ざざざざ・・・と心地よい水の音が響く。浴槽にお湯が溜まるのを待ちながらベッドで横になっているとその音がフレーネを眠りへと誘う。  
 そのまま眠ってしまいそうになったとしたとき、部屋をノックする音がしたので身体を起こして、まずはお湯を止める。そして寝室から出て、部屋の入口の扉を開けた。  
「イライザ・・・さん?」  
 眠気から覚めきっていない少しぼーっとした状態のまま、扉の先の相手に話し掛けた。  
「あ。もしかして、もう寝ちゃってた?」  
 フレーネの様子を見てイライザが申し訳なさそうに返す。  
「いえ、大丈夫ですけど。どうしたんですか?」  
 イライザの手には少し大きめの袋がある。  
「あのさ、悪いんだけど、お風呂貸してくれない?」  
 ということは、袋の中は着替え道具一式らしい。眠気を覚ましつつ頭を働かせてみる。  
 しかし、イライザの屋敷はもとは別荘なのだが、各部屋に風呂などの水周りの設備がある。なので、イライザがフレーネの浴室を使う必要は無いはずでは?  
 
「実はね」  
 フレーネの疑問に答えるようにイライザが俯きながら口を開いた。  
「お湯を張ろうとしてそのまま寝ちゃって、浴室が水浸しになってしまったの。慌ててレヴァンの所に行ったら今日はとりあえず他の方のを使わせてもらってくださいって。でも、流石にレヴァンや他の男の人の所だと・・・。だから、貴方のところに来たの」  
「そういうことだったんですか。わたしの所で良ければどうぞ」  
 笑顔でイライザを部屋の中へ入れる。  
 イライザはこの屋敷の主人であり、フレーネは部屋を使わせてもらっている立場だから断ることはできないだろう。  
 しかしそれ以上に、一歩間違っていたらフレーネもこうなっていたという親近感、そして何よりイライザの隣部屋のケイトをはじめとした他の女性ではなくてわざわざ別の階にいる自分を訪ねて来てくれたという嬉しさがあった。  
 
 フレーネにお礼を言ってからイライザが浴室の扉を開けると、浴槽には既にお湯が適度に溜まっていた。それが気になったので寝室に引き返して、ベッドに座っているフレーネに尋ねてみた。  
「ねぇ、フレーネ。もしかして貴方もまだ入っていなかったの?」  
「ええ。でも、先にイライザさんが入って構いませんよ」  
「そうだったら私が先に入るのは悪いわね。もともとは貴方が自分のために張ってたんだし」  
「わたしが先に入ってイライザさんを待たせるのも悪いですよ」  
 このままではどっちも入らないままお湯が冷めてしまう。  
「じゃぁ、さ。一緒に入るのは、どうかな?」  
「え?」イライザの突然の誘いにびっくりするフレーネ。  
「だって、私が入っている間に寝てしまいそうだし。それに、女同士なんだから恥ずかしがることもないわ。それとも、私と入るのが、嫌?」  
「そ、そんなこと、ないです・・・。でも、まだ、着替えの準備が・・・」  
「それじゃ、着替えの準備ができたら入って来て。悪いけど少し先に入らせてもらうわね」  
 イライザの勢いに完全に負けてしまい、フレーネは首を縦に振った。  
 
 屋敷の浴室には洗い場がなく、洗面台やトイレがある。それらからカーテン1枚隔てられた浴槽は身体を温めることと身体を洗う場所を兼ねる。  
 イライザはまず、お湯に浸かって足を伸ばした。お湯に浸かりながら足を伸ばしてもまだ少し余裕が有るぐらいの広さはある。  
 フレーネが来る前に身体を洗ってお湯を汚すわけにいかないので、彼女を待ちつつ、身体を温める。  
 暫くすると、かちゃりと浴室の扉が開き、カーテンの先に人影が現れ、衣装が肌を擦る音が聞こえてきた。  
「イライザさん、お待たせしました」とカーテンを開けてフレーネが入ってきた。湯気にあてられたのか、ほんのり桜色になっている彼女の肌を見てイライザはどきりとした。  
「お邪魔しますね」  
 そんなイライザに気付かず、フレーネはイライザと向かい合う様にして膝を抱えてお湯に浸かる。イライザも伸ばしていた足を縮めた。肩まで浸かってから吐息を漏らすフレーネにイライザのどきどきが増す。  
「あっ、そうそう」何かを思い出したようにフレーネは声を上げてから「バスジュエル入れて良いですか?」と尋ねてきた。  
 バスジュエルって何だっけと思いながらイライザが「ええ」と返事をすると、フレーネはカランの横にある棚の箱へ手を入れてバスジュエルを1つ取り出し、湯船へと落した。  
 バスジュエルが溶けて甘い香りが広がる。溶けながら、名前の示すように宝石の如く輝きつつ、湯船に揺れている。  
 入浴剤のバスキューブのことだったのね、と思い出しながら、フレーネもキューブとともに溶けてしまいそうな気がしてならなかった。  
 溶けてしまう前にフレーネに触れていたい――――そんな気持ちがイライザを支配する。  
 その気持ちを押さえられなくなって、少し身を起こし両手をフレーネの頬に添えた。  
 
