幕臣時代の同僚とスナックスマイルを訪れた長谷川は今日の酒代が全て
元同僚の奢りでもあった事から最初から終始上機嫌で、華々しかった自分の
過去話を肴に次から次へとボトルを空けた挙句、店の閉店に合わせるようにして
ソファの上で寝入ってしまった。
一緒に呑んでいた同僚は、丁度長谷川の昔話が仕事から恋愛へと変わった
辺りで帰ってしまった。
同僚を迎えに来た可愛らしい嫁の後ろ姿をいつまでも眺めていた長谷川は、
「うちのハツもあれくらい可愛かったもんだ」と小さく呟いが、
別居中の長谷川の嫁は迎えになど来てはくれないだろう。
寂しさを紛らすようにペースを速めた長谷川が潰れるのは時間の問題で、
閉店も近く客も減った店内が静かになっていくのと合わせるようにして長谷川は
寝入ってしまった。
「全然起きないね、どうするお妙?」
言って肩を竦めたおりょうに苦笑いを返しつつ、嫁の代わりに長谷川を引き取って
くれるであろう人物に電話をする。
夜も更けている、電話した先の人物はもうあの冷たい煎餅蒲団に入って眠って
しまっているか、若しくは何処かでちびちびと酒を啜っているかもしれないとは思ったが、
長谷川を引き取って貰えそうなる人物が他には誰も浮かばない。
もし彼が電話に出てくれなかったらどうしよう。
数コール、不安を抱えて冷たい機械音を数えたが、やがて期待通りの声が
受話器を通して妙の耳に届く。
電話にさえ出てもらえば、後は強引に酔い潰れた長谷川を押し付ける事が出来るであろう
という、不確かだが自信があった。
「否だ」と口にしても結局は折れてくれる、それが銀時という男だ――ただ。
そこに行き着くまでのやり取りが回りくどく、非常に面倒だったので、
どうせ最後には引き受けてくれるのなら、その無駄なやり取りを是非止めてもらいたい
と妙は常々思っている。
話があちらこちらに飛んだ挙句、銀時が納得して電話を切るまでの間、
妙は通話料のことばかりを考えていた。「分かったよ」と、銀時が言うまでに
今日は5分もかかってしまった。
万事屋の下の「お登勢」で呑んでいたらしい銀時はアルコールのせいも
手伝ってかいつも以上に話し方が回りくどく、何度も受話器を通り抜けて
そのだらしの無い顔面を殴りつけ、「もういいわよ」と捨て台詞を吐き捨てて
電話を切ってしまいたいと思った。
が、眠ってしまった長谷川をこのまま店に放置も出来ないので、
妙は辛抱強く銀時の言動を受け止め、疲れと眠気とで曖昧に霞んでゆく
思考回路を必死に働かせて一言一言に適切な言葉を返して説得に
成功した。
暴力で相手を捻じ伏せる事の出来ない交渉は、妙を更に疲れさせた。
まだ呑んでる途中なんだと言いながらスナックスマイルを訪れた銀時を、
妙は笑顔で迎えて長谷川を引き渡した。
文句の一つでも言われたら力で返してしまいそうだったが、笑顔の下に隠した
つもりの殺気を感じたのか、銀時は何も言わなかった。
分厚い雲の中に身を潜めた月を遠くに見ながら店を出る。
むにゃむにゃと口の中で意味不明な戯言を呟く長谷川の意識はここには無く、
ずり落ちたサングラスの下から閉じられた目蓋が薄っすら開かれる事もあったが、
妙を見れば「ハツ」と言うだけで他に聞き取れるような言葉もないまま再び目蓋を閉じた。
最後にした、奥さんとの出逢いから結婚までの経緯の話の延長上を夢の中に見ているらしき
長谷川は、夜の風の冷たさも知らないまま、銀時に抱えられるようにして万事屋
へと歩いている。
覚束ない足取りが絡むたびに目蓋を開き、心配だからと万事屋まで付き添って
歩く妙を捉えては「ハツ」と呟く。
そうしてそのまま、傍らを歩く妙に腕を伸ばした長谷川を銀時は抱えなおしながら、
「前にちらっと聞いたんだけど、髪が黒くて胸が薄くてケツが貧相で。嫁さんはお妙に少し
似てるらしい」と、思い出したように教えた。
――だから。
もう寝入っている神楽を起こさぬように静かに万事屋の玄関を開き、
敷きっ放しになっている銀時の蒲団に長谷川を横たえると途端に再び目を
見開いた長谷川が妙の腕を掴んでそのまま離さなくなってしまったのも分からない
