・ウェポンは反応する様子を見せなかった。  
 小さな胸いっぱいに恐怖が広がってゆく。  
「そんな……やだ……誰か……誰か助けてえ……」  
 
「やめ……や……め……やめてええぇ……」  
 次第に触手の粘液がタイツに染みこんでゆき、ショーツまで濡れはじめる。  
ぐちょ……ぐちょ……と、卑猥な音がたちはじめる。  
 それはまるでマッサージのようでもあった。股間の何点もの箇所から強弱混  
じり合った微振動を受け続けるうちに、段々とこわばった肉がほぐれてゆき、  
血が集まりはじめ、熱が籠もりはじめる。  
 次第に股間からの振動が甘い痺れに変わっていった。  
 モニカはいつしか、  
「は……あ……あ……あ……」  
と、うわ言を漏らすようになっていた。頬を紅潮させて必死に耐える。乳の痛  
みが皮肉にも正気を保つ救いとなっていた。  
「も、もう……やめて……」  
 どうして、胸や股間ばかり……?  
 すると、それまで胸を絞っていた触手が離れ、細いものだけが残った。細い  
触手二本は、それぞれ担当した乳首の表面をくすぐるようになぞりはじめた。  
ぷっくりと膨れた薄桃色の乳首がピクピクと反応し、そのさまは可愛い小さな  
妖精が踊っているようであった。  
「ひゃっ……」  
 ソワソワ……と、それまでの痛みとはまったく違った、ゾクゾクするような  
痺れが胸に広がる。恥部の痺れと似たような感覚だったが、こちらはくすぐっ  
たい分、より耐え難いものがあった。  
「くうう……」と、モニカは奥歯を噛みしめてその恥辱に耐えようとするが、  
股間と胸を同時に責められると、何とも言えない奇妙な感覚がからだの中で膨  
らんでいき、  
「んう……んはあ……んん……」  
と、耐えきれずに声を漏らしてしまうのだった。  
 
(いや……なにこれ……?)  
 ズキズキと痛む胸の中心で乳首が甘く切なくなっている。恥部からもたまら  
ない疼きがからだ中に広がっている。モニカのからだは触手に嬲られるままに、  
得体の知れない感覚にどんどんと染まっていくようであった。  
 モニカが戸惑いを浮かべているうちに、ジュプッ……と、ひときわ猥雑な音  
を立てて、一つの触手が陰部に埋まった。ついに秘裂の中にめり込んだのだ。  
「ひゃあああっ!」  
 下着が邪魔して秘孔までは届いていなかった。しかし、ひとたび割れ目を確  
認すると、その情報が伝播し、他の触手が何本もそこに寄ってくる。めり込ん  
だ触手を中心にして、大小無数の触手がさらに淫裂を刺激しはじめた。  
 これにはモニカもたまらなかった。  
「んああああ! ああああッ!」と、湧き上がる望まない性感に嬌声に近い悲  
鳴を上げる。「だめぇ! そこだめぇ、だめなのおぉ! んああッ! そ、そ  
こだけはやめてえぇ!」  
 触手達はさらに奥を侵そうとする。だが、伸張性のあるタイツとショーツが  
邪魔し、処女膜代わりとなって小陰唇から先への到達を防いでいた。  
 
 グッチョ、グッチョ、グッチョ、グッチョ――  
 
 と、粘液をまき散らしながら下着越しの浅いピストン運動が始まっていた。  
さらに触手が増え、下着越しに肉唇をさんざんに突き押していく。濃い粘液に  
まみれてタイツがグショグショになり、黄色く粘った幾筋もの糸が、地面に向  
かって垂れていた。いくらタイツとショーツの二重の守りとはいえ、無数の触  
手で圧迫され、モニカはこれまで知らなかった未知の感覚が湧いてくるのを耐  
えるだけで必死だった。  
 
