「…………」  
 ここはローランディア王国の王都ローザリアから西に歩いて6時間ほどに位置する街(ただし地名は王国の一領土にもかかわらず『ティピちゃん王国』だが)にある屋敷の中庭。  
「…………」  
 そびえる大木の根元に1人の青年が腰を下ろし、右手に持った宝石を眺めていた。  
「…………」  
 端整な顔立ちに漆黒の髪、そして金銀妖眼という特徴、彼こそ『光の救世主』とも呼ばれているローランディアの特務騎士、カーマイン・フォルスマイヤーである。  
「おい」  
 と、じっと石を見ていたカーマインは野太い男に呼ばれ、宝石から声がした方向に視線をずらす。  
「ずいぶんと辛気臭い顔をしやがって」  
「わかるのか、ウォレス?」  
 少し離れた場所で大の字に寝転がっている中年の男。指摘されたカーマインは首を軽く傾けた。  
 男の名はウォレス。ローランディアの将軍で嘗てカーマインと共に戦った仲間の1人だ。カーマインと会う前に片腕と量目を失っていたウォレスは代わりに義手と義眼を身に着けているが、義眼のほうは表情が見える程の性能は無い事はカーマインも知っている。  
「見えなくとも丸わかりだ。今の声にも、それにさっきのやり合いにも覇気がねぇ。サンドラ様から体調が悪いと聞いていたが、不調なのは体じゃなくて心か」  
 例え目がよく見えなくとも、ウォレスには優れた聴覚嗅覚、そして長年傭兵として渡り歩いた経験がある。  
「お前が……確かキルシュラーンドだったか?とにかくそこから戻ってもう一週間だ。お前と一緒に帰ってきた奴らは、特に問題なかったのにな。お前だけだぞ、何もせず引きこもっているのは。王の呼び出しも無視しやがって」  
 簡単に説明すれば――二ヶ月近く前、カーマインを含めた数人は、突如ある問題を抱え滅びかかっていた1000年前の別時空に召喚された。そして、カーマイン達と呼び出した者達が力を合わせ滅びを回避し、つい一週間前に戻ってきた――という訳なのだが。  
「事情を話すのは別に俺である必要はないからな。国王も俺に会わない方が気分がいいだろうし」  
「そういう問題じゃねぇ。まあ、向こうでの話自体はゼノスから聞いた。それより、サンドラ様もルイセもティピもずいぶん心配してたぞ。あの3人にも碌に会っていないんだろう?」  
 血は繋がっていないが――否、繋がっていなかったからこそ家族以上のつながりを持つに到った母と妹、そし妖精型の魔法生命体に対しても、カーマインは帰ってから一度しか顔をあわせていない。一家をよく知るウォレスからすれば、ありえない事態である。  
「……そうだな。3人も心配しているだろうし、明日にでも――」  
「今のお前とあったら余計に心配するだろうが」  
 大の字になったままのウォレスは今だ掌中にある宝石をじっと見ているカーマインを睨むように見据え……  
「……女か?またか?また女か?お前は一体どれだけ女を増やせば気が済むんだよ?過去の別次元に飛んでも相変わらずなんだなオイ?いい加減背後から刺されちまうぞ?」  
「――ウォレス」  
 カーマインの微妙な変化を感じ取って口を大きく開け、怒り半分呆れ半分の状態で声を張り上げるウォレスに、カーマインは眉をひそめる……心配そうに。  
「身体がまだ動かないのに、そこまで大声を上げるのは体に悪いと思うが」  
 ウォレスは3分前まで行っていたカーマインとの実戦さながらの試合によってボコボコにされていたのだ。大の字になったままなのは血は出ていないもののダメージの深さゆえに動けないからで、今だ呼吸も整わず起き上がることも出来ない。  
 