わけではなかった。
サングラスを外した長谷川が腕を掴んだまま見上げる妙はきっと、別居中の妻なのだ。
店で散々、妻への恋慕を聞かされたばかりの妙は無下に殴って手を離させることが
出来ないでいたが、助けを求めるように銀時を振り返ると、銀時はお役御免とばかりに
、つい今し方妙に殴られたばかりの頬を掌で押さえながら再び「お登勢」に出かようとしている。
「ほら、閉めるぞ」
と。玄関先から声をかけた銀時が、妙を待つかのようにじっと佇んでいる。
けれど、がっちりと長谷川に腕を掴まれた妙がどうしようかと悩むうちに、待ちかねたのか、
それとも、殴られた頬の恨みか、
「お妙も適当に帰れよ、鍵はポストに入れといてくれればいいから」
と、言い残してさっさと妙を見捨てると玄関を閉めて出て行ってしまった。
静かに玄関が閉じられるのを見詰めていた妙は、ほう、と肩で溜め息をついて。
着物の袖越しに妙の腕をしっかりと掴んでいる長谷川は当分離してくれそう
にも無いと悟ると力で振り解く事に決め、拳を振り上げる。
妙を見捨てて再び呑みに行ってしまった銀時に対して多少の怒りを覚えたが、
呑んでいる途中に中座して酔い潰れた長谷川を迎えに来てくれた上、ここまで運んでくれた
銀時には感謝するべきだろう。
それに、酔い潰れた長谷川は妙の手に負えなくても、腕を掴んでいるだけの
長谷川なら妙が一発殴るだけで、銀時の手を借りずとも直ぐに解決する話だ。
振り上げた拳をそのままに、殴りつける先を確認する。
夢と現実との狭間で朦朧としている長谷川は相変らず妙をじっと見上げ、時折
囁くように「ハツ」と呼びかけている。
矢張り奥さんと勘違いしているのだと思うと殴る手が迷ったが、このまま此処でじっと
長谷川が腕を離してくれるのを待つわけにもいかないと思い直して振り上げた掌を
強く握り締めた――その時だった。
不意に、妙の腕を掴んだ長谷川の手が力を増し、妙が戸惑う間も無く蒲団の上へと
引き倒された。
何が起きたのかも分からないまま、反射的に妙は身を起こそうとしたが、
酔っているはずの長谷川は俊敏に動いて身体を重ねて妙の動きを封じ込める。
腰の辺りを強く押さえるように体重をかけられてしまうと、手足がバタバタと動くくらいで
身体の自由は殆ど利かないも同然だった。
長谷川に組み伏せられても尚、状況が飲み込めないで居る妙が瞳を大きく見開いて、
覆い被さった長谷川を見上げる。
間近に迫る長谷川の小さな瞳と視線がぶつかると、長谷川は妙の腰を更に押さえつける
ようにして強く腰を押し付けた。
「……は…んんっ……」
腹から下腹部へとかかる圧力に、思わず声が漏れる。
喉から漏れでた声は意識的に出したものではなかったが、その声に我が耳を疑うと同時に、
長谷川の重みがじわじわと妙の身体に沁み込んでくるのを感じる。
強く押さえつけられた胴回に感じる重みは不快でしかないはずなのに、
何処か身体の奥の方で甘い痺れを誘っている。
「ハツ」
鼻面に迫る長谷川の唇が囁くと、強いアルコールの匂いが鼻腔に入り込んで妙を
酔わせる。
店では殆ど呑んでいなかったのに、何故か急に酔いが回って意識がふら付く妙の
唇に長谷川は吸い付くと、荒い息を漏らしながら強引に舌を捻じ込んだ。
「……はぁ…ぁ……っ!」
長谷川の舌は太い蛇のように、妙の口内を掻き回して意に反した声を漏らす喉元へと迫る。
口内を荒々しく混ぜ返す長谷川に妙は息つく暇もなかったが、固く閉じた目蓋の奥、
底の見えない暗い淵に落ちる寸前、先程握ったまま有耶無耶になっていた拳を
思い出してもう一度振り上げた。
酔って見境がなくなり、セクハラ行為をする不埒な客を容赦ない鉄拳制裁で裁いてきた妙だ。
想い慕う妻に逃げられたと言うのは同情するが、流石にキスをしたり――まして
舌を入れるなどという、過ぎた破廉恥行為は鉄拳制裁をくれてやるには充分の行為だろう。
目蓋を押し開き、目の前で揺れる黒髪の向こうを見上げ、交じり合う唾液を音を立てて吸い上げる
長谷川の後頭部目掛けて拳を振り上げる。
