「あ!マルガリタ、お昼一緒にしないー?」  
「ええ、喜んでお供しますわ」  
 マルガリタが銀の星体の塔に来てから5ヶ月ぐらい…つまりリレが入学する数週間前。  
この頃のマルガリタは村で体験した迫害の恐怖からも立ち直り生活も余裕が出来てきた所だ。  
村で受けた迫害はここにはない。ここの友達はみんな私と同じ魔法使い…  
「難しいよ、フェアリーで5体組の3チーム指揮するともう頭がパニックになっちゃうよ」  
「フェアリーってわりと単独行動とるしねー」  
「ガンメル先生なんか6チーム召還しながら全然隊列を崩さずにその上でフェアリーと  
 おしゃべりしてるんだ、びっくりしちゃった」  
「すご……」  
「ま、そういうのを見てると自信無くすワケですよ、私は」  
「だったら交霊術受ければ?たまにはいいでしょ?」  
「いやー、それはちょっと…死後の住民なんて見たくないし」  
「そう言えば思い出した、この子交霊術習ったことあるのよ、でしょ?」  
「あ、それ言わないでよ」  
「いいじゃん、この子ハデスゲートでファントム召還しようとしたんだけど  
 出て来たのがゾンビでさー、もう大騒ぎだったんだ」  
「あはははは!何それー」  
「後が大変なの、もう腐臭がすごくてすごくて…生ゴミを100倍臭くしたよう感じで。  
 なかなかとれないのよね、ああいう匂いって」  
「あとから先生に怒られて…散々だったよ……」  
「そういう話は隠しちゃダメよ、皆の前で晒して笑いのタネにしないと」  
「そんなのイヤ…」  
 
 他愛のない話もおかずにして昼の食事はどんどん進む。  
「でも交霊術は怖がる人もいるし、錬金術は力仕事多いし数字強くないといけないし、  
 黒魔術は使い魔も先生も危ないし…女だと精霊魔法を選ぶ人が多くなるのは自然よね」  
「で、精霊魔法組は男っけが無い。と…」  
男の話になった。これも自然の流れか。  
「う………」  
「だから交霊術受ければ…」  
「それは別に置いときましょう…ははは」  
「でも私、さっきハイラムさんとたまたま授業同じになっちゃったんだ」  
「え?そうなの?」  
その話を聞いて前屈みになる女生徒もいる。  
「もう素敵な時間だったよ…ぎこちない手つきの私をいろいろ教えてくれてさー」  
「えー、ずるーい」  
「私はバティド君の方がいいからいいけどね」  
「バティド君かっこいいよね」  
「あの運動神経に加えて悪魔の先生にも全くひるまない勇敢さ、いいなー」  
食べるのが遅いマルガリタは基本的には食事中は聞き役だが…  
(あ、この展開は…)  
「マルガリタ、この2人の最新情報教えてよ」  
 やっぱりきた。女子の中で人気があるこの男子2人両方と知り合うマルガリタは  
当然この話に呼び込まれるのだ、箸を休めて口を開く。  
 