「腑抜けていたら、叩き直して、やろうと、思って、たんだが、な……」  
「そうか。だけどウォレス、無理をしないほうがいい。もう若くないんだし」  
 ぜいぜいと息をするウォレスに労りを込めてカーマインは言う。  
「ちょっと待て、カーマイン。俺を、年寄り扱い、するんじゃ、ねぇ。まだまだ、若い奴らには負けない、現役、だ……ふぅ。まあ、魔法使わずここまで戦えるんなら、もう殆ど強さを取り戻しているみたいだな」  
 昔ある事情によって命の火が消えかけていたカーマイン。彼が延命の奇跡の副作用によって失っていた大陸最強の力を取り戻していることを確信しながら、ウォレスはゆっくり身を起こす。  
「取り戻した所で、もう使い道は無い力だろうな。使う機会が無いに越したことはない」  
 ――2ヵ月後、別の異次元に飛ばされ力を振るうことになるのだが、その事をカーマインは知る由もないし、また今は関係の無い話だ。  
「まあ、力云々は今はどうでもいいか。ところでその石はその向こうで引っ掛けた女から貰ったものか?」  
「引っ掛けたという言い方はよしてくれ」  
 カーマインはそう言って宝石を――白い羽根が中に入ったクリスタル――をポケットの中に入れる。  
「……まさかとは思うが、戻りたくなかったと言うんじゃねぇだろうな?」  
「それは無い。俺の故郷はここだ。サンドラ母さんにルイセ、そしてティピ……大切な人達が待っているこの世界が、俺がいるべき……いなければいけない場所だ。躊躇が欠片も無かったとは言わないが」  
 首を横に振りながら、カーマインははっきりと言う。  
「そうか……」  
 ウォレスはそんなカーマインを見て、顎に右手を添え……  
「よし、なら良い所に連れて行ってやる」  
 そう言ったウォレスの口元はニヤリと歪んでいた。  
 
 まず初めに、ウォレスはカーマインが多数の女性と関係を持っていることに嫌悪感を持っているわけではない。複数の女性を抱く事になったきっかけも知っているし、そうならざる得なかった心境も理解できている。同意の上でやっているなら文句などまったくない。  
 次にカーマインが軽い男でないことも知っている。真摯で、胆力もあり、そして強い意志を持っている。ついでに言えば実力も名声もある。領地持ちの騎士に加え救世の英雄と言う身分だ。あとウォレスは見えないので判らないが、顔もいいらしい。  
 非の打ち所の無いいい男で、好きなだけ女性を引っ掛けハメ倒す事が出来る状態だが、そんな事は一切していないようだ。もっとも、そのような事をしていたら病的に兄を愛しているあの皆既日食兼真グローシアンの義妹が黙ってはいないだろうが。  
 最後に、カーマインは超が付く女誑しではあるが、それ以上に純粋な天然青年である事を嫌というほど理解している……こればかりは余計に性質が悪いとはウォレスも思っているが。  
 その辺りを踏まえ、さてどうすればいいかと考えたウォレスの結論は――  
「まあつまり、お前に今必要なのは女の慰みと言う訳だ」  
「慰み?じゃあ――」  
「待て待て、男がこういう時に行く先は女房や恋人の所じゃねぇ。そういう店に行くもんだ」  
 勿論カーマインが言いかけたように、誰か女のところに行くという手もある。だが、ここで特定の女性の所に行かせると均衡が崩れかねないし、そのことで恨みを買う危険性もある。  
 ウォレスとしては命の危険に繋がる事はしたくなかったし……何より、カーマインにそういう遊びを教えたいという、悪戯心と言うか好奇心と言うか、とにかくそれらに近い気持ちがあった。  
「まあ、男なら誰だって世話になるところだ。傭兵や騎士とかは特にな。お前だってどういうところか位は聞いたことあるだろ?」  
「……そうか、あれがそうだったのか」  
 
