リレが魔法院に勤めるようになってからまだ間もない頃、  
リレ・アマレット・ガフは魔法院から離れたボロアパートで住んでいた。  
決して生活は豊かではなかったが笑い声がよく出る明るい暮らし。  
そんなある日…  
「おっ、この足音は…」  
「リレ……帰ってきた……♪」  
「今日はオイラの料理担当だからなー、リレ、あまりのうまさに卒倒するぜ」  
ギィィィィー、ガタン  
「リレ、お帰りなさい…リレ、あのね……」  
「なんだよー、"ただいま"はどうした、あいさつは基本だぜ……」  
しかし2人が見たのは真っ赤な顔をしたリレだった。  
リレは出迎えた2人の間を通り抜けて布団に顔をうずくませると  
「何が"マナを大目に貯蓄している私の作戦"よ!  
 単に使いこなせなかっただけのくせに〜!バカぁ!!!」  
2人は目を合わせた。  
 
…………10時間前…………  
 リレは事務官に渡されたメモを手にエミナ召還師の部屋の前に来ていた。  
魔法院に入って間もないリレは見習いということで、いろんな部署を回り  
体験を積んでいるところだった。魔法院は古代魔法の解析、新魔法の開発、  
魔法の基礎分析、悪魔の生態調査、全国への魔法教育普及など研究機関だけに  
とどまらず幅広い分野で貢献している。その中でも最も現実的ともいえるのが  
召還師犯罪の対処である。カルヴァドスの例にあるように高いレベルの  
召還師が悪魔と契約して世界征服を目論むということが起きると国家存亡も  
危ういものとなりもはや警察には手に負えなくなって魔法院に話が回ってくる。  
そういう重度な犯罪への対応をとるということで危険な仕事と言える。  
 
(さぁ…腕の見せ所ね!)  
大きく深呼吸して部屋のドアをノックした。  
「入りなさい」  
部屋に入った途端に香水の匂いが鼻をついた。奥のイスには見た感じ30代後半の女性が  
座っている。きつい目付きはオパールネラ先生を彷彿させる…  
「失礼します、見習いを言われましたリレ・ブラウです!」  
「あ、そう」  
エミナは一言そう言うだけだった。面倒臭そうに返事をするエミナに一瞬気後れしたが  
「現場に出るのは初めてなのでご指導お願いします」  
とお辞儀をした。  
「あなた、今グリモアは持ってきてるの?」  
「え?は、はい…精霊系のものなら少し……」  
「…………………」  
妙な沈黙…リレは何が何だかよく分からない。  
「あの…何かまずかったでしょうか…?」  
「別に。1つだけ言っておくわ、あなたは見習いなんだからそれ相応に  
 振る舞いなさい、さもないと私は上官へ報告書をその日ごとにつけてるけど  
 それがどうなるかは保証しないわ」  
「は、はい……」  
何やら脅迫めいたエミナの発言だったが、リレには指導者というイメージから  
かけ離れている言葉があまりにも意表をついたので曖昧な返事をするだけだった…  
 
 今日エミナ隊が向かったのはある平原、見渡す限りの草の緑は  
風景としては上質だがここでは魔法院と犯罪召還師グループの  
小競り合いが頻発しており危険度もそこそこの場所らしい。  
「敵発見!」  
「ではこの辺りで本陣を敷く、それが終わったら魔法陣を張るスペースを確保!」  
クリスタルが多い場所は危ないと思ってたら早速きた。いきなりの実戦に  
リレも緊張が走る、昼間の屋外でお互いの戦力が一望できる平原の戦いは  
経験が無いのでついつい慎重になる自分を感じていた。  
 
 エミナと敵の召還師の陣との距離は約300m、  
お互い魔法陣を作り上げ近くのクリスタルからマナを集めて使い魔を召還してる…  
「エミナ隊長、手伝いましょうか?」  
「見習いがむやみにやらなくてもいい!見るのも勉強!」  
「はい」  
(見習い…まぁいいか……でも、呪文詠唱も遅いし大丈夫かなぁ)  
 
