「カロン様、お待たせしました……」  
「いや、大丈夫。………あれ、今日は何か……いいなあ」  
「うふふ、気付かれましたか、ちょっとサブスタンスの可愛らしい女性と  
 お会いしたことがあったんですけど、その時の髪型を真似してみたんです。  
 "アップ"って言うらしいですよ」  
「雰囲気が変わるなあ…うん、似合ってる」  
「……フフフ、ありがとうございます。良かった……」  
 以前、アストラルにとっての性行為にあたる"禁断の果実"を成功させ  
お互いの相性の良さを確認したカロンとモーニングスター。あれ以来  
定期的に会って愛情を育んでいる。今日はカロンの船に乗って冥界と自然界の  
境界線にあるという幻想的な風景を見に行く予定だ。  
 
「器用に外形を変化させるなあ、俺なら元の姿に戻す自信がないから出来ないな」  
「いえ、私も今まではこんなことできなかったんですよ、怖くて……  
 でも…………その……………」  
モーニングスターは何やらモジモジしている。  
「…どうかしたの?」  
「………もう………何でもありません………………」  
どういうわけかモーニングスターはしょげてしまった。カロンは必要以上に慌てる。  
…それもそのはず、アストラルにとって会話というのは極めて重要だ。  
物理的法則から外れた存在だけに会話ぐらいしかお互いの愛情を確かめるものが  
ないからだ。レストランに行っておいしい食事を楽しんだり、お店に並んで  
お気に入りの品物をプレゼント…なんて発想はアストラルにはないし出来ない。  
言葉は心の扉。一語一句に耳をたて、その言葉の持つ力に一喜一憂させられる……  
 
 動揺しているカロンを見てモーニングスターは表情を曇らせる。  
「カロン様………」  
「…え?」  
ハッと我に返ったカロンにモーニングスターは唇を合わせてくる。モーニングスターの  
唇を形付ける霊体を崩してカロンの唇と同化させる、これがアストラル流のキス。  
「…………」  
「……ん………ん…」  
 人間でも相性の合わない者が触れ合うと心の中で拒否反応を示すが、  
その心が剥き出しになっている状態のアストラルには相性が合わない霊体同士の同化は  
苦痛以上でそれどころか霊体そのものが崩壊する危険がある。でも逆に相性が合えば  
こんな気持ちいいものはない、2体は甘美な一瞬を楽しんだ。  
「カロン様……どうですか?」  
「キスを通じて貴女の心が伝わったような気がする……元気が出た」  
「まあ!……嬉しい………」  
モーニングスターは満面の笑みを浮かべる。言葉の力は偉大だ、  
カロンは心からそう思う。  
「……落ち込むって程じゃないけど。ただちょっと考え事をしてたから…」  
「…ええ、そうだと思ってました……分かりますもの……」  
「ま、参ったな……お見通しなのか…」  
「いえ、私の方がいけないんですよ……カロン様なら何でも分かってくれると  
 勝手にすがっちゃって………」  
「でもキスで分かった、さっき貴女が言いたかったのは、俺と禁断の果実を  
 獲るようになってから霊体を崩すコツを掴んだ、ということだよね?」  
「カロン様、その…"禁断の果実"って直接的に言うのは止めてもらえませんか……  
 恥ずかしいです、もう…」  
「え…?…ご、ごめん………」  
………"禁断の果実=スケベなこと"というニュアンスらしい。とにかく失言のようだ。  
育った環境の違うアストラルが織り成す活劇はかくも言葉に支配される……  
 
