頬をなでる夜風の感触に、リレはふと目を覚ました。瞳の奥に差し込む月光の  
まばゆさにまぶたを瞬かせてから、彼女は自らの腕の中に愛しい相手の重みが  
感じられないことに気づいた。  
「あら? アマレット? 」  
起き上がってきょろきょろと周囲を見回したリレの瞳に、長い影を引いて窓際に  
たたずむアマレットの仙姿が映る。蒼い月光の中に朧に浮かび上がるその儚げな玉貌は、  
この世のものとも思えない神秘的で荘厳なまでの美しさに満ち、リレはしばし声を  
かけることも忘れて、一幅の絵画ともみえるその情景に見惚れていた。  
 
「……リレ」  
呆けていた彼女に気づき、振り向いて声をかけてきたのはアマレットのほうだった。  
リレは照れ隠しの微笑を浮かべながら、手早くガウンをまとって自分もベッドを降りる。  
「何してたの、アマレット? 眠れないの? 」  
「……少し、考え事を」  
白鳥のように優美な首を微かにかしげ、アマレットは玲瓏の美声でつぶやくように答えた。  
「何? 悩み事とかだったら相談に乗るわよ」  
「悩みというわけではないの。ただ、……」  
アマレットは言葉を切り、少し考え込むように、細くしなやかな指を白い頬に当てる。  
「……今日、ね。劇場のお客さんから、聞かれたの」  
夜風に揺れる艶やかな髪の一房をそっと撫で付けながら、彼女は静かに続けた。  
 
「私とリレが恋人同士だという噂は本当か? ……と」  
 
「あぁ、またその話題ね」  
リレは微苦笑して眼前の少女を見つめた。  
史上最年少で王国魔法官となったリレと、王都の宝石とも称えられる稀代の歌姫・  
アマレットは、二人ながらに、好むと好まざるとにかかわらず著名人である。その二人が  
非常に、というより過剰に親密であり、あまつさえ同居までしている事実は、世間の  
耳目を集めずにはおかなかった。リレ自身、二人の『関係』がいわゆるノーマルな  
ものではないということは自覚していたし、田舎生まれであるだけに保守的な環境で  
育ってきたリレが、そのことで悩んだ一時がなかったとは決していえないが、すでに  
もうその時期は通り過ぎていた。今の二人は誰はばかることなく屋外でも腕を絡め、  
手をつないで歩きもするし、肩を抱き、抱擁しあうこともある。  
無論、積極的に喧伝するというわけではないものの、だからといって無理に隠しだても  
しない、ごく自然な状態で、リレとアマレットの『関係』は、いわば公然の秘密といった  
ところに落ち着いていた。とはいえ、やはり人々の好奇の対象にしばしばなりはするが、  
それはそれで仕方のないことだと、リレはもう割り切っている。アマレットのほうも、  
もとより世間が何を思おうが、どう噂をしようが、まったく関心を持たない性質  
だったから、これまではその話が二人の間で取り立てて問題になることはなかったのである。  
 
「でも、それがどうしたの? 何か嫌なことでも言われた? 」  
「いいえ。ただ、……」  
アマレットは不思議そうな顔つきのリレをまじまじと見つめて、困惑したように  
細い吐息をついてから、長い睫毛を伏せて、言葉をつむいだ。  
 
「わからなかったの。……私とあなたは、恋人なのかどうか」  
 
「え!? 」  
仰天してリレはぱちくりと目を瞬かせた。今更そんなことをいわれようとは、彼女には  
思いもよらないまさに青天の霹靂。あの『塔』で巡り合い、愛を誓って時を乗り越えてから  
もうどのくらいになることか。つい先ほどまでも熱く肌を重ねあっていたばかりなのに、  
いったい彼女が何を言いたいのかまったく理解できずに、リレは絶句した。  
「あ、あの、どういうこと? 」  
どもりながらたずねるリレに、アマレットは問い返した。  
「リレは、私のことをどう思っているの? 」  
「もちろん愛してるわ。世界の誰より。あのときの約束のままよ、ずっとずっと」  
急き込んで答えたリレの様子を、アマレットは柔らかな微笑で迎えてうなずく。  
「私もよ、リレ。あなたを愛しているわ、あなただけを」  
「だ、だったら……」  
問いを重ねようとしたリレの言葉を、銀鈴を振るようなアマレットの声がふさぐ。  
 