「ごめんね」と呟いてから身体の重みをフレーネに預けて唇を重ねた。  
「ん・・・っ」  
 いきなりのことでフレーネはしばらく何が起こったのか分からなかった。  
「貴方のことが・・・」と唇を離してからイライザはフレーネの耳元で囁いた。  
 しかし、フレーネにとってこれは嫌な事ではなかった。  
 わざわざ自分のところへ来てくれたことや、今お互いに一糸纏わぬ姿で時を共有していること、そしてこんな自分に想いをぶつけてきたイライザが嬉しかった。  
 その気持ちを返すように、フレーネはイライザの背に腕をまわしてぎゅっと抱きしめた。  
「いいんです。私もイライザさんのこと、好きですから・・・」  
今度はフレーネからイライザに唇を重ねて、そのまましばらく2人は甘い時を過ごした。  
 
「ねぇ、私がフレーネを洗ってあげていいかしら?」  
 甘えるような声でイライザが尋ねると、フレーネはこくりと頷いた。  
 お湯が溢れるといけないので、湯船の栓を抜いてからシャワーのお湯を出す。  
「それじゃ、まずは髪洗うから、後ろ向いて」と言ってフレーネの身体の向きを変える。  
 髪を濡らして、シャンプーで髪を洗う。イライザの指がフレーネの長い髪を何度も通りぬけて行く。時折、指がフレーネの背中にも優しく触れる。  
「長くて綺麗な髪ね」とイライザは誉めるのだが、フレーネは「えぇ、まぁ・・・」とあいまいな返事しか出来なかった。  
「私も、以前は長かったんだけど」と寂しそうにイライザは口にしながら、シャワーで髪を濯いでゆく。  
 オーディネルの家でイライザが髪をばっさり切ったことがフレーネの脳裏をよぎった。彼女の決意の証とはいえ、それは辛いこどだっただろうし、改めてここで口にすることではないのでフレーネは黙っていた。  
「でも、いつかは、貴方と同じぐらいに揃えたいわね」と呟いてから、フレーネの髪をタオルで纏め上げ、シャワーを一旦止めた。  
 
「じゃ、次は身体ね」と言って、イライザはスポンジを手に取って泡立ててから、腕と背中を撫でていく。時折、フレーネの口から甘い吐息が零れる。  
 今度はフレーネの背中に自分の上半身を圧し掛け、腕をフレーネの前へとまわして胸に手をかけた。  
「あっ・・・あ・・・んっ」今度は声を上げる。  
「ふふ、嬉しい。感じてくれて」  
 イライザはフレーネの乳房を揉みながら、頬を優しく舐めまわす。  
「ふぁっ・・・あっ・・・やっ・・・」  
「柔らかくて、とってもいいわ。でも、ここはすっかり硬くなってるわね」  
 そう言ってスポンジで先端の突起をつつく。  
「くぅっ・・・」  
 これまで以上の刺激に、フレーネは少し身体を震わせる。  
 イライザの手は次第に下腹部へと下がっていき、フレーネの脚の付け根の裂け目に達した。  
「あふぅっ」  
 一段と甘い声がフレーネの唇から溢れ出した。  
 
 湯船の栓が抜けてだいぶん時間が経っているのに、フレーネの裂け目の下あたりは不自然な水溜りが残ったままであった。  
 イライザは指で水溜りに触れた後、再び裂け目をなぞる。この裂け目から溢れ出しているのがよくわかる。  
「あら、もうこんなに溢れさせてるのね・・・」  
「や・・・そん・・・な・・・ことっ・・・な・・・」  
 必死に否定しようとするが、快感がそれを上回っている。  
「でも、ここは正直ねぇ」と言いながら裂け目の間に指を挟みこみ、フレーネの蜜の音を愉しむ。  
 ―――流石はイライザお嬢様。相手がちょっと気弱なフレーネなだけに、小悪魔っぽい態度がよく似合う。  
 裂け目に少し指を入れ、蕾を摘んだり擦ったりする。  
「あ・・・んっ・・・あっ、あっ・・・んふっ・・・はぁっ・・はぁ」  
 最早フレーネは抗う事が出来ず、快感に身を委ねて甘く呻くだけだ。  
「・・・っ」  
 何かを堪えるような声がフレーネの喉元からしたので、イライザはフレーネの秘所から手を離した。  
「んっ、・・・な・・・ぜ・・・?」  
 荒い息遣いで訴えるフレーネ。  
「先に、脚を洗わないとね。手が届かないから、自分で洗って」  
 そう言うとイライザは手にしていたスポンジをフレーネの手に乗せた。  
 
