違うよヴィクトリカ。僕はこんなことしてくれなんて頼んでないじゃないか。
「ぅん―――、」
止めてくれよ。お願いだから
「ん?…ちゅ、何か、言いたそうだ、な―――ぷは…久城?」
決まってるじゃないか。どうしていきなりこんなことを始めたの?
お茶を入れるなんて本当に奇跡としか思えないことを君が始めて、言われるままに飲み干したら身体は動かなくなるし。
それに、その上その、い、いきなりキスを!それもとても言葉では言い表せないようなのを!
「あぁ、んむ…声は出ていないが言いたいことは大体分かるぞ。それは、つまりあれだ。言語化してやるとだな、
君に飲ませたアレは筋弛緩剤だ。俗っぽい言い方をすれば痺れ薬というやつだな」
なんでそんなものを飲ませてまで僕に、こんな、こんな君らしくないことを!
「ほぅ、顔付きも惚けて来たな。少し分量が多かったか?まぁ、いい機会だ。弛緩しきった君の内頬の味もみてみよう」
そう言ってまた僕の中に小さな舌が侵入してきた。
それは本当に、口の中を味わうように這って行く。いつもヴィクトリカが食べているお菓子のべとついた甘さが僕の舌と絡まり合う。
抵抗しようとはした。けど力が入らない。体中から力が抜けていく。それはクスリのせいだけでなく、
目の前の、恍惚とした表情を浮かべるヴィクトリカのせいもあっただろう。
数分ほど僕の口腔を蹂躙した後、ヴィクトリカがゆっくりと「舌」を「抜く」。
完璧に緩みきってしまった僕の唇とヴィクトリカの舌の間を、大量の―――毒々しく甘い唾液が糸を引き、口端から垂れる。
「ふふ、今の君のようなのを東洋では俎上の鯉、と言うらしいな?言い得て妙だと思うぞ?」
そんなことを言うヴィクトリカは恐らく笑っているのだろう。けど、今の僕には見えない。光が、すごくまぶしい。
「ん?……瞳孔まで開いているのか?」
それだけじゃない。涙が、止まらない。
「ははは、涙腺まで壊れている様だな、……いいぞ。とても、綺麗だ。久城」
そう言って、生暖かい舌で僕の頬の涙を舐め上げ、瞼に、いや、閉じることのできない眼球にそれを這わせる。
ごろごろ、とまるで飴を舐めるようなその動きに、更に涙が出る。
声が出ない。呼気になってヴィクトリカの髪を揺らすだけ。
嗚咽すら出ない。自分の筋肉が感じられない。
相変わらず涙は止まらない。目は見開かれたまま、乾きもしない。
ヴィクトリカの、甘い舌が僕の体中を這う。服はいつの間にか脱がされているらしい。
「なぁ、久城……久城?まだだぞ?まだ、まだだ。お前は私の、私だけの人形だ。
こうして、私のにおいをお前に染み込ませる。今日でだけダメなら、明日も、明後日も、ず〜っとだ!
お前が誰のものなのか、自分で、お前のその口ではっきりとあのニュートにも言ってやれるようになるまで。
いや、それからもず〜っと、お前は私のものだ。日本になど、家族のところになど、帰さないからな?」
耳元で囁かれたその言葉の端に、何か寂しさのようなものを感じたような気がして―――
僕は、ヴィクトリカの人形になった。