「ここ数日は会ってないですわ、まあ私も基本的には黒魔術習うことが多いですから…」  
「マルガリタ、よくあの先生の下やってられるわね…」  
「アドヴォカート先生は嫌いですわ、ただ私の場合残念ながら  
 消去法でそうなってしまったんですけど、ハハハ…」  
マルガリタも最初の頃は精霊魔法を習ったりしたものだがどうにも肌に合わない、  
やむなく受けた黒魔術が意外と合っているのでそれ以後は黒魔術を受けている。  
デーモンを召還できるレベルになった時は嬉しくて友達に自慢し回ったのもつい最近。  
「でもいいじゃない、それでバティド君と知り合えたんだし」  
「悪魔の先生に怒られてる時に助けてくれたんだっけ?」  
「それ違うよー、それは2回目。最初はオパールネラ先生に怒られてる時に  
 助けてもらった方だよ、ねぇ?」  
「え、ええ、そうですわ」  
他人の話をよく覚えているものですわ、とマルガリタは感心する。  
彼女らの言う通り、オパールネラ先生に怒られてる時にバティドが気を利かせて  
助けてくれたのがはじまり。それ以降はアドヴォカート先生に怒られてるところを  
助けてもらったりといろいろ気を遣ってもらっている。  
「マルガリタはバティド派なんだよね」  
「ええ、どちらかと言われればそうでしょうけど…でもそんな好きとかそういうのじゃ  
 ありませんわよ」  
「そんなの分かんないよねー、たとえ今はそうでも人間何がきっかけで  
 人を好きになるかなんて分からないじゃない」  
「そうそう、ある日突然胸がキュン!となってねー」  
「マルガリタ、あなたならバティド君とどうなっても応援するわよ」  
「はははは……」  
どんどん妄想が進む友達に苦笑いしながら仲間っていいなぁ、と実感する。  
(神様、こんな日々がずっと続きますように…)  
「お嬢様、そろそろ………」  
と、感傷にふけっている時に頭の上から声がする。シャーリーだ。  
「ええ?今日はいいじゃありませんか…」  
「お嬢様………」  
それ以上は言わないが無言の圧力を感じる。このままだとシャーリーは機嫌が悪くなる。  
「ごめんなさい、用事があるので私はちょっと………」  
「あ、そうなの?じゃあね、マルガリタ」  
「では皆様、ごきげんよう……」  
「うん、じゃあねー」  
マルガリタはそそくさと出て行った。残った女生徒はフルーツに手をつけながら話を続ける。  
「さっきの話でちょっと不思議に思ったんだけど、何で交霊術を習ってないマルガリタが  
 オパールネラ先生に怒られてたの?」  
「ほら、あの封印部屋あるじゃない、マルガリタがあそこに入ろうとしたんだって」  
「あー、なんだっけ……魂の器がある部屋だったよね?」  
「そうそう」  
「何でまたマルガリタもそんな辛気臭そうな部屋に……」  
「まぁでも封印部屋とか言われると見たくなるのは人情でしょ」  
「そうかもねー……あっ、このフルーツおいしい〜」  
 
 目的地に向かうマルガリタ達、今日は少々早足になっている。  
「もう、あと少し待ってくれてもいいんじゃありません?」  
「そんなことをするといつかなるか分かりませんぞ」  
まぁそうかも…と思いつつ楽しい時間を削られていい気はしなかった。  
「お嬢様…このままでは目的が達成できませんぞ」  
「うう………で、でも、何とかなりますわ……私の勘って結構当たるんですのよ」  
「…根拠を教えて欲しいものですな」  
「……………」  
答えようのない質問だ、マルガリタは気分が急速に滅入ってくるのを感じた……  
 
 マルガリタは封印部屋の前にいる。周囲にオパールネラがいないか確認する。  
「いつまでむくれているのです。終わればまた話でもすればいいではありませんか」  
「わわ分かってますわ、だからこうしてここまで来たじゃない」  
「と言いながら入らないではありませんか」  
「ううううるさいですわ、わ私だって、やややればできるんですのよ」  
「足が震えておるのですな、たかが部屋の調査ではありませんか、  
 この先にはもっと困難な作業が待ってるというのに……」  
そこへ突然後ろから声がした。  
「マルガリタ、お前こんなとこで何やってんだ?」  
「きゃああ!」  
不意をつかれ、マルガリタは素っ頓狂な悲鳴を上げる。…後ろにいたのはバティド。  
「何だよ、そんなに驚くことないだろ、またあのイカレ教師がやってくるぜ」  
この前はオパールネラに見つかり今日はバティド……今日の決行は中止ね、と  
シャーリーに気配を送る。シャーリーもゲコッと承諾の泣き声を鳴らした。  
「い、いえ…なんでもありませんの、ちょっと通りかかっただけですわ」  
「ウソつけ、この前怒られたばかりだろ、懲りないヤツだなお前も」  
「だって…気になるじゃありませんか、入っていけないとか言われると…」  
(どう?この前の失敗を踏まえてもっともらしい理由を考えておいたのですわ)  
マルガリタは心の中で胸を張った。  
「……………まぁそうかもな」  
バティドは納得してくれたような返事をしたのでマルガリタはホッとした。  
「でもまあ…いいですわ、怒られるのもイヤですし…じゃあまたね、バティド」  
とあくまで自然にその場を立ち去ろうとした。その時、  
「待てよ」  
バティドが引き止めた。……私、何かまずいことした……?  
「な、何……?」  
「いいぜ、中に入れよ、オレが外で見張っててやるからさ」  
「え?」  
「聞こえなかったのか、入って見てみろよ」  
「…それは嬉しいですけど……バティドはよろしいのですか?」  
「ああ、オレはいいぜ」  
思いもしない提案が出た。あまりに上手くいきすぎると逆に警戒してしまうのは  
人間の性というものなんだろうか、マルガリタは返事に困っていた。  
「なあに、オレはあのイカレ教師には実験を邪魔されて腹立ってるんだ、  
 このぐらいのことならどうってことないぜ」  
そんな気持ちを察したのか、バティドはそう言った。  
「そ、そうですか!ではお願いしてもよろしいですか?」  
「ああ……そうだ、でも入るのは2層目ぐらいにしとけよ」  
「……もしかして…バティド、もう見てる…?」  
と聞くとバティドはもちろん、とでも言いたげに笑ってみせた。  
マルガリタはつられて笑った。  
「もう、バティドったら……」  
 