「いやあっ……んはっ……んあっ……あはああっ……! ひああああっ!」  
 ひときわ高い声が上がる。  
「だめえぇ……そこはああぁ……! そ、そこグリグリしないでえぇ……!」  
 触手の一つが、クリトリスのある部分を刺激してきたのだ。まだ愛らしく包  
皮につつまれた小さなお豆は、押し潰されたり擦られたりするたびに電流のよ  
うな疼きを全身に発信する。  
「んああ! んあああ! ひぐっ、だめ、だめぇ……!」モニカは涙を流しな  
がら、股間から無尽蔵にこみ上げてくる喜悦を懸命に我慢しようとする。「な  
んでこんな事するのぉ……! そんなに刺激しないでえぇッ……!」  
 乳首、恥骨、陰核、肉襞、陰唇、会陰、肛門。恥部の敏感なところばかりを  
執拗に責め嬲られ、いくらこれまで性的経験とは全く無縁だったモニカでも、  
急速にその幼いからだに性感を刻み込まれていくのだった。  
 モニカは自分のからだに起こりはじめた変化に戸惑いの表情を浮かべた。  
(なに……なにこれ……こんな……こんな気持ち悪いモンスターに嬲られてい  
るのに……)  
「は……あ……う……あ……」  
 モニカはいつしか、じっとりとした汗をかき、悲鳴の代わりにあえぎ声を漏  
らしていた。頭がぼんやりとして、どうしても胸や股間から生じる甘い刺激を  
からだが甘受してしまう。  
(厭なはずなのに、どうして……?)  
 
 疲れてもう、抵抗する意志が薄れてきているの――?  
 やがて触手が、邪魔なタイツに業を煮やしはじめた。股の間でびちびちと跳  
ね、怒ったように揺れ動く。モニカの脚にも何度も当たり、鞭打たれるような  
痛みに歯を食いしばって耐えるモニカ。  
 そんな淫頭触手の間を縫って、新たな触手が陰部についた。その先端がまる  
で口のように上下に開く。パックリと丸い穴が覗くと、その内側に沿って鋭い  
牙がびっしりと生えているのが見えた。  
 それがタイツに食いついた。  
「いいッ――!!」  
 陰唇の肉まで牙が食い込んだのだ。全身を鋭く走る痛み。モニカは泣きなが  
ら身体を突っ張らせた。  
 牙を剥き出した触手はいくぶんか力を緩めた。痛みもそれで引いたが、モニ  
カにとってもっと恐ろしい事が起こる。十分に牙にタイツとショーツを引っか  
けた触手が、ぐいっと引っ張りはじめたのである。  
「え……え……!?」  
 触手の淫虐から純潔を守る布が破られる――モニカは甘い浅夢から醒め、恐  
怖に凍った。  
「や……やめてえええ!」  
 しかし、そんなモニカの哀願をあざ笑うかのように、タイツはどんどんと伸  
張していく。ショーツはそれよりも限界が近かった。タイツの内側でビリビリ  
と破れていく音。  
「あ……あ……あ……!」  
 死刑執行の準備を見ているような感覚。  
 そしてついに、タイツも――  
 
 ビチィッ  
 
 破ける音は汚液にまみれ水っぽかった。  
「いやあーーーッ!!」  
 
 ビチビチビチイィッ  
 
 限界まで引っ張られたタイツがついに破け散る。股間部分だけが露わになっ  
た恥ずかしい破れ方に、モニカは顔を真っ赤に染めた。  
 いったん、陰部を嬲っていた全部の触手が引いた。股間に残った切れ端が股  
間をずるずると伝い、やがて粘っこい糸を幾筋も作りながら真下にベチャリと  
落ちていった。  
「あ……あ……ああ……!」  
 股間に空気が直接触れるのを感じ、モニカは恐怖に喘いだ。  
 首を回し、後ろを見た。小さな翼が力無く背中に乗っかっていた。白いお尻  
から膝にかけてタイツとショーツが無惨に破かれて、白い肌が露わになってい  
る。赤いリボンと靴はまだ健在だったが、何のほどがあるだろう。でも、モニ  
カは右足首に結んだ赤いリボンが無事なだけでも、ほんのわずかだが気持ちが  
救われた気がした。  
 そして。  
 無数の触手がうようよと、お尻の向こうで蠢いていた。全てが淫頭をこちら  
に、いや正確には秘裂に向けており、今にも突き進んできそうだった。  
 それを見てモニカはハッと思い出した。あの触頭が何に似ているのかを。図  
解でしか見たことはないが、男性器の先端部分にそっくりだったのである。  
 モニカは無数のペニスに囲まれていると言ってもよかった。  
 
