以前テレビで見たことのある、現役時代のあの筋肉質の体は、  
今も変わっていなかった。  
その太い腕が、今、強く私を抱きしめている。  
でも不思議なことに、その時は、  
蛍一さんに初めて抱きしめられた日のことを思い出してた。  
「行くな! いや、行かないでくれ‥‥」  
 
そんなことを考えてる場合ではなかった。  
 
「いやです。やめてください。私には蛍一さんが‥‥」  
「でも、彼と最後に会ったのはいつだ?」  
「‥‥‥‥」  
「答えられないぐらい前のことなんだろう?」  
「蛍一さんはただ‥‥」  
「理由なんていくらでもつけられる。  
 女房と別れる前だって、外泊するのなんて結構簡単で」  
「蛍一さんはそんな人じゃありません!  
 それよりこんなこと、やめてください」  
 
ほどこうとする私の腕をはねのけるように、  
両方の「かいな」が返された。  
その太い腕のせいで、私は「バンザイ」をしたような状態になる。  
 
その状態のまま、親方は唇で首筋を吸ってくる。  
「ああっ‥」  
触れたとこから来る微妙な感触に、思わず声が出てしまう。  
 
「ベルダンディ。君はとても敏感だな。  
 うん。俺の別れた女房の何倍も感度がいい」  
 
「お子さんが引退されたばかりのこんな時に‥ あなたは‥」  
「それはそれだ。あいつも子供じゃないんだし。  
 今ここにいる俺は、単なる一人の男だよ。  
 君を抱きたいと思ってる、ただの男さ」  
 
くるっと体が半回転させられ、後ろから腕ごと抱きしめられた。  
「いい匂いだ。女神様の匂いか‥‥」  
 
耳元に吹きかけられる吐息に、  
背筋を電気のようなようなものが走る。  
 

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