「仲間が死者を運んでた時にマナを持ち込んだ人間がいたそうです、  
 で、"これでなんとか地獄行きを免れたい"と……」  
「まぁ…存命中はお金で全てを解決してきた方なんでしょうか…」  
「恐らくそんな感じなんでしょうね……」  
「………地獄の沙汰もマナ次第、と言うワケですね」  
「ところがその人間が持っていたのが黒魔術のマナで……」  
「あら…」  
「"地獄でこれを使えば苦痛が1割引きぐらいになるんじゃないか"   
 と仲間が答えたらその人間泡食っちゃって泣きながら何とかしてくれ、  
 ってせがんで来て困ったそうです」  
「クスクス…業の深さというのは恐ろしいものですね…」  
目的地に向かう道中、世間話をする…もうすっかりリラックスモードだ。  
膝を曲げて腰掛けるモーニングスターの手は口と膝の上を行ったり来たり…  
船が揺れるなんて全く考えていない、カロンの操縦に全幅の信頼を置いている。  
 
「そう言えば…この前の話の続き、聞いてないな」  
「…え?何の話でした?」  
「初恋の話。俺の方は話したけど、貴女の話を聞こうとしたら時間で…」  
「あ、そうでしたね……聞きたいですか?フフフ」  
モーニングスターは悪戯っぽく笑う。もうちょっとこの会話を  
楽しみたいというモーションに感じた。カロンはすまし顔で答える。  
「ええ、勿論」  
「女性の過去を聞こうとするのはマナー違反とは思いませんか?」  
「誰の過去だって大切な思い出だよ、俺のだけ聞いときながら  
 自分は話さないのは男女差別じゃないかなあ」  
「あら……フフフ、私の負けですね…」  
モーニングスターは折れた。負け、とか言いながらも物腰は柔らかい。  
もともとどう会話が進もうが話すつもりだったのだろう、  
醸し出す大人の包容力がカロンを魅了する。  
 
「私のは恋とは違うかもしれませんが…相手はガンメル様でしたね」  
「がんめる?………どこかで聞いたような……」  
「何年か前ですけど魔王退治で勇名を馳せた召還師です、そう言えば分かりますよね?」  
「ああ!思い出した」  
「精霊魔法に精通しているだけではなくお優しい方でした…私が召還された時は  
 ほとんどオベリスクが置いてありましたから…」  
「……ああ………なるほど…」  
船を漕ぐカロンの後ろからモーニングスターの話は続く。  
「会話も楽しくて…召還された時は嬉しくて何とか話をする機会がないかと  
 チャンスを窺ってたり…フフフフ」  
「で、その恋は…」  
「…恋なのでしょうか……だってガンメル様はサブスタンスですから……」  
「まあ…確かに……」  
「恋というよりは憧れに近いものかもしれませんね……」  
「そう………また会いたいと思う?」  
「ええ、今考えたら気持ちぐらいは伝えても良かったかもしれないですね…」  
突然後ろが静かになった。モーニングスターはカロンの傍に寄ってきていた。  
「何?どうかした?」  
「カロン様………ヤキモチ、妬いてくれますか?クスクス」  
モーニングスターは冗談めかして聞いてくる。  
「え…どうかな?もうちょっと広い心持ってるつもりだけど」  
「……あら…………」  
何?何だ…?また失敗したのか……?カロンは動揺する。  
「フフフ…期待してた返事とは違いましたがこれはいいですね………」  
「え…………?」  
「カロン様、素敵です………」  
モーニングスターはカロンの背中に手を当て霊体を崩す。背中がくすぐったい。  
「……あ、あそこに見えてきた、ほら」  
カロンはテレているのを誤魔化すように目的地を指差した。  
 
 カロンが指差した先を見ると霊界の淡青と自然界の濃緑と鮮やかな黄色が  
カラフルにちりばめられた風景が目に入ってきた。  
「………綺麗……ですね………」  
「…ええ…………」  
2体は想像以上の景色にうっとりとする……明鏡止水とはこういう時に  
使われるのだろう、明媚な空間というのは心を清らかにしてくれる。  
「カロン様………」  
「ん?」  
「私、この景色をカロン様と見れて幸せです…」  
「それは…俺もさ」  
2つの霊体は重なるぐらい近くに寄り添っている。  
「だって……私達、使い魔ですから………いつどうなるか…」  
確かにその通りだ、とカロンも思う。いつ消滅するかもしれない日々、  
こういう日を大切にしたいと思うのは当然のことだと思う。  
「この前会ってから今日までの間、何回召還に応じましたか?」  
「……2回、かな」  
「そうですか……私もです、お互い無事で何よりです…」  
モーニングスターは安堵の表情を浮かべる。頼られている実感が衝動に変わる。  
 
