グリーンデスティニー 
 
 
 「紫陰?!」  
暗い洞窟に半ば狂乱気味の声が響いた。  
「そう、紫陰は心臓を冒す毒・・・」  
 恐怖に涙の滲んだ瞳が縋るように嬌龍(イェン)を見つめる。  
混乱した頭は真っ白で、何をどうすれば良いのか秀蓮(シューリン)は何も分からなくなっていた。  
「毒消しはない・・・・」  
 無情にも慕白(ムーバイ)自身の声がそう告げる。  
「そんなはずは無い!!何にだって対処法は有るわ!!」  
 有るはずだが、自分は何も知らないことに秀蓮の苛立ちと混乱が募る。  
いち早くその混乱から立ち直ったのは、元凶とも言える嬌龍だった。  
「有るわ・・・師匠から教わってあるの・・・・・」  
 秀蓮の疑がわしい視線が嬌龍に痛い位付き刺さる。だがそれも当然の報いだと自分に聞かせる。  
「嘘じゃない!!本当よ! ・・・でも・・・・それが手に入るか・・・・・」  
「何なの?!それは!言いなさい!」  
「・・・・・・・それは・・・・・・その・・・」  
 秀蓮の追求にも嬌龍は言い難そうに口篭る。だが、ためらっている間に慕白の時間が減っていく。  
「・・・毒消しは・・・初潮を・・・・迎えた後の・・・・処女の愛液よ!」  
 余りに突拍子もない言葉に誰もが戸惑いをみせた。  
 
「本当なのよ!・・・師匠はいつも、女好きの南鶴のそばには  
 処女は一人も居なかったと言っていたわ・・・。だから誰も助けられなかったんだってね・・・・・  
 でも・・私も・・・・違うのよ・・・・」  
 今だ戸惑いの続く空気の中、秀蓮の凛とした声がその場を切り裂いた。  
「私は・・・処女よ!」  
 恐ろしいほど意志に溢れた瞳が嬌龍を射る。嬌龍は驚きと安堵に何も言えなかった。  
目の前にいる中年にさしかった女性は、男の好む清楚な美しさと聡明さを可ね揃えている。  
引く手あま多だろうに、未だにその純潔をしっかりと守り通していた。  
武當はそれほど退廃した所ではないのかもしれない、今更ながらに自分の考えの狭さが、  
押しつけられた物だと知り愕然とした。  
「だ・・だったら話は早いわ・・・その・・・・飲ませれば良いだけだから・・・」  
 そう言われて秀蓮は、うって変わって困った様に眉を寄せる。やはり真の純潔では無いのだろうか。  
「・・・・・・・あの・・・よく分からないのよ・・・どうすればいいのか・・・」  
 言いながら、不安そうに慕白に視線をやる。慕白は一度目を落とし、考え込んでから言う。  
「火をおこしてくれ、それからお前はこれを始末してくれ」  
 最後は秦保に向けて、自分を苦境へ追いやった者の骸を指した。  
つまりは出ていくようにと言う訳だ。  
   
 
用意が整うと、慕白はやや苦しそうに腰を落ち着けた。早くも額には脂汗が滲んでいる。  
とにかく急いだほうが良い。嬌龍は未だ困惑気味の秀蓮の腰帯をさっと解いた。  
簡単に畳んで次に上着の紐を解くのを手伝う。三度目にやっと最後の着衣が現れた。  
気後れする彼女を無視して、下履きの紐も解く。  
自重で落ちてゆくそれが無くなると、身に付けた物は腕の包帯のみとなった。  
それすらも自分で解くと、生まれたままの姿で身を清めに向かう。  
 雨はいつの間にか止み、岩場の空気は芯から冷えきっている。瓶に貯めた水もまた刃の切っ先の様に冷たかった。  
息を止め肩から水をかぶる。先程雨に濡れた身体は、追い討ちを掛けるようにさらに冷たく青ざめてゆく。  
とうとう指先が動かなくなり、桶が滑り落ちるのを見て嬌龍は秀蓮の肩を乾いた布でくるみ、  
火の側、慕白の向かいへと連れていった。  
「真っ青だわ・・・先に暖まった方がいい!」  
「私の事はいいのよ、早く慕白を助けなければ!どうすれば良いの?!」  
「どうすれば・・って・・・自分でしたこともないの?」  
「何を?」  
 驚きを隠せない嬌龍に対し、秀蓮はそれの何が不思議なのか解らない。  
「・・・・・・・・・・・だったら、こうすれば良いのよ・・そらっ」  
 掛け声と共に秀蓮の身に巻きつけた布を素早く取り去り、彼女は一瞬のうちに一糸まとわん姿となった。  
 
目の前の慕白が息を飲む音が聞こえると、羞恥で秀蓮の頬は朱に染まる。  
「ほら・・・慕白があなたを見ているわ」  
 嬌龍は言いながら、秀蓮の腕を後ろ手に拘束する。  
そうすることによって、さらに慕白に胸を付き出す格好となった。  
彼の手は今や何時でも乳房に這わす事が出来る位置に有る。  
秀蓮は早くも寒さなど感じなくなっていた。  
「ね・・ねぇ・・・嬌龍、手を離して・・・」  
「駄目よ、だって離したら隠すでしょ?姐姐」  
 耳元で唇が触れるくらいの距離で囁く。秀蓮の身体は寒さ以外でガクガクと震えた。  
「隠さないでくれ、秀蓮・・・君の身体はとても綺麗で幻想的だ」  
 炎に照らされた身体はオレンジに光り、着衣のままでは分かるはずも無いほどに引き締まっていた。  
未だ張りの有る乳房は、質感を余り感じさせないながらも十分な膨らみを備え、  
その頂には小さく固まった枸杞の実のような乳首があった。  
続く腹は驚くほど細く、慕白の手が回りそうな程だ。  
立てに切りこみを入れたような臍と、形が分かりそうな筋肉が、さらにその魅力を増している。  
臀部も又、その腹と同じくらいにしなやかな筋肉が顔を覗かせていた。  
 