「でも、それは『愛』でしょう? 『恋』とはどう違うの? 」  
 
「こ、こい? 」  
目を丸くするリレに、アマレットのもの問いたげなまなざしが注がれる。  
「『恋人』、というのは、『恋』をしている人のことをいうのでしょう? 私はリレを愛して  
いるし、リレも私を愛してくれているけれど、それは恋なの? 恋じゃなければ恋人とは  
呼べないのではないのかしら? ……『恋』とは何? 」  
思いも寄らない方向に転がり始めた会話に、リレの頭は著しく混乱した。そもそも、  
田舎で暮らしていたころにも、同性異性を問わず誰かと付き合った経験などリレにはない。  
単なる友人以上の仲として深い関係にまでなったのはアマレットが最初なのであって、  
そんな奥手な彼女に色恋の問題を問われても、所詮答えを持ち合わせるはずもなかった。  
「そ、それは……多分、同じなんじゃないかしら、愛と。ほら、魔法陣のレベルが上がる  
みたいなもので、愛は恋の上位互換なのよ、きっと」  
しどろもどろになりながら、リレはへたくそな比喩を持ち出してもみたが、シャルトリューズ  
仕込みの理論屋であるアマレットはそんな不完全な回答に納得を示しはしなかった。  
「でも、家族を愛する、とは言うけれど、家族を恋する、とは言わないわ。それなら、  
愛と恋とはやはり別のものではないのかしら? 」  
「う……それは」  
あっさり切り返され、リレは冷や汗を浮かべて口ごもる。そんな困惑しきった彼女の様子を、  
アマレットはやや打ち眺めていたが、すぐににこりと微笑んで、リレの肩に手をかけた。  
「ごめんなさい、あなたを困らせるつもりはなかったの。難しい問題なのね。無理に答えを  
求めるつもりはないわ、もう休みましょう」  
休みましょう、といわれても、難問を投げかけられた自分が今度は眠れない。穏やかに  
ベッドに横たわるアマレットの姿を横目で見ながら、リレは情けない表情で、答えの出ない  
質問を、夜通し必死で自分に繰り返し問いかけ続ける羽目になったのだった。  
 
 
 
かくて、翌日のリレは寝不足に目を赤くしたままの出勤を余儀なくされた。グリマルキンに  
スリープをかけられたかのような眠気と戦いつつ、寝ぼけ眼をこすりながらも、事務室で  
当日の魔法院での予定を確認していたリレだったが、その睡魔を追い払ったのは、書類の  
中に見出した、一人の見知った名前だった。  
 
「オパールネラ先生! 」  
案内も請わずに客室に飛び込んできたかつての教え子に、その名で呼ばれた美しき  
魔法使いは形のいい眉をしかめた。  
 
「リレ・ブラウ。私は今日は王都の魔法院に用事があっただけで、あなたに会う予定は  
なかったはずです。しかもいきなり大声を上げ、ノックもせずにいきなり現れて……」  
「ああすみません先生。ついその、勢いあまって」  
かつて師事したときと比べて外見年齢は10歳以上も若返ってはいるが、オパールネラの  
冷ややかで厳しい物言いは健在だった。ほうっておくとそのままお説教になだれ込みそうな  
恩師の言葉を、急いでリレはさえぎる。  
「あの、実は、ご教示いただきたいことがありまして」  
「教示? 私が、あなたに? 」  
オパールネラは不審そうに、というより不機嫌そうに唇を歪めてリレを見やる。  
「何を教えろと? 今となっては私よりあなたのほうが魔法の知識も能力もはるかに上の  
はずですが」  
「ええ、それはわかってるんですけど……あ、いえ、その」  
思わず口を滑らせたリレは、師の眼鏡の奥の瞳が鋭く光るのを見てあわてて口を覆う。  
「魔法のことではなくてですね、プライベートなことで、ちょっと」  
「ますますわかりませんね。私とあなたはプライベートで相談しあうような親しい仲  
だった記憶はありませんが……まぁいいでしょう、話だけは聞きましょうか。それに私が  
答えるかどうかは別の問題ですが」  
つれなく言うオパールネラのこの同じ口が、ハイラムと二人きりのときには甘ったるい  
言葉をつむいだりしてるんだろうなぁ、などと不思議に思いつつも、リレは軽く唇を湿して、  
意を決し、切り出した。  
 