 その新しい認識に、モニカは恐怖のどん底に叩き落とされた。まさか、とは  
薄々思ったけど……そうすると、触手が吐き出す体液は、もしかして――  
 この――この肉塊は私を食べるわけではなく……生殖をするために――!?  
「――い――いやーーーッッ!! いやッ! いやああーーーーーッッッ!」  
 モニカは思い切り泣き叫んで暴れた。性教育を受けている以上、生殖の仕組  
みや子作りの方法など、知識として覚えてしまっているのだ。その知識が、瞬  
く間に彼女を地獄に投げ落とした。  
「いやあ、無理よっ! やめてええーーーッ! こんなのとっ――いやっ、い  
やあっ許してええぇ、やめてえええぇぇーーーーーッッッ!!」  
 じたばたと暴れるが、肉塊はモニカをギュッと掴んだまま、絶対に離さない。  
「いや……いや……絶対にいやあ……!!」  
 ただ、時鉱石を採りに来ただけなのに。皆を助けるためなのに。なんでこん  
な目に遭わなければならないの!?  
 一緒に来た仲間達の事を思い出した。母親が死んでから孤独を強く感じて生  
きてきたフェザリアンの混血少女は、彼らに助けを求めて絶叫した。  
「スレイン……アネット……ヒューイ……みんな助けてーーーーーッッッ!!」  
 だが、その声は虚しく響くだけだった……  
 
 彼女に破滅をもたらす肉凶器の群れが、すぐそこまで近付いてくる。膝のラ  
インを通過し、太腿を抜け、股の間に勢揃いする。触手の熱気が秘唇に感じら  
れた。あられもなく大股に開いた脚を何としても閉じたかったが、足首を掴ん  
で開脚させている触手はびくともしなかった。  
「ひっ……やっ……お願い……やめてええぇ……」  
 もはや性器を守るものなど何もない。モニカは信じられないむせび泣いた。  
 淫頭を持たない細い触手が何本か伸び、秘裂の花びらを左右に割った。さら  
にその中にまた何本かが伸び、添え棒を当てるようにして、何者にもまだ侵さ  
れていない聖域――うっすらと閉じる秘孔の入り口の肉を押し拡げた。  
「ひいっ!」  
 その感触に全身を震わせるモニカ。  
 不条理な淫虐の審判が、いよいよ執行される。  
 ぬろっ……と、淫頭を持った触手の一つが、群れの中から持ち上がった。一  
番太く雄大な触手であった。多量の粘液を滴らせながら、ゆっくりと近付いて  
いく。  
 
 くちっ……  
 
と、拡げられた肉唇に淫頭が埋まり、頭部から下の肉茎が震えた。  
「い、いや、いや、いやあああああぁぁぁ……!」  
 モニカの歯が恐怖でガチガチと鳴る。感じる、中に入ってくる、入って来よ  
うとしてる!  
 悪魔の宣告が入り口の扉を押してゆく。  
「ひいっ……ひいぃっ……」痛みが、じんわりと湧いてきた。「いた、痛い…  
…痛いいいぃ……!」  
 