「こっち向いてくれる?」  
「…はい………」  
カロンの唇がモーニングスターの唇と重なる。双方の霊体が崩れる、すると  
化学反応が起きたかのように熱が出て2体の興奮が高まる。  
「んんっ…………んっ……………」  
全身の交感神経が刺激されるような感覚…たまらない……  
カロンが今日は露になっているモーニングスターのうなじに手をかける。  
崩した指先が首筋をなぞり始めるとモーニングスターの霊体がビクッと反応する。  
「…あん………あん……………」  
頭部の前後で刺激を与え合い満足げなあえぎ声を上げる。キスを終え  
お互いの顔を見合わせると火照った顔で若干赤みを帯びている。  
「………カ…ロン…様……好き…です……好き……………です……」  
「……ええ………俺…も…」  
カロンの唇はモーニングスターの首を探る。全身どこでも感じるアストラルだが  
場所が変わると反応も変わる。  
「……やぁぁっ………はあ………カロン…………様………」  
表情は見えないが崩した霊体の感覚で興奮しているモーニングスターを  
感じることができる。カロンもそれを感じ更に求めたくなる。  
「今日の…貴女は…………エロいね………」  
「……そ……そんな………こと………は………ありま…………」  
カロンは首を攻めながら太ももに指先をあてる、ツツーと腿の霊体のラインに  
這わせると更に感じてるのが手に取るように分かる。  
「やっ……ん………そんな所……か……ら…………」  
「……やっぱり…………エロい…………」  
「…カ……んんっ……カロン……様……が………わ…悪い………ん…です…」  
「……俺が?」  
そう言いながら首筋の霊体を崩しにかかる。  
「あっん!……だ…だって………カロン…様……が……甘え…させて…くれる……から…」  
言ってることが微妙に飛躍して論理的じゃない。らしくない所が何か面白い。  
「……うん……はぁ……俺が…悪かっ…た……」  
諭すようにカロンが言うと  
「…そう………です………もう……困った……方……」  
モーニングスターはあえぎながら答えた。  
 
 2体は手をお互いの背に回し抱きしめ合う。気分の高まりも最高潮に近い。  
「カ……ロン……………さ………ま………」  
「………綺麗……ですよ……俺は幸せ…だ……」  
抱き合って接している前部から双方の霊体が溶け合い台風の渦のように変化する。  
「あん!あっ…あっ……ああん!…あう…あん……!ん!」  
やがて全身が混ざり合い、原形もない空間で2体のエクスタシーは続くのだった…  
 
 禁断の果実を終え、原形に戻る2体。顔は紅潮したままだ。  
しばらく呆然とする。やや話せる状態になった所でモーニングスターが言う。  
「カロン様、御存知ですか?サブスタンスの方もこれに似た行為をするそうですよ」  
「へぇ、そうなの?」  
普段は恥ずかしがるモーニングスターがこんな話を振るのは珍しい。  
興奮気味な今こそ言えるんだろう。  
「子供を産む時にやるそうです」  
「…子供…かあ………正直産めない我々にはピンとこないな」  
「確かにそうですね…イメージできないですね…」  
「そもそも子供がどうやって出てくるんだろ?」  
「んー……どうなんでしょう…卵から孵化させるんですから卵が出る通り道が  
 身体のどこかにあるんじゃないでしょうか」  
サブスタンスの知識がまるで無い2体。大きな誤解を含んだ会話になっている。  
「ドラゴンの卵があの大きさ…で、母体があの大きさ……」  
「……どこにそんな通り道があるんでしょう……」  
「口から出るのかな?一番大きいし」  
「多分そうでしょうね……」  
 