「私が想像していた通りの身体だよ」  
「・・・・・・」  
 今までも慕白が、そんな対照で自分を見ていたと言う事実になかなか馴染めない。  
だが、彼が囁く度に自分の体温が、一度上昇するのが秀蓮には分かった。  
今までに感じたことの無い熱が、体の中心から湧いてくるのを感じる。  
月経中の数日間のように腹の奥が熱く重たい。  
慕白の大きな手がゆっくりと前に伸びる。探し求めた聖杯をようやく手に入れたかの様に、  
確かめるように、慈しむように、優しくその手が素肌に触れた。  
手は鎖骨に軽く触れ、そのまま感触を確かめるように、乳房の回りをなぞって肋骨に落ちていった。  
その感覚に秀蓮は思わず目を閉じた。  
手を握られたときのようにその動揺をご魔化すことは出来なかった。  
「秀蓮、目をを開けて。君を抱きしめて口付けさせてくれ・・・」  
 動揺の色を隠せない瞳が、恐る恐る開く。目の前には慕白の自分を焼き付けようとする瞳がある。  
嬌龍は秀蓮を彼の方に押しやりながら、ようやく手の拘束を解いた。バランスを失って、  
慕白の元に倒れてゆく秀蓮の身体を、彼は力強く抱きしめた。驚くほど強く、嬌龍に切られた傷が痛むくらいに。  
慕白は目を閉じて、己に触れる全てのものが、幻では無いことを確認した。  
 
「・・・君を手放したりしない!・・・手に触れられる君が全てだ!」  
「・・・慕白・・・・」  
 回した手が確かめるように、秀蓮の素肌をなぞっていく。  
安静にしてなければならない慕白の心臓が大きな鼓動をたてて秀蓮に響いてくる。  
それこそが思いの丈の全てだった。秀蓮の見開いた大きな瞳から、沸きあがるように涙が澪れてゆく。  
それを掬い取るようにして長い口付けが始まった。  
目許から頬をなぞり、緊張のため硬く強張った唇を舌でなぞる。  
それを柔らかくほぐすようについばんで、味わったことの無い薄い舌を捕らえた。  
「・・・っ・・ん・・・」  
 秀蓮の口腔は涙の塩気で良い梅塩に感じる、彼女の唾液を全部さらえようと少々躍起になった。  
「・・・・ぅ・・・むぅ・・・駄目よっ!・・そんなに激しくては・・・毒が早く回ってしまう」  
「もう、我慢出来ない・・・君が目の前にあって、押さえられるものではないよ」  
 慕白の唇は口元を外れ、秀蓮の細く優美な顎を伝ってさらに降下してゆく。  
微かに震える喉をねぶり、鎖骨の窪みに舌を埋める。舌が這い回るたび、秀蓮の喉の奥で声にならない音がする。  
全て覆ってしまえるほど大きな手が、彼女の乳房に優しく触れる。彼女の喉が大きくうねった。  
「見た目よりも柔らかい・・・」  
 少し力を入れると、ぐにゃりと指が乳房に埋もれていく。  
 
「・・・・ん・・んん・・」  
「君の甘い声が聞きたい、我慢しなくていい」  
 そう言われても、秀蓮にはそれはとても不道徳な事に思える。女は慎み深くないといけない、  
昔からそう教えられてきたのだ。だが、彼の唇がおもむろに乳首を捕らえると、  
不意を突かれたように我慢していた声が漏れた。  
「あぁっ!・・・止め・・あぁ・・・」  
 慕白の舌先が何度も小山を往復する。小さな先端が首を持たげ、  
あっと言う間に硬い木の実のようになった。彼はさらに、それを傷つけないよう優しく歯を立てた。  
「んんぅ!・・・・あぁうっ・・」  
 一度喉を通り過ぎた声は、次から次へと湧き出てくる。  
胸の先に刺激が走る度、はしたない声が辺りに響き、同時に股の付け根が焼けただれた様に痛んだ。  
尚も胸への愛撫を繰り返しながら、慕白の指先はそっと脚の間の柔毛を捕らえた。  
毛に触れられるだけで、ぞろりとした感覚が下腹から全身に広がる。  
焼け付くように熱い部分を触って欲しい、秀蓮はそう思った。  
 
「秀蓮・・・君は見かけによらず情熱的だ・・・ほら・・」  
 慕白は言いながら、茂みの上を往復していた手を差し出した。  
こすり合わせてから広げた親指と人差し指の間には、粘度のある透明の糸が2〜3本引いている。  
秀蓮は己が身の浅ましさに、消えてしまいたい程の羞恥を感じた。  
しかし、これで彼は助かるのだ、思いなおして歯を食い縛った。  
「さぁ・・・慕白・・・早く」  
 震える膝で何とか立ち上がると、慕白の前でわずかに脚を開けてみせる。  
「・・・あぁ・・・では、頂くよ」  
 薄闇の中、炎に揺らめく肢体がほのかに輝く。慕白は半ば半信半疑だが、嘘だとしても悪くないと、  
秀蓮に悟られないよう心の中で密かに思った。そして、目の前に広がる叢をそっと掻きわけ、  
蜜に濡れた裂け目を、親指で両側に押し広げた。  
「っ・ひっ・・・!!・・」  
 普段は匿われている秘部が空気に触れる。しかも目の前で慕白がそこをじっと見ているのだ。  
自身でも、ましてや人になど一度も見られた事の無い場所が、自分の師である慕白の手によって晒されている。  
恐怖と高揚感が一つになり、秀蓮は心の臓が止まりそうなほどの息苦しさを覚えた。  
   
