「聞こえませんか? 蛍一さん。 ほら‥‥」
「え?」
「海が、話し掛けてきています。今」
言われたとおりに耳を澄ませてみる。
でも‥ やっぱりだめだ。
何も聞こえないよ、と正直に言おうと思った。
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クリスマスイブ。
朝早く家を出て、彼女と二人バイクで海まで来た。
ウルドやスクルドがまだ寝ているうちに。
「お姉さまずる〜い」
前もって言えば、まちがいなくスクルドはそう言うだろ。
「ほぅ〜 自分達だけ楽しもうと、そういうわけ? 蛍一?」
冷たい笑顔の裏で、ウルドは何か妨害の手段を講じてくるに決まってる。
いや戻った後で、当然いろいろ起きるだろうが、その時はその時。
とりあえずベルダンディと二人きりの時間が欲しかった。今は。
間違い電話から始まったベルダンディーとの生活の中で、
今こそはっきりと、彼女に対する自分の想いを告げる必要がある。
そう思ったから。
ばんぺいくんだけが気付いて、小さな声で見送ってくれた。
「いってらっしゃ〜い」
笑顔で‥ たぶん笑顔だと思う。
書いてあるだけの顔ではあっても。
海に着いても、どこから話し始めていいものか、
何も思いつけずに、時が過ぎていこうとしていた。
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と、そのとき。
なにかが、
とても小さいけどなにか、そう音楽のように高低のある音が耳に届いた。
「聞こえてきたようですね」
「あぁ。でもはっきりしない。小さすぎて」
「もっと気持ちを楽にして。
心の中に入ってくるものを拒まずに受け入れて。
今、蛍一さんに語りかけて来ているのは、大地と空と海の精霊たち。
大丈夫。蛍一さんなら聞こえるはずです」
ベルダンディはにこやかに俺を見ている。
そう。その音はなぜか胸の中に直接届いている。
あたたかな。包み込まれているような。
何かに抱かれているように、とても穏やかな気分になる。
「これは‥」
「もう少しです。そろそろ語りかけてくる頃です」
「なにを?」
「いろいろなこと」
すぐに様々な思念がなだれ込んできた。
寂しさ。嬉しいこと。怒り。あきらめ。
それ以外にも、とても人間には理解できないような様々な感情。
あるいは何万年分だろうか。
しかしすぐにそれはおだやかになる。
「蛍一さんが聞いてくれて、嬉しかったみたいです。
自然を気遣ってくれる人間はとても少ないから、だそうです。
あっ。こんどは蛍一さんの話が聞きたいって、言ってます」
俺の話? いいよ別に。
いや、そうだ。ベルダンディのこと。話してみよう。
こればかりは、誰に相談することもできないのだから。
彼女と出会ったこと。契約がまちがって受理されてからの日々。
ヴェルスパー 、マーラー、ユグドラシルシステム。
それらをめぐる様々なできごと。
そのなかでつちかわれ、今となってはとめようもない、彼女への想い。
そして‥‥
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いつのまにか精霊たちは俺の胸の中から消えていた。
音楽のようなものも、思念もすべて。
かたわらのベルダンディーを見る。
なぜか赤い顔をしていた。
「どう‥ したんだろう?」
「あっ、 さっき、引き上げていきました。
ずいぶん嬉しかったみたいです。
蛍一さんにくれぐれも御礼を言ってくれと」
「やっぱそうか。でも、どうしたんだい、赤い顔して?」
「帰る前に‥」
「?」
「帰る前に、蛍一さんの気持ち、転送してくれたんです。
精霊たちが」
こんどはこっちが赤くなる番だ。
「あの、俺、 さぁ」
「わたし‥ 嬉しかったんです」
「?」
「蛍一さんがそこまで想っていてくれたのが」
「それって、わかってたことじゃないの?」
「?」
「だってさ、一級神なんだから簡単な法術で」
「それは、出来なかったんです」
「やっぱり、女神の規約で?」
「いえ」
「じゃ、なんで?」
「蛍一さんのこと、好きだったからです」
『私は螢一さんのためにここにいます。
あなたが私を不必要だと思うまでは』
ベルダンディーの言葉は、いつでも契約を思い出させるものだった。
彼女自身の想いがどこにあるのか。
単に、女神であるがゆえにそばにいてくれるのか?