振り上げた拳を強く握り締めて覚悟を決め、長谷川の後頭部目掛けて振り下ろそうとしたが、
不意に長谷川が妙の口内から舌を抜いて半身を起こす。
殴ろうとしたのが分かってしまったのだろうかと慌てて拳を胸の前に収めた妙の胴の上に
しゃがむ様にして半身を起こした長谷川が、濡れた口元をそのままに何やら着流しの帯を解い
ている。
着流しはとうに着崩れていたが、するすると帯を解いてすっかり脱いでしまうと、
厚い胸と白いトランクスが露わになった。
――その。
白いトランクスが妙な形に膨らんで、丁度妙の朱色の帯の上に乗っていた。
見慣れないものに驚いて戸惑う妙が絶好のチャンスに殴るのも忘れていると、
長谷川は自分を包む最後の一枚に手をかけて腰を僅かに浮かせると全てを脱ぎさってしまう。
「……っ!!」
一瞬視界に飛び込んできた”もの”に思わず妙は固く目蓋を閉じて、身を守るように
胸の前に仕舞っておいた手で顔を覆った。
今ではすっかり目にする事も無いが、遠い昔に見た弟のソレと同じものとは到底
思えない”もの”が、其処にあった。
「ハツ」
小さくて、毛なんて一本も生えてなかった思い出の中の弟の”ソレ”と、今、妙の目の前で
奇妙な生き物のように脈打っている長谷川の”ソレ”がどうしても結びつかない。
妙が混乱する頭を必死に整理しつつ、指の間から”ソレ”を盗み見ていると不意に、
耳元に唇を寄せた長谷川が甘く囁く――
「久しぶりにいつもの、してくれよ」
え?と疑問に思うのはほんの少しの間で、混乱したままの頭で妙が顔を覆った掌を
除けると途端に、塞がれた視界の下で何かが唇に押し付けられた。
益々混乱するだけの思考回路がスパークして弾ける。
「あ」と、驚きに声を上げた時には既に、口内に熱い何かが入り込んで全ての言葉を奪う。
「……ふぅうっ……」
妙の口内いっぱいに膨らんで喉元へと迫る熱いソレを押し返そうにも、
先程太い蛇だと思って散々苦しめられた舌以上に太い”ソレ”は妙の喉元から更に奥深くへと
身体を捩りながら入り込んでくる。
何か言わなくては思う妙が口を動かすと、口内で熱く脈打つ侵入者が妙の歯に身体をこすり付ける。
不思議なもので、異物を早く排除したいのにも関わらず、ソレを噛んではいけないと本能が
教えている。
益々混乱するだけで何も出来ない妙の口内で、長谷川のソレが奔放に動き回っている。
一旦は閉じたものの、徐々に冷えていく頭と共にゆっくりと開いた目蓋の向こうで長谷川が激しく腰を
突き動かしている。
逃げようにも、仁王像のように立ち上がった長谷川は妙の頭を抱え込んで離してはくれなかった。
細長い缶に満たされた渋みの強い緑茶は冷たく、妙の口内を隅々まで浚って冷やした。
通りに面して設置された自動販売機で購入した缶入りの緑茶を、妙は狭い裏路地に
身を潜めて何度も口に含んでは吐き出す、を繰り返している。
勢いよく吐き出された生温かい液体の味など覚えてもいないし思い出したくも無かった
が、引き抜かれた長谷川の陰茎の先から吐き出された粘ついた液体を、
少量だが飲み下してしまった。
食道を伝って胃に流れ込んだ液体は熱く、今も妙の腹の中をじわじわと熱している。
それ所か、胃の辺りから染み出す熱は徐々に下へと下がって妙の下半身に大量の
血液を流し込んでいる。
口の中を緑茶で洗浄した妙が重たい体を塀に預けた――それだけの何気ない動作に
動かした足と足との間が、じんわりと痺れる。
何かが可笑しい。
思いながら、冷えた塀に押し付けた背中の向きを変えようと身を捩る。
途端に下腹部に甘い痺れを感じ、甘い吐息と共に屋根と屋根との間から垣間見える
暗い夜空を仰いだ目蓋を閉じた。
尚も妙を掴んで離そうとしない長谷川の手を振り解いて万事屋を飛び出したまでは
良かったが、歩くのも儘ならない今の状態では自分の家に帰ることさえ難しく思える。
夜の風は冷たいはずなのに、下腹部の熱は妙の思考回路も熱して家路を急ぐ足に絡んだ。
口の中にまだ白濁した液体が残っているような気がして、妙は手にした緑茶を再び