「あのですね。……恋とは、何でしょうか? 」  
 
オパールネラが目を白黒させるという珍しい光景があるとするならそれはこの一瞬  
だったろう。棒を飲み込んだような顔つきになっていた彼女は、ややあってようやく  
こう答えた。  
「脳でも煮えているのですか、リレ・ブラウ? 」  
「う……まじめにお聞きしてるんですけど、先生」  
まるでアドヴォカートのようないわれ方をされて唇を尖らせるリレに、オパールネラは  
頭痛を抑えるようにこめかみを叩いて頭を振る。  
「大体あなたは、あのホムンクルスの小娘といい仲のはずですが。そのあなたが  
今更何を」  
「はあ。私自身も、とても今更な話だと自覚はしているのですけど」  
情けない顔つきでため息をつき、リレは、昨夜の一件をオパールネラに語り始めた。  
 
「私の知ったことではありません」  
聞き終えてまず一声、オパールネラの冷徹な言が響いた。慌ててすがりつくように、  
リレの焦りを含んだ声が続く。  
「そ、そんなぁ。何かせめて、アドバイスだけでもいただけませんか。私の知っている  
中で、恋の話題といえばまずオパールネラ先生なので」  
「……嫌味かしらリレ・ブラウ。私の恋が成就したことなどなかったのは知っている  
はずですが」  
「ええ、それもよく存じ上げてますが……あ、いや、その」  
またも口を滑らせたリレは、師のこめかみに青筋が浮くのを見つけて急いで言葉を取り繕う。  
「でも今ではお幸せなわけですし。やはり、片思い続きでも私なんかよりはずっと、  
恋に関してはベテランでいらっしゃるんじゃないかなぁと」  
「……一言一句、もれなく馬鹿にされているように感じるのは私の気のせいですか? 」  
唇の端がヒクヒクと痙攣し始めたオパールネラの容貌がまるで魔王にもまがう鬼気を  
もって迫り、リレは思わずたじたじと後ずさる。  
「い、いえ、決してそのような意図は」  
「大体ですね。恋などというものはそれこそ百人百様、その事象も対応もそれぞれ  
個別具体的であって、誰にでも通用する汎用的な解などあるはずがないのです。それを  
他人の助言を当てにすることからして、そもそも大いなる過ち以外の何者でもありません。  
私に言えることがないというのはそういう意味です」  
毅然と言い放ったオパールネラの声に、リレはがっくりと肩を落とした。いわれてみれば  
確かにそうで、誰かに教えてもらうといった筋の問題ではなかったのかもしれない。  
「う……そういうものですか……」  
しょんぼりとしたまま、リレは力なく一礼した。が、客間を後にしようと踵を返した  
そのとき、リレの背中に、オパールネラの独り言のような呟きが届いた。  
 
「まぁ、あえて言うなら。あなたがあの娘と離れているときに何を思うか、そして  
あの娘と接しているときに何を感じるかを、考えてみると良いかもしれませんけれどね」  
 
はっとして振り返るリレの前には、しかしもう黙して茶を飲んでいるオパールネラの、  
先刻までと同じような取り付くしまもない表情があるだけだった。  
 
「……何をしているの、リレ」  
その日の夜、帰宅したアマレットは、窓辺にたたずんで無言のまま沈思しているリレに  
不思議そうに声をかけた。まるでそれは、昨夜の二人の立場が入れ替わったように。  
「あ、お帰りなさい、アマレット」  
我に返ったリレが振り返り、アマレットを迎える。月光に照らされたその表情は、  
どこまでもやさしく穏やかだった。  
オパールネラに示唆されたこと。抽象的な事象の思索ではなく、あくまで自分自身が、  
相手との関係の中で、どう考えているのか、何を感じているのかを見つめること。  
その気づきがあったとき、他愛もないほどに、彼女の疑義は氷解していた。リレは、  
夜気のように透き通った感覚の中で、眼前のアマレットを見つめる。  
「あのね、アマレットのことを考えていたの。……というより、あなたのことを考えると  
自分がどうなるかを考えてた、って言うべきかしら」  
「……どういう意味? 」  
小首をかしげるアマレットに、リレは落ち着いた微かな笑みを投げかける。澄んだ瞳に  
相手を深く映して、彼女はそっといとおしむように唇を開いた。  
 
