俺はカロン、冥府の船頭と呼ばれる死神だ。
"死神"で"船"とくれば死んだ肉体の魂を冥界に運ぶ役はよく知られてるかも、
もちろんそういう仲間もいるが、俺はマナというご馳走が欲しくて
召還師の手助けをするのが性に合ってる、脚の速さも自信があるから。
それにしても今回の仕事はすごかった…俺の腕も見込まれるようになったんだな
ドラゴンの卵を乗せて敵の本拠地を叩くなんて、すごくダイナミックな作戦だ…
仲間もいない敵だらけの場所に行く恐怖感と、複数のドラゴンの業火…
どんな赤よりも鮮やかで、どんな残酷絵巻よりも戦慄なものだった…
今日は眠れそうにない…褒美でもらったマナで一杯やるか
「カロン様、すみません…」
凛とした声がした。振り返るとゆらゆらと黄金に輝く美しい星を持つ女性…
まずい!モーニングスターだ!慌てて踵を返す。
「いえ、もう終わったじゃないですか、それに私は味方でしたよ」
と言われて我に返った、確かに戦いは終わったんだ。びっくりした…
……って、何でモーニングスターがこんな所に…
「何か用で?」
と尋ねるとそのモーニングスターは何やら照れくさそうに
「その…ちょっと乗せてもらえませんか?」
……何を言ってるのか分からなかった……えっ…と
「乗るって…この船?」
「はい………ダメでしょうか?」
…?…やっぱり分からない、乗る必要が無いんじゃ…?
「ちょっと帰り道を迷ってしまって…」
「ああ、そういうこと…」
"おっちょこちょいだな"と言い掛けたが初対面の相手には失礼か。
いくらアストラルでも精霊がこんな冥界まで来るのはあまり聞いたことがない。
「すまない、飛行タイプの貴女がこれに乗る意味がないと思ったら
戸惑っただけ。乗るのは構わないけど」
「そう……良かった、私はてっきり……」
「てっきり?」
「もしかしたら重量オーバーなのかと」
「アストラルなのに体重は関係ないんじゃあ…」
「そうですね、フフフ……」
あれ?もしかして冗談が通じるタイプ?笑顔が愛らしい…
…ちょっとドキドキしてきた。
端整な顔立ち、優しげな目、艶めいた唇、美しいボディライン、
格調美を感じさせる立ち振る舞い、シルクのドレスのような華麗な聖衣…
そしてサファイアのように青光る全身…間近で見ると何とも美しい……
もちろんアストラルなので実体があるわけではないが、それゆえ
ここまで美を体現していることに驚き目を奪われる…
さすが女神、冥界に住まう死神とは文字通り住む世界が違うと思わざるを得ない。
そんな女神が俺のボロ船に乗っている…モーニングスターは体躯が大きく
5人乗りの船なのにもう手狭だ。それでもゆっくりと膝を曲げて優雅に座る。
その様子は豪華客船でダンスでも踊ってる方がはるかにしっくりくる。
「…やっぱり楽ですね、もっと揺れるかと思ってました」
動き始めた船に乗りながらモーニングスターは嬉しいことを言ってくれる。
「ありがとう、サブスタンスの連中はこれが分からないんですよ」
「乗せる時にアストラルに変化させるんですよね、その違和感でしょうか…
でも…私には分かりますよ、カロン様が今一生懸命漕いでるのが」
「……いえ、恥ずかしいなぁ……」
「今日は御活躍されたみたいですし…大丈夫ですか、この辺りに
オベリスクがあればいいんですけど…」
御活躍ってのはさっきのドラゴンの話だな、見ててくれたのか…
「それなら向こうにあるから…ちょっと寄りますか、俺オベリスク好きなんで」
「クスクス…私もですよ。出来ればお持ち帰りしたいぐらいです」
「…そりゃ違いない」
「この前、頼まれて死者を運んでたんですけどその時召還の魔方陣が
見えたんです、何も考えずにいつもと同じように入ってしまいまして…」
「あらあら…死者も一緒に?」
「召還師にも"随分用意がいいのね"って言われましたよ」