 心配してた敵の強襲もなく使い魔が召還される。  
エミナの初期戦力はマナ召集にエルフ6体、それを基にキメラ3体、ホムンクルス2体が  
召還された、本陣の守備にはタリスマン8体で陣形を組み立てる…  
魔法陣はフェアリーリング(Lv.3)、ウィッカ(Lv.1)、  
キメラスボウン(Lv.2)、ラボラトリ(Lv.2)  
(んーと…キメラの体力をエルフのヒールで保持しようってコトかな?)  
 
「敵の状況はどうか?」  
「敵はモーニングスター4体、シンボルはカーディアン4体、  
 デーモン1体、あとインプが数体、以上です!」  
「魔法陣は?」  
「ティタニア、ヘルゲート、カオスネスト、ゲヘナです!」  
「分かった」  
それを聞いてリレは驚いた。  
「え、それだけでいいんですか?」  
「何か不満でも?」  
「いえ、別にそういう意味ではありませんが…」  
「ならばいちいち口を挟まない、言動に問題有りと報告してもいいのよ」  
またその話…?さすがにリレも今回は反応した、皆の前で偉そうにしないと  
上官としてダメとでも思ってるの…?リレは不満が顔に出そうになって我慢した。  
エミナはそんなことを気にする様子もなく立ち上がった。  
「あなた、このまま現状維持のまま待機よ、何かあれば呼びなさい」  
「?…はい……あの、どちらへ?」  
聞こえているのかいないのか、エミナは個室に入ってしまった。  
エミナがいなくなり本陣の空気が緩む。リレはエミナの部下に話しかけた。  
「あの…隊長は何をされてるのですか?」  
「多分、化粧をしてるか寝ているか友達に手紙を書いてるかのどれかです」  
「は?」  
「あの人はいつもそうですよ、1時間は出てこないと思います」  
「そんなことしてもいいのですか?」  
「さぁ…上官のすることですからねぇ…」  
リレは膨らんだ夢が現実とのギャップで潰れそうなのを感じずにはいられなかった。  
何と言うか…  
「他にやることないのかな…エミナ隊長のグリモアはこれで全部?」  
「あとアケロンのグリモアがあります」  
「これね……でもアニマドレイン使えないなぁ…」  
「あの人は最高レベルまで上げたグリモアは持ってないですね」  
「じゃあラボラトリLv.3のグリモアは無いのでしょうか?  
 レベルアップしてサイキックストームを使えるようにできればかなり違うけど」  
「持っておられないと思います、やってるのを見た記憶がありませんから」  
リレは呆れた。(ダメだわ…この人…)  
とはいえ、文句言って帰るワケにもいかない、退屈だから何かないかな…  
と何かを始めた、実はこれがあとから効いてくることになるとは  
本人すら考えもしなかったが…  
 
「敵陣に動きがありますね」  
エミナの部下が言った、見ると敵は少し遠いところに本陣を移そうとしている。  
「マナが足りないということですかね?」  
「……そうねぇ………」  
「じゃあ……」  
部下はリレにしゃべりかけようとしたが、あわてて止めた。  
リレが敵陣を一点に見据え何かを考えている。それはものすごい集中力で  
話しかけるのを躊躇させた、今までエミナについた見習いとは何か違う……  
「罠……?……いや、チャンスね!」  
リレの声のトーンが上がった、自信に満ちた清清しいまでの笑顔があった。  
「エミナ隊長を呼んでもらえませんか、チャンスだと」  
「………………」  
エミナの部下から返事がない、リレはエミナが普段どう部下に接するかを  
何となく見えた気がして苦笑した。  
「そう……じゃあ、私が行くから」  
 
