『助けてくれー!!』  
 
ひしめき合いながら逃げ惑う人々。町中に渦巻く悲鳴。  
空から唐突に舞いだした妖怪達。  
何処かで上がった甲高い悲鳴が、私達に長い夜の始まりを告げた。  
 
耳をつんざく阿鼻叫喚。  
人の救出に専念すれば街が壊され、破壊を止めようとすれば人が犠牲になる。  
焦り戸惑う私を尻目に、いつの間にか上がりだした火の手が薄暗い空を舐めている。  
 
『・・・行くぜ、みんな!』  
駆け出した皆に遅れをとらないように後を追いながら、懐から刀を抜いた。  
 
 
 
 
 
「・・・酷い・・・」  
 
結局、全ての収拾がつくまでにほとんど丸一日掛かった。  
 
灰色に濁る空の下、あれだけ活気付いていた江戸の町はほぼ瓦礫と化して横たわっている。  
会話の代わりに聴こえるのは寂しげな風が吹き抜ける音だけで、通りには何かが身動きする気配すらない。  
それでも比較的損傷の少ない建物の前に、生き残った何人かが肩を寄せ合って座っていた。  
少し春めいてきたとはいえ、季節はまだ冬。寒さどころか風一つ防げない。  
御世辞にも被害が最低限に抑えられたとは言えそうになかった。  
 
 ―本当に、酷い。  
 
 
「これでも凌いだのに・・・」  
ぽつりと呟いた一言に傍らにいるサスケさんは表情一つ変えず、何とも思っていないかのように答えた。  
 
「・・・これでは、町の人達にしてみれば同じことでゴザルよ」  
大損失には変わりがない。  
あくまでも淡々と事実を並べていく横顔は、子供のはずなのに何処か大人びた印象を受ける。  
改めてあなたとの距離を思い知らされた私の視線の先で、冷めた眼が無感動に瓦礫の山を見つめていた。  
 
 
「町が壊れて、人が死んだ――それで十分でゴザル」  
「サスケさん、でも――」  
「町は再建できても・・・人の命までは取り戻せない。そういうことでゴザル」  
 
―所詮、結果が全て。  
サスケさんはそう言いたいんだ。  
 
「サスケさんは・・・頑張ったわ」  
 
幼い顔細い肩小さな体。  
彼は真実頼りなさ気なただの子供であるのに、私に一つの弱味も見せたことがない。  
今だって、そう。  
いつだって私はサスケさんの痛みを知らない。  
 
「・・・さあ、ゴエモン殿達と合流するでゴザルよ」  
 
いつもの口調でそう言うと、服に付いた埃を払って立ち上がった。  
 
「サスケさん・・・!」  
「・・・何でゴザル?」  
 
咄嗟に伸ばした手のひらを訝しげに見返される。  
続きを促すように首を傾げた彼の眼光の鋭さに、  
喉元まで出掛かっていた言葉が跡形も無く散っていく。  
 
「・・・え、っと・・・何でもない」  
「ヤエ殿」  
 
下ろしかけた手のひらはしかし元の場所に戻る前にしっかりと掴まれる。  
無理矢理地面に座らされて、その視線が覗き込むようにして私の眼球を真っ向から貫いた。  
 
「言うでゴザル」  
「・・・何でもない、って」  
「疲れているのでゴザルか?」  
「違うわ・・・」  
「なら、何でゴザルか」  
 
ずい、と一気に詰められた距離。  
間近に迫ったサスケさんの体には先程の戦いでついた傷がいたるところにあった。  
痛ましくていたたまれなくて思わず睫毛を伏せた私の頬をそろりと撫でてくる、血の通わないその手は冷え切っていた。  
 
 

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