 とんでもない方向にいきそうな話が続くかと思われたその時、2体は  
シグナルを感じた。そして同じ方向を向く。召還の魔法陣が発動されたのだ。  
……見るとアケロンとティタニア両方だ。  
「ああ、そうか。ここは霊界と自然界の境だから…両方がすぐ傍に見えるんだ」  
「カロン様……こんなに同時に、しかもこの近くということは…」  
「うん……同じ召還師による魔法陣かな」  
「まあ!同じフィールドで味方なんて…私達が初めて会った時を思い出します…」  
そうだ、確かに懐かしい…あれ以来、何度か召還されているが同じフィールドで  
2体は出会ったことは無かった。確率的に低いものらしい。  
今回は久しぶりに一緒に戦えそうなのだ、迷うことは無い。  
「行こうか」  
「…はい、カロン様」  
 
召還された2体、予想通り同じフィールドで魔法陣も隣にあった。  
「うふふ、お久しぶりです、カロン様」  
「何言ってるんですか、ハハ……」  
しかしふざける余裕もここまでだった。周りを見て2体は驚く。  
どうやら大乱戦のようだ、あちこちで煙が上がっている。  
じっと見ると3方向からデーモン主体の敵部隊が絶え間なく攻め込んでいる。  
本陣のすぐ傍でもデーモン数体が味方と思われる使い魔と交戦中だ。  
「これは………」  
今まで生き残ってきた2体で経験もそれなりに積んでいるが  
ここまでの混戦は経験に無い。経験で分かるのはここは危険だということ……  
カロンはゴクリと息を呑む。  
「召還師はどこにいるんだ?」  
辺りを見渡すが近くにはいない、最前線で指示を出しているのだろうか…  
「カロン様……」  
モーニングスターがやや沈痛な面持ちで語りかける。  
「これはどちらがそうなってもですが…」  
「……………?」  
「仮にです、あくまで仮にですが……もし、どちらかが消滅したとします。  
 そうなっても生き残った方は後追いをしない。これを約束してもらえますか?  
 私は『死ぬ時は一緒』という考え方は大嫌いですから……」  
頭では分かっている話だ、しかし実際に話として聞くと辛い話だ。  
「ああ、分かった…でもそんな仮の話はいいよ。必ず生きて任務を全うしよう  
 できるさ、必ず道はある」  
「はい……カロン様となら」  
2体は手を重ね合わせる。  
 
「お待たせ!よく来てくれたわ!」  
最前線から忙しい合間をぬって召還師が現れた。  
「はい」  
「召還師様、苦戦のようにお見受けしますが……」  
「……ええ、見ての通りね。あなた達にはこの局面を打開する遊撃隊としての  
 役割をお願いしたいの」  
「で、具体的にはどうするのですか?」  
「ちょっとあそこを見て」  
と召還師が指を差した先には本陣から100mぐらいの所にドラゴンが1体いる。  
「あのドラゴンのそばに敵のヘルゲートがあるのよ」  
「そんな近くに……」  
「例えるなら喉に刺さったトゲよ、あそこからどんどんデーモンが召還されるから  
 こちらの防御陣が休み無く攻められて半分以上崩壊してる。残りも時間の問題なの。  
 だからあなた達にはあの魔法陣を叩いて欲しい。あそこさえ無くなれば  
 敵は足掛かりを失うからこちらも体勢を立て直す猶予ができるの」  
「なるほど。分かりました」  
「あと魔法陣だけじゃなく守ってるドラゴンも倒して。敵は気付いてないから  
 助かってるけど実は今のこちらにはドラゴンに攻められた時に有効な  
 対応ができる使い魔がいないの。魔法陣を叩いたらドラゴンが攻めてくる  
 可能性があるからそちらもお願い」  
「はい……」  
「アニマドレインの弾と星の子がチャージできたら出撃よ、状況を左右する重要な  
 魔法陣だから敵も必死に守ってくるでしょうから大変だと思う。  
 余裕が無いから戦力は送れそうもないけど…星の子のチャージとか  
 なるべくこっちもフォローするからお願いね!」  
と言うと召還師は忙しそうに最前線に戻っていった……  
 