「アマレットのことを考えると、胸の中が暖かくなる。なんだかふわふわして柔らかい  
もので静かに静かに体中が包まれたような気になる。それでいながら、あなたのために、  
あなたの幸せのために、どんなことでもするんだって強い気持ちにもなるの。  
……多分、この『気持ち』が、愛」  
「……リレ」  
小さく息を呑んだアマレットの瞳が見開かれた。胸を衝かれたように睫毛を揺らす  
アマレットの元に、リレは静かに歩み寄り、その頬に触れる。  
「そしてね。あなたの声を聞いたとき、あなたの笑顔を見たときに、……あなたに  
こうして触れたときに、体中がどきどきする。ドラゴンの炎に激しく焼かれるみたいに  
頭の中が熱くなる。  
私のすべてを溶かして焦がす、……多分この『感情』が、恋」  
ささやくように言ったリレの唇が、ふわりとアマレットの耳元に近づく。  
「どっちも、あるの。私の中に。あなたのことを考えて、穏やかになる『気持ち』と、  
激しくなる『感情』が。……矛盾してるけど、多分それが、『恋愛』」  
 
リレの吐息がアマレットの耳朶を暖める。しびれたように動かないアマレットの、まなざし  
だけが揺らめいて震えた。  
「答えになってるかしら、アマレット。夕べのあなたの問いかけの」  
「ええ……わかるわ、リレ。私も同じ。あなたを思うと安らげる。そして、……あなたを  
感じると、心が、震える」  
アマレットはゆっくりと頭を回して、リレと向き合った。つやめく唇に、穏やかな笑みを  
浮かべて。  
「恋愛、なのね。これが、私の……いえ」  
「私たちの」  
語尾をかぶせるように二人で同時に言い直して、リレとアマレットはくすりと笑いあった。  
どこまでもひそやかにひめやかに、けれど暖かく和らいで。そのしのびあう笑い声が、  
やがてひとつに重なり行き、二人の少女の、二つの唇の中に、溶けて消えた。  
 
 
最初は軽くついばむように、けれどそれがいつともなく深く、濃く。  
リレ、と。アマレット、と。呼び合うことすらもどかしく、二人の唇がお互いの形を  
確かめ合う。声にならない呼びかけを動きにして、二人ながらにいつしか腕を相手の背に  
回し、求め、探る。ぴちゃりぴちゃりと濡れた音が朱唇の間から漏れて、少女たちの  
高まりをさらに煽っていく。  
ぬめる舌が彼女たち自身を代理するかのように激しく絡み、離さないと主張していた。  
どちらがどちらの口腔を蹂躙し、陵辱したのか。それすらわからないほどに、リレと  
アマレットは忘我の中に蕩けていた。  
いつしか唇から滑り降りたリレの舌が、アマレットの白磁のような肌の上を自然になぞる。  
顎の裏を、首筋を伝って、くすぐるように。  
痺れてしまう、とリレは思う。唇を這わせている自分のほうが、その美味に、甘味に、  
堕ちてしまうと。  
 
「ん……リレ……」  
アマレットの熱い吐息が甘く漏れて、リレの意識をいや増しに酔わせる。足元がふらついて、  
二人はもつれ込むようにベッドに倒れこんだ。  
「きゃ」  
「わ」  
重なる小さな悲鳴の中、こつんと軽く額をぶつけた二人が一瞬我に返って丸い瞳で  
見つめあう。やがてくすくすと笑い声が漏れ、リレはアマレットの額をそっとなでた。  
 
「ごめんね、痛かった? 」  
微笑んで首を振るアマレットの柔らかな髪をなでながら、リレは彼女の額に口をつけた。  
指先を滑ってさらさらと流れる、アマレットの絹糸のようにしなやかな髪の感触。その  
心地よさに酔いながら、リレの唇は愛する少女のまぶたに、頬に、耳朶に触れ、吸い、噛む。  
印をつけていく。この少女のすべてが自分のものだと、自分のすべてが彼女のものだと、  
誰に対しても。  
「可愛い……アマレット……大好き」  
「は……ああ……リレ……私も」  
 
