《うっちーが帰ってきてない?!!》
いくら緊急事態とはいえ、女二人の部屋に無断で侵入するのに、青年―沢田慎は戸惑いを感じた。
ましてや、その内の一人で自分の担任・山口久美子は仁侠集団・黒田一家の跡取り娘だ。
誤解されたらただでは済まないだろう。
しかし友人である“うっちーの為に”と慎は意を決して中に侵入した。
室内に入り、慎は驚いた。
自分達とそれ程造りの変わらない部屋だというのに、こちらの室内はとても良い香りで満ちていた。
日頃、長身・赤く染めた髪・切れ長の眼を持つ端正な顔などの外見から、女性にモテまくりの慎だったが、中身は外見に反し硬派だ。
そして意外にも、女性の部屋に入ったのはこれが初めてだった。
一・二分放心していた慎だったが本来の目的を思い出し行動に移る。
手前のベットに藤山、奥が久美子だった。
藤山を起こさない様にゆっくりと足を進める、何とか久美子の前まで到着する。
声を掛ける為に、久美子のベットにまたがり、久美子を上から見下ろした。
当然だが、久美子は眼鏡もおさげもしていなかった。
黒くて艶のある長い髪・抜ける様な白い肌・長い睫毛・桜色のぽてりと厚みのある唇に、時折寝返りの際に、掛け布団からちらりと覗く細く白く長い手足。きっとTシャツに短パンでも合わせているのだろう。
‥こうして見ると、山口もも女なんだな。シャンプーの良い匂いがする‥
男にしか分からない理由で、急に身に付けていたジーパンの前の部分が窮屈になる。
どうした事だろう。巨乳で知られる藤山の浴衣での寝乱れ姿にさえ、反応しなかった慎自身なのに
やば‥俺山口に‥
―その後、何とか己の分身をおさめる事に成功した慎は、密かに他のメンバーを室内に入れ、いつもの涼しげな顔で
「‥山口」
と彼女が起きるまで声を掛けるのだった。
End.