「……リレの子供が欲しい」  
 アマレットが言い出した事は、あまりに突飛で、私は何と返せば良いのやら、そのまま  
動けなくなってしまった。私は何故かその時、映画で観た男女の睦言を思い浮かべていた。  
俳優がベッドで言うのだ。丁度、今のように。  
 「……アマレット?」  
 長い長い沈黙の後で、私の口からはその言葉だけが飛び出してきた。名前の確認。ただ  
それだけ。私の時間は、あの五日間のように止まってしまっているかのようだ、と一瞬、  
錯覚した。沈黙のせいか、キンキン耳鳴りがしてきたのを感じて、私は下らない考えを、  
ぶんぶん首を振って追い払った。  
 本当に、突飛だった。「男の子だったらね」とか、「シャルトリューズ先生に頼んでみ  
る?」とか、いろんな言葉が頭を過ったけれど、どれもが、浮かんでは消え去っていくだ  
けだった。アマレットの顔つきは真剣そのもので……迂濶な答えは出せない、と私の頭が  
感知していたのかもしれない。  
 「……嫌?」  
 嘘のように整ったアマレットの顔が、僅かに不安の色に染まった気がした。私が何も言  
わなかった事で、不安を覚えてしまったのかもしれない。アマレットは掛け布団を払うと、  
手をついて私の上に覆い被さった。  
 「……何か言って。お願い、リレ」  
 窓からは丁度、月光が差し込んでいて、アマレットは青白く照っていた。「ああ、輝く  
金の髪は薄く透けて、降り注ぐ星空のように美しい」というのも、映画の受け売りだった  
りするのだけれど。  
 
 

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