 封印部屋の内部に入ったマルガリタ達。  
少しひんやりした部屋は納涼にはいい。しかし入ってみてその広さに気付く。  
一体どこまで下に伸びているのか…これは調査といっても大変だ。  
とりあえずこの階には敵はいない……マルガリタは階段を1つ降りる。  
ここも敵はいない。バティドの言う通り2層目まで安全そうだ。となると下は…  
マルガリタはゴクリと息を呑む。  
 
「はぁ…やっぱり行くしかないですわね…」  
「最下層まで行けというわけではありません。魂の器の封印場所、そこまでのルート、  
 敵の魔法陣の位置、敵の現勢力ぐらいはおおよそ把握しておかないと  
 魂の器を奪う際の作戦が立てれません」  
「でもそれってかなり下まで行かなくちゃいけないですわ…」  
マルガリタは自分で立っているのが不思議なぐらい怯えた。  
「敵の警戒が強ければ諦めましょう、私とて死ぬのは御免ですから。  
 でも今はそれすら分からないのです、だから先に進みますぞ」  
「はぁい…」  
マルガリタは涙目だがシャーリーは気にする様子もない。  
「悪魔って案外身近にいるのですわ……」  
 
 3層目に入る、顔をゆっくり通路に出すと通路の先にファントムが見えた。  
「しゃ、しゃ、しゃ、シャーリー、いい居ましたわ」  
シャーリーはその怯えぶりに呆れながら  
「…………お嬢様、あれは大丈夫ですな」  
「どうしてですの?」  
「あのファントム達はパトロールしているだけですな、同じ所をグルグル回っているので  
 ファントムの視界に入らなければ害は無いと思われます」  
「そう言われれば近寄ってきませんわ……そうですわね」  
「今の彼らには召還師がいないので命令があって動く状態ではありません、だから  
 囮や挟み撃ちのような高度な戦術は無いですからよく考えれば道は開けるはずですぞ」  
「なるほど…………納得ですわ」  
マルガリタは少し自信を取り戻した。  
「ではお嬢様、なるべく近くまで気配を消して近寄り、  
 ファントムが後ろを向いた瞬間にあの階段から下に降りますぞ」  
「(えー!!??)」  
マルガリタは泣きそうになった。  
 
 あれからどのぐらい降りたのだろう、6層目?かな…今だに底が知れない構造だ。  
魔法陣も見つかっていない…さすがに疲れてきた。シャーリーも予想外のようだ。  
「あれ、行き止まり…?……!……シャーリー、見て見て!」  
「これは………」  
思わぬところに幸運というのは転がっているもので  
行き止まりの先から下が吹き抜けになっていて下が一望できた。  
「ハデスゲートが7層目にありますわ、10層目にクリスタル…それに…  
 12層目のあそこが異常に青光ってますわ、まだ下にも層がありそうですが  
 魂の器はあの近辺にありそうですわね」  
「……そうでしょうな……やりましたな、お嬢様」  
「そうでしょう?やればできるんですのよ、私だって……あれ?」  
「どうかされましたか、お嬢様?」  
「何でしょう?何か下から青いものがだんだん大きくなってるような……」  
「………!…お嬢様!まずいですぞ、敵に見つかりました、逃げますぞ!」  
「ええ!?」  
「あれはカロンと呼ばれる使い魔です、なんてことだ…カロンまでいるとは…!」  
「ひぇぇぇぇ〜」  
マルガリタは無我夢中で走り出した。しかしカロンは逃げ道を先回りして  
マルガリタを塞ぐ、真っ青になったマルガリタの前にインプ4体を置いた。  
ゲヘゲヘ、とインプの薄気味悪い笑い声が部屋の中に響いた。  
「どどどどどうしましょうー?シャーリぃ〜」  
「カロンには攻撃能力は無くなりましたがインプか……こうなったら逃げ切るしか」  
「そんなの無理ですわ、インプは足が速いのよ、それに私もう走れません…」  
「ぬぅ……」  
絶体絶命か、インプが近付いてくる…  
 