それでもいいという気持ちと、確かめたいという気持ちと、
ずっと二つの間で揺れ動いていた俺に、
今、彼女は答えをくれた。
両腕をつかむ。
目を見つめる。
彼女はそっと目を閉じた。
唇が触れた。
海の音が聞こえた。
二人を祝福してくれているような気がした。
ウルドのために日本酒、スクルドのためにアイスクリーム。
たかが日帰りドライブなのに散財になる。
「いるよな? これ?」
「はい。あったほうがいいですね」
「そうだよな。あの二人はこういうの効くからな〜」
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御土産を見た二人は、すぐに機嫌を直した。
作戦は成功したようだ。
夕方からクリスマスパーティーが始まる。
スクルドは免許の更新で、昼から出かけている。
その前にしっかりアイスクリームを食べていたが。
ベルダンディーの作るご馳走が食べられないのを、残念がっていた。
戻りは明日の夕方だと言っていた。
御土産の日本酒がおいしかったらしく、
一気飲みを繰り返したウルドはかなり酔っていた。
とちゅう、ねずみさんを呼んで、
どうしてもアレが見たいと駄々をこねる。
「え? あたしのいう事が聞けないワケ?」
しょうがなくねずみさんは、バック宙返り1回転半ひねりを見せた。
「スタッ」
フィニッシュが決まる。
「10点10点10点10点10点!」
ウルドは拍手喝采。
いや、確かにすばらしい演技だった。
「ほら、カラだよ。気がきかない男だねぇ」
あわてて酒をつぐ。
女神のくせにほんとに酒癖悪いんだから、この人。
その間に、ベルダンディはそっとねずみさんのそばに行き、
食べ物を包んだものを渡していた。
「奥さんとお子さんの分もね、ご苦労様でした」
ねずみさんは何度も頭を下げ部屋を出て行く。
いつのまにかウルドは、いびきをかいて寝ていた。
「あらあら、お姉さまはもう」
ベルダンディが毛布をかける。
散らかったテーブルを片付ける彼女。
俺はその姿を目で追っていた。
今、息苦しいほどの想いが俺を襲っている。
ベルダンディーを抱きたい。
沸き起こる思いに、とまどいがあった。
しかし、彼女が女神であることへの遠慮をとりはらったあとには、
ただ一組の男と女がいるだけにすぎなかった。
そして俺の中の男が彼女を求めていた。
片付いたテーブルの上に紅茶がのせられる。
カシミールティーの香りの中に二人はいた。
横で鳴り響くいびきが気にならないほど、二人だけの世界に。
手を伸ばし、ベルダンディの手を握る。
すこし間を置いて、彼女が握り返してくる。
テーブルをまわって後ろに座る。
抱きしめる。長い髪をかきあげ首筋にキス。
「うっ!」
ベルダンディーの体がこわばる。
「いや?」
「うぅん」
抱きしめたまま唇が触れ合う。
長い間。
「ベルダンディー。俺‥‥ 君を抱きたい」
「‥‥‥」
どこかで音が鳴ってる。お風呂の沸いたお知らせのブザー。
「あ、あの。すみません。わたし、先にお風呂頂きますね」
ベルダンディーが手を振り解き、立ちあがる。
そして、逃げるように部屋を出て行く。
ふーっ
ベルダンディに嫌われたかもしれない。
欲望を、あまりにもむき出しにしてしまった。
後悔の念と共に、冷えた紅茶を飲んだ。
ガタッ。
ふすまが開いてベルダンディーが部屋に入って来る。
「蛍一さんどうぞ。いいお湯ですよ」
いつもと同じ笑顔の彼女。
少なくとも嫌われてはいないのかもしれない
「わかった、はいるよ」
とりあえずこのもやもやを払いのけようと思った。
立ち上がり、ベルダンディのそばを通り抜けようとしたとき、
耳元でささやかれた。
「お風呂上がったら‥‥ 私の部屋に‥」
それだけ言うと彼女は廊下を歩いていった。
しばらく俺は身動きできずにいた。
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今、布団の中、ベルダンディーは裸のまま俺の胸の下にいる。
柔らかな乳房が俺の胸に当たっている。
かすかな弾力がおしかえすように。
長い髪は俺の指をすりぬけていく。さらさらと。
「さっきさ」
「え?」
「俺、嫌われたかと思った」
「どうしてですか?」
「だってさ、『抱きたい』っていったあと、黙っちゃってさ」
「あれは‥‥」
「あれは?」
「‥‥‥わたしもあのとき ‥‥抱かれたい と思ってたから」
恥ずかしいのか、俺の胸に顔をうずめてくる。
そんな彼女がとてもいとおしく思った。
そういうことか‥‥
抱きしめる。強く。