 だが、極度の緊張でぎゅうっと締まった膣口に、太すぎる触手の侵入は難儀  
を窮めた。  
 再び業を煮やし、肉塊は足首を縛る触手に力を入れ、脚をほとんど水平にな  
るまで開脚する。モニカの身体が柔らかかったのが幸いしたが、股関節を痛め  
てもおかしくない勢いであった。また、さらに多くの細い触手が肉唇を取り囲  
み、全方位から先行して潜れるところまで潜り、入り口を拡張した。股の肉が  
突っ張るほどに伸び、サーモンピンクの膣壁がまじまじと観察できるぐらい拡  
げられた肉孔。モニカの秘所の全てが、何ら覆うものなく、おぞましい生き物  
の前にさらけ出された。  
「いやああっ……! こんな……こんな……ひ、拡げないで……!」あまりの  
恥ずかしさに屈辱の涙を流すモニカ。  
 淫頭は今度こそ、と、再び秘肉を割って埋没しはじめた。  
 
 ズリュッ……ズリュッ……  
 
 ついに、モニカの中へ触手が侵入していった。  
 異物が、異形の生物の性器が自分の肉体を犯していくおぞましい感覚。  
「やだ、やだ、やだあッ! 痛い、痛い、痛いいぃ……!」モニカは苦悶に泣  
き喚いた。  
 しかし、そんなモニカの様子など気にもとめることなく、淫頭はブルッとひ  
とつ震えると、先走り汁を噴き出した。滑りをよくするためだろう。膣内にね  
ばねばした濁液がまき散らされる。  
「ひっ!!」腰をわななかせるモニカ「今なにを――何をしたのッ!?」  
 
 しかし、そのおぞましい感触を再確認する暇なく、肉茎に力が込められ、一  
気に奥まで刺し貫かれた。  
 
 ズリュウウウッ! ズンッ!  
 
「――!!!!」目をいっぱいまで見開くモニカ。「――あが……あがが……!」  
 お腹を突き破られるような途方もない衝撃。勢いで膣奥に触頭が叩きつけら  
れたのである。  
 痛みはその後から来た。  
「――いたいいたいいたいいたいいたい〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」  
 気が遠くなりそうなほどの激痛。張り裂けそうだった。  
「う……ぐ……いたい……いたいよ……いたいいぃ……!!」  
 無惨に処女を散らされ、膣奥まで太い触手で貫通されたモニカ。ギチギチと  
音が鳴るのではないかと思えるぐらい、限界まで拡がった秘孔。鮮血が触手を  
伝い、ポタポタと地面に落ちた。  
 だが、それで終わりではなかった。  
 きついその狭まりの中を、触手がゆっくりと動きはじめたのだ。  
 全身を砕かんばりの激痛に、モニカは絶叫した。  
「いたいーーーーーッッッ!! 痛いッ、痛いの、う、うッ、動かないでえーー  
ーーーッッッ!!」  
 だが、触手は無慈悲にも動き続ける。  
 
 ズッ……ズッ……  
 
「うあっ、うがっ、うぎいぃぃ!」  
 想像を絶する痛みに、モニカは歯が折れんばかりに食いしばる。お腹の中身  
をひきずり出されそうだった。触手が引き抜かれるたびに鮮血が飛び散る。秘  
裂も触手も膣内も、どれも真っ赤に染まった。  
 
「うあっ……うぐっ! ううう……ううッ!」  
 貫かれ揺さぶられるにつれ、モニカの瞳から、身体から、段々と力が失われ  
ていく。もうだめ。限界だった。心身が弛緩することにより痛みが薄れていく  
のが、むしろ有り難かった。  
「うあっ……うあっ……うああ……」  
 何十回目の挿入だっただろうか。  
 奥壁にまで達した淫頭がブルブルと震え、その場でせっぱ詰まったように小  
刻みに抽送しはじめた。  
 モニカはそれに気付いた。本能で理解した。  
「えっ……えっ……や……!」顔がみるみるうちに蒼ざめてゆく。「やだ……  
やだ……膣内(なか)で出さないで……精液出さないで……やめて……やめ…  
…や、や……やめてええぇぇぇぇッッッッッ!!!!!!!!」  
 膣奥の肉襞で十分に刺激された触頭が膨れあがった。  
 
「やあああーーーーーッッッ!!!! 赤ちゃん出来ちゃうーーーーーッッッ!!!!」  
 
 ドブブブブブブブブブブッッッッッ!!!!!!  
 