 マルガリタが諦めかけたその瞬間、  
「おっらあぁぁ!」  
と叫び声とともに飛び蹴りがインプ1体に命中した。…………何?……誰?  
「……バティド!?…どうして……?」  
「帰りが遅いと思ったら……何やってんだ、逃げるぞ!」  
「バティド!インプが!」  
インプの攻撃がバティドの左腕に直撃した。バティドは苦悶の表情を浮かべるが  
「インプの攻撃はそんなに強くないから大丈夫だ、早く行け!」  
帰る道を指差して逃がそうとする。  
「お嬢様、我々がいても足手まといです。先に行くのです!」  
「う……うん、ごめんなさい」  
マルガリタはもう動かないと思っていた足でひたすら走った。  
(バティド、バティド…!)  
 彼女が部屋を出たのは数分後…息をきらしながら通路にへたりこんだ。  
「…これで大丈夫…うまくやりましたな、お嬢様」  
「そんな言い方しないで!」  
冷徹に言い放つシャーリーにマルガリタは猛然と怒った。シャーリーは何か  
言いたそうだったが火に油を注ぐと思ったのか大人しくなった。  
「バティド………」  
祈るような気持ちで待っていると、バティドが出て来た。  
「バティド!」  
「よぉ、無事に逃げ切ったか…」  
「バティドこそ……大丈夫です?」  
「まあな、もともと腕っぷしには自信あんだよ、そんなに心配することねーよ」  
「左腕が特にひどい…張れてますわ」  
「ひっかき傷がちょっとひどくなったようなもんだ、大したことはないって」  
…………………  
そこから先は何を話したか覚えていない…ただバティドが去った後に  
顔を触ったら手が熱かったのだけは確かな感触だった……  
 
 次の日からマルガリタはバティドの見る目が変わった。  
バティドを見つけると赤面し会話もたどたどしくなったような気がする。  
でも気になってしょうがない、そんな感じだった。  
封印部屋の調査が思った以上の成果を上げて喜んだシャーリーも  
以降の進捗が封印部屋の地図しか書いてない状況ではどうしようもない。  
「お嬢様、昨日作戦を考えるように申し上げましたがどうですか?」  
「………思いつかなかったですわ……」  
「そんな感じでもう3日間ですぞ、本気で考えておられませんな」  
「そんなこと……ただ私のデーモン達では厳しいですわね………」  
「相性が悪いですからな、仮に5体を無事に召還しても7層目のハデスゲートを  
 叩けるかどうかも怪しいでしょう、時間もかかります。この作戦は  
 かかっても2時間以内に終わらせないと誰かに気付かれて失敗します  
 短時間でかつこの1回きりで終わらせませんと……」  
「…………………」  
マルガリタは黙ってしまった。これでは昨日と変わらない。  
シャーリーはため息とともに話しかけた。  
「お嬢様、私に1つ案がありますが……」  
「えっ、何ですの?」  
マルガリタの表情が明るくなる、その様子だと任務をこなそうという意思はあるようだ。  
「この前のバティドとかいう少年、あの男を使うのです。  
 あの男は交霊術の教師と仲が悪い。一泡吹かせてやりましょう、という感じで  
 この計画を持ち込めば誘いに乗るでしょう。もちろん魂の器の話はせずにです。  
 キメラとホムンクルスを召還してもらえばアストラル相手でも楽に戦えます  
 魂の器を奪ってしまえさえすれば、あとは私の毒でなんとかなるでしょう」  
「そんな…仲間でもないバティドを危険な作戦に巻き込むのです?」  
「あの男は……いや、何でもないですが…気にすることないでしょう」  
何やらシャーリーが口ごもったようだったがマルガリタは  
「そんなことはできませんわ……そんなことは……」  
と繰り返すだけだった。  
 
 あれから数日、マルガリタはいろいろ挑戦した。ドラゴンを使役してみようとしたが  
アドヴォカートはまだ早いということでカオスネストのグリモアを与えてくれなかった。  
精霊魔法をやってみようとしたがフェアリーは数が増えるとうまく扱えない。  
交霊術もまったく同じでファントムの数が増えるとやはりうまく扱えない。  
錬金術は顔を出していない。…本当は行きたかったが、バティドに会うと  
頭が真っ白になるので任務をする上では最善の策ではなかった。  
結局、マルガリタにはデーモンをうまく扱うことしか残っていないようで  
自分の幅の狭さを認識させられる結果に終わった。  
そんな落ち込んだ気持ちをほぐしてくれるのが友達でありバティドだった。  
マルガリタにはあの日以来バティドの存在が大きなものになっていた…  
 