 何か思い出したかのように、拳と掌でポンと手を打つカーマイン。  
「小さい頃街の探索をした時に綺麗な女性に招かれ、着いた所で数人の女性と話しながらお菓子やジュースをご馳走になったことがあったのだが、もしかしてそれなのか?」  
「お前と言う奴は昔から……多分それだ。店によってどういうことをしているかは異なるがな」  
「しかし、それならローザリアでも――」  
「王都は駄目だ。ゴシップ騒ぎにはなってコーネリウス王から嫌味を言われるのは御免だろ。お前は何かと目立つようだからな」  
 それ以上にルイセ達にばれる可能性が高い。ばれた場合、間違いなく殺される。ウォレスがルイセあたりに。グランシルも同様だ。というか、ローランディア国内は×。そしてバーンシュタイン国内もやめておいたほうがいいだろう。  
「行くのはランザック方面だ。流れの傭兵が2国より多い分需要があって、供給もしっかりしている。そうだな、ガラシールズ辺りがいい治安もそれほど悪くないだろうし、あの辺りならブラッドレー学院長も知っているだろうからレポートで行ける」  
 ウォレスとカーマインが歩いているのは魔法学院のエレベーター前。直接ガラシールズに行くのはどうしても時間がかかってしまうので、数少ない手レポートの使い手である学院長を頼ってここまで来たのだ。  
「さて……と?」  
 エレベーターが学院長の執務室がある階で止まって扉が開く。さっそく学院長の秘書に声を掛けようとしたが――  
「あれ……?カーマインさんにウォレスさん?」  
 秘書の前に立っていた少年、バーンシュタインが誇るインペリアルナイトの1人、ウェイン・クルーズがこちらを見て驚いた表情を見せた。  
「その声……ウェインか?どうしたんだ、こんな所で?」  
「ちょっと明日からランザックに行く必要があって、それと魔法学院に届け物もあったんでついでに……あの、お二人は?」  
 ちなみにバーンシュタインのインペリアルナイトには特別な衣服(鎧)があるのだが、今のウェインは私服のままである。  
「ちょっとカーマインに遊びを教えてやろうと思って……確か、さっき仕事は明日って言ったよな?」  
「学院長にてレポートで送って貰って、向こうで一泊しようと……どうかしたんですか?」  
 カーマインとは違い年上のウォレスに対して敬語を使うウェイン。  
「よし、じゃあ今日は俺たちに付き合え。俺達もランザック方面に行くために学院長に会いに来たんだよ」  
「そうでしたか。ならカーマイン様もウォレス様もご一緒にお入りください」  
 そう言ったのは学院長の秘書。用事が同じでこの二人なら学院長も断らないであろうと判断したゆえの言葉である。そして特に問題もおきず、少しばかりの世話話のあと3人はガラシールズに転送されることとなった。  
 
「ちょ、ちょちょちょちょっとまってください!?しょ、娼館ってむぐ!」  
「道端で大きな声でわめくんじゃねぇ。人目につくだろうが」  
 大声を上げたウェインの口を手で塞いだあと、ウォレスは辺りを見回す。夕日を浴びながらガラシールズの商店街通りを歩いていた三人。ウェインが目的地を聞き、ウォレスが話したばかりの出来事だ。  
「だっ、だってウォレスさん、遊びって……」  
「大人の遊びだ。間違ってねぇぞ。バーンシュタインにだってそんな店はあるだろ?」  
「そ、そりゃありますけど。でも、その……そういうのは、俺……」  
「そういうのは、なんなんだ?」  
 顔を真っ赤にして沈黙するウェインの肩に腕を回し、顔を寄せながら追求するウォレス。ちなみにカーマインは黙ってそんな二人の後を歩いている。  
 
 と、そんな3人の進行方向からやってくる1人の中年の男。  
「ん?そこにいるのは……ウォレスか?」  
「その声は……ウェーバー?」  
 ウォレスが過去所属してた傭兵団で共にいて、今はランザック王国の将軍を勤めているウェーバーだ。  
「それにグローランサー殿にインペリアルナイト殿まで。まあインペリアルナイト殿のほうは、明日の会合で会う予定ではあったが」  
「インペリアルナイト殿じゃなくてウェインでいいですよ。ウェーバー将軍。明日の会合、力を合わせうまくやりましょう」  
「そうだな、ウェイン殿。ところで、どうしてウォレスとグローランサー殿まで?明日の会合に参加するとは聞いていないし、護衛という訳ではないようだが……」  
 不審を探るような視線で三人を見るウェーバー。  
「ああ、ウェーバー。実はな……」  
 ウォレスが簡単に説明する事一分。  
「――ウォレス。お前と言う奴は……」  
 ウェーバーは真剣な顔でウォレスの両肩をつかみ、そして――  
「そういうことなら話は早い!俺も仕事が終わったばかりだ。今から4人で、俺の行きつけの店に行こうではないか!」  
 ものすごくいい表情をするウェーバー。  
「いや、ウェーバー将軍?俺はその」  
「ん?心配するなウェイン殿。若く可愛い娘が多く、よりどりみどりだぞー」  
「そうじゃなくて!その……俺、まだ」  
 顔どころか耳まで真っ赤にするウェイン。  
「むっ?もしやウェイン……まあ問題ないだろ。店できちんと筆おろしをしてもらえ」  
「そうそう!女を知らぬなど人生の半分、いや7割損していると言ってもいい!それに何を隠そう、俺もウォレスも初めはそうだったからな!」  
 がっちりとウェインの左右の腕を掴み、ずるずると引きずるように街を歩きながら話し始めるウォレスとウェーバー。  
「懐かしいな。コムスプリングスだったか?隊長に連れられてよ。嫌がるガムランの野郎も無理やり連れてきて、お前は我先に……」  
「何を言うんだウォレス。一番夢中だったのはお前ではないか」  
「ちょ!二人とも離して下さいよ!?カーマインさん、助けてくれ!」  
 いくらウェインでも百戦錬磨の肉体派将軍二人に拘束されては逃げるどころか振りほどく事も出来ない。ただ出来ることは後ろで黙って付いて着ているカーマインに助けを求める事だけなのだが……  
「…………」  
 心ここにあらずといった表情で空を見上げ、ウェインを助ける事は無かった。  
 