そしてキス。
ベルダンディーの全てが欲しい。
彼女も同じ気持ち。
求め合う唇は熱くなっていく。
ふれあう皮膚のそこかしこで、ぬくもりが伝わっていく。
もっと熱いものが欲しい。
体をずらし、首筋に唇をはわせる。
切なそうな声が聞こえる。
細い首筋から肩へ、そして胸へ。
真っ白い半球形の乳房に、薄いピンク色の乳首が見える。
その恥ずかしげなたたずまいに引き寄せられ、口に含む。
「あっ!」
彼女の口から思わず声が漏れた。
その声自体に驚いて、身をすくませるベルダンディー。
俺の頭を彼女の両手がつかむ。
しっかりと。
両手で乳房に触れる。きめ細かい感触が心地いい。
二つの乳首を交互に吸う。やわらかく。
何かを耐えるような表情の彼女。
徐々に頭を下げ、おなかにもキスをする。
そして‥
彼女の手がそれを止めようとする。
「もっと楽にして。いつも僕に言うみたいに。
そしえ僕を受け入れて欲しい。あるがままの僕を」
ベルダンディの手が緩む。
大きな深呼吸をしている。
ビロードのような感触。
肩にかかるあの美しい髪と同じように、ふわりとしていて。
唇からは、ふっくらと盛り上がる丘の存在が伝わってくる。
両手をお尻に当て、丘の頂きにキスをした。
「うっ」息をのむのがわかる。
頭のところに置かれた手に力がはいる。
少しずつ、ほんの少しずつおりていく。
目の前のおなかが小刻みに震える。
閉じられた足の奥にたどり着いた瞬間、
ベルダンディのももが固くこわばる。
舌を伸ばす。
「だめ‥‥ やめて‥‥」
いつのまにか、彼女の両手は自らの胸を覆っていた。
さらに舌を伸ばす。
かすかなぬるみ。
そして小さな芽が舌先に触れる。
ビクン。
ベルダンディの体が波打つ。
体の位置をもどし、肩から抱きしめ、くちづけをかわす。
一人だけ見られていたことが、恥ずかしかったのだろう。
強く抱きついてくる。唇が強く吸い返される。
手を太ももの中心へとのばす。
ゆっくりと中に差し入れる。
意図が理解される。
協力するように徐々に足を広げるベルダンディ。
その過程自体に耐え切れないのか、
震えながら体を強く押し付けてくる。
てのひらですっぽりと覆う。
ちょうど中心の部分がかすかにあたる。
ゆっくりと‥‥ 動いている?
なにか生き物のように、そこが。
俺はしばらく、伝わってくる淫らなものの動きに、
感覚を囚われていた。
かすかな吐息が、俺の頭の上のほうで途切れなく続いている。
再び、乳首にキスをし、おなか、そして体の中心へと。
反射的に足が閉じられようとする。
両足に交互にキスをする。
頬でさするようにしてゆっくりと両側に促す。
おずおずと開かれる両足。
舌先で触れる。
「ああっ!」
始めて聞く声だった。
切なくて、そして淫らな声。
それは確かにベルダンディが出していた。
舌先を押し込むと、やわらかなひだは二つに割れた。
ぬるぬるしたものが舌にまとわりつく。
感じてるんだ。こんなに。君は。
先ほど見つけた場所を探す。
かなり上のほうだったような。
彼女のぬかるみのなかを、舌の受ける感触を頼りにたどっていく。
そして、
「うっ」
そうか、ここだ。
もういちど上から下に向かってスッ、と‥
「ああっ、ああっ」
腰が浮く。跳ね飛ばしそうな勢いで。
なんとか押さえ込んで続ける。
「だめです‥ 蛍一さん‥‥ そこは‥」
「痛いの?」
あまりにも苦しそうな言葉に、
中断して、そのままの状態で聞いてみた。
「え?」
「こうすると」
「痛くは‥ ないのですが。
なんか、知らないところに飛んでいってしまいそうで。
大丈夫です。‥‥蛍一さんにすべてお任せします
わたしのすべてを」
その言葉に、彼女がさらに愛しくなってしまう。
そのまま体をずり上げ、抱きしめる。
深いくちづけのあと、顔を離しベルダンディを見る。
気配に気づき、うっすらと目を開ける。
そして見慣れた笑顔が向けられる。
「大好きです、蛍一さんのこと」
「俺もだ」
もう、ひとつになるしか、なかった。
一刻も早く。ベルダンディと。
見も心も溶け合いたいと。その思いだけが俺を支配していた。
いや、彼女も同じに違いない。
ちょうど彼女の足の間に体があった。
具体化した俺の欲望は、彼女のぬかるみの入り口に触れている。
「いい?」
「はい!」
笑顔で答える。
すこしずつ、押し付ける。
ふたつのひだがわかれていく。
入り口へとさしかかる。
なにか‥‥ 抵抗がある。
グッ っと、
「!」
俺の体の下から、抜け出るように上へ行こうとする彼女。
痛いのだろうか?