慕白の心臓も今にも止まりそうだった。毒の影響に加えて、夢にまで見た秀蓮の裸身に触れ、  
今まさに味わんとしている。誰も知らない彼女のそこは、蜜を侍らせ果実のように輝いている。  
包皮に包まれた真珠は小さく、遊ばれた形跡すら見られなかった。  
慕白は頭を下げ、肉の壁に閉ざされ、未だ開く事の無い秘裂の奥に、余すことなく舌を這わせた。  
「ひぃぃっ・・・ぁぁあああっっ・・・・!!」  
 嬌声と共に秀蓮の膝から力が抜け、全体重が慕白に掛かる。  
肩で支えながら、蜜を吸い出すように唇を動かす。  
微かな塩味が舌の上に広がり、とろりと消えて無くなる。  
後には醗酵した秀蓮の香りが残り、それも消えてしまうと、またそれが欲しくなった。  
「美味しいよ」  
 本心を口にしながら、硬くなった真珠を優しく舐めあげる。  
甘美な美酒に酔いしれるように、慕白は溢れる蜜をすすり続けた。  
 
 
あれからどれほど経っただろうか、洞窟内には薪のはぜる音と静かな寝息しか聞こえなくなった。  
先程まで聞こえていた秀蓮の咽び泣くようなあえぎ声も止み、静寂が慕白の無事を語っている。  
急に力尽きるように倒れた慕白は、恥ずかしさに涙を流す秀蓮に微笑みかけると、  
そっと腕に包み込みそのまま寝息を立て始めた。  
秀蓮は慕白の心臓が打ち続けているか、確かめずには居られなく、一刻以上もそれを聞き続けた。  
弱かった音は力強さを取り戻し、一定の感覚をゆっくりと打ち続けている。  
慕白の体温は温かく、等間隔で伝わってくる鼓動もいつしか秀蓮を睡夢へ誘ってゆく。  
彼女が温いまどろみに落ちてゆくのと入れ替わりに、慕白は幾らか正気を取り戻してきた。  
息の詰まるような胸苦しさは消え、まだいくらか身体はだるかったが、それでも調子が戻ってきたのは事実なようだ。  
嬌龍を信じて居なかった訳ではないが、いささか驚いている。  
腕の中の秀蓮は疲れ果てたのか静かな寝息を立て始めた。  
乱れて解けつつある髪が、自分の腕や秀蓮の薄い頬に散らばっている。  
何も身に着けていない身体が冷めないように、慕白はそっと自分の体でくるむ。  
だが秀蓮の熱が自分の身に伝わって来ると共に、自分の中からも得体の知れない熱が湧いてくるのが分かった。  
 
頭の中に、さきほどの彼女の声が甦る。けして高くない声が、快感に咽び泣く。  
初めて聞いた声だった、思い返すだけで全身から熱が湧く。優しくゆっくりと秀蓮の艶の有る肩を撫でた。  
「・・ん・・・。・・ぃやだ・・私寝てしまったのね?」  
「あぁ、起すつもりはなかったんだ、まだ寝ていてもかまわない」  
「いいえ、いいのよ・・慕白・・・あなたもう大丈夫なの?」  
「お陰様で助かったようだ・・・秀蓮、君のお陰だよ・・・」  
 秀蓮はその言葉で思いだしたのか、恥ずかしそうに顔を臥せた。  
慕白はその表情の一つ一つを愛しむように見つめる。  
戸惑ったように視線を動かす彼女はようやく慕白を見つめる。  
困ったように口を開き、やっとの思いで声に乗せた。  
「・・・ねぇ・・慕白、その・・腕を離してちょうだい・・・私、服を着てないから・・・」  
「どうして着る必要があるんだ?秀蓮、私はまだ君を手に入れていない!」  
「・・・・・・・・・ ・・・・」  
 着させてちょうだい、と言いたい彼女の思いを、慕白は打ち消す。今まで何年もの永い時を無駄に  
してきたのだ、もう一刻だって無駄にしたくはなかった。  
 
「私は自分に正直でいたい、秀蓮君を愛してる、ずっとだ、もう何も我慢したくない」  
「っで・・でも・・・・ここで急には・・・思昭(スージョウ)に許しを乞えないわ・・・」   
「・・・・思昭は・・・私を恨むだろうか・・・」  
 若さみなぎる慕白の親友で、義理の弟だった思昭。記憶に有る彼は今の自分よりずっと若い。  
親の決めた相手だったが、少女の頃より彼に嫁ぐのだと聞かされていた。  
実際の思昭と過ごした期間は極僅かで、沢山の思い出が有るわけでもない。  
だが、私は思昭の物で、彼の為に敵きを打つのが当たり前だと言い聞かしてきた。  
慕白と共に永きを過ごし、当然のように惹かれあったとしても、既に私は思昭の物なのだと・・・。  
私がそうと思わなくとも、世間はそうだと言うだろう。  
お前は思昭の物だと。  
「今、また君を諦めたら・・・死んでも後悔するだろう・・・思昭に恨まれるほうが万倍ましだ」  
「・・・私は思昭の物・・・世間ではそうなる・・。・・・・でも・・でも・・・  
 私はずっと・・あなたを思ってきた。何も言えなかったけど、慕白あなたが好きだった!・・・今もよ」  
 秀蓮の鼻が赤らみ、瞳からは涙が澪れ落ちた。自分を抑えることには慣れてきたはずなのに、  
口にしてしまうと今までの自分が、馬鹿馬鹿しく思える。涙は止まらなかった。  
 