 何かあれば呼べ、と言ったのはエミナの方だが実際呼ばれると  
エミナは不機嫌そのものである。  
「敵陣が動いただけ?敵が来たわけじゃないじゃない、そんなもので  
 私を呼ぶなんてあなたも大した身分になったものね」  
皮肉を込めた言いっぷりにリレは心がかき乱されそうになったが  
それでも感情を抑えて  
「すみません、でもこれはチャンスだと思いまして…」  
「どこが?」  
「見てください、今敵陣が動いたおかげで敵の作った魔法陣はカーディアンのみで  
 守られています。ここをキメラ3体を動かしてカオスネストを叩いてしまうのです」  
「キメラ全部を出す?」  
「敵の主戦力はモーニングスター、対して私達はキメラ+ホムンクルスで  
 極めて相性がいいのでまともにぶつかれば楽勝です。しかしカオスネストの  
 存在が気になってました。ドラゴンはもちろんのことですが  
 グリマルキン1体いるだけで逆に私達が不利です。だから敵にマナが  
 集められる前がチャンスなのです、カオスネストを叩いて  
 その勢いで敵陣に迫れば容易く勝利できると思います」  
リレは力説した。説得力を込めて説明すれば当然採用される案と思った。  
「陽動作戦かもしれないわ、キメラを向こうに行かせてその隙に私の本陣に  
 モーニングスターが来る可能性がある」  
「それなら更に好都合です。もしモーニングスターが攻めてきたら  
 キメラに引き返してもらえばいいのです。モーンングスターが  
 タリスマンと攻防を繰り広げている間にキメラが戻ってきて  
 挟み撃ちにできます」  
「……………フッ…」  
自信を込めたリレの意見に対しエミナから漏れたのは嘲笑まじりの笑みだった。  
「そういうのを机上の空論と言うのね…そんなのは無理よ」  
「え………」  
「挟み撃ち?冗談じゃないわ、もしキメラが戻ってくる前にタリスマンが  
 全滅したらどうするの?そんな危険なことはやらないわ」  
「ちょっと待ってください、キメラの機動力をもってすれば  
 ここからカオスネストを往復する時間とモーニングスターが  
 ここまで来る時間は同じぐらいと思われます、タリスマンが  
 全滅することはないでしょう」  
「ダメ、その案は認めないわ」  
「しかし今を逃せば不利になることはあっても有利になることは…」  
「あなた、私にたてつく気?隊長命令よ、ダメなものはダメ!」  
「……………はい………」  
リレは愕然として天を仰いだ。  
(ああ…もうこれが最後のチャンスかもしれないのに…なんて臆病な……)  
 
 実際その後の展開はリレの予想した通りになった。敵は新しい本陣でマナを  
集めると戦力を増加、ティタニアをもう1つ作りあっと言う間に  
モーンングスター7体、デーモン3体、グリマルキン2体の部隊を編成して  
エミナの本陣に迫ってきた。慌てたのはエミナである。  
「そんな……普通の召還師1人の最大召還数を越えてるわ…こんなクラスの  
 召還師がいるなんて聞いてないわよ………」  
声が震えている、もしかしたら召還師が複数いるかもしれないが  
しかしそんなことはこの場面ではどうでもよくあとの祭り。  
「あなた!」  
「はい?」  
「いい?今から私は裏でアケロンの魔法陣でカロンを呼び出して脱出の準備を  
 するわ、あなたはここで時間稼ぎをしなさい!」  
「え?キメラやホムンクルスは創造主の命令しか聞かないんですよ、  
 私がカロンを呼び出してエミナ隊長がここに留まった方が時間が稼げます」  
「見習いのあなたじゃ失敗する可能性もあるわ、カロンが最後の砦なの!私が呼びます」  
「(あ〜あ、なんて臆病な…)」  
言ってることに一理あるが、今までの行動原理からして自分が一番安全な場所に  
いたいとしか解釈できない。リレはため息をつきながら殿(しんがり)を引き受けることに。  
「……文句ばかり言ってられないわ、マナは十分あるし、さっきの続きをしないと…」  
エミナがアケロンの魔法陣を呼び出してLv.2(スピードUP)にレベルを上げ  
更にカロンを呼び出すのに5分はかかるはず。人形と化したキメラでは  
とても5分はもちそうにない。リレ自身はもちろんエミナ隊全滅の恐れがある。  
リレは呪文詠唱を始めた……  
 