「クスクス…で、どうなさったんですか?」
「引き返そうとしたら、召還師が"どうせ地獄行きの悪人でしょ、
アニマドレインの弾として使っちゃいなさい"って言うもんだから
そのまま残って使ってしまいました」
「まぁ…フフフ……」
会話をしながら俺はあることが頭をよぎっていた、楽しい…
この女神とこのまま別れるのでは勿体ない、でなければ…アレを…
「……カロン様?」
「え?」
「どうかされましたか?考え事のようでしたけど…」
「あ、あの……」
「はい」
「……禁断の果実を獲ってみませんか?」
禁断の果実…
実体のないアストラルには生殖器がないため交配といったものがない。
ただお互いの幽体を重ね合わせて交わらせるという"禁断の果実"と
呼ばれるものがある。精神が剥き出した者同士が心と心を直に接触させるので
「崇高な快楽」と呼ぶ者もいるもいるが、逆に精神が崩壊する可能性もあり、
幽体そのものが消滅したり奇形になることもあると言われる。つまり諸刃の行為…
自分自身や相手を滅する危険のある提案したカロン、しかし驚くほど
頭の中は冷静だった。雰囲気がそう言わしめた、そんな感じである。
一方のモーニングスター、少し考えた末
「……いい…ですよ……ただ無茶はしないで下さいね」
と顔を少しうつむき加減に答えた。どうやら二体の想うところは同じらしい。
292 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2007/09/02(日) 11:19:56 ID:KVocxOKh
二体は向き合った。青光り具合がいつもより明るい…高揚してる証左だ。
「実は…初めてやるんだけど」
「そうなんですか……私もです」
「不安?」
「いえ…カロン様となら…」
「そう」
緊張している、幽体の温度が上がっているのが分かる。でもここは不安を
払うためにもリードしないと…!
「では、まず手だけでやってみようか…」
モーニングスターはコクリとうなずいて手を差し出した。
二体は両手を重ね合わせた。そして手の部分を崩していき、お互いの幽体が交わり始める…
「………ん…ぁぁ……ん………」
全身に刺激が走った、何という気持ち良さ…!こんな快感は味わったことがない…
モーニングスターも少し身をよじらせているが手を離す様子はない。
「次は肘まで…」
「………カロン……様………だい……じょうぶ…ですか…………」
こんな状況でも俺の身を案じてくれる、なんて優しいんだ。
そう思うとなお愛おしくなる。
「…俺は大丈夫……どう?もっといくよ……」
二体はちょうど抱きしめ合う距離まで近づく
「…あああ…はぁ………うっ…………んっ……ん…………」
間近で見るモーニングスターの顔は均整がとれている。麗しい…
「……キ…ス……して……下さ…い………カ…ロン…………さ…ま………」
「ええ……」
「………ん……ああああ!………うっ……あ……ぁあ…………」
モーニングスターの発する光はますます妖しく輝いている、青ってこんなに綺麗な色なのか…
…って俺の体もおかしい、こんなに熱い、こんなに熱い…大丈夫なのか…俺の体…
そして全身を重ね合わせようとした時
「…も……もう……ダメ……です……」
モーニングスターの声で我に返った、中途半端かもしれないがこれ以上は危ないかもしれない
終わりにしよう…
我々は高揚した気分が余韻で残っている中、次に会う約束をして別れることにした。
「では……カロン様、私はこれで………」
「ここで分かる?ここは霊界だし…」
「全然問題ありませんよ」
え、随分慣れてないか…?
「……もしかして」
「何ですか?」
「最初に道に迷ったと言っていたのは嘘……?」
するとモーニングスターは小さく微笑むと
「さぁ……どうですか、ね」
と言ってゆらゆらと優雅に去っていった。