 ある日…シャーリーが何やらつぶやいている。  
「ここまでですな…短期間でグリモアを習得するには無理があります……」  
思うように進まないマルガリタに業を煮やしたシャーリーがぶつぶつ文句を言うのは  
日常的なことで、とばっちりを食わないようマルガリタは相手にしないように  
しているのだがこの日は違った。……あれ?…マルガリタは自分の体の変調を感じた。  
「おかしいですわ?…どういうこと?自分の意思と無関係に体が動きますわ……?」  
自分の体でない。足が勝手に動いている…パニックに陥ったマルガリタは大声を出す。  
「だ、誰か…止めて、私を止めてですわ!」  
しかし、しばらくすると今度は声も出なくなった。その直前にシャーリーが呪文の  
ようなものを唱えていたのだが大声を出していたマルガリタは気付くはずもない。  
何が何だかよく分からないがマルガリタはどうにもならないので成り行きに任せた。  
途中、シャーリーが話しかける。  
「お嬢様、バティドという男に特別な気持ちを抱いてますな」  
(……………ッッッ!!)  
マルガリタは顔を真っ赤にして何かを訴えようとするが声が出ない。  
「そんな甘いことでは失敗しますぞ。とにかく今回は私に任せて見てもらいましょう」  
(何…?どういうこと……?)  
マルガリタは混乱した。  
 
 自由の効かないマルガリタが辿り着いたのはバティドの前。マルガリタは大混乱だ。  
(そんな!!どうするつもりですの……?)  
「バティド殿」  
「…マルガリタ?いや、頭の上のカエルか…」  
「お嬢様に変わって私の方から言いたいことがあります」  
(何…?まさか…私とバティドの仲を引き裂こうとしてますの……?  
 とにかく止めてったら!止めてー!!)  
しかしシャーリーの口から出たのは全然違うものだった。  
 
「お前は何者だ?」  
 
……意表を突かれた、シャーリーは何を言ってますの…?  
「何だそりゃ、いきなり何の話だよ」  
「私の勘違いで単なる学生ならそれでいい、ただそうでなければ取り引きがしたい」  
………?マルガリタは目の前の話についていけない。すると、突然バティドは笑い出した。  
「ハハハハ!そういうことか!自信は無かったが、それならマルガリタがこの前  
 本気で封印部屋に入ったことの説明になる!」  
(え…………?)  
「ふむ……やはり違ったか、話を聞く気になったようですな」  
「お互いの身の上のこれ以上の詮索はなしだぜ、利害が一致すれば取り引きに応じる」  
もうマルガリタには何が何だか分からなかった。  
 
 マルガリタの立会いの下、シャーリーとバティドの密談が進む。  
「いいでしょう、こちらの要求はお嬢様と一緒に封印部屋に入って欲しい。  
 お嬢様1人では厳しい、お嬢様を守って欲しい」  
「……魂の器が狙いか?」  
「違いますな、あの部屋には別のアイテムがある。それ以上は言う必要はないはずですが」  
素直に相手の口上に乗らない、シャーリーの老獪さが出ている。  
「そうもいかないな、その別のアイテムとやらが俺の目的の可能性がある」  
「なるほど…この塔の宝物狙いですな…さしずめ賢者の石、あたりですか…」  
「…まあいいか、お前達はその場所を知ってるのか?こちらの要求はそれだ」  
「入り口なら知ってますな。それ以上は知らないから答えようがないですが…  
 つまり、入り口というのはある場所を破壊しないと出てこないのです」  
「……いいぜ、契約書を作成したら取り引き成立だ。普通の契約書じゃないぜ、  
 悪魔用のヤツだ、ガセだったりしたら契約不履行で地獄に落ちてもらうからな」  
「構いません、では私達の要求が先でいいですかな?バティド殿が封印部屋の  
 一件を成功させたら私達が賢者の石のある入り口を教える、ということで…」  
「質問だが、封印部屋では俺とマルガリタ2人で使い魔を召還するんだよな?」  
「もちろんそうですが。2人で協力すればあの部屋の制圧は可能でしょう」  
「なるほど…………いいぜ」  
「では、取り引きは成立ですな、決行日は後日伝えますぞ」  
「ああ」  
 
「どうです、お嬢様?始めからこうすれば良かったですな」  
バティドと別れてすぐ、シャーリーは話しかけた。マルガリタは黙ったままだ。  
「おお、そうでした」  
と言うとシャーリーは何かぶつぶつ言い始める。マルガリタの五感が戻ってきた…  
「お嬢様はまだ子供なのでこういう方法がある、というのは知らないでしょう  
 世の中どんな困難があっても諦めないのが肝心ですな」  
「………うるさいですわ……」  
 得意顔で言うシャーリーをマルガリタは両手で掴んで振るい落とした。  
びっくりしたシャーリーをそのままにマルガリタは引き返す。バティドが見えた。  
「バティド!」  
マルガリタが呼び止めた。振り返ったバティドに対してマルガリタは近付くと  
 
パーン!  
 