「君は意外と泣き虫だ・・・そんなに泣いては枯れてしまう」  
 ちゃかした様に微笑んで、慕白は秀蓮に唇を重ねる。  
先程よりももっと優しく甘く、丹念に彼女を味わう。泣き濡れて震える唇をあやすようについばむ。  
しゃっくりあげる秀蓮の背中を優しく擦りながら彼女の体温を全身に感じた。  
洞窟の中の空気は乾燥していたが、そばで焚いている火のお陰で二人とも寒さは余り感じなかった。  
慕白は藁の上に起きあがると、膝の上に秀蓮を抱き起した。  
「解くのを手伝ってくれるかい?」  
 慕白は自身の着物の結び目を解きながら、秀蓮にもそれを促す。  
そうすることが自分自身のふんぎりになるのだと、秀蓮は慕白の襟元に手を伸ばした。  
節が目立つものの明らかに細い指が自分の喉元で繊細に動いている。  
今からその手も含めて、秀蓮を形造るもの全てが自分のものになるのだ。  
心だけでもなく、体だけでもない、そう思うと慕白の気は自然と急いた。  
いつしか彼の着物も解け、日に焼けた肌が見えはじめる。  
慕白は重ねた着物を同時に脱ぎ去り、藁の上に敷き重ねた。  
 
服の上からでも分かる彼の体格の良さが、今はさらに際立って見える。  
秀蓮は臥せた顔を上げる事も出来ず、耳までも赤くしてしまった。  
慕白はそんな耳元に手を持っていき、いつも彼女の首筋を彩る一筋の後れ毛に指を絡ませる。  
いつも彼女の髪に触れてみたいと思っていた。  
固く結われた髪型は彼女の気持ちそのもののようで、落とした一筋の房が感情の現れのように思える。  
それも今限り。慕白は秀蓮の後頭部に手を回すと、彼女の最後の装身具、櫛と簪を引き抜いた。  
すると重力に屈するようにゆっくりと、髪は広がりながら解け落ちた。  
「綺麗だ・・・ただ君そのものだけが美しい」  
 陶酔するような眼差しで秀蓮を見つめながら、所々で赤銅のように輝く髪を愛撫する。  
「君の髪は変わってる・・・黒くないし真っ直でもない・・・」  
「・・・慕白・・・やめて頂戴・・恥ずかしいわ」  
 彼の一言一言が秀蓮の頬を焼く、自分の人生には有りえなかった感情に翻弄され、  
彼女の心は麻痺を起しそうだった。触れる肌と肌どうしが熱を増幅するのが分かる。  
既にあれだけの事をしたのだ今更何を恥ずかしがる事が有るのかと思うが、その奥ゆかしさが秀蓮の最大の魅力なのだ。  
 
慕白は髪の隙間から秀蓮の素肌を捕らえる。  
手は短い背中を軽く擦すり上げると、自分のほうに彼女を引き寄せ、そっと首筋にかじり付く。  
目を閉じ喉を上下させる秀蓮を弄ぶように、普段は隠された白い喉元にねっとりと舌を絡ませた。  
慕白はもう中断させるつもりは無かった。両手を彼女の身体中に這わせながら、唇を首筋に上下させる。  
彼は頬の脇、耳のすぐ下辺りに懸命に吸い付く。  
立て襟からでも十分に見える位置に鬱血の後を残していった。  
「あぁ、慕白・・・駄目よそんなところに!」  
「私は何も恐くない、世間に向って叫びたいくらいだ『秀蓮は私のものだ!!』ってね」  
「・・・ん・・あぁっ!」  
 言いながら慕白は再び秀蓮に舌を這わす。  
そうすれば彼女の口が塞げるとばかりに、愛撫に熱を込めてゆく。  
脇腹を擦すりながら唇を落としてゆくと、彼女の口からは吐息が漏れ始めた。  
唇は張り出た鎖骨を愛撫しながら更に下に下がってゆく。慕白はそのまま彼女の乳房に頬を寄せると、  
先程は余裕がなかったとばかりに、大きく深呼吸して秀蓮の肌の香りを吸い込んだ。  
薄く張りの有る肌からは、彼女の家からする香の匂いがした。  
柔らかな乳房に頬を挟まれていると、赤ん坊に戻ったような安心感が有るが、  
それ以上に自分の中の欲望が、急きたてるように次を望んだ。  
 