「どう思います?カロン様………」  
モーニングスターが尋ねてくる。  
「…ドラゴン1体と魔法陣だけなら我々がいけばそんなに難しくはないけど…  
 ただ魔法陣からデーモンは出てくるだろうし、他から魔法陣を守るために  
 救援が来るかもしれない。それにどこまで対処できるか…」  
「そうですね……他を無視して魔法陣を攻撃するだけでは  
 もたないでしょうね、ある程度は戦って受けるダメージを減らさないと…」  
「俺が先に行ってダメージを与えてくるのは…キツイかな」  
「オベリスクも無いようですし同時に行った方がいいと思います…  
 私は足が遅いので合わせてもらえると…」  
「うん、分かった。うまくいけばやれる作戦だと思う」  
「…そうですね………あ、カロン様…準備できました」  
「そう、じゃあ行こう」  
「輝ける星よ……我らに御加護を…!」  
 
 カロンとモーニングスターは出撃した。敵の動きは少ない。   
「んん……もうとっくに我々が出たことに気付いてると思うんだけど…」  
「魔法陣は光ってますからデーモンは出てきそうですが……」  
「2体ぐらいは相手しないとダメだろうけどそれなら怖くない」  
「案外、敵は反撃されると思ってなかったんじゃないでしょうか……」  
「あ、なるほど。ドラゴンも守ってるし」  
「でも油断禁物ですね…戦場では何が起きるか分かりませんし」  
「デーモンは最高レベルの魔法陣から出てる。あのスピードだし…救援はあると思う」  
 間もなく2体はヘルゲート傍に到着する。その間にデーモン1体が召還されたが  
魔法陣を守るのはドラゴン1体とデーモン1体。  
「とにかくチャンスだ、俺がドラゴンをやるから貴女はデーモンを」  
「はい…今のうちにやればいけますね…」  
この時敵陣ではある使い魔を召還している所だった。しかしそれが  
この段階で間に合わなかった幸運に2体は分かるはずもない…  
 
 攻撃の間合いに入り戦いが始まった。ドラゴンの業火がカロンを襲う。  
「うぐっ……」  
ものすごい蒸気圧だ、アストラルの身体にもビリビリとダメージが加わる。  
しかしもともと相性もいい…このままアニマドレインで押し切る!  
 アニマドレイン2発目が命中する。ドラゴンはまだ余裕があるように感じる。  
「……どうやらドラゴンもパワーアップしてるか……」  
「カロン様!助太刀します!」  
モーニングスターの方は決着がついたようだ。  
「終わったんだ…でも大丈夫?ダメージが大きいなら魔法陣をやってもいいから」  
「全然余裕ですよ、それよりデーモンが2体向かっています」  
「そう…分かった、ドラゴンを先に仕留めよう」  
「はい!」  
 
 迫力のある大型使い魔同士の戦いも、3度目のアニマドレインと  
モーニングスターの攻撃によりさすがのドラゴンも倒れた。2体は一息入れる。  
「よし……!うまくいってる」  
「お疲れ様です、カロン様……あのデーモン2体は私が」  
「うん、お願い」  
戦力の勝る相手を上回るには各個撃破で同時に攻撃を受けないという  
勝利の法則を経験により理解していた2体、上手い戦術で局面をリードする。  
しかしまだ状況は落ち着かない。  
「あれは………?」  
モーニングスターがデーモンと戦っている時、カロンは何かが迫ってくるのを見つけた。  
……よく見るとカロンだ。敵のカロンは離れた所に不時着してデーモンを降ろしている。  
「カロン様、終わりました!」  
「あれを見て。敵のカロンが降ろしたデーモンを片付ければ先が見えそうだ」  
「はい、これが正念場ですね……魔法陣はそれが終わってからでも十分です」  
迫ってくるデーモンは4体、これに魔法陣から出てくる1体と合わせて5体。  
「カロンを使って無理に送り込んできたんだ、これ以上の戦力はすぐには  
 投入れないだろう。ここさえ乗り切れば…頑張ろう」  
「はい…アニマドレインはあと2回ですか……私を守ってくださいね」  
「勿論。ただ撃ち終えたら俺を守って欲しいな」  
「フフフ………では行きましょう、カロン様」  
再び乱戦になる。2体はここが最後の踏ん張りどころと集中する。  
敵が密集してる所はモーニングスターのアタック、体力の多い相手には  
アニマドレインとあくまで2体は戦上手だ、冷静に戦いを進める。  
最後のアニマドレインを撃ち終えた時、デーモンは残り1体。  
「カロン様、任せて下さい!」  
モーニングスターが一撃を放つとデーモンは崩れ落ちた。疲労困憊だが凌いだ、  
と思ったが……デーモンの倒れた後ろから動くものが。  
 