口に含んでから吐き出す。それでもまだ足りない気がして緑茶を口に含んだ――その時だった。
「――お妙さんじゃないですか!」
「どうかされましたか」と、言いながら駆け寄ってくる人物に思わず空いたほうの掌を
握り締めたが、不思議と身体が動かない。
いつもならとうに殴っているはずなのに、息がかかるほどの距離に近藤が近づいても
殴る事が出来なかった。
「呑みすぎですか」
言いながら肩に触れた近藤の顔が間近に迫る。
妙の顔を覗き込む近藤は隊服に身を包んでいる。酒の臭いも一切感じない近藤は、
夜中の市中見回りの最中なのだろう。
走ってきたせいではぁはぁと漏れる近藤の息が妙の顔にかかる。小さな路地裏に
入り込んだ夜風が近藤の吐く息とともに彼の体臭をも浚って妙の鼻腔に入り込む。
あまり洗濯をしないのだろう、隊服から香るむっとする男臭さに思わず眉根を寄せたが、
何故か先程から熱を帯びている下腹部がきゅん、と収縮する気がした。
「……はぁ…ん…」
思わず漏らした甘い声に、心配そうに妙の顔を窺っていた近藤の鼻息が荒くなるのが
手に取るように分かる。
「お、お妙さん?」
呼びかけて、細い肩を掴んだ近藤の手に力が入る。
「具合でも悪いんですか」
言いながら、ぐっと顔を寄せる近藤の前髪が今にも妙の髪に触れそうなところまで迫る。
「ち、近寄らないで――な、殴るわよ」
弱々しい声に近藤が太い眉を寄せて小さく首を傾げる。
殴る前に断りを入れるなど、普段の妙では有り得ないことを敏感に察したようだった。
まだ半分ほど中身を残した缶が裏路地の乾いた土の上に落ちて音を立てた。
緑茶が零れて妙の着物の裾を濡らしたが、顔を俯かせてそれを確認する事は出来ない。
つい先程、長谷川の舌と陰茎とで満たされた妙の口内に近藤の舌が入り込んでいる。
突然唇を押し付けてきた近藤の分厚い胸が、妙の身体を塀に強く押し付けていた。
「……ふぅ……んんっ」
大量に流れ込む近藤の唾液を喘ぎながら飲み込んで、長谷川から排出された
液体と同じ道筋を辿るそれを目蓋の裏に追う。
唾液と共に目蓋の裏で食道をゆっくりと辿っていると、不意に近藤のゴツゴツした
掌が胸元を着物の上から乱暴に揉みしだいているのに気がついた。
「……痛っ」
余程興奮しているのか、力の加減を調整できないでいる近藤の掌に、
絡め取られた舌も構わずに声を上げる。
「あ、す、すいませんっ」
その声を受けて、近藤は妙の口を吸うのを止めると胸を揉んでいた手を止めた。
「――離して」
上がる息を肩で整えながら、今出来る精一杯の凄みを込めて言う。
ぎゅっと眉根に力を入れて間近に迫る近藤の顔を睨みつけると、近藤は情けなく眉尻を
下げたままじっと妙を見詰め返していた。
「その手を離して」
小さな膨らみの上に添えられた近藤の手を握る。
ぐっと力を込めて離そうとしたが、近藤の手はぴくりとも動かない――それ所か。
「すいません」
そう謝罪した近藤は、言うが早いか妙の首筋に顔を埋めて白い喉元を舐め上げた。
「……ひぁっ…!」
柔らかな舌先が上下に行き来するのを感じていると突然、喉元を強く吸われて思わず声を上げる。
そんな妙の声を聞きながら、近藤は胸に添えていた掌を徐に動かすと、着物の合わせ目
を掴んで胸元を大きく開いた。
夜の空気は冷たく、研ぎ澄まされている。
あっという間に露わになった白い胸元に、妙の喉元を強く吸い上げた近藤の唇が降りてゆく。
小さな膨らみが、月の光さえ拒んだ裏路地の暗闇にぼんやりと浮かび上がっている。
先端の紅い実はあっという間に近藤の唇に飲み込まれたが、口内で紅い実が固く熟し
始めると、一度は飲み込んだそれをわざと唇から零して長い舌で弄んでは太い指先で弾いた。
「はぁっ……ああっ」
意に反して漏れ出す声を押し殺しつつ、足を地面に踏ん張って今にも崩れてしまいそうな
身体を必死に支えた。
近藤はもう妙の身体を塀へと押し付けては居なかったが、塀に背中を預けていなければ
地面へと倒れこんでしまいそうだった。
妙の胸元に顔を埋めた近藤の舌先が幾通りもの道筋を描いて妙の白い膨らみを