 敵の攻撃が始まりタリスマンが次々に餌食になっていく。  
「うわわわ、隊長!来ましたよ、来ました!」  
エミナの部下の1人は半狂乱状態である。  
「うるさいわね、分かってるわよ!」  
エミナもヒステリー気質丸出しで応戦する、阿鼻叫喚の修羅場とはこのことか。  
タリスマンが全滅し何も動かないキメラにモーニングスターが襲い掛かる  
この時エミナはアケロンの魔法陣を出したばかり…  
「もう間に合いません!走って逃げましょう!」  
「くっ……」  
エミナは屈辱に満ちた表情になる。その時、  
「その必要はないわ!」  
……リレである、エミナ隊の中にはこの時リレの金髪が太陽光と交じり合い  
眩い光を映し出しリレが救いの神に見えた、と後に語っている者もいる。  
「何をしてるの?時間稼ぎをしろと言ったでしょう!?」  
「はい、今やっています。エミナ隊長は是非続きを」  
見るとモーニングスター達は近寄ってこない、リレはウィッカの魔法陣を  
Lv.4まで上げてユニコーンにアストラルホールドをかけさせていたのだ、  
さらにバリアをしたユニコーンがデーモンと戦っている。  
「………」  
………エミナは悠々カロンを呼び出しこうしてエミナ隊は退却に成功した。  
 
 帰り道、リレとエミナは会話をかわすことは無かった。  
リレとすれば最後に自分の活躍で最悪の事態を免れたことの満足感があり  
一方のエミナは終わってみれば負け戦で見下していた見習いに助けられたと  
あっては立つ瀬がないというものだろう。リレは半分得意だったろう、  
ところが…  
 
 魔法院に戻って、エミナのグリモアの整理や本陣に使った耐魔シートを  
片付け終了した。エミナの部屋をノックする  
「失礼しまーす、片付け終わりましたんで帰ります…」  
しかし中には誰もいない…しょうがないので片付け終了の置手紙を  
書いてエミナの机の上に置いた。そこには1冊のファイルがあった。  
それを見たリレ、ふと悪戯心が思いついた…  
(そういえば…上官への報告書を作成するって言ってたわね…  
 負けた場合ってどう書くんだろ……盗み見しようかな〜)  
リレはあたりを見回してこっそりファイルを開いてみる。一番上に  
本日の日付の報告書…これだ!……見るとまずは最初に勝てなかったことに  
対する釈明とお詫びの決まり文句が並んでいた。  
しかしその次の文章を読んでリレの表情は一変する。  
「本日から担当した見習いリレ・ブラウは功を焦って無茶な策に走る  
傾向がある印象、経験を積むことと同時に精神面の鍛錬も必要」  
(無茶…?あれが無茶に見えるの?ちょっと何よこれは…)  
「私のカロン脱出の策に反対し時間の猶予もない作戦の出だしを挫いた」  
(何………?)  
「いざという時のために『マナを大目に貯蓄している私の作戦』が有効だと  
 今回の退却で理解してくれたと思う」  
ユニコーンの件はまったく出てこない。むしろこの文章だけ見れば  
いい所はエミナで悪い所はリレが原因にとれてしまう。  
リレは顔が真っ赤になった。  
 