 アストラルの天敵ホムンクルス………  
経験上間に合わない…瞬時に分かる。モーニングスターは攻撃したばかりで動けない。  
対してホムンクルスはあと数歩でサイキックストームの間合いに入る……  
 
 ホムンクルスは厄介な相手だ。今までの経験でモーニングスターを  
サイキックストームかける時は相討ち覚悟でつっこんで来ていた。  
その勇猛さでどれだけのモーニングスターを葬ってきたことか。  
狙いも正確で定められたら外すことは100%あり得ない…  
 思い返せば先ほど敵のカロンが降ろしたデーモンが4体ということに  
もっと気を配る必要があったのだろう、大きいデーモンの影に小さい  
ホムンクルスがいることに気付かなかった…油断したか、失態だ。  
カロンはうなだれる。  
 予想通りホムンクルスは弾切れのカロンは無視してモーニングスターに  
視点を定めた。………やばい。  
 
 カロンの動悸が早くなる。どうする?どうする?  
このまま黙って見ているだけか?俺は……?  
 
 カロンはモーニングスターを見る。モーニングスターも状況を  
よく理解していた。切ない目をしている……  
 
このまま黙って見ているだけか?俺は……?  
 
「うおおおおおおお!!」  
カロンは衝動的にホムンクルス向かって突っ込んでいった。別に勝算もない。  
そもそもどうしてこんな行動に出たのかもよく分からない。  
あえて理由を考えれば突っ込むことで相手の注意をモーニングスターから  
逸らしたり、視界を少し悪くできるぐらいものだがそれは無意味な行動である。  
その程度のことでホムンクルスが失敗するはずもないのは冷静に考えれば  
分かること。後ろからモーニングスターが  
「カロン様!約束忘れないで!お願い!私はもういいの!!!」  
と泣き叫んでいたような気がするがもう聞こえてはいなかった……  
 
ガツン!  
 
 何かが起きた。衝動的に動いたカロンにはさっぱり分からない。  
………気がつけば百発百中のサイキックストームは撃たれていなかった、  
そしてホムンクルスが仰向けに倒れている。  
……何故?何が起きた?  
「カロン様、どいて下さい!」  
「え?」  
放心状態のカロンの後ろから声がする。振り向くとモーニングスターは  
動けるようになっている。どういうことだ……?モーニングスターは  
ホムンクルスに攻撃を与え倒した。  
 
 敵がいなくなった状態で悠々魔法陣を破壊する。後ろの方で味方の本陣から  
喝采の声が聞こえる。カロンも結果だけ理解した。全てうまくいったんだ、と。  
「カロン様!」  
「ああ……」  
「無事で良かったです、本当に…本当に………」  
「心配させた、ごめん」  
「…そんな………とにかく嬉しいです、こんなことって…」  
2体はお互いの無事を確認して喜び合う。モーニングスターは涙声だ。  
「…どうして助かったのか分かる?あの状況で……」  
「いえ、私もさっぱり分かりません。正直ダメだと思ってました  
 カロン様がホムンクルスに向かって行ったのは覚えてますが……  
 無我夢中で……そうしたらホムンクルスが倒れていて……」  
「ホムンクルスがつまづいて転んだ…?」  
「いえ……そんなことはありえないと思いますが……分かりません」  
「奇跡が起きたんだ…」  
「そう……かも…しれませんね、とにかく良かった……」  
「うん…………」  
2体はぴったり寄り添いながら本陣に凱旋した。  
 