しっかりした音がする。マルガリタはバティドに平手打ちをしていた。  
「…………マルガリタ…?」  
「2人して私を利用して…!シャーリーもバティドも大嫌いですわ!!」  
「ちょっと待て、お前何言って……  
「知りませんわ!」  
バティドの話も聞かずマルガリタは走り出した。目に涙を浮かべながら…  
 
 マルガリタはひとしきりベッドで泣いた。その後は何かボーッとして  
何も力が入らなくなった。そしてそのまま目を閉じた…  
………………  
 目が覚めた時には太陽も沈みかけ窓から赤い夕焼けの光が入っていた。  
「あー!すっきりしましたわ!」  
 いつもは寝るとイヤな事も忘れて気楽な気分になるマルガリタ。  
しかし、今回はあまり気分が晴れない。マルガリタは今日起きた事を振り返ってみる…  
シャーリーのやったことは腹が立つ。確かに魂の器について事は進んでいない。  
このまま遅れて私が火あぶりになるのを気にしていろいろ考えてくれるのはありがたいが  
今回のはやり過ぎだ。当分許せそうにない。  
 …バティドはどう?どうやら普通の学生ではないようだ。何か裏がある…  
それはそうだが、仮に私を利用しようとしてもインプに襲われた私を命の危険を  
犯してまで助けるものだろうか?  
…それはない、と思う。そもそもバティドは私が魂の器を本気で狙ってるという  
確信も無かったし、私達が賢者の石の在り処を知ってるなんて分かっていない…  
「ビンタしたのはまずかったかも…ですわ…」  
マルガリタは窓から外を見やりながら呟いた。  
 
 次の日、マルガリタは普通に生活した。シャーリーを頭に乗せていないのが違うが。  
バティドとは会わないようにルートも気をつけた。結局あれから考えたがバティドに  
関してはまだ心の中がまとまっていないので今は会いたくなかったのだ。  
そしてお昼…  
「あれ?マルガリタ、今日はカエルちゃんいないのね」  
「え、ええ…ちょっと喧嘩してしまいましたわ」  
「ふーん、まぁ早く仲直りした方がいいよー、こじれてからじゃ遅いからね」  
「ま、まあ、そうかもしれませんわね…」  
それはバティドについても言われてるような気がして心に刺さった。  
「そういえば今日ガンメル先生にお客さんが来るんだって。ここの卒業生で…」  
 
 楽しい食事も過ぎいつまでも話し合うマルガリタ達、いつもはシャーリーに  
促されて途中で退席することが多いマルガリタもちょっと自由を感じていた。  
突然友達が急に黙ってしまった。見るとマルガリタの後ろに視線が集まっている。  
マルガリタも後ろを見ると……そこにはバティドがいた。  
「マルガリタ、ちょっといいか?」  
マルガリタは不意をつかれた。バティドの性格からしてこんなことをしてくるとは  
思わなかった。こんな状況では断れないのを見越して来たのだろうか。  
「ええ、よろしいですわ……」  
バティドとマルガリタは退席する。しばらくしてからテーブルで友達の  
歓声が上がるのが聞こえた…  
 
 何を話せばいいのか分からない。話したいことは一杯あるはずなのに  
まとまってない話ばかりな感じがして話せない。何かもどかしい…  
「お互い普通の生徒じゃなかったんだな」  
歩きながらバティドは話しかけた。静かな口調だ。  
「……そのようですわね……」  
人に知られてはまずい、人気にない場所に来るとバティドは  
「昨日は…悪かった」  
と一言謝った。  
「何で謝るのです?謝らなくてはいけないのは私なのに…」  
「いいんだ、ただ1つだけ。俺がマルガリタを利用してどうの…ってのは誤解だ。  
 それだけは理解して欲しかった」  
「ええ、私も…昨日はいろんなことがありすぎて動転してたのですわ。  
 まともな思考が出来ませんで…」  
「やっぱり…取り引きしようと言い出したのはあのカエルの独断か?」  
「そうですわ!あんなこと言い出すなんて…私はてっきり…」  
「てっきり……何だ?」  
「…いえ……何でもありませんわ………」  
「……取り引きしようと言われた時はびっくりした。むしろ俺の方が利用されると  
 思ってショックだったぜ、マルガリタはそんなヤツには見えなかったからさ」  
そうか、見方を変えればそうなるんだ。マルガリタは複雑な話だと思った。  
「私のような性格の人間にはシャーリーの話は難しくていけませんわね…」  
「お前らがどんな関係かは知らないがマルガリタとあのカエルとじゃ合わないぜ、  
 …まぁとりあえず座るか」  
2人はベンチの上に腰掛ける。  
 