慕白は自分の欲望に忠実に、秀蓮の頂に舌を絡ます。  
既に硬くなっていた先端が自分の舌先に心地よい刺激を与えた。  
震える秀蓮の声に気を良くして、慕白は両手で乳房を揉みながら先端を唇で扱いてやる。  
秀蓮は再び体の中心が熱くなる感覚を覚えた。  
 慕白の愛撫は激しくなるばかりで、先程覚えたばかりの疼きが下腹部から沸きあがる。  
胸の先をねぶられる度に、その感覚が子宮に伝わるのが分かった。  
今まで味わった事の無い感覚だが、自分の体が女として成熟しきっていると言う事なのだろう。  
秀蓮の手が慕白の手に捕らえられ、力強く握りしめられると、彼の肩に回すよう促してきた。  
自から慕白に触れる事に戸惑いを見せたが、温かく厚みの有る肩に一度触れてしまえば、  
それに両腕を回し掻き抱くまでに長くはかからなかった。  
 無心に舌で胸を愛撫しながら、手は回ってしまいそうに細い腰を撫でまわす。  
続く臀部の肉も引き締まってはいたが、強く揉むと慕白の手の中で形を変えた。  
「ん・・んっ・・・」  
 慕白の手が双丘の中心を割り開くように動くと、秀蓮の口から抗議の息が漏れる。  
だがその中心は思いのほか熱く、引っ張られる感覚に彼女も何時しか酔いしれていた。  
   
彼の膝に座って掌による愛撫に全身を委ねながら、秀蓮は阿片でも吸わされたかのように朦朧とする。  
それでも慕白の身体のある一部分が、敏感に変化しているのに気付かなくは無かった。  
彼はまだ下履きを身に着けていたが、布越しに熱い塊が自分の脚に当たっているのが分かった。  
「身体は正直だ」  
 慕白はとっさに秀蓮の戸惑いを見ぬいてそう言った。  
大きく幌を張った下履きはその下に何かとてつもない物を隠しているように見える。  
慕白はお構い無しに愛撫を続け、秀蓮を地面に敷いた自分の服の上に寝かせると、そのまま覆い被さってきた。  
彼女は為されるがままに横たえられ、適度に掛かる慕白の体重の下で瞬きすら出来ないでいる。  
「秀蓮・・・緊張しすぎだ・・もっと君の声が聞きたい、私以外誰も聞いていない」  
 慕白の優しい微笑みと口付けに、秀蓮は詰めていた息をなんとか吐き出した。  
「・・!っひ!!あっ・・・」  
 彼はその瞬間を逃さなかった。微笑みを悪戯っぽく変えて、急に秀蓮の秘裂に指を滑らしたのだ。  
彼女の腰が持ちあがり大きく跳ねたが、一往復だけそこをこすると彼の手は再び離れてしまう。  
「・・・あっ・・・・」  
 思わず物足りない声が出てしまう。  
慕白は意地悪く微笑んで、その指にたっぷりと付いた秀蓮の甘い蜜を、音を立ててしゃぶりながら、  
少し体をずらして彼女の雌鹿のような脚を捕らえた。  
 
「だめよっ・・」  
 すっと起きあがり、あっという間に足先にしゃぶり付く。  
足をばたつかせて藻掻く秀蓮になど、相変わらずお構い無しに、指の間にねっとりとした舌を絡ませてくる。  
「んぁぁ・・・駄目よぉ慕白・・・足なんか見ないで頂戴!お願いよ」  
「何故?」  
「・・・・だって・・・・大きくて不格好だから・・・・」  
「どうして?天上の蓮もその華は雅だが、根はたくましい」  
「・・・・・・・・」  
「私は君の全てを味わいたいんだ、醜いものなど無い」  
 緊張のせいで冷えた足先を自分の頬に当て、慕白はその感触を存分に味わった。  
そうして再び口に含む、温かく滑りのある舌が、指を一本一本丁寧に舐め上げる。  
手は筋を辿って上に伸び、筋肉の付き方を確かめるように、全体をま探った。  
いつしか唇は指を離れ、足首に有る腱に甘く噛みつく。  
両膝は慕白の肩に担ぎ上げられ、その唇が内腿沿いに上がってくる頃には、  
炎に照らされた愛液で、尻のすぼみまで光っているのが分かった。  
慕白は愛撫に敏感に反応する秀蓮の身体が嬉しかった。  
脚の付け根に何度も舌を這わせながら、細い毛を撫で上げる。  
 
「ぁあん・・・」  
 序々にでは有るが、秀蓮の喉から小さなあえぎ声が漏れ始める。  
その濡れ光った割れ目には触れず、叢だけを撫で続けた。  
そうしていると、割れ目の奥で秀蓮の媚肉が収縮し、絶え間無く蜜を吐きだし続ける。  
散々嬲り続けた後、我慢が効かなくなったのは慕白の方で、赤く震える肉のひだを割って、再びその味を堪能した。  
「・・あぁぁぁ・・・・んん」  
 逃れようと浮き上がる彼女の腰を抑えつけて、舌先で丹念に掃き清めていく。  
指で陰唇を捲ると、中から薄桃色の膣口が見えた。  
人差し指でその入り口を撫でてみると、秀蓮から抑えきれない声が漏れる。  
しばらく揉みほぐすように愛撫し、その間も舌は小粒の真珠を舐めまわす。  
いつしか秀蓮も声を堪えることを忘れ、慕白にされるがままに感じ入るようになっていた。  
だが、突然見えない穴の中に無理やり指が侵入し、秀蓮を現実に引き戻した。  
 