 何とか敵の猛攻を凌いで今回の戦いは一段落した。  
召還師は生き残った使い魔を集め労をねぎらう。  
皆ヘトヘトになっている、すざましい戦いだった……  
「みんな、ありがとう!あなた達の活躍でなんとかなったわ!……」  
召還師も難局を乗り切った高揚感か、幾分興奮気味だ。熱がこもっている。  
「この集めすぎて余ったマナはみんなに配るわ、帰る前に並んでね!」  
最後に召還師がそう言うと歓声が上がった。  
 
 使い魔がマナを貰おうと行列を作っている。カロンとモーニングスターは  
最後に並んでいる。召還師に名指しでそう言われた。話したいことがあると言う。  
よく分からないまま並んでいると我々の番になった、召還師はニコニコしている。  
「今日は大活躍ね、ありがとう!あれは間一髪だったわね!」  
と言った、どうやら先ほど助かった件を指しているようだ。キョトンとする2体。  
「…召還師様、その様子だと何が起きたのか御存知なのですね?」  
「あ、何が起きたのか分からなかったのね、無理もないわ」  
「正直何で助かったのか分からないです。奇跡だと言い合ってましたけど」  
「奇跡ね……」  
召還師はうなずきながら聞いている。  
「召還師様、何が起きたのか教えてもらえませんか?」  
「ええ、そのために残ってもらったのよ。…ところであなた達はホムンクルスは好き?」  
ブンブンと2体は首を振る。愚問である。  
「アハハ、まぁそうよね…じゃあ今回の立役者を紹介するわ、こっちに来て」  
「ハイ、創造主様」  
と言って出て来たのはホムンクルス。2体は驚いた。  
 
召還師はタネ明かしを始める。カロンに尋ねる。  
「あの時何があったか覚えてる?」  
「いや……ただ夢中で…とりあえず敵のホムンクルスめがけて突進したら  
 気がついたら敵がひっくり返っていて……」  
「うん、その瞬間ね!私がホムンクルスに頼んでクレヤボヤンスを  
 あの一帯にかけてもらったの」  
「「…?…」」  
カロンとモーニングスターは分からない顔をしている。  
「つまり、クレヤボヤンスでアストラルにサブスタンスの攻撃が  
 当たるようになるでしょ?あれは逆でもそうなのよ」  
「つまり…俺がホムンクルスに向かっていった時にクレヤバヤンスをかけたから  
 俺の船の先端がホムンクルスにぶつかって相手が吹っ飛んだ…と」  
「そういうこと!」  
「なるほど…」  
2体はようやく納得した。  
「夢中で全然気付かなかった…クレヤボヤンスがかかっていたなんて…」  
「ええ…私もです……」  
「何だ、奇跡じゃなかったんだ、ハハハ……」  
乾いた笑いをするカロンに対し、モーニングスターは声のトーンを下げて言う  
「いいえ………これは奇跡ですよ」  
「そうね……あの状況で突っ込むのが奇跡なのよ、クレヤボヤンスは別の話ね」  
 
「ところで、あなた達付き合ってるの?」  
召還師が聞いてきた。モーニングスターは迷わず答える  
「はい…!」  
「……やっぱりね、……ん〜あそこでそう動くか…恋ってすごいよね…」  
召還師は感心している。  
「そうだ、と言うことは小さな魔術師に感謝しないといけないな」  
「…そうでした、助けてくれてありがとうございます。ホムンクルス様」  
「ドウイタシマシテ」  
ホムンクルスは少し顔が赤くなった。  
 
