手の上なら尊敬のキス。  
額の上なら友情のキス。  
頬の上なら厚意と満足感のキス。  
唇の上なら愛情のキス。  
まぶたの上なら憧憬のキス。  
掌の上なら懇願のキス。  
腕と首なら欲望のキス。  
 
さてそのほかは、みな狂気の沙汰。  
 
・  
・  
・  
 
「狂気の沙汰……か」  
 何か悪戯を思いついたような笑みを浮かべる拳一が  
チュッ、チュッと首筋から鎖骨のあたりに口付ける。  
「それじゃ、俺ってイカレているのかな?」  
「はぁ……やぁ……ん」  
 『俺のものだ』とばかりに、あたしの肌に次々と朱色の痕がつけられていく。  
 拳一にキスされるたびに、体が芯まで熱くなっていくのを感じる。  
頭の中がぼんやりして拳一のこと以外何も考えられない。  
 
「だって俺、いつもしのぶの体にいっぱいキスマークつけているもん。  
 唇とかほっぺたとかだけじゃ物足りねぇよ」  
「け……んいちぃ……あぁ……」  
「やっぱしのぶってエッチだなぁ。  
 首筋にキスしただけなのに、こーんなに感じまくってんじゃん?」  
 くすくす笑いながら、拳一があたしの右胸をわしづかみにしてキスをする。  
「そ……んなこと……いわないで……あっ、あん!」  
 あたしはビクリと体を硬くした。  
「へへん、エッチなオッパイ♪ 乳首がすっげえ硬くなってやんの」  
 拳一が右胸の乳首をぱくっと加えるなり、ちゅうぅと吸ってくる。  
最初は弱く、だんだん強く。  
時には甘がみしたり、舌でぴとぴと弾いたり。  
 
「んっ、あ……ふあぁあ……やぁん!」  
 乳首を攻められるたび、体に電気のようなものが走る。  
ただ乳首を吸われているだけでも、ものすごい快感だ。  
 
「ぷはっ」  
 ようやく拳一が乳首から口を離してくれた。  
さんざん舌と唇で弄ばれた乳首はプクンと膨らみ、  
拳一の唾液で濡れそぼっている。  
「気持ちよかったか? しのぶ」  
「あ……う、うん」  
ぜえぜえと荒くあえぐあたしに笑いかける。  
「…………そっか。  
 じゃ、今度はこっちにキスしちゃえ♪」  
 そういうなり、拳一があたしの膝をぐいっと広げて、  
「ちょ、ちょっと拳一!? そこは……ああっ……」  
 静止する間もなく、あたしの大事な部分が拳一の目の前に  
晒されてしまった。  
 拳一がそこを食い入るようにじっと凝視している。  
もう何度も拳一と寝ているけど、このときばかりはとっても  
気恥ずかしくなってしまう。  
 
「いつみても、ムチムチしてて美味そう……」  
「やぁ……そんなにじろじろ見ないでよ……」  
「案の定大洪水になっているぜ? しのぶの『ここ』」  
「もう……ばかぁ」  
「今更何いってんだよ?  
 んじゃま、いっただきまーす」  
 と、拳一がそこに顔をうずめ、キスをする。  
「ああっ!」  
 あたしは思わず大きな声をあげ、シーツを握り締めた。  
さっき乳首を吸われたときとは比べ物にならない刺激。  
 あたしの足を抱えると、  
「ん……」拳一は『そこ』に舌をはわせて、  
とめどなく流れてくる熱い蜜をすすりはじめた。  
 
 
ぴちゃ……ぴちゃ……じゅる……じゅる……  
 
 
 薄暗い部屋中に水音がいやらしく響く。  
あたしに聞こえるように、わざと音を立てる。  
それがいつも拳一があたしの『そこ』を愛撫する時の手口だ。  
「はぁ……くぅ……んっ……」  
拳一の舌がちろちろ動くたびに、甘い痺れがあたしの体を駆け巡っていく。  
「はぁ……しのぶの『ここ』……すっげえ美味しいよ」  
 拳一のささやきが心地よく聞こえる。  
両足を大きく開かされて大事なところに口付けされているというのに。  
 
 
 とっても……気持ちいい。  
もっと気持ちよくなりたい。  
拳一にもっともっと気持ちよくしてもらいたい。  
 
 
「けん……いちぃ……だめぇ……やさし……くしてぇ……あうぅん」  
「『強くして』の間違い、だろ?」  
 拳一が一番敏感なところをぱくっと口に含んだ。  
「あんっ! そこは……ひあぁ……んんっ!!」  
 びくびくと体をのけぞらせ、涙声で懇願するあたしの反応を楽しむかのように、  
拳一がちゅぱちゅぱと音を立てて強く吸ったりしている。  
さらに2本の指をあたしの中へ差し込んで、くちゅくちゅと淫靡な水音を立てながら  
奥まで激しく出し入れしたり、大きくかき回したりして、すっかり熱くなっている  
あたしの中を蹂躙していく。  
「あぁん……やぁん……ハァ……んんっ!」  
 もう……たまらない。  
「あぁ……けんい……ああああぁ!!」  
体をがくがく震わせて、あたしは一気に達した。  
 