 ………これが冒頭のリレの絶叫に繋がる。  
 
「リレ…どうしたの…リレ……」  
アマレットは普段見ないリレの激情に触れ驚いている。  
「大体、キメラが召還できること以外は全然大したことないじゃない!」  
「呪文詠唱は遅いし、魔法陣は中途半端だし……!」  
「仕事中に関係ないことを1時間って…バカにしてるわ!」  
「部下からも慕われてない…あんなので指導者になれるんなら私だって!」  
リレはまだ布団に潜ったままだ。  
「ちょっとそっとしといてやろうぜ」  
「リレ……」  
ガフに言われてアマレットは席をはずした。  
「そもそも状況判断がダメなのよ、臆病風に吹かれて!」  
「タリフマン8体も使ったら攻撃に手が回らないじゃない!考えてるつもり!?」  
「私がいなかったら捕虜か戦死してたかもしれないのに!」  
リレの絶叫はなかなか納まらなかった……  
 
 しばらくして絶叫が止み、リレが食卓に出て来た。  
「すっきりしたか?」  
「うん…少しは………」  
「飯食えば気分もよくなるって、食おうぜ」  
「そうね……ありがと」  
「じゃあ…いただきます!」  
「「いただきます」」  
「あれ……今日はガフの担当だっけ?」  
「そうだぜ…うまいだろ?」  
「おかしいなぁ……うまいわ」  
「……何だよそれ」  
ガフの得意顔から残念がる様子がおかしくて皆で笑う  
「良かった…リレ……いつもと同じ…………」  
「ごめんね、アマレット…もう大丈夫だから」  
「うん…」  
 
就寝前、リレとアマレットは同じ布団に入る  
「リレ……」  
「何?」  
二人は顔を向かわせず背合わせで横になっている。顔を合わせると  
寝辛いとリレが言うのでそうなっている。  
「さっきは何があったの…?」  
「うん…まぁ今回の見習いに行った部署の指導者がヤな人だったんだ…」  
会話も反対向きなのでリレの表情は窺い知れないが、リレの機嫌は完全とは  
いかない口調だった。さっきのは空元気だったのかもしれない。  
「ねぇ、リレ……明日は私も行っていい?」  
「………え?ダメよ、危ないわ」  
「じゃあ…迎えに行くのは………?」  
「それなら……まぁいいけど……」  
「じゃあ…行くね……」  
「でも帰りがいつになるか分からないよ?」  
「うん……それでもいい………」  
「じゃあ早めに終わらせるよう頑張……そうか!」  
急にリレは思いついたのか大きな声を出した  
「…?…どうしたの、リレ…?」  
「ちょっといいコト思いついたの、あなたのおかげよアマレット、ありがとう」  
何だかよく分からないがリレの機嫌は完全に直ったような感じだ。  
アマレットは布団の中で全身の力が抜けた感じがした。  
「ねぇ…リレ………あのね………」  
「……………………」  
アマレットは話しかけたがリレは眠っていた。今度はアマレットが微妙な顔をした…  
 
 次の日もリレはエミナと実戦に来ていた。  
「敵発見!」  
「よし、本陣はあのクリスタルの傍にする、進軍!」  
「隊長、提案があるんですけど…」  
リレは相手を機嫌を損なわなように臣下の礼をとりながら話しかけた。  
「何?」  
「この後本陣を作りますよね、その後の準備は私が代わりにやってもいいですが…」  
「………」  
「どうでしょうか?」  
「そうね、昨日ので大体分かったでしょうから、やってみてもいいわ」  
「では先に個室の方の準備を……」  
「それでいいわ、何かあったら呼びなさい」  
 
…かかった!リレはそう思った。戦いの中で私用で1時間平気で潰す人だから  
のってくるとは思ってたけど、召還するのが私だから使い魔は隊長の言うことは  
聞かないって気付かなかったみたいね、まぁ明日はそうはいかないかもしれないけど  
少なくとも今日の使い魔の指揮は私が取れる…!さて…リレ・ブラウ、私は  
隊長の持つグリモアだけでどこまでやれるかしら…?  
 