アマレットの白い肌に次第に朱みが差して艶やかに染まっていくのを愛でながら、リレは  
柔らかな彼女の胸元に舌を這わせた。一つ一つ、服のボタンを外しながら、横になっても  
形の崩れないアマレットの豊かで美しい乳房に軽い嫉妬と、そして強い欲情を覚える。  
自らを誘うように上下に揺れる白い美肉に、リレは貪るように飛び込んだ。たわわな双丘が  
リレの手のひらの中で残酷なまでに弄ばれ、形を変えて歪み、たわむ。柔らかな肉に指先を  
食い込ませ、逆らう弾力を征服するように揉みしだく。  
「はあ、ああ……ん、んんっ、あっ、あっ」  
アマレットは白い咽喉をのけぞらせ、燃える息遣いをさらに激しく昂ぶらせた。普段は  
無表情で物静かな彼女が切なげに柳眉をひそめ、震える官能に表情を染めていく。  
歌姫の唇からは艶やかな調べが漏れ出して、誰にも聞かせてはならない愉悦と歓喜の旋律を  
奏でる。  
アマレットのこんないやらしい顔も声も、知っているのは私だけ。その優越感と征服感が  
リレを高みに誘い出す。  
アマレットの瑞雪のような肌の頂にたたずむ薔薇色の乳首が、恥ずかしげに顔をもたげ、  
可憐に膨らみ始めていた。たまらずにリレはその愛らしい果実に唇をつけ、甘噛みする。  
「んんんんっ! は、あ、噛んじゃ、や……ぁ」  
ひときわ高い声とともに、びくりと電流が走ったようにアマレットの華奢な体が跳ねた。  
しかしリレの唇が舌が指が、アマレットの切々とした訴えを聞くはずもなく、ねぶり、  
転がし、弄んで、可愛らしい乳首を苛め抜く。そのたびにアマレットの美しい肢体は跳ね、  
弾んで、淫らにうごめいた。  
「もう、アマレットったら……こんなに私を惑わせて、ひどいんだから」  
くすくすと笑みを含みながら、アマレットを翻弄し続けつつ、リレは手早く自らも衣服を  
脱ぎ捨てた。恋人に比べれば小さなその乳房は、けれど精一杯に膨らんで波打ち、ときめく  
リレの心臓の鼓動を顕している。アマレットに負けず劣らず痛いほどにそそり立った  
自らの少し色の濃い乳首を、リレはアマレットの乳首に重ねてこすりつけた。  
 
「くぅうん、あ、ああんっ! 」  
「……ぁ、ああ……はぁあん」  
可憐な二重奏が夜闇の中に響く。胸の先端から走り抜けた甘い刺激に痺れ蕩けながら、  
リレはひたすらに胸を押し付け、嫋嫋とすすり泣くアマレットの唇を吸い、舌を絡めた。  
潰れ、ひしゃげてもつれ合う四つの美丘と、四つの突起。戦慄にも似た感覚が体の奥を  
暴れ狂い、アマレットも、そしてリレ自身も耐え切れない悲鳴を上げて悶え、喘いだ。  
「アマレット……ッ」  
「リレ……リレ……! 」  
うわごとのようにお互いの名前を呼び合いながら、夜目にも白い二つの肉体が律動する。  
ぼうっと霞んだ意識の中で、リレはひたすらに愛しい相手のすべてを求め、アマレットも  
また愛する少女にすべてを奪われたいと希う。リレは自らの頬をアマレットの美しい  
裸身に撫で付け、擦り付けて、その肌触りに酔いしれながら、そのなだらかな曲線を  
滑り降りて、彼女の中心にまでたどり着いた。  
 
