―――母さん、ピンチです。  
ウェインの脳裏にどこかで使われたようなフレーズがよぎっていた。  
 
「たしかに貴方は誉れあるインペリアルナイトとしてふさわしい人だと思うわ。」  
「あ、ああ・・・ありがとう・・・」  
「ちょっと童顔過ぎるのと身長が玉に瑕だけど、総体的にみて優しいし頼りになるしいい男であることは私が保証する。」  
「・・・引っかかるけど褒められているんだよな?」  
「でも!!」  
「は、はい!」  
「インペリアルナイトは戦闘能力だけを求められているんじゃないことはウェインだって分かってるでしょ?  
いつもみたいに一緒に旅をして貴方の魅力に気がつくなんてのは通用しないの!  
特に外交においては、ほんのわずかな時間で受ける印象が重要なファクターを持ってる場合もあるのよ!?」  
「それは理解しているつもりだ・・・けどリビエラ・・・」  
 
「なんで俺はその問題でこんな格好をしなければいけないんだ!?」  
 
 
夜半が過ぎた頃のこと  
バーンシュタイン城でウェインに当てられた私室、そのベットの上で二つの影が向かい合っていた。  
シュチュエーションだけを見ればこれからお楽しみですね、といったところである。  
しかし、男女の睦み事にしては雰囲気が異様であった。  
あり大抵にいえばあるものを持って迫る銀髪の美女リビエラに対し、明らかに引き気味のウェイン。  
そこに淫靡さを漂うものはカケラもなかった。  
 
「・・・だからね、ウェイン。」  
「あ、ああ。」  
「ローランディアに特使として貴方が派遣されるのは適切よ?グローランサー様と友人といっていい間柄だし、  
傭兵王国事件の時のラージン砦で補給品を送った時ローランディアの兵士達も貴方に感謝をしてあっちの国内でも評判は悪くないわ。  
他のナイツの方々だって向いてないわけじゃないけど、リーヴス卿は筆頭として忙しいし、ダグラス卿は今はユニコーンナイツの陣頭指揮が優先されてるから、貴方に任せられてるのは仕方ないの。」  
そこまで一気にまくし立てるとまたずずいと乗り出すリビエラ、またわたわたと引くウェイン。  
彼の表情は必死だ、目も泳いでいる。いや無理だと分かっていながら逃げられる道はないかと探り続けている目だった。  
普段と違う彼の態度になぜかリビエラは微妙にドキドキしながら逃げられないようにけん制する。  
 
「いっとくけと私は真剣に言ってるのよ?ていうか事の重大さを分かってるのウェイン!?」  
「いや・・・分かってますよ、リ、リビエラさ・・・ん?」  
ウェインは自分のほほが引きつっているのを自覚する。彼女の目が正直言って怖い。  
「いーえ、分かってない!わが国最高の騎士の証であるインペリアルナイトが他国に舐められちゃいけないの!」  
 
「だからいちいちレティシア王女や女官達にちょっかいかけられては顔を紅くしてんじゃないわよ!」  
 
「そんなんだから、童貞疑惑が周りから確信として取られてるのよ!」  
「な!ななな・・・なー!?」  
「そこで赤面してんじゃない!ああもう!」  
―――任務で《ウェインの筆おろし》を命令されるってちょっとどうなのよ!?  
そう、リビエラはシャドーナイツとしてこの任務を言い渡された。  
ウェインの外交自体は特使として十二分の役目を果たしているが、問題はその後のことである。  
インペリアルナイトという肩書きだけでも女性の興味を引くには十分である。  
これがライエルやオスカーだと遠巻きに眺めるだけに終わるのだろうが、彼は平民出身故か気さくで親しみやすい雰囲気を持っており、  
加えて童顔でへたすると少女めいてみえる容姿が城にいる女官達の気後れとか警戒心といったものを抱かなくなるようで声をかける者は少なくなかった。  
べつにウェインはシャルローネ、アリエータ、リビエラとの会話で分かるとおり女性と話すのが苦手というわけではなく、わりとそつなくこなす。  
しかし、とりわけ恋愛事の話題になったり、女性を匂わすように軽く迫ればとたんに表情や態度が分かりやすいリアクションを起こすのである。  
どうもそれがご婦人方に「おかわいらしい方」と、そして男性には「ケツの青い若造」としての印象を持たせられかねない状況だった。  
ローランディアとは傭兵王国事件でうやむやとなったとはいえほんの少し前まで戦争をしていた国であり、リシャール事件での記憶も新しい。  
ましては相手は鷹派寄りのコーネリアス王、足元を見られるであろうことは十分に想像できる。  
リビエラの言ったとおり、インペリアルナイトが舐められるようなことがあってはいけない。  
別の者に行かせてもよいがそれはそれでウェインに対して解決にはならない。  
そこで事情を察したオスカーはウェインと共に戦った仲間でシャドーナイツでもあるリビエラに「お願い」をすることにした。  
もっともオスカーも筆おろしを頼むというのは冗談半分ではあるが。  
さすがに童貞ではないだろうがウェインのそのウブさは後輩として微笑ましいと思っていても、任務に支障が出るのであればそうはいってられないである。  
 
「要は意識の問題よ。女性が苦手ってわけじゃないんだから常に心に余裕を持って接すれば貴方の場合なんとかなるはずよ。」  
「・・・それができれば苦労はしないと・・・。」  
「貴方の場合経験と場数をこなす機会がなかっただけよ。あのシュナイダー元大臣といつも一緒にいたらしいじゃない。どうせ士官学校でもクソ真面目にカリキュラムこなしてはっちゃける機会を逃しまくってたりするんでしょ。」  
「ぐっ・・・・・・。」  
まったくもってそのとおりであったため、ぐうの音もでなかった。  
「確実なのは場数を踏むのが1番なんだけど、でも今はその踏むための余裕がないのよね。」  
確かにナイツとしての通常政務もあり今だバーンシュタイン領内で起こった元傭兵王国との戦争、シュナイダー大臣の反逆等の残務処理は終えていなく、  
このところウェインは寝るか仕事をするかしかしていないはリビエラも知ってた・・・・・・が、実のところ建前でしかない。  
なんということはない、単にリビエラが「ウェインが場数を踏む行動をする。」ということに個人的な感情が働いただけである。  
「次のローランディアに行くまで間がないわ。だから貴方の意識に照れなんか入る余地がないような事を強制的に刷り込めばいいと思うの。」  
「―――で、なんでソレはソレになるわけだ!?」  
ウェインはそのリビエラが持っているあるものを指差しやけくそに叫んだ。  
「発想の転換よ!いっそのこと女の子の気持ちになってしまえば女性に女性が迫って照れるなんてことにならないでしょ!」  
負けず劣らず叫ぶリビエラが手に持っているもの、いわゆるベビードールと呼ばれる女性の下着の一種であった。  
 
「発想がおかしすぎるだろ!どうしたらそんな結論になるんだよ!?」  
「グローランサーみたいな本質誑しはともかく普通にセックスしたぐらいで簡単に余裕なんて生まれるわけないでしょ!?自分でそれを証明してるじゃない!」  
「いや、あのその・・・」  
「一回普通以上の性体験をしてしまえば案外度胸は付くものよ。開き直りとも言うけど。」  
「むしろトラウマがつきそうですっ」  
「いいから着なさい!!私も一緒に着れば文句はないでしょ!?」  
「大ありだろおおおおーーーー!??」  
 
 
――― 暗転 ―――  
 
 
 

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