「ここだ、ココ!半年ほど前に出来たパブなのだが、飯も酒も上手ければ女もいい。そしてサービスもウハウハだ!」  
 ウェーバーを先頭にして向かった先は、繁華街の一角、外観からして高級感を漂わせている白い建物であった。開いた窓からは人々の笑い声、そして美味しい料理の匂いが漂ってくる。  
「よし!お邪魔するぞ」  
「あら、ウェーバー様。お久しぶりでございます。今日はお知り合いの方もご一緒ですか?」  
 扉を豪快に開けたウェーバーに直ぐに声を掛けてて来たのは、給仕をしている若い娘。  
「ああ、二階の華は咲いてるか?」   
「ええ。一番手前で咲いてます。あっ、皆さまはじめまして。私はレーネと……えっ?」  
 
 と、後ろに続いた3人を……特にカーマインを見て、給仕娘は驚きの声を上げる。  
「その瞳はまさか――」  
「一発でばれたか……まあ、グローランサー殿のその眼は目立ちすぎる特徴だからな」  
「そうなのか?」  
「と言うかカーマインさん。少しは自覚したほうがいいと思う」  
 容姿端麗に加え金銀妖眼。ウォレスも外見上は目立つが、カーマインほど目立ち有名な特徴は無い。ここでウェインがインペリアルナイトの制服を着ていればまた話は違ったかもしれないが。  
「3人とも俺のただの知り合いだ。とりあえずそういうことにしておいてくれ。では、上がらせてもらうぞ?」  
 ウェーバーはそう言って近くにある階段を上り、すぐ近くにある扉のドアノブに手を掛ける。  
「あれ?ウェーバー将軍、いいんですか?関係者立ち入り禁止って書かれてますけど?」  
「ここは表向き料理店兼宿泊所だからな。それにこの部屋でいいこともさっき確認した」  
 そう言ってウェーバーは扉を開けた。  
「いらっしゃいませウェーバー様。それに今日はこんな人数で」  
 部屋にいたのは一人の女性。声からして若いが、顔には薄い覆面布をしているので容姿はよく分からない。  
「女将。俺はいつものあの子にするからな。今日こそ、今日こそ俺にメロメロにさせ――」  
「ほかの方はいかがなさいます?」  
 鼻息荒く言うウェーバーをスルーする形で女将と呼ばれた女性は後ろにいる3人に尋ねる。  
「俺はいい。下で飯でも食ってくる。こいつらには適当な相手を見繕ってくれ」  
「ちょ!?ウォレスさん!?」  
 悲鳴に近い叫びをウェインは上げるが、無視する形でウォレスはウェインの背中を押す。  
「ではこの中からお選びくださいな。このガラスは特殊な加工をして、向こうから見えない構造になってますのでご安心ください」  
 そう言って壁に掛けていた布を取り払うと、談笑をしている10人ほどの女性が見える。10代前半から20代後半くらい、目や髪の色が異なる女がそこに映っていた。  
「ええええ選べって!?いや、そんなこと言われても」  
「男ならつべこべ言うな。初めての相手を悩むのは当然だろうが、どうせやってみないとわからんもんだ。直感で決めてしまえ」  
 逃げようとするウェインを羽交い絞めにしてガラスの前まで運ぶウォレス。とはいえウェイン本来の力からすれば抵抗など形だけであり、またウェインはガラスの向こうの女性達にじっと視線を送っている。  
 しばらくその状態が続いていたが、そんな二人に並ぶようにカーマインがガラスの前に立ち、女性達を一目見る。  
「ウェイン、彼女を選ぶといい」  
 カーマインが指したのは長いアッシュブロンドを三つ編みにした女性。化粧が少し濃くきつい目つき、さらに周りの女性と話しながらもどこか不機嫌そうだ。  
「リーラですね。ではこの方には彼女を。貴方様はいかがなさいますか?」  
「…………」  
「ああ、コイツの人選はそちらに任せる。はずれだけは出さないでくれよ」  
 黙っているカーマインの変わりに言ったのはウォレス。複数の、しかもそれぞれ個性的で容姿も最高レベルの女性達と深い関係を持っているカーマインから見て、好みがあの中にはウェインに薦めた相手くらいしかいなかったのだろう……そう思いながら。  
 