やめたほうがいいのか?
いや、今は一つになることだけを‥ そう思った。
さらに奥へ‥
「うっ‥‥ うっ‥‥」
必死に歯を食いしばり、悲鳴をこらえる彼女。
だめだ、これ以上、ベルダンディを苦しませるなんて。
これを続けることは‥‥
とまどいの中、そのまま動かずにいた。
「いいんです」
「?」
「続けて?」
「でも‥」
「はやく‥ ひとつになりたいんです、蛍一さんと」
「なんか‥ すごく、痛そうで、俺」
「我慢します。大好きな人に愛されるのですから」
そう言って、首を持ち上げるようにキスをして来た。
「ね?」
「うん。分った」
入り口のところから、なかなか先へ進まない。
苦渋の表情を浮かべるベルダンディ。
思い切って押し込む、
なにかがはじけるような感触と共に、
俺はあたたかいものに包まれていた。
ベルダンディの中で。
荒い息をしている。
やっと目を開けてこちらを見る。
微笑もうとするが、周期的に痛みが襲ってくるのか、
ときどきその笑顔がひきつる。
俺に心配させまいとする、そんな彼女の思いやりに、
心の中があたたかさで満たされていく。
「大好きだよ」
「うれしい」
動かす。
あるいは早く終わったほうがいいかも知れない。
彼女のためには。
「少しの間我慢して」
「はい」
徐々に速く動かす。
俺の分身をベルダンディのひだが包んでいる。
彼女は、全身であたたかく、俺を受け入れている。
痛みに耐えながら。それでも。
終わりが来た。
「ベルダンディ! ベルダンディ!」
「蛍一さん‥ あっ‥ あっ‥」
彼女を強く抱きしめ、愛情のすべてを注ぎ込む。
いくども、脈打つように、くりかえし。
その脈動のすべてが、彼女のひだに伝わっていく。
受け止められているのが分る。
抱き合ったまま、じっとしていた。しばらくの間。
気づくと、
目を固くつぶり、痛みに耐えてた彼女の表情の中に、
安堵の色がうつっている。
そして目を開け、こちらを見る。
つながったままの状態が恥ずかしいのか、
俺の胸に顔を埋めて、そして言う。
「わたし、今、とっても幸せです、蛍一さん」
「‥‥あぁ、俺もだよ」
顔が俺のほうに向けられる
「蛍一さん‥」
俺は、女神様にキスをねだられた。
よけい可愛く見えてしまう。
ベルダンディ‥‥
--------*----*----*----*----*----*----*----*----*--------
あーぁ! もうあいつら手間かかってしょうがないんだよね。
今頃、ちゃんとうまくやってんだろ〜ねぇ。
そうじゃなかったら、張り倒しもんだね。
スクルドの免許更新日を、ちょっといじって行かせちゃって。
で、オスカーとれるぐらいの演技で、酔って寝たふりしてさぁ。
このウルド様が、あれしきの酒でいかれるわけないのにね〜
最初っから好きあってたのに、
あの二人、奥ゆかしくてウブで‥‥
見ちゃいらんないんだよ、まったく。
ま、これでいいでしょ。
やることやって。女神だって女なんだからさ。
でもさ。
ここまで面倒見ておいて、なんであたし一人で酒飲んでるわけ?
あ〜あ。誰かいい男いないかな〜 どっかに。
こんな美人をほおっておくなんて、
見る目ないんだよな〜 みんな!