「俺から見るとさー」  
「…何ですの?」  
「お前、無理してんじゃねーの」  
「もともとお気楽な性格してますから…ちょっとシャーリーからぶちぶち言われても  
 聞き流したり、寝れば復活したもんですけど…ただ今回のようなことが起きると  
 グッと締め付けられるような感じで辛かったような気もしますわ……」  
「俺は…マルガリタは違う世界の人間だと思ってた。それぐらい天真爛漫で  
 こんな裏のことをするようには見えなかった、だからカモフラージュするには  
 いいのかもしれないが、逆に裏表が少ない分こういう時辛いんだと思うぜ」  
「確かに向いてませんわ、シャーリーを見てるとそう思いますもの…  
 でもやらないと火あぶりになるの、だからしょうがない……」  
「そうか……」  
「バティドは……どうしますの?」  
「別に。マルガリタがあの契約書を『バティドが無理矢理書かせた』と言って  
 ガンメルに見せれば、当然俺の身辺調査をするだろう。そうすれば俺の素状は  
 分かり良くて退学、悪けりゃ刑務所送りだろう。そのぐらい昨日の俺は  
 致命的なミスを犯したのさ、でも別にそうなってもいいと思ってる」  
「あの契約書ならとっくに破ってますわ」  
「何?」  
「だって契約者に私の名前がありますが、私全然承諾してませんもの。  
 あんな契約は無効ですわ」  
「フフッ…お前やっぱりこの任務に向いてねーよ」  
「バティドもそうですわ…」  
「……そうか?」  
「だって私を助けたり、先生に反抗したりと目立ち過ぎですもの」  
「まぁな…でもそうでもしないとやってられないってのはあるかもな…」  
「………私、他の普通に生活してる人が羨ましいと思うことがありますわ…  
 だってあんなに楽しそうですもの、何で私だけこんなコソコソしたり  
 しないといけないのかなって……」  
「俺もそうさ、ハイラムとか見てると応援したくなる。俺に出来ないことを  
 代わりにやってくれてると思ってるのかもな…」  
「性格は全然違いますのに…私達、似てますわね……」  
「そうだな……」  
「そうですわ………」  
「マルガリタ……こっち見ろよ」  
「え……?」  
「イヤなら跳ね除けてもいいぜ……」  
 
 と、バティドは唇を合わせてきた。優しく合わせてきたキス……  
マルガリタは抵抗しなかった。確認したバティドは舌を入れてきた。  
何かを求めるように舌をマルガリタの中で激しく動かす。マルガリタも応えるように  
舌を絡ませる。二人はお互いをきつく抱きしめた。  
 二人がキスを終えて見つめ合う。魂の抜けたような無機質な表情があった。  
これが今の二人の精一杯なのだろう。二人はもう一度キスをする、激しく………  
 
 キスを終えたバティドはマルガリタを押し倒す。ここでもマルガリタは  
なすがままだ。胴を締めるリボンははずしにくい…バティドは上着のボタンだけ  
外すと乱暴に服の下に手を入れてきた。バティドの手の冷たさとマルガリタの  
身体の温度差に最初はピクッと反応するが、人差し指と中指がマルガリタの乳首を  
クリクリと挟み弄び始めると身体のどこからかが快楽への道標を示してくれたように  
何もかもが心地良くなる。たまに絞めすぎたその痛さもすぐ忘れてしまうほど…  
ピアノを演奏しているかのように怪しく動く指先に乳首は見事に撥ね上がる。  
そこに服の上からバティドの舌が乳房の稜線に沿わせて舐めてくる。乳首が  
舌に刈られた時、マルガリタの身体は抑えようのない快楽に負け全身が  
電気を受けたように仰け反った。  
 