「えっ……?」  
 ティピちゃん王国にあるカーマインの屋敷。彼の就寝室で二人の男女が話をしている。  
「お兄ちゃん、ここにはいないんですか?」  
 女はカーマインのベッドの潜り込み頭だけを出している、桃色の髪を持つ愛らしい10代半ばの少女だ。  
「はい、カーマイン様は昼前にお出かけになりました。今日中には帰らないとの事です」  
 少女の問いに答えたのは40ほどの年で特に目立った特徴も無い、どこにでもいそうな風体をしている男。  
「もしかして私に会いにローザリアにまで行ったのかな?テレポートで来たから行き違いになっちゃった」  
「いえ、ルイセ様。カーマイン様は確かにローザリアには足を運んだかもしれませんが、今ローザリアにはいないでしょう」  
 少女の名はルイセ・フォルスマイヤー。そしてこの男はそのルイセの兄であるカーマインにこの街の管理を任せられている。  
「うーん、どこに行ったのかな……?場所さえわかれば今すぐテレポートで行けるのに。こんな事だったら、おやつ時から潜り込むんでお兄ちゃんの匂いに耽っているんじゃなかった」  
 時刻は夕方。カーマインのサインが必要な書類を置いておく為に部屋に入った男が、ベッドで寝ているルイセを発見し、少し離れた場所から声を掛け起こしたのだ。触れたり布団を剥いだりせずこの方法をとったのは、近くにルイセの衣服(下着込み)を発見した結果だ。  
「お兄ちゃんがいなくなってずっと寂しくて、夜はずっと泣いちゃって、私のお兄ちゃんが帰ってこないわけない事はわかってても、それでも寂しくて……やっと帰ってきたときは、嬉しくてしんじゃいそうだった」  
 小さい頃からカーマインの側にいてずっと依存していたルイセにとって、カーマインがいなかった二ヶ月間は生きている心地がしなかったほどだ。男を含め周りもずいぶん心配した……天災的な意味でだが。  
「帰って来てもお兄ちゃん何だか元気ないし、お母さんも会っちゃ駄目って言うし……ねえ、お兄ちゃん変な病気になったとかじゃないよね?どこか悪い事があって、それで元気がないということはないよね?」  
 眼を潤ませ上目遣いで聞いてくるルイセに男は安心させるよう穏やかな声で言う。  
「はい、カーマイン様の体はどこも悪くございません。今朝も一緒に出かけられたウォレス様と庭で手合わせをしていましたが、カーマイン様は魔法も使うことなくウォレス様を圧倒してらっしゃいました」  
 と、男が安心させるように言うと……  
「……へぇ、ウォレスさん。私のお兄ちゃんを勝手に連れて行ったんだ」  
 ぞっとするほど冷たい声が、ルイセの口から漏れた。  
「あっ、ところでウォレスさんって何か言ってなかったですか?」  
「何……とは?」  
 小さな町ではあり交通の便は消してよくないにもかかわらず、数多くの人が来る観光名所になっているティピちゃん王国。それは無論カーマインの影響もあるが、それ以上にこの男の手腕の賜物と言ってもいい。  
 とはいえ、戦闘に関しては素人。このルイセの雰囲気にのまれ、蛇に睨まれた蛙同様となっている。  
「遺言とか、辞世の句かな?」  
「あ……いえ、そんなことは言っていませんでした」  
 笑顔だ。とてもニッコリとした笑顔だ……眼は全然笑っていないが。  
「もう、ウォレスさんったら言い残す事はなかったのかな?かな?ところで、どこにいったか知っていますか?」  
「ま、魔法学院に行くと馬に乗って……でっ、では私は仕事がありますのでこれで失礼します」  
 男は逃げるように部屋から出て行った。  
 