「しのぶちゃんのエッチ♪ すっかり淫乱になっちまってるな」  
 拳一が悪戯っぽく笑って、蜜まみれになっている指をぺろぺろなめながら  
あたしに見せびらかせた。  
「拳一の意地悪……誰が……んんっ」  
 『誰がそうさせたのよ』といいかけたあたしの唇を  
 拳一が唇でふさぐ。  
「んっ……んん」  
 それは早く繋がりたいという拳一からの合図。  
 
 
 数秒間重なり合った唇が離れた。  
さっきまでのおふざけモードじゃない、真剣な表情をした拳一が  
あたしの顔をまじまじと見つめてささやく。  
「しのぶ……俺、もう我慢できねえよ……入れていいか?」  
 あたしはこくんとうなずき、微笑んだ。  
「いいよ……拳一……早くきて……」  
 
 待っていたこの瞬間。  
「しのぶ……」  
 熱く硬い拳一のアレが一気にあたしの中に侵入してくる。  
「あぁっ! んんっ!!」  
 あたしはたまらなくなって大声をあげて拳一に抱きついた。  
拳一もあたしの腰をがっちり両手で抱える。  
 
「んっ……はぁ……拳一ぃ……」  
 
 熱い。何から何まで熱くてたまらない。  
口から漏れる吐息も。  
覆いかぶさった拳一の身体からポタポタと滴り落ちてくる汗も。  
そして、あたしの中も。  
それを貫いている拳一のアレも。  
 
「しのぶ……動かすよ」  
 と、拳一が腰を動かし始める。  
 
「あン! ああん!!」  
 あたしの中を拳一がこれでもかというくらい打ち付けてくる。  
 
   
 ああ、すごい。なんて激しいの。  
 
 
二人の動きに比例してベッドがギシギシきしむ。  
パンパンと肌がぶつかりあう音が部屋中に響く。  
「んっ……はぁ……くぅん……あぁん」  
「しの……ぶ……んんっ」  
 何度も何度もキスを交わしながら、お互い体を激しく動かしていく。  
 
 
 もう止まらない。いいえ、もう止まることさえできない。  
大津波のように快感が押し寄せてくる。  
もうどうにかなりそう。  
頭も体も心も。  
 
 
「しのぶっ、しのぶ……!」  
「けんいちぃ……けんいちぃ!」  
 お互いの名前を愛おしそうに呼び合いながら、ものすごい勢いで昇りつめていく。  
 
 だめ……もう……変になっちゃう。  
 
「しのぶ……でるっ! 中に……だすぞ」  
「だして……拳一のをいっぱいだしてぇ!!」  
 
 ぎゅっぎゅっと中の壁に締め付けられた拳一のアレが  
もっとも深い奥まで強く突き上げた瞬間、  
 
「しの……くはぁあああああ!!」  
「あっあっ……んっあああああああぁぁーーーーーっ!!!」  
 
 あたしも拳一もありったけの声を張り上げて絶頂に達した。  
 
 
 ドクッ……ドクッ……ビュクッ! ドクンドクン……!  
 
 
 ああ……流れ込んでくる。  
拳一が放った熱くて濃いものがたくさんあたしの中に……。  
 
 はぁはぁと荒い息をついて射精の快感に顔を歪ませている拳一に  
抱きしめられたまま、あたしは絶頂の余韻となんともいえない  
幸福感に酔いしれていた。  
 
 
 しばらくの間、あたしと拳一はベッドの上でじゃれあいながら、  
疲れた身体を休めていた。  
 けど、それだけじゃ物足りない。  
まだまだ物足りない。  
あたしたちは再びお互いの体を求め始めた。  
 
 
 今度はあたしが拳一にキスする番。  
だって、あたしだけキスマークまみれじゃ不公平だもの。  
 
 
「ん……ちゅっ……けんいち……すき……」  
「あっ……ちょ……しのぶ……おまっ……」  
 さっきとは打って変わって拳一があわてふためいている。  
あたしはそんな拳一の様子などおかまいなしに、拳一の体中に  
次々とキスの雨を降らせていく。  
 
 
手の上。  
おでこの上。  
下膨れの面影が少し残っている頬の上。  
とまどいながらもあえぎ声を漏らす唇の上。  
まぶたの上。  
掌の上。  
腕や首。  
 
 
そして……さっきあたしを激しく愛してくれた部分。  
 
 
 
 ねぇ……拳一。  
さっき『俺ってイカレているのかな?』って言ってたよね?  
 
 同じようにあたしも狂っているかもしれないわね。  
だって、拳一のことがとてもとても愛おしくてたまらないの。  
 
 
 
あたし……拳一と一緒なら堕ちてもいいよ……。  
 
 
<終わり>  
 
 

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