 個室の準備が終わり隊長が中に入った。エルフ6体を呼びマナを集め始めた頃、  
リレはエミナの部下に対してミーティングを行った。  
「今日は私が隊長から委任され指揮を任されました。よろしくお願いします」  
周りは驚きの声を上げた。しかし不安を吹き飛ばすようにリレは話しかける。  
「ではいろいろやってもらうことがあります、あなた方2人で敵陣の観察を  
 お願いします。1人が召還される使い魔の種類と人数、もう1人は魔法陣です。  
 魔法陣のレベルも知りたいので頼みます」  
「あの…どうやってレベルが分かるんでしょうか?」  
「魔法陣を見てると30秒ぐらい魔法陣そのものが光ることがあります、  
 それがレベルUPの合図です、これを見逃さないで下さい」  
「はい…分かりました」  
「ちなみに今の敵はどう?」  
「……………」  
「ゴースト5体、ハデスゲートLv.1ですから覚えておいてね、えっと……  
 そちらの2人は敵のスタッフの観察ですね、召還師は誰で何人いるか?  
 分かれば召還師の最大召還数も欲しいです」  
「召還師が知ってるなら可能でしょうけど…」  
「まぁそうですよね、無理ならいいです。その他に敵が伏兵を忍ばせる  
 場所がありそうか周りのチェックをお願いします」  
矢継ぎ早に指示が来るので部下の顔も締まってきた。  
「残りは魔法陣を作る準備をします、あまり傾いた場所に作って  
 使い魔が気を悪くしないようにお願いしますね」  
「はい」  
「では始めます…よろしくお願いします」  
 
「隊長代理、準備終わりました」  
リレは一番敵に見やすい場所に魔法陣を作る準備をさせた。  
「ありがとう、次はあそこね」  
リレが呪文詠唱を始める…エミナの部下はその速さに驚いた。今まで  
実力を半信半疑で見たスタッフもこれで何かを感じたようだ。  
そんな中、リレが作り出した魔法陣は…アケロンだった。  
「(アケロン?)」  
いつもウッィカを作って守備を固めるやり方に慣れてるスタッフは驚いた。  
そうでなくても退却用のアケロンを一番目に付く所に作るのは発想にない、  
アニマドレインも使えないのに……?  
 
「隊長代理、アケロンでいいのですか…?」  
「問題ないわ、それより敵の本陣をよく見て。大騒ぎになってる?」  
「……何やら動きが激しいですね」  
「それでいいわ、次に作る魔法陣が分かったらすぐ報告お願いね  
 ハーガトリだったらいいけどな〜」  
 
「隊長代理、魔法陣が発動しています!」  
次なる報告はリレがフェアリーリングをレベルUPしてる時にきた。  
「待ってたわ、敵はどうきてる?」  
「フェアリーリングとハーガトリができています!」  
「…ってコトは……いい感じね!」  
リレは魔法の指揮棒を左手でくるっと回すと  
「さぁ…貴方達の出番よ……!」  
と呪文詠唱を始めた。出てくるのはキメラスボウン…  
ここにきてスタッフはようやくリレの作戦に気付き始めた。  
(なるほど…キメラにとって相性のいい相手を出させるために  
 アケロンで牽制したんだ……!)  
しかし相手も負けてない。  
「隊長代理、ハデスゲートがレベルUPしてます!」  
「ふぅん…ファントムでキメラに対処しようっての……主導権はこちらが  
 握ってるのに食らいついてくるわね。さて…どうしようかしら…  
 ホムンクルスを呼ぶには魔法陣を作るところから始めないといけないし…」  
しばしの沈黙の後…  
「いける……」  
 そうつぶやいたと思ったらリレは精力的に動き始めた。  
「キメラが2体になったら呼んで!その時敵の戦力を答えられるようにしておいてね!」  
もうスタッフはただ見守るしかない、ただ不思議と負ける気がしなかった…  
 