「いらっしゃいませ、騎士様」  
 ウェインが扉を開くと、そこには先ほどガラス越しで見たアッシュブロンドの女性がベッドの縁に座って待ち受けていた。  
「りっ、リーラさん!し、しし失礼します!」  
「そんな、国王陛下の自室に入るような挨拶はしなくていいんですよ。インペリアルナイトなんですから、もう少しどっしりしてください」  
 リーラはそう言って立ち上がり、そっとウェインの手を取る。  
「いや、陛下の部屋に入るより抵抗感が……あれ、リーラさんはどうして俺をインペリアルナイトだと知ってるんだ?」  
 ウェインはまだ公式の場ではインペリアルナイトではない。  
 もう半年以上前の出来事になる時空管理塔でのゲーヴァス討伐後、国王であるエリオットから直々に任命されたのだが、その後の動乱やウェインの多忙、さらに完全オーダーメイドで作られる上特殊な魔法処理まで加えられるナイツの服の作成が遅れ、後回しになったのだ。  
 それでも2ヶ月前に叙任式があった、いやあった予定であったのだが……事件によって行方不明になり中止になったのだ。結局、そのやり直しが来月になり、結果まだウェインはインペリアルナイトとして世間には知らされていない。  
「あっ?えっと、その……女将が教えてくれたんです。女将は色々耳が大きいですから」  
 眼を泳がせながらリーラは言う。明らかに不自然な仕草だが。  
「そうだったのか。でも、俺がこんな所に来てると知られたら、拙いかな?」  
 緊張と興奮に頭が一杯のウェインはそれを察知する事が出来なかった。  
「ご安心ください、うちは秘密厳守ですから。例えウェイン、様にどんな性癖があろうと絶対漏らしません」  
「せっ、性癖って、そんな。俺はまだ経験すらないのに」  
「あら、そうだったのですか?ウェイン、様のような方なら世の女性は放って置かないでしょうに。それとも好きな相手とかいるのですか?」  
 リーラはそう言って開いたままのドアを閉め、ウェインの手を引っぱる。  
「えっと、その……三人ほど。まだ誰がいいとか、その辺りは迷っていて……」  
「そうですか……今は、それでいいかな」  
 ウェインの言葉を聞いたリーラはそれを聞いて小さく頷いた。  
「えっ?今何を?」  
「いえいえ、なんでもありませんよ。それじゃあ早速サービスを」  
「えっ!?ちょっとストップ!」  
 ベッドの縁に座らせ、ズボンのチャックを開けようとしたリーラを慌てて止めるウェイン。  
「どうかしました?まさかここまで来て止めるとか?」  
「あっ、いやそうじゃなくて、その……身体が汗臭いかなって」  
 実際ウェインの体は少し汚れあある。昨日の晩シャワーを浴びたとはいえ、朝に訓練、昼に訓練、そして大事な会合は明日なので今日は別に綺麗にする必要はないと思っていたので、そのまま着替えもせず魔法学院に行ったのだ。  
「それじゃあ、隣の部屋に行きましょうか」  
 リーラは立ち上がり、ウェインが入ったところとは違うもう一つのドアを開けた。  
 