「ぐあ゛あ゛っっ!!」  
「秀蓮!力を抜いて。大丈夫だ、指が一本入っただけだ」  
 余りの秀蓮の激し様に慕白も驚きはしたが、入れた指を抜こうとはせず、  
そのまま上体を起して秀蓮の方に向き直った。もう片方の手で、乱れて額に掛かった髪を優しく撫で付けてくれる。  
「大丈夫だ・・・秀蓮、大丈夫だ・・」  
 落ち着かせるようにゆっくりと、何度も大きな手でその額と頬を撫でた。  
「御免なさい・・・初めてだったから・・・」  
 緊張が解けると涙腺が緩む質なのか、秀蓮は身体の力を抜くと共に、大きな目を潤ませた。  
「深呼吸して、私に任せるんだ」  
 言ってみたものの、秀蓮の不安さはとてつもないものだろう。  
この年まで武侠に身を起き、女を捨てやってきた彼女は、この手の情交に全く持って疎い。  
少しでもその不安を軽くしてはやれないかと、慕白は愛情篭めて接してやった。  
寝かした秀蓮を起こし、再び自分の膝に収める。  
彼女を横抱きにだき抱え、片方の脚を自分の胡座に引っ掛けて開かせ、その上体が倒れないよう、片腕で支えた。  
少しでも密着し、自分を感じられる方が安心するだろうとの思いだった。  
「この方が良い。私も君の顔が良く見える」  
 安心感を与える柔らかい笑みを浮かべながら、秀蓮に口付けする。  
彼女の顔にようやく笑顔が戻った。  
 
「さぁ、集中して私の指を感じるんだ・・・君の中で動いているだろう?」  
 慕白は指先に集中して、秀蓮を傷つけないよう細心の注意を払いながら、その中で指を動かした。  
彼女の中は熱く、柔らかく、とても窮屈だ。たっぷりと濡れているせいで、指は動かせるが、  
それ以上の余裕は感じない。中をまさぐるように動かしてみると、秀蓮の口から溜息が漏れる。  
そこは何層にもひだが重なり合っている部分で、柔らかい肉の感触の中に違う刺激があった。  
「んん・・・ぁ」  
 慕白は優しく揉みほぐすように、そこを広げてゆく。時に他の指で豆粒に触れてやったりしながら、  
熱い蜜の出る泉を隅なくかき混ぜてやった。  
「・・・秀蓮・・・もう一本いいかな?」  
 秀蓮の頭が縦にこくんと動く。慕白の教えに従って、深く呼吸をしながら体中の力を抜いた。  
指は水音を響かせながら一度抜かれ、秀蓮の口元に運ばれる。淫媚に濡れた人差し指で、  
彼女の唇をなぞった。驚きで軽く開いた口の中に、今度は中指を侵入させる。  
熱い口中に指を躍らせ、秀蓮が自ら舌を絡めてくるまで慕白は待った。  
「・・・んぁ・・・」  
 秀蓮は促されるまま慕白の指に、舌を絡めるように動かしていった。  
先程唇に付けられた自らの愛液が、唾液に混ざって流れ込んでくる。  
味よりも、何とも言えないような匂いが口中に広がる。  
慕白にとっては、この味が五感を刺激するのだと思うと、何だか自分までがその気になってきた。  
 しばらく秀蓮の舌の感触を、想像力を働かせて楽しんでいた慕白は、彼女の腰の下辺りで、  
脈打つほどに膨らんだ陽物に急きたてられる様に、その口から指を引き抜いた。  
その中指を彼女の割れ目に滑らせる。何度か刺激してからゆっくりと挿入した。  
 
今度は少し声を洩らしただけで、指はなんとか飲み込まれていった。  
入り口の辺りで引っ張るように動かしていく、少しでも慣れるように慕白は気を使いながら愛撫する。  
のけ反る秀蓮の背中を支えながら、背を屈めて胸に口付け、舌で先端を愛撫し始めた。  
「・・ん・・ぃい・・ぁあ・・」  
 唇で挟みながら、舌先で何度も転がす。  
そうしている間に、人差し指は中指に添えるようにして再び侵入を試みる。  
きつい入り口をほぐす様に、ゆっくり、ゆっくりと二本目が入ってくる。  
秀蓮の口から苦痛の声が漏れ始めたが、何とか挿入を果たす事ができた。  
「ほあ、はいっは」  
 胸への愛撫は止めずに言う。入ったものの動かすには至らず、静止したまま親指で回りを愛撫する  
「あんっ・・・」  
 敏感な陰核を弄ばれ、思わず大きな声が漏れた。  
残りの指は、溢れ出た愛液の溜まり場となった菊門の皺をなぞり始める。  
「ひっ!ああぁっ!・・・・何をするの慕白・・・・ん・・ぃやぁあ・・ん」  
「そんなに嫌がっている声には聞こえないな」  
 味わった事のない感覚に体中が粟立つ。  
慕白がゆっくりと中の二本を動かしている事に秀蓮は最後まで気付かなかった。  
終りに大きくかき混ぜて、二本の指は音を発てて抜けた。  
「・・・ ・・・・ ・・・」  
 