 一旦付いた炎が簡単に収まる筈もなく、フレーネの下腹部は疼いている。思わずスポンジを持った手を下腹部に持っていこうとすると、イライザがその腕を掴む。  
「だ〜め。そこはさっき洗ってあげたでしょう?」  
 耳元でイライザが甘く囁きながら、腕を下腹部から離させる。  
「んっ・・・ふっ・・・」  
 下腹部の疼きを我慢するように声を漏らしながら、そして時折我慢できずに脚をくねらせながらもフレーネはなんとか脚を洗い終えた。  
「はい、よくできました♪」  
 と言いながら、イライザはシャワーからお湯を再び出して、フレーネの身体の泡を空いている方の手で撫でながら洗い流してゆく。  
 ひととおり洗い流すと、シャワーをフレーネの秘所に近づけた。  
「こうしてほしかったのでしょう?」  
 小悪魔ちっくなイライザの囁き。  
「ひゃ・・・あっ・・・あっ・・・ああっ・・・ん・・・んんっ」  
 シャワーから繰り出される心地よい水圧にフレーネの喘ぎ声が大きくなる。  
「可愛い・・・」  
 今度は甘い囁き。  
「ああっ・・・んんっ・・・んあっ・・くぅっ・・っああっ」  
 既に溶けてしまったバスジュエルのように溶けてゆくフレーネの意識。  
「好きよ、フレーネ」  
 いちだんと甘い声で囁く。  
「・・・イ・・・ラ・・・イザ・・・さ・・・ふああああっ」  
 身体を震わせて、快感のなかへと1つのバスジュエルが溶けていった。  
 
「ごめんね、ちょっと度が過ぎたかもしれなかったわね」  
と、荒い息遣いでぐったりしているフレーネをイライザは優しく抱きしめた。  
「ん・・・い・・・い・・・です・・・っ」  
 辛うじて声を出してフレーネは身体の重みをイライザへ預け、余韻に浸りながら意識と呼吸の調子を戻してゆく。  
 突然、フレーネがくしゅんとくしゃみをした。  
「大丈夫?」  
「ん・・・ちょっと湯冷めしたかもしれない・・・ですね」  
「風邪こじらせると大変だから、先にあがったほうがいいわ」  
 イライザは少し熱めのお湯をシャワーから出してフレーネの身体を温める。  
「じゃぁ、お言葉に甘えて、先にあがらせてもらいますね」  
 そう言って微笑んでから、フレーネはカーテンを開いて浴槽から出た。  
 
 ひとり浴槽の中に残っていても仕方が無いので、イライザは髪と身体を手早く泡で包みこんだ後、シャワーで泡を流していった。  
 シャワーが下腹部に触れたとき、先ほどのフレーネのことが気に掛かった。  
 ここにシャワーを当てるのってそんなに気持ち良いのかしら―――そう思って脚を開き、シャワーを付け根に当てる。  
「んっ・・・い・・・いい・・・わ・・・」思わず声を出す。  
 ちょっと試してみてすぐにやめようと思っていたのにやめられない。力が入らなくなって浴槽の壁にもたれる。  
 更なる快感を求めて、シャワーを持っていない左手で花弁を開く。  
「ひゃぅっ」  
 お湯の流れが直にイライザの蕾を刺激し、可愛らしい悲鳴を上げる。  
「ふぅっ・・・あっ・・・んっ・・・んんっ・・・」  
 初めて味わう快感に流されてゆく。  
「ふぁっ・・・あっ・・・はぁ・・・ふっ・・・・ふ・・・れー・・・ねっ」  
 その蕾を刺激している相手を求めるように、フレーネの名を口にする。  
「はっ・・・あっ・・あああぁっ」  
 ついにイライザは絶頂に達し、全身の力が抜けてうずくまった。  
 
 浴室から上がって寝室に戻ってきたイライザを、フレーネは手招きしてベッドに座らせた。  
「それにしてもイライザさんって意外とえっちなんですね」  
 突拍子も無く発せられた言葉にイライザはまともに返すことができない。  
「わたしが上がった後、シャワーで、していましたね。ここまで声が聞こえてきましたよ」  
 みるみるうちにイライザの頬はかあぁっと紅潮していく。  
「い・・・言わないで・・・頂戴・・・」  
 漸く言葉を返すものの、そのまま黙って俯いてしまう。  
「でも・・・わたしを呼んでくれて、嬉しかったです」  
 と言ってふふっと笑みを浮かべるフレーネ。  
「また、一緒にお風呂、入ってくれる?」  
 紅潮したままの顔を上げて、イライザは問いかける。  
 フレーネは笑顔で頷き、イライザの手首を掴み上げた。  
 何をするのかしらと不思議そうに眺めるイライザに「このままじっとしていてくださいね」と言って、フレーネは自分の髪でその手首を軽く縛った。  
「これで、わたしたちは1つになれましたね」  
 少し照れくさそうに言う。  
「そうね」  
 イライザも髪飾り用の赤いリボンで手首と髪を結んだ。  
   
 2人は1つに結ばれたまま、甘い夜を過ごした。  
(Fin)  

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