「失礼しますね」  
「あ、ああ……入ってくれ」  
 腰にタオル一枚だけになったウェインは、普通とは違う椅子に座り背を向けリーラを迎え入れた。隣の部屋には脱衣所があり、今いるのは更に奥にあった浴衣所。一足先に脱ぎ捨て……脱がせようとしたリーラから逃げるように浴衣所に入ったウェインだった。  
「では、お体をお洗いしますね」  
「えっ!?か、体を!?別に体くらい自分でも……」  
「そういうサービスですから。それに、洗ってもらうほうが清潔になりますよ。まず頭から」  
 リーラはそう言ってウェインの頭にシャンプーハットを付けた後ぬるま湯を頭にかけ、シャンプーを付けた手で頭を掻いていく。  
「痒い所はありません?」  
「ああいや、別にない」  
 細い指が頭を掻く事にこそばゆさを感じながらも、ウェインはされるまま体を硬直させている。  
「ところで、ウェイン様はどうして私を?女将から指定を受けたときいたのですけど?」  
「んっ?ああ、何故かわからないけどカーマインさんが。自分のは決めなかったのに、何故か俺の相手を……リーラさん?あっ、カーマインさんというのはここに一緒に来た人で――」  
 眼を点にしたリーラにウェインは補足で説明しようとするが、  
「も、もしかしてばれてる?えあっ!?かのグローランサー様のことならご存知ですよ!そんな方から指名を受けるなんて光栄です」  
「ばれてるって?」  
「ひ、独り言です!ウェインは、じゃなくてウェイン様は気になさらず!次は背中をあらいますね!」  
 誤魔化すかのようにリーラはタオルにボディソープを染み込ませ……  
 ムニュ  
「……ええと、リーラさん?」  
「どうなさいました、ウェイン様?」  
 すぐ近く、耳元でリーラは囁く。  
「な、何で拭いているのでしょうか?」  
「なにって、タオルですよ?」  
 確かに背中の肌に擦りあわされているのはタオルだ。だが……背中には手とは違う、何か大きいものが押し付けられている感触をウェインは感じている。  
「もっ、もももしかして、リーラさんが巻いているタオルで……」  
「タオルはタオルですから、それとも……直の方が良かった?」  
 リーラはウェインの耳にそっと舌を当てる。  
「うんっ!?」  
「ウェイン様、可愛い。じゃあ、同時に前も」  
 リーラはそう言って泡が付いた手をウェインの胸元に伸ばし、撫でるように触れていく。   
「うっ、あっ、くっ」  
「ふふっ、気持ちいいですか、ウェイン様?」  
 ビクビクと体を震わせるウェインの様子に気を良くしたリーラは深い笑みを浮かべ、  
「それじゃあ……ここも、洗わせて貰いますね……これが、ウェインの、じゃなくてウェイン様の」  
 リーラはウェインの腰に巻いていたタオルを取り除き、姿を現したウェインの肉棒を覗き込むように眺める。  
「りっ、リーラさん!?何を!?」  
 
「何をって……こうするんですよ」  
 言うが早く、リーラの細い手は素早くウェインの肉棒を掴み……  
「うはぁ!?」  
「凄い……ウェインの、こんなに凄くなってる……」  
 ニュルニュルと、泡で濡れた手でリーラはウェインの肉棒を擦り上げていく。  
「だめっ、だっ、リーラさっ、んんっ」  
「駄目じゃないでしょ?だって、ウェインのここ……とても喜んでビクビクしてる」  
 肉棒にソープを垂らし、くちゅくちゅと亀頭を手の平で擦り撫でていく。  
「うあ……ああ……んんっ」  
「ウェインの顔も……とっても気持ちよさそうにしてる」  
 ぐったりと力が抜け、なすがままになっている放心状態のウェイン。リーラはその耳を甘く噛み、同時に力いっぱい肉棒を上下に擦った。  
「あっ……もう限界?ここ、プルって震えてきた。いいわ、このまま……」  
 バスタオルがずり落ちるのも構わずウェインの背中に胸を押し付け、手の動きにスパートをかける。  
「いっちゃいなさい、ウェイン」  
「うはぁ!?はぁっ!ああっ!」  
 初めて自分以外の手によってあっけなく絶頂を迎えたウェインは、自分でした時より多い精液を床に撒き散らした。  
 
「……失敗したわ」  
「う〜ん。う〜ん……」  
 ベッドの上、裸のまま座り込んでいるリーラは、同じく裸のまま大の字に倒れているウェインの頭に手を載せ、ため息をつく。  
「時間一杯までサービスしてあげるつもりだったのに……まさかのぼせ倒れるなんて。完全に計算外よ」  
 体全体を赤くして完全に力が抜けたウェインを姉である女将の助けを得てベッドに運んだリーラ。ついさっき体をタオルで拭き終わった所だ。  
「仕事で疲れきっていたからね、きっと。何でそれでウェーバー将軍やカーマインさんと一緒にここに来たのかは知らないけど……あら、この状態でもやれるみたいね」  
 意識はなくとも体はしっかり起きているようだ。タオル越しに丁重に擦られた事によってウェインの肉棒はまっすぐ立っている。  
「できるんだけど……ねぇ?それはちょっとあの二人に対してフェアじゃないわよね。それに……私のちゃんとした初めてはウェインの意志で貰って欲しいし」  
 グニグニと玩具のように肉棒を撫で回しながら、リーラは微笑を浮かべる。  
「……さて、リーラとしてお客様に時間までもう1サービスしようかしら……起きたらどんな反応するかしら?」  
 リーラはそう言ってウェインの股間に顔を寄せ、肉棒を口の中に入れていった。  
 

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