「キメラ召還されました!」  
「敵は?」  
「フェアリー5体、ファントム10体です!」  
「了解!じゃ…キメラ達…行きなさい!」  
奇声を上げてキメラが動き始めた。  
「しかし…隊長代理はファントムにどう対処を…?」  
「あれを見ろ」  
キメラの後をフェアリー4体が飛んでいる。どうやらあれで対処するつもりらしい。  
「でもファントム10体だから…フェアリーって攻撃力は弱い方だし  
 それまでにキメラが倒されたら逆にピンチだよな…」  
と話しているスタッフの上をすごいスピードで動く使い魔が…  
「カロンだ!エルフを乗せてる!あれでキメラの体力を持たせるのか!」  
てっきり牽制用で使用済みと思っていたアケロンをしっかりリレは使ってきた。  
「すごいな隊長代理…適材適所とはこのことを言うんじゃないのか…  
 全ての使い魔をものすごく有効に使ってるな…」  
スタッフの1人が感嘆の言葉を吐いた…   
 
 敵の方はフェアリー隊は全滅、いくつか魔法陣も潰されかけている。  
ファントムで攻撃するもエルフがヒールをかけるのでなかなか倒せない、  
リレ隊のフェアリーが除々にファントムを減らしている…  
しばらく敵陣で戦いは続いていたが…  
「隊長代理、敵陣に動きが…!あっ!」  
「どうしたの?」  
「………白旗です!敵の本陣から白旗が上がっています!…我々の勝利です!!」  
「……よしっ!」  
「勝ったのか!よっしゃー!」  
エミナの部下達も一斉に雄叫びを上げて勝利に酔いしれた…  
リレ、わずか30分の電撃勝利である…  
 
 雄叫びを聞いて眠りから覚めたエミナは驚いた。いつもなら陣形を  
整えて小康状態になる時間のはずがもう終わっている…  
「よ、よくやったわね……」  
「いえ、たまたま作戦がはまっただけです。私達の戦力に  
 ちょうど相性のいい相手ばかりでした、運が良かったです」  
「そ、そう……」  
エミナは二の句が継げない、それだけでリレは大満足だった。  
「…明日はどうしましょう?出来ればお手伝いさせてもらいたいのですが…」  
「そう…ね、任せるわ…」  
多分この人はこの勝利も自分の手柄にしてしまうだろう、ただリレは  
それでもいいような気がしていた。魔法院の中でも私の力が認めてもらえる場所が  
1つはあるのだから自信に繋がる、何か一皮剥けたような気分だった。  
 
「リレ!…お帰り」  
「アマレット!?もう来てたの?今日はたまたま早かっただけなのに…  
 普通はこんなに早くないからね」  
「ううん……今日のリレは早く帰ってくるような気がしてた」  
「そう…………」  
リレは何故か満足な笑みを浮かべた。  
「隊長さんは…いないの…?」  
「いないけど……どうかした?」  
「ちょっと…あいさつを…」  
「え?何で…?」  
「言いたいことがあるから……」  
「何を……?」  
「『リレは将来あなたの上の立場になるんだから言葉には気をつけなさい』って」  
「……………ガフね?」  
「そう…会ったらそう言っとけって…」  
「あの悪戯者……!後でみてなさい……!  
 アマレット、言わなくていいからね!って言うか、あなたも断ってよ!」  
「で…でもリレだってそう言いたそうだったし……」  
「そんなことありません!」  
 
「で…リレ…あのね………」  
「ええ、分かってる……」  
と言うとリレはアマレットを抱きしめた。リレの方が身長が低いので道行く人には  
妹が姉に抱きかかっているように見える。  
「ごめんね…甘えたかったんでしょう……昨日は気付かずにごめんね…  
 ううん、気付いていたのかもしれないけどそこまで余裕が無くてごめんね…」  
「リレ………」  
「今日はどんな話でも聞けるわ…だってあなたのおかげで魔法院でも  
 やっていける気になったんだもの……」  
「………嬉しい………」  
「何か言いたいことはある?」  
「ある………でも、ちょっとこのままでいたいな………」  
「うん、いいよ……」  
 

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