 手を胸から下腹部に移す。スカートを脱がせると薄い桃色のショーツは  
もう濡れている。バティドは秘穴全体をショーツの上から思い切り  
バイブレーションをかけながら指先で擦り上げた。マルガリタは  
思いっきり感じてしまったらしく息遣いがはっきりと荒くなった。  
顔もすっかり紅潮して恍惚の表情を浮かべる。  
それを見たバティドは舌で舐め回そうと思ったのだろう、顔を  
股に埋めようとしたが、マルガリタは先手を打ってバティドにキスをした。  
どうしても見られたくないようだ。激しく舌を入れて求めてくる。  
バティドは舐めるのを諦めキスをする。激しく…ただ、キスをしながらも  
指はぐちょぐちょになったショーツの上から擦り上げている。  
口の中の舌の動きが感じるたびにスピードが鈍る。全身で締め付けられる  
快感を受けきれずに放出されている。文章にならない激しさと言えるだろう。  
 
 バティドはズボンを脱いで膨張し抑えきれなくなっている己の大筒を  
開放した。その間もマルガリタは腕をバティドの首に絡ませキスをしている。  
夢中になっているのか何かを忘れたくて夢中になろうとしているのか…  
辺りは汗か愛液か、何かよく分からないが水分でじっとりと湿っている……  
 
 マルガリタのショーツに手をかける、すると不意にキスが終わった。  
お互いの顔を見合わせる…2人の顔は真っ赤に染まっている。  
しかし顔面の紅潮ぶりの中に見せる獲物を狙うかのような鋭い目が印象的だ。  
このままでは食い足りない、もっと食わせろと訴えかける………  
 マルガリタは視線を逸らした。どうやら合図のようだ、無言で頷くバティドが  
肉茎を秘穴の元に挿入され、マルガリタの身体を突き刺した。  
腰の動きが激しくなり、マルガリタの横顔の目元に汗か涙かしたたり落ちた。  
口元は激しく波打って息も荒々しい。マルガリタの手はバディドの腕を  
グッと握り締めている。もともと寝転んでいるのに掴んでいないと  
倒れそうに思えているのかしっかりと握っている。  
ハッ…ハッ…ハッ……ハッ……  
息遣いだけが支配する、奇妙で激しい空間……  
やがて息遣いは激しく細かくなり………2人は果てた……………  
 
 お互いが無言で通した性交……終わりも2人は無言のままである。  
この中に愛はあったのだろうか?ただ激しく追い求めた結果に残る背徳感…  
言えば一般的な愛は無かったのだろう、2匹の弱い獣が慰めあっただけの……  
でも、そうしなければいけなかった衝動もあった、それがあの激しさ。  
結局、人というのは独りで物事に立ち向かうには脆い存在なのだろう、  
これも1つの愛の形なのかもしれない……  
「何かすっきりしましたわ……まるで今までのことが幻のようですわ…」  
「じゃあ、お互い頑張ろうぜ」  
これ以降、女生徒が騒いだりもしたが2人きりで会うことは目撃させず  
次第に2人の仲についての噂は無くなっていった…  
 
 その後、リレという生徒が入学することになり魔王は消滅し  
マルガリタは彼女を縛っていた全ての鎖がほどけ名実自由な身になった。  
バティドは賢者の石が消滅した後もしばらく学校にいたが、  
そのうち退学することになった。理由は一般生徒には明かされなかったので  
それを聞いた女生徒が疑問に思ってマルガリタに聞いてみるも  
マルガリタは笑ってはぐらかすだけだった………  
 
 バティドが退学になる日、マルガリタが部屋に訪れた。  
「今日で終わりですわね、バティドは見送りのファンが多そうだから  
 早めに来ましたわよ」  
「何言ってんだよ…まったく」  
「とりあえず……良かったですわね……」  
「良かった?退学だぜ、退学……そりゃどこだって錬金術の勉強はできるけどさ」  
「ええ…良かったと思いますわ……本当に…」  
「……………ああ、そうかもな………」  
にっこり笑うマルガリタにバティドは笑って応えた。  
「じゃあ、最後に耳を貸してくださいな」  
「何だ?」  
「いいからいいから…」  
怪訝な顔をするバティドにマルガリタは顔を近づけるとバティドに  
ぼそぼそと耳打ちした。  
「…………………………」  
それを聞いたバティドは黙ったままだったが、しばらくすると口を開いた。  
「…………そうか……」  
「じゃあ私はこれで…バティド、向こうでも元気でいらしてくださいな」  
「マルガリタもな」  
「ええ」  
マルガリタは手を振ってバティドの部屋を出て行った。  
 

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