「ああ……リレ……お願い」  
「すぐあげるわ、アマレット。すぐよ」  
熱に浮かされたように懇願するアマレットに答え、リレはアマレットの細い太股をぐいと  
押し広げた。その場所に隠されていた見惚れるばかりの芸術が、淫らな色に染まって  
ひそやかに脈打つ。滾々と溢れる泉に潤った秘唇は、自らに触れるものを待ちわびて  
いるかのようにふっくらと膨らみ、もの言いたげに小さく震えていた。  
リレはそのまま、太股の内側から、つと舌を滑らせる。自らの舌の微妙な動きに伴って、  
白い太股の内側のしなやかな筋肉がきゅっと収縮し、あるいはふわりと弛緩する、その  
小さな変化を楽しみながら。  
そしてたどり着く、舌。充血した肉扉をそっと撫で上げると、アマレットはそれだけで  
くぐもった悲鳴を放ち、長い髪を振り乱す。  
「はあ、あああっ! んんっ! 」  
その声も顔も肢体も、なにもかもが可愛くて、愛しい。リレは執拗にぴちゃぴちゃと舌を  
うごめかせ、とくとくとあふれ出る白い蜜を味わいながら、恋人をもっともっと乱れさせ  
ようと夢中になった。  
肉体の神秘に至る関門を指で押し広げると、桃色の花弁と潤う肉の宝石が顔をのぞかせる。  
その宝石はもう尖り聳えて、愛する人に可愛がられる瞬間を今か今かと心待ちにしていた。  
耐えられずに、リレはその芽に激しく口付ける。途端、アマレットの悲鳴とともに、  
彼女の細腰が宙高く飛んだ。  
「ふああああんんっ! 」  
 
暴れて跳ね回るアマレットの腰を嗜虐的に押さえつけながら、リレはひたすらに、震える  
可憐な屹立に執着した。肉を覆う衣を脱がせると、ぷるんとまろび出たそこは外気に触れて  
ぴくぴくと痙攣する。  
朱く紅く染まったその芯を唇で挟み、根元から吸い、舌で転がし、軽く歯を立てると、  
そのたびにアマレットの腰が踊り、悦楽に充ちた泣き声が響いて、リレの意識を甘く  
破壊していく。  
「やぁ、いやぁ、リレッ……そ、こ、……いじめないで……!! 」  
無理な注文だとリレは思う。こんなに無防備な、こんなに愛らしい、こんなに淫らな  
器官を眼前に見せ付けられて、責め立てずにいられるものだろうかと。  
「駄目よアマレット。ここも、乳首も、こんなに尖らせているくせに」  
「だって、だって」  
甘くすすり泣きながら、アマレットは潤んだ瞳で訴える。  
 
「リレの近くに行きたいの。少しでもそばに近づきたいの。だから、だから尖っちゃうの」  
 
……爆発した。意識が。リレの理性がまるごと吹き飛んだ。  
そんな可愛らしいことを言われたら。そんないじらしいことを言われたら。  
もう駄目だ、壊れた。なにもかも。  
「……ア、アマレットの……ばかぁ!」  
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。照れと幸福感と、なによりも溢れるばかりの  
愛情とを全身で沸騰するほどに感じながら、リレはその照れを隠すように激しく荒々しく  
アマレットにむしゃぶりついた。  
「滅茶苦茶にしちゃうんだから! いっぱい、いっぱい滅茶苦茶にしちゃうんだからっ! 」  
リレの歯と舌が肉の真珠を責めさいなみ、その指がぬるりとアマレットの最深部に  
差し込まれた。一本、二本、三本と侵入した指先が、可憐な少女の秘密の内側をえぐり、  
暴れ、陵辱していく。  
襞の一枚一枚を深く暴きたて、肉を体の外に引きずり出すように突き、めくる。きゅんと  
リレの指をきつく締め付けるアマレットの奥。そこから吐き出された蜜がかき回されて、  
にちゃにちゃとひっきりなしに粘着質の水音を立て続ける。  
「ひ、あ、あああっ! く、うう、や、ああああんっ!! 」  
甲高い叫びが淫らに響き、がくがくといやらしく揺れるアマレットの腰。彼女の艶やかな  
唇から突き出された舌が空に泳ぎ、激しく頭を振る彼女の口角から唾液が糸を引いて  
流れこぼれた。  
そのすらりとした脚がぴんと伸びて、つま先まで反り返る。焦点を失った瞳から大粒の  
涙を歓喜に溢れさせて、アマレットは清楚な肢体を官能と悦楽の嵐の中に翻弄され尽くす。  
 