「…召還師様」  
モーニングスターが思い出したように尋ねる。  
「何?」  
「つまり…クリヤボヤンスをかけると私達の身体がサブスタンスの方々と  
 同じになる、ということですか?」  
「そう。フェアリーのアストラライズってあるでしょ、あれは  
 フェアリー自身にしかかけられないけど、あれがあなた達にもかかった感じね」  
「では…ちょっとホムンクルス様にお願いしていいですか?  
 私ちょっとサブスタンスになるのがどういうものか経験してみたいんです…」  
「……いいわよ、……じゃあホムンクルスにお願い。かの者達に  
 物理法則の崩壊と新しい物性不文律の形成の赤い輝きを与えよ」  
「ハイ、創造主様」  
ホムンクルスが了解すると共に赤い光があたる。モーニングスターは確認すると  
恐る恐る手をカロンの胸板に当ててみる……  
「触ってる……こんな感じなのか…うん、良く分かる…!」  
「あら……素敵です…こんな感触……!一緒なんだって気がしますね…!」  
2体は驚いている。モーニングスターはカロンに抱きついてみる。  
「まあ…!まあ…!」  
モーニングスターは感激している。さらにモーニングスターは自分の頬と  
カロンの頬を合わせすり合わせる。スリ…スリ…  
「ふふっ、人間はそんなふれ合い方はしないけどね。まぁ初めてだからね…  
 あの子も肉体を与えられた時はあんな感じで感触を確かめたのかな?」  
召還師は宙に浮いてる2体の初体験の様子を見上げて、微笑みながら呟いた。  
 
「そろそろ魔法が切れる時間じゃないかな…」  
「そう……ですね、よろしいですか?カロン様」  
「俺は恥ずかしいけど、見せつけてやりますか」  
「うふふ……そうですね……」  
カロンとモーニングスターは向き合う。  
「カロン様………」  
「ええ…………」  
2体はゆっくりと手を背に回して抱きしめ合う。そして…キス。  
ちょうどスポットライトが当たり映画のワンシーンのような綺麗なキスに  
召還師とホムンクルスは顔を赤くする。  
 
 召還師はつぶやいた……  
「恋の魔法が召還魔法を上回った日かな……」  
 
 
〜〜おまけ〜〜  
 
「……どうですか?カロン様……面白い感触ですね……」  
「確かに……何だろ、さっき抱きしめながらすり合わせた時に  
 ちょっと気持ちいいものを感じたなあ」  
「あ、それは私も感じました…何でしょうね……」  
「胸の辺りじゃないかな?」  
「そうですね……ああ、そう言えばカロン様、私の胸って膨らんでますよ」  
「あれ?俺のは平坦なのに。ちょっと違うな」  
「これが原因ですね……どうなってるんでしょう…?」  
と言うとモーニングスターは胸元を開いて確認してみる。  
下から様子を見ていた召還師は大慌て。  
「$☆*▲#○&!!!」  
 
 大騒ぎになってる下をよそに二人はおっぱいをまじまじと見つめている。  
「あら…見てくださいカロン様、これ、押したら引っ込むんですけど  
 手を離すと元通りになるんですね」  
「あ、本当だ……変形できるんだ、変なものが付いてるなあ」  
「これがこすれて独特な気持ちいい感触になるんですね……」  
「ピンク色の豆みたいなものが先端についてるな…」  
「ええ、ちょうど盛り上がってる中心部分についてます。  
 ……汚れかと思ったら引っ張っても取れないです。それにちょっと硬い……」  
「身体の一部なんだ、これ押したらどうなるんだろ?それっ」  
「あ……少し気持ちいいようなくすぐったいような……」  
「ふうん…もう1回」  
「あん…なんか………変な気分です………」  
クリヤボヤンスの効果が消えた。元通りのアストラルの身体になる。  
「ちょっと!!そんなことしないで!!」  
下から召還師の怒りの声が届く。隣のホムンクルスは顔を真っ赤にしている。  
「あら……まずかったようですよ」  
「当たり前です!!」  
 

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