隙間なく舐め上げる。艶やかに濡れた紅い実を確認するように顔を離した近藤を、
妙は喘ぎながら懇願するように見下ろして口を開いた。
「もう、お願いだからやめ……」
頭の芯が熱に浮かされてぼうっと痺れていた。
近藤の舌先以外、もう何も考える事が出来なくなってしまいそうになる意識を必死に保って
頼み込んだが、普段の妙の態度を知る近藤に、懇願は逆効果だろう。
「あ、はい、すいません」
条件反射なのか、直ぐに謝罪を述べた近藤だが、言葉とは裏腹に妙から離れることなく
ゆっくりと地面へとしゃがみ込んでしまう。
――妙が殴らない事を教えてしまっただけだった。
不意に、あれ程熱を持て余していた下腹部が冷えていくのを感じて慌てて顔を俯かせた。
其処には近藤の黒い髪が揺れているだけで何が起きているのか直ぐには分からなかったが、
身体の中心から頭の天辺に突き抜けるような刺激を感じて思わず身体を小さく跳ね上げる――
「あっ……!」
妙の胸元に左手を置いたまま、近藤の右手が帯の下に入り込んで着物の裾を割っていた。
着物の裾は綺麗に左右に開かれていて、隠しておかなくてはならない中身を近藤の
目の前に曝け出している。
くちゅっと身体の内側で猥らな水音が響いた気がした。
近藤の指先が足と足との間の隠された部分に捻じ込まれた時に発せられた音だった。
「……はぁあんっ」
ぴったりと閉じた足と足との間に入り込んだ近藤の指先が、白い布地の上から妙の
中身を探るように行き来している。
その場から逃げ出すように目蓋を閉じたが、固く閉じた目蓋の裏には近藤のゴツゴツした
指先しか存在しない――
「あ…いや……止めて」
喘ぐように言葉を紡いで目蓋を開くと、地面にしゃがみ込んでいる近藤の後頭部を見下ろして
もう一度懇願する。
妙の白いショーツの真ん中を指先で擦り続ける近藤は返事をすることなく夢中で動作を
繰り返していたが、何かを思い出したように不意に指を止めると妙の顔を見上げた。
「――もう、止めて」
念を押すように言う妙に、近藤は妙の陰裂を撫で擦った指を股の間から引き抜くと己の
鼻先に近づける。
意識を掻き回す近藤の指先から解放されて妙は幾分安堵したが、そんな妙が見守る中、
近藤は指先を鼻面に押し付けた後、舌を覗かせてその指先を口に含んだ。
汚いと妙が羞恥に頬を染め上げるのもお構い無しに、近藤は口尻を持ち上げると恍惚の
表情を浮かべる。
「想像以上じゃないですか、お妙さん」
濡れたショーツが外気に冷えていくのとは真逆に、その内側の熱は高まる一方で
最早押さえ込むのは無理に思えた。
嫌だ嫌だと思うのと同時に、持て余した熱をどうにかして欲しいと願っている自分が居た。
「いつも想像してたんです、お妙さんの此処はどんな匂いがして、そしてどんな味がするのか、を」
意識はとうに逃げ出していたが、身体は全く動かなかった。
何をされるのだろうと言う恐れと、何かをして欲しいと言う欲求が入り混じって何も
考えられなくなっている。
真夜中の裏路地とは言え、誰も来ないと言う確証は無い場所で、近藤の手が
ゆっくりと冷えたショーツを引き下しても、誰かに見られたらどうしようなどという正常な判断
を妙は失くしている。
それは近藤も同じなのだろう、妙のショーツを右足から引き抜くと途端に、待ちきれない
とばかりに秘所に顔を埋めた近藤の荒い息が、熱い。
「直接味わってもいいですか」
散々指先で撫で擦られた陰裂に、生暖かな舌先が入り込む。
近藤は閉じられた足と足との間に再び指先を捻じ込むと、ぴったりと寄り添った陰裂を指で
割って露わにした中身を味わう。
「や……め……」
柔らかな陰裂の中を隅々まで舐めまわす近藤の舌を補助するように、襞を押し開く指先が
奥へ奥へと入り込んで甘い蜜を追い求めている。
狭い静かな裏路地に、近藤の舌先と指先とで奏でる猥らな水音だけが響いている。
「いやぁ……ああっ……!」
柔らかな襞の内側を辿っていた近藤の舌先が強張った芽に触れた。
たったそれだけで、妙の張り詰めた意識は弾け飛んで真っ白に塗り潰された。
……つづく。