 もの凄い量の黄土色のザーメンが、バケモノの精液が、おぞましい生き物の  
精子が、モニカの汚れを知らなかった胎内に膣内射精されはじめた。  
 茫洋としつつあった意識の中で、モニカは体奥にはっきりと感じた。  
「ア――ア――アアアアアーーーーーーーーーーッッッッッ!!!???」  
(やだっ……やだっ……やだやだやだああーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!  
 バケモノの……バケモノの子どもが出来ちゃうううッッッ!!!!!!)  
 
 ドプッドプッドププッドプププププッッッッッ!!!!!!  
 
 濃厚なザーメンが膣内にどろどろと渦巻き、鮮血と混じり合っていく。ほと  
んど隙間のない膣内で異常なほどの圧力がかかり、瞬時にモニカの腹部が張り  
裂けんばかりに膨張した。  
「ウア"ア"ア"ッッッ!!!! おなかッ!! おなか裂けちゃう"う"う"ッッッ!!!!」  
 膣も悲鳴を上げていた。膨張した膣内からの圧力により、ザーメンが子宮口  
から噴射されるように子宮内に打ち込まれていく。  
 
 ブビュビュビュビュビュビューーーーーッッッッッ!!!!!!  
 
 まるで噴火の如き壮絶な光景。  
 初めて精子を迎えたモニカの子宮が、その暴虐なほどの勢いと熱さにびっく  
りしたように震え、まだ身体の準備が出来てないとすすり泣くように戦慄(わ  
なな)いた。だが、そんな幼さなど構うことなく、猛り狂った孕まし汁が後か  
ら後から流れ込み、悲痛に悶えるモニカの子宮を陵辱し、溶岩流の下に埋めて  
ゆく。赤く染まったいびつな精子の大群は、まるで血眼になって獲物を捜す餓  
狼さながらであった。恐怖の狩猟者たちが孕ませるべき相手を求め、子宮中を  
どろどろと溢れかえった。  
(で……出てる……バケモノの精子が……私のお腹の奥に……たっぷりと射精  
されてるうううう……!!!!)  
 地獄の宣告。  
 モニカの思考はあまりのショックに停止した。  
 ただ、お腹の奥に灼かれるほど熱い迸りを感じるだけ――  
 
「あ……あ……ああ……」  
 バケモノの射精をまだ受け続けるモニカ。いったいどれだけ出せば気が済む  
のか。モニカの小さい子宮と膣内では収まりきれないほどの、大樽をひっくり  
返したような夥しいザーメン。結合部からもゴポゴポとにじみ出し、破瓜の血  
を洗い流すように後から後から溢れてくる。膣奥でどぷどぷとおぞましい体液  
を吐き出し続ける淫頭は、いくら射精しても満足することを知らず、あっとい  
う間に子宮は黄色く濁った粘液で埋め尽くされる。ほとんどゲル状の濃厚な白  
濁液がマグマのようにでろでろと子宮内で渦巻き、なおも増してゆく。  
 一度は止まった膨張が、再び始まった。今度はじんわりと膨らんでいくモニ  
カのお腹。  
(うああ……熱い……熱いいぃ……!)  
 女性器が一個の熱源と化し、頭のてっぺんまでその淫熱を行き渡らせ、モニ  
カのからだを茹だらせた。肉がふやけて緊張が失われはじめ、傷つけられた膣  
の痛みが痒いような疼痛に変わってゆくのが唯一の救いであった。  
 
