ここグラディウス帝国の前線型宇宙ステーション137の作戦司令室では、帝国宇宙軍第1航宙隊総司令官のサラマンドル中将が1人のパイロットの到着を待ちわびていた。
「お見えになりました」
約束の時間から遅れること約30分、副官の案内でようやく待ちかねたパイロットが作戦司令室に入室してきた。
「遅れて申し訳ありません。途中でヤツらの待ち伏せに会いました」
パイロットが遅刻の言い訳をしながらヘルメットを脱ぎさると、背中まである長い髪が柔らかそうにフワリとこぼれてきた。
「情報が漏れとるのかもしれんな。まあ無事で何よりだった」
満足そうに頷く中将。
「お陰で撃墜スコアを稼がせて貰いましたが」
「君にもしものことがあれば、今度の作戦は全て無に帰すところだったよ、フジサキ少佐」
フジサキと呼ばれたパイロットは、まだあどけなさの残る顔をキョトンとさせる。
「私はまだ中尉のはずですが?」
「君は本日付けで宇宙軍少佐に昇進した」
新任の少佐は腕組みをしながら小首を傾げてしばらく沈黙する。
「・・・死ねと言うことですね?・・・私に・・・」
今度は中将が沈黙する番であった。
「・・・それに近いかもしれん。本日バクテリアン共の本拠が割れた」
「裏切り者のヴェノム博士もそこに・・・」
黙ったまま頷く中将にフジサキ少佐の顔も真顔になる。
「ついては君に新鋭戦闘機を使って、敵の本拠地に突入、これを破壊して貰いたい・・・幾重にも張られた敵の防衛ラインを突破しての困難な作戦になる。生きて戻れる保証は何処にもない」
中将は一旦説明を打ち切るとテーブルの上のコップを煽った。
「しかし誰かがやらねばならん。そこで私は自分の教え子の中から最高のエースパイロットである君を推薦した」
「スコアだけ見ても、私より優秀な搭乗員は幾らでもいます」
フジサキ少佐はそこで沈痛の面もちを見せる。
「確かにコンピュータに記録されている君の撃墜総数はベスト52位に過ぎん。しかし撃墜3465機は生き残りのパイロットの中ではダントツなのだ。君に頼むしかない、君しかいないんだ」
少佐の脳裏にバクテリアンとの熾烈なドッグファイトの末、壮烈に散っていった同僚達の顔が蘇る。
「分かりました。何処までやれるかは分かりませんが、ベストを尽くします」
数分後、顔を上げた少佐はキッパリと言い切った。
「うむ。シオリ・フジサキ少佐は本日1230時に最上階の特別カタパルト場へ出頭。新鋭戦闘機を受領の上、バクテリアン本拠攻撃のため出撃を命ず」
※
5時間後、機上の人となったシオリは、1人コンピュータが示す敵本拠の座標を目指しながら慣熟飛行の真っ最中であった。
「これが一つ目の新システムの全機体同調センサーの力なのね」
シオリは体に貼り付くようにフィットしたパイロットスーツから無数に伸びたセンサー用ケーブルを眺め回した。
何故か胸の辺りや股間周辺の密度が他の部位に比べて高いのがエロティックで気になるが、新機構の働きは抜群であった。
機首は自分のおでこ、翼端は左右に開いた自分の手の指先にも思える、まさに人機一体の境地であった。
その時前方を見張る3Dレーダーが敵機来襲を告げるアラームを掻き鳴らした。
「来たわね。それじゃもう一つの新システム、キャニバルシステムの試験をやってみる」
シオリはスロットルを全開にすると、早くも姿を現せたバクテリアンの編隊に頭から突っ込んでいった。
「いつも通りのワンパターンね」
シオリは素早く照準を合わせると、一撃離脱を狙って単縦陣で向かってくる敵に火線を浴びせた。
たちまち連鎖反応を起こしたような小爆発の固まりが起こり、一瞬後には残骸だけが浮遊していた。
その残骸を新鋭戦闘機のノズルが吸収していく。
バクテリアンの死骸を研究するうち、特定の種類にある種の宇宙エネルギーが高密度に含有されていることを解明した科学技術廠は、これを戦闘時のエネルギー補給として利用することを発案。
人食いを意味するキャニバルシステムと名付けられたこの機構は、新鋭機ビッグバイパー最大の特徴であった。
規定量のエネルギーを回収した戦術コンピュータの1番ゲージが点灯するのを待ってシオリは操縦桿のBボタンを押し込んだ。
「Speed Up」
コンピュータの合成音声が乾いた声を上げると同時に、機体が急に軽くなった。
機体の様々な部署に分配せざるを得ないエネルギーを、推進力の分野に限って10パーセント増幅させた結果である。
シオリは更に数編隊を破壊してビッグバイパーの速度を増加させる。
やがて露払いの敵機が過ぎ去ると、最初の難関である山岳地帯が見えてきた。
山岳地帯に入ると、敵の攻撃は熾烈を極めた。
「移動砲台まで・・・まずいわ」
地上から盛んに撃ち上げられる対空放火に邪魔されて、シオリはドッグファイトに集中できない。
「よぉ〜し。それなら」
シオリは戦術コンピュータのゲージが2番目にあるのを確認してBボタンをプッシュした。
「Missile」
乾いた音声と共に、火器管制システムが解放され、下方へのミサイル攻撃が戦端を開いた。
「走ってる、走ってるわ」
狙いが外れて地上に落下したはずのミサイルは信管を一時ロックさせると、魚雷のようにそのまま地面を走って、逃げる移動砲台に食らいついた。
バクテリアンエネルギーを感知したコンピュータは再度信管を解放し大爆発を起こさせた。
同調システムによる機体制御も完璧であり、シオリはあらゆる方位から襲ってくる敵弾を避け続けてみせる。
「後方に炸裂弾?大丈夫だわ避けられる」
シオリは砲弾の破片が後方ノズルに接触する事を予知したが、機体に問題の出るような損傷無しと判断し、目の前に迫った敵の中型機に専念した。
機体後部の上面すれすれで予想通りの爆発が起こったが、機体に対する影響は予想の範囲であった。
しかしコクピット内では、全く予期せぬ事態が発生していた。
「はぅぅぅぅ〜・・・・」
いきなり排泄器官に異物を挿入されたような感覚に、シオリは仰け反って肺中の空気を吐きだした。
「なっ・・・何っ?。何だったの」
錯覚では無かった証拠に、シオリのアナルは今もヒクヒクと収縮を繰り返し、背筋には痺れたような甘美な疼きが残っている。
「まっ・・まさか・・・」
シオリが合理的な判断から導き出した答えに驚愕している時、更なる至近弾がコクピット下方で炸裂した。
「あはぁぁぁ〜ん」
いきなり両胸を鷲掴みにされ、揉みしだかれるような感覚に襲われシオリは切なげな声を上げてしまう。
「やっ・・・やっぱりだわ。同調センサーのセッティングがMAXになっているため、機体センサーが拾った信号を、直接私の神経にフィードバックしてるんだわ」
宇宙軍のエース、シオリ・フジサキ少佐は驚愕の事実に気が付いた。
彼女は今、四方を敵に囲まれた状態で、一糸まとわぬ素っ裸のまま飛んでいるのと同じなのであった。