何事か悟ったような秀蓮が、色の見えない瞳で慕白を見つめる。黙って見つめ返す慕白は、  
静かに肯いて秀蓮の細い身体を力一杯抱きしめ、耳元でそっと もう我慢出来ない と囁いた。  
秀蓮の身体は再び服の上に横たわる。慕白は意を固めて、最後の着物に手を掛けた。  
 横たわったままの秀蓮には、立ち上がった慕白の身長はとても大きく見えた。引き締まった身体、  
大きく厚い胸板、精悍な顔立ち、どこから見ても男らしく、全てに至って彼より優れた武侠など  
見たことが無い。自分は大した取り柄など無いが、慕白が見ていてくれたから少しの自信が持てたのだ。  
彼が嬌龍に興味を示した時、自分自身の価値が崩れていく気さえした。  
自分を愛してくれる慕白が居なければ、きっと生きては行けないだろう、今までも、これからも。  
「慕白・・来て頂戴・・・私を愛して」  
 そっと隣に横たわる。もう二人とも何も身に着けていない。しばらくもつれ合って、  
お互いの肌の感触を存分に楽しんだ。だが、秀蓮にも分かっていた。  
自分の肌を突く慕白の怒張が限界に達していると言う事に。  
それは焼けそうに熱く、秀蓮の肌に粘液の跡を残した。  
「・・・・・慕白、いいのよ」  
「・・・・・秀蓮・・・・」  
 
慕白はいよいよ起き上がり、秀蓮の膝を割った。大きく開かせた脚の間に入り込み、  
彼女の腰に先程脱いだ自分の下履きを丸めて差し込んだ。秀蓮の可憐な花びらに自分の怒張を置いてみた。  
ぴったりと吸いつくように、陰唇が慕白を包み込む。  
少し動かしただけで、天にも昇りそうな気分になる。  
一度秀蓮に口付けを落としてから、片手で槍先を膣口にあてがった。  
秀蓮は一度息を詰めて、身体を強張らせたが、慕白の教えを思いだし深呼吸始めた。  
「・・・秀蓮、帰ったら結婚しよう、すぐにでも・・・」  
 それはとても真摯な眼差しだった。  
「ひっ!!あああぁぁっっ!!!」  
 慕白の腰がすいっと降りた瞬間、洞窟内に秀蓮の絶叫が木霊した。  
秀蓮は無我夢中で、手近に有った慕白の辮髪を掴む。肉の千切れる音が聞こえそうな程の痛みだった。  
慕白は取り乱す彼女を優しく慰めてやる。  
今や慕白は、秀蓮の中深くに入り込み、十何年思い続けてようやく一つになれた。  
 
「済まない、秀蓮・・・・痛いだろうが我慢してくれ」  
 痛みの余り澪れた涙を舌で拭いながら、慕白は愛しい人の身体をきつく抱きしめた。  
「・・あぁ・・・慕白、愛しているわ」  
「あぁ、私もだ。愛してるよ」  
 慕白の体重の下であえぎながら、秀蓮は何とか彼に腕を回し、その身体が離れないよう、  
固くしがみ付いた。下半身は焼き小手を当てられたような痛みだが、  
それでも慕白が自分の中に入って来たのだと思うと、この痛みには大きな価値が有ると秀蓮は思った。  
 暫くじっとしていた慕白だったが、秀蓮が落ち着くのを見計らって、気遣う様にゆっくりと動き出した。  
中は思ったように狭く、一部の隙間無く慕白に絡みついている。  
奥まで差し込めば、こりこりとした子宮口に先端がぶつかり、手前に引けば、幾重にも重なった天井が竿を引っ掻いた。  
「・・・あぁ・・・」  
 慕白は思わず声が漏れた。背筋から快感が昇ってくる。  
秀蓮に負担を掛けないよう、それでも腰を動かさずには居れなかった。  
味わった事の無い、狭窄感が慕白を襲う。それが秀蓮なのだと思うだけで、  
今まで感じたことの無い至福の境地に到達した。  
 
慕白が出入りする度に、激しい痛みに歯を食い縛る。  
だが、彼の陶酔した表情を見ていると、痛みすら和らぐ気がする。  
しばらくその表情を見ていると、太く凛々しい眉が歪められ、中で慕白が大きく震えた。  
「っ・・秀蓮っ!」  
 自分の奥に何か熱いものが広がるのが分かった。一瞬のち慕白の目が開き、瞳がかちあう。  
薄く微笑んだかと思うと、その全体重が秀蓮に被さってきた。耳元に彼の熱く荒い息が掛かる。  
大きく肩で息をして、ゆっくり秀蓮の上から降りた。  
慕白が抜け落ち、中から逆流した彼自身の欲望の証が溢れてくる、秀蓮は慣れない感覚にぞくりと身を震わせた。  
慕白はようやく起き上がり、すぐさま秀蓮の傷を確認する。  
思った通り、白濁液に混じって幾筋もの赤い線が、彼女から垂れている。  
腰に当てた下履きを外すと、彼女の尻の下は血に濡れてべったりとしていた。  
「御免なさい、慕白・・・あなたの着物を汚してしまったんじゃない?」  
「ん?・・・あぁ、そんなこと気にしなくていい」  
 言いながら慕白は、さらに汚れが広がるのも気にせず、秀蓮の股を優しく拭う。  
それでも滲んでくる血を見て、携帯用の血止めを応急処置に使った。  
「・・・ありがとう」  
 夜明けまでそう長くは無い。二人は再び一塊となって短い眠りに着いた。  
 
 
 