「だ、め、……も、う……だ、め……」  
息も絶え絶えに、アマレットは震えていた。その終わりが近いことを示すように、呼吸が  
浅く激しく荒れていく。  
 
「まだ、よ……アマレット、私を……一人にしない、で……っ」  
リレもまた息を荒げながら、手早く枕を引き寄せるとアマレットの腰の下に押し込んだ。  
片足を上げさせ、食い込むように自らの体を滑り込ませて、アマレットの腰に、リレは  
彼女自身の疼く下腹部を押し付ける。  
すでに滴るほどに濡れそぼっていたリレの肉華は、吸い付くように自らの求める場所を  
探し当てた。灼熱の炎が、二人の触れ合った場所から迸ってすべてを焼き尽くす。  
「ふあ、ああああああんっ!! あ、熱い、熱いの、アマレット……ッ!! 」  
充たされた欲望と、それのもたらした快感に、リレは背筋を弓なりにそらせてのけぞり、  
悲鳴を上げた。眼前に閃光が飛び散り、体の奥からひっくり返されるほどの愉悦の嵐が  
吹き荒れる。  
アマレットの秘唇が口づけを求めるようにリレの秘唇を迎え入れ、二人の花弁が絡みつき、  
膨れ上がったその肉芽同士がこすれあう。あまりにも淫らにうごめく少女たちの腰は、  
少しでも強く結びつき、少しでも深く触れ合いたいと相手を求めてくねり、のたうつ。  
激しく腰を振り、犯し、犯されながら泣き叫ぶ恋人たち。その体の奥から脳髄へと  
走り抜ける暴虐なまでの快感がリレの意識を粉々に砕いていく。アマレットと同じように  
滂沱と涙を流し、だらりと垂らした舌から涎をあふれさせて、リレはただあえぐ。  
ひとつになっている。誰よりも強く近く深く結びついている。その切ないまでに甘い、  
痺れるほどの幸福感と陶酔感が、リレとアマレットの心と体を充たしていた。  
「……ぁ、ぁ、……ぁ」  
「……ひ、ぁ、ぁぁぁぅ……」  
すでにアマレットは声も出せずに痙攣を始め、リレもひゅうひゅうとのど笛を鳴らしながら  
今すぐにでも訪れるはずの仮死の瞬間を待つ。  
二人ながらに高まって、昇り詰めて、砕け散る、最期。  
「ひ、やぁあああんんんっ!!!」  
「ふあ、あああああああああっ!!!」  
絡み合った部分から激しくしぶきを迸らせあって、二人の少女の意識は同時に消えうせた。  
共に滅び行くことのできる幸福感に包まれながら。  
 
 
「ふふっ」  
ベッドの中で、抱きしめたアマレットの柔らかい髪を撫でながら、リレは微笑んだ。  
「どうしたの? リレ」  
不思議そうにたずねるアマレットに、リレは弾んだ声で答える。  
「私、考えてみたら、多分アマレットが初恋なんだなあって思って。初恋は実らない、  
なんてよく言うけれど、私たちにはそれは当てはまらなかったわね」  
「さあ、……どうかしら」  
静かに言うアマレットに、リレは昨夜のようにまた驚かされる。  
「え、どういうこと? 」  
「前にあなたに聞かせてもらったけれど……リレは、あの五日間を何十年……何百年も  
繰り返していたのでしょう? 」  
「ええ……それが? 」  
「……だから」  
と、アマレットは澄んだ瞳をリレに向けて見上げる。  
「私たちはきっと、何十回も何百回も、『初恋』を繰り返してきたんだわ。そのたびに、  
別れ続けてきたのだとしたら、やはり実らなかったといえるのかもしれないわね」  
「……そう、か」  
リレは遠い瞳になってしばし沈黙した。脳裏に浮かぶ、めくるめく永遠の五日間。  
あの無限に連環した五日間の、そのすべてを思い出すことはもはやできないけれど、  
自分たちはどれほどに、出会い続け、恋し続け、別れ続けてきたのだろう。  
……けれど。  
「でも、今度は違うわ。もう離さない、アマレット。私の天使さま」  
静かな愛のまなざしで、燃える恋のささやきで、リレはアマレットを抱きしめる。  
「私も、離れないわ、リレ。私の世界一の魔法使いさん」  
幸福そうに微笑むアマレットに、リレは優しく口付けた。  
永遠の果ての初恋に、もう五日目の鐘が鳴りはしない。  
 
 

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