 ドプッドプッドプッドプッ――  
 
 バケモノの精液の噴出量は、ダメ押しどころではなかった。特濃のザーメン  
をこれだけ注ぎ込まれて、孕まない方がおかしい。ザーメンの奔流だけで卵管  
に辿り着いた精子たちが、その管中で卵子を見つけ出す。バケモノの精子は人  
間のそれより大きく、一匹で卵子をまるまる覆ってしまうぐらいだった。獰猛  
な狂犬のように一斉に卵子へ襲いかかるが、たちまちのうちに凄惨な奪い合い  
が始まった。卵子は精子の雲霞に埋まってどこにも逃げ出せず、震えながら運  
命の瞬間を待つしかなかった。  
 それは生命の結合という神聖な営みとは思えないほどの陵辱劇だった。  
 やがて、狂争から抜きん出た精子がライバルの攻撃にも負けず、尻尾で卵子  
をしっかりとくるんだ。そして唯一開けた箇所にぐっと尖頭を突き刺す。卵核  
を守る被膜が破けてゆく――  
 卵子が悲痛に揺れ動く。これは求めるものとはあまりにも違う。だが、彼女  
に選択する余地はなかった。  
 悪魔の運命が始まった。  
 あまりにも酸鼻を極める強制結合――カオスなる惨状――おぞましいバケモ  
ノの遺伝子がフェザリアンの少女の遺伝子を搦め取り、陵辱し、異種族の生命  
誕生を果たしてゆく――  
 そのさまは、科学至上の有翼人たちであっても神という存在に呪詛を投げつ  
けるであろう、この世で最も淫靡な光景であった。  
 
 モニカには、胎内でそんな生命の悲劇が起こった確かな実証があったわけで  
はないが、理性も論理的思考も超えて原始の本能がそれを感じ、告げている気  
がした。  
 頭を力なく垂れると、股の間からどろどろと滝のように溢れて流れ落ちる白  
濁液が逆さまに見えた。まだ出しているのである。それはもはや射精というよ  
り、膣内を洗浄するためか、それとも精液を溜める容器にしているかのようで  
もあった。  
 
(ああ……こんなにいっぱい……熱くて濃い精子が……私の子宮に……)  
 その光景を、モニカは虚ろな目でながめ続けた。  
 
 長い時間が過ぎ、やがてようやく射精を終えて力の無くなった触手が引き抜  
かれた。はじめ入った時はあんなに苦しんだのが嘘のように、ぬぽっと軽い音  
を立てて出てきた。満足そうに胴震いする触手。  
 
 ブピュッブピュッブピュピュピュピューーーーー……  
 
 栓の外れた肉孔から、今度はモニカが射精するかのように、膣内に残留する  
白濁液が噴出してきた。  
「ア……ア……ア……♥」  
 それはせめてもの慰めというように、排泄感に似た甘美な感覚をモニカに与  
えた。抵抗の気力が尽きていたモニカの精神に、安らぎのような快感が広がっ  
てゆき、憔悴しきった顔に気持ちよさそうな笑みが浮かぶ――  
 あらかた出尽くし、ほかほかと湯気を立てる肉唇からひとすじの糸が垂れる  
のみにまでに落ち着くと、再び触手たちが蠢きはじめた。股は大開きにしたま  
まモニカのからだを垂直にし、秘裂に細い触手が群がる。  
(今度は……なに……?)  
 膣口がまた拡げられる。柔らかくほぐれた膣肉を掻き分けながら中に細い触  
手たちが入ってゆき、膣粘膜にぴたりと取り付いたかと思うと、中にまるまる  
空洞ができるほど押し拡げる。そして、子宮口に集まった先端が入り口をこじ  
あけた。  
 中に溜まっていた夥しいザーメンがどろどろと溢れ出てきた。  
「うあ……う……あ……あ……♥」  
 
 ドロ……ドロ……ドロドロ……  
 
 白い塊が粘つきながらも肉孔を垂れ落ちてゆき、子宮に残っていたザーメン  
が外に排出されていく。  
(も……もうだめ……)  
 モニカは今度こそフッと意識が遠のき、完全な暗黒の中へと堕ちていった。  
 甘い匂いにすがりつきながら――  
 

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