「お嬢様!!あぁ、何て事・・・秀蓮お嬢様!」  
 みるみる間に血の気の引いた呉姥(ウーヤ)を見て、慕白は急いで秀蓮の無事を告げた。  
「疲れただのだろう、少し休ませてやれば元気になる。部屋まで運ぼう」  
 呉姥はそう聞いて、突如元気を取り戻し、慌てて秀蓮の部屋へと案内する。  
 事の次第はこうだ。翌朝馬を駆って屋敷まで戻った二人だったが、余りに目まぐるしい一日に、  
家まで戻った安心感からか、秀蓮は門のところで倒れてしまった。  
何事も無かったように馬を止め、秀蓮はいつものように、舞うかの如く馬から降りた。  
慕白もそれに習おうとした瞬間、彼女は足元から崩れるように、その場に倒れてしまったのだ。  
慌てて秀蓮を掬い上げて、院子に入っていった慕白を、心配しながら待っていた呉姥が見つけたと言う訳だ。  
あちらこちらに血の跡を着けた慕白が、青白く表情のない秀蓮を抱いて、朝早く戻ってきたのだ。  
呉姥は心臓の止まる思いをした。  
「もぅ、私ゃすっかりあの小娘か碧眼狐にやられたのかと思いましたよ。さ、こっちです」  
 二階に上がると、思昭の位牌が目に入る。毎日線香をあげているのだろう、  
積もった灰の厚さが秀蓮の、彼への精一杯の愛なのだと思えた。  
それはこれからも変わらないだろう、腕の中で眠る小さな愛人は、そういう人柄なのだ。  
今も昔も。そっと寝台に降ろし頬に掛かった髪を撫でてやった。  
「着替えを頼むよ、後は少し脱水症状を起こしているかもしれない」  
 愛おしそうに秀蓮の頬に触れながら、慕白は呉姥に告げる。呉姥はそんな慕白は見た事がなかった。  
いつも二人の間に見られる微妙な距離感が、今日は全く見られない。  
不思議に思いながらも、女中たちにお湯の用意をするように言いつけた。  
「私も着替えてくるよ、お湯を借りてもいいかな?呉姥」  
「えーえー、構いませんとも。ゆっくりしていって下さいねぇ」  
 女中たちがお湯を持って入って来るのと入れ替わりに、慕白は秀蓮の部屋を辞した。  
 
「そこに置いといてちょうだい。後は私がしますからね」  
 桶を置いて皆が出ていくのを確認すると、呉姥は寝台に腰かけて、ゆっくりと秀蓮を眺めた。  
今見てみると、思ったより顔色も悪くない。先程よりはずっと穏やかな表情で眠りについている。  
子供の頃に寝かした秀蓮を、よくこうやって眺めたものだった。呉姥には子供がいない。  
秀蓮が生まれる少し前に、死産してしまったのだ。  
彼女が生まれて乳母の役目を仰せ遣った時は、本当に嬉しかった。  
この子こそは天の遣わした贈り物なのだと思った。  
 呉姥は桶に入った手ぬぐいを固く絞り、秀蓮の額をそっと拭ってやる。  
頬に首筋と順に拭きながら呉姥は秀蓮の首に、見なれないあざを見つけた。  
ぱっと花が咲いたように紅く、何か変わった病気に罹ったのではないかと、突如心配になりだした。  
すると、秀蓮の目が二三度瞬き、ようやく呉姥に視点が合う。  
目を醒ました秀蓮に、大きな喜びを露わにする呉姥。だが秀蓮の瞳は一瞬の間戸惑いを見せた。  
「・・・・・・・ ・・・・・・」  
 今、全ての事に合点が入った。呉姥は心の中で大きく肯いた。  
いったい全体、どうしてこの一日でこんな事になったのか検討もつかないが、  
二人の仲が大きく進展したのは確かなようだ。  
呉姥が何時も心から願っていた秀蓮の幸せが、ようやく実ったのだ。  
「あぁ、お嬢様。ご無事で何よりですよ・・・体を拭いて服を着替えたら、もう少しお休みなさいまし」  
 呉姥は涙がこぼれそうになるのを我慢して、せっせと秀蓮の身体を拭いた。  
 
 
日は天中に昇り、外は寒いながらもうららかな日差しが人々を暖めている。  
秀蓮も掌にそんな暖さを感じながら再び目を醒ました。先程よりも頭がすっきりと明晰になっている。  
横を向くと、自分に大きな影を作る人がいるのが見えた。  
寝台に腰かけ、自分の手を握ったままうたた寝しているのは慕白だ。  
彼を起こさないよう、手は握ったままそっと上体を起こす。  
柱に頭をもたせ、薄い絹の天幕の向こうから手だけこちらに出している。  
一体どんな夢を見てるのだろう、薄絹の向こうの顔は満足そうな微笑を口元にたたえている。  
秀蓮までもが幸せな気持ちになれるような柔らかな笑みだ。温かい掌から気が満ち満ちて来るのが分かる。  
秀蓮は何の杞憂もない、清々しい一日の始まりを、十数年ぶりに感じていた。  
「慕白・・・そんな所で寝ていては風邪を引くわ」  
 そっと慕白を呼びながら、天幕を捲り上げる。  
呼びかけに目を醒ました慕白は、秀蓮の調子が元に戻ったのを見て、安心したように優しく抱き寄せた。  
「元気になって良かったよ」  
「あなたこそ」  
 部屋には誰も居ない。横目で辺りを確認して、秀蓮はそっと目を閉じる。温かい慕白の唇が重なり、  
その温度が互いに伝わるまでゆっくりと重ねあう。  
「さぁ、まず手始めに・・・思昭に報告しよう。私たちの結婚のことを・・・」  
 慕白を見つめる瞳が縦に揺れた。秀蓮は穏やかな笑みを浮かべ、自ら立ちあがる。  
二人は数歩の距離を、共に歩む人生の最初の道を踏み出す。  
十数年の距離を歩いた道のりは、今ようやく一つになった。  
 
                                                完  
 
 
 
 

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