細長い缶に満たされた渋みの強い緑茶は冷たく、妙の口内を隅々まで浚って冷やした。  
通りに面して設置された自動販売機で購入した缶入りの緑茶を、妙は狭い裏路地に  
身を潜めて何度も口に含んでは吐き出す、を繰り返している。  
 
勢いよく吐き出された生温かい液体の味など覚えてもいないし思い出したくも無かった  
が、引き抜かれた長谷川の陰茎の先から吐き出された粘ついた液体を、  
少量だが飲み下してしまった。  
食道を伝って胃に流れ込んだ液体は熱く、今も妙の腹の中をじわじわと熱している。  
それ所か、胃の辺りから染み出す熱は徐々に下へと下がって妙の下半身に大量の  
血液を流し込んでいる。  
口の中を緑茶で洗浄した妙が重たい体を塀に預けた――それだけの何気ない動作に  
動かした足と足との間が、じんわりと痺れる。  
 
何かが可笑しい。  
 
思いながら、冷えた塀に押し付けた背中の向きを変えようと身を捩る。  
途端に下腹部に甘い痺れを感じ、甘い吐息と共に屋根と屋根との間から垣間見える  
暗い夜空を仰いだ目蓋を閉じた。  
 
尚も妙を掴んで離そうとしない長谷川の手を振り解いて万事屋を飛び出したまでは  
良かったが、歩くのも儘ならない今の状態では自分の家に帰ることさえ難しく思える。  
夜の風は冷たいはずなのに、下腹部の熱は妙の思考回路も熱して家路を急ぐ足に絡んだ。  
 
口の中にまだ白濁した液体が残っているような気がして、妙は手にした緑茶を再び  
口に含んでから吐き出す。それでもまだ足りない気がして緑茶を口に含んだ――その時だった。  
 
「――お妙さんじゃないですか!」  
「どうかされましたか」と、言いながら駆け寄ってくる人物に思わず空いたほうの掌を  
握り締めたが、不思議と身体が動かない。  
いつもならとうに殴っているはずなのに、息がかかるほどの距離に近藤が近づいても  
殴る事が出来なかった。  
「呑みすぎですか」  
言いながら肩に触れた近藤の顔が間近に迫る。  
妙の顔を覗き込む近藤は隊服に身を包んでいる。酒の臭いも一切感じない近藤は、  
夜中の市中見回りの最中なのだろう。  
走ってきたせいではぁはぁと漏れる近藤の息が妙の顔にかかる。小さな路地裏に  
入り込んだ夜風が近藤の吐く息とともに彼の体臭をも浚って妙の鼻腔に入り込む。  
あまり洗濯をしないのだろう、隊服から香るむっとする男臭さに思わず眉根を寄せたが、  
何故か先程から熱を帯びている下腹部がきゅん、と収縮する気がした。  
 
「……はぁ…ん…」  
 
思わず漏らした甘い声に、心配そうに妙の顔を窺っていた近藤の鼻息が荒くなるのが  
手に取るように分かる。  
「お、お妙さん?」  
呼びかけて、細い肩を掴んだ近藤の手に力が入る。  
「具合でも悪いんですか」  
言いながら、ぐっと顔を寄せる近藤の前髪が今にも妙の髪に触れそうなところまで迫る。  
「ち、近寄らないで――な、殴るわよ」  
弱々しい声に近藤が太い眉を寄せて小さく首を傾げる。  
殴る前に断りを入れるなど、普段の妙では有り得ないことを敏感に察したようだった。  
 
まだ半分ほど中身を残した缶が裏路地の乾いた土の上に落ちて音を立てた。  
緑茶が零れて妙の着物の裾を濡らしたが、顔を俯かせてそれを確認する事は出来ない。  
つい先程、長谷川の舌と陰茎とで満たされた妙の口内に近藤の舌が入り込んでいる。  
突然唇を押し付けてきた近藤の分厚い胸が、妙の身体を塀に強く押し付けていた。  
 
「……ふぅ……んんっ」  
 
大量に流れ込む近藤の唾液を喘ぎながら飲み込んで、長谷川から排出された  
液体と同じ道筋を辿るそれを目蓋の裏に追う。  
唾液と共に目蓋の裏で食道をゆっくりと辿っていると、不意に近藤のゴツゴツした  
掌が胸元を着物の上から乱暴に揉みしだいているのに気がついた。  
「……痛っ」  
余程興奮しているのか、力の加減を調整できないでいる近藤の掌に、  
絡め取られた舌も構わずに声を上げる。  
「あ、す、すいませんっ」  
その声を受けて、近藤は妙の口を吸うのを止めると胸を揉んでいた手を止めた。  
 
 
「――離して」  
上がる息を肩で整えながら、今出来る精一杯の凄みを込めて言う。  
ぎゅっと眉根に力を入れて間近に迫る近藤の顔を睨みつけると、近藤は情けなく眉尻を  
下げたままじっと妙を見詰め返していた。  
「その手を離して」  
小さな膨らみの上に添えられた近藤の手を握る。  
ぐっと力を込めて離そうとしたが、近藤の手はぴくりとも動かない――それ所か。  
「すいません」  
そう謝罪した近藤は、言うが早いか妙の首筋に顔を埋めて白い喉元を舐め上げた。  
 
「……ひぁっ…!」  
 
柔らかな舌先が上下に行き来するのを感じていると突然、喉元を強く吸われて思わず声を上げる。  
そんな妙の声を聞きながら、近藤は胸に添えていた掌を徐に動かすと、着物の合わせ目  
を掴んで胸元を大きく開いた。  
 
夜の空気は冷たく、研ぎ澄まされている。  
あっという間に露わになった白い胸元に、妙の喉元を強く吸い上げた近藤の唇が降りてゆく。  
小さな膨らみが、月の光さえ拒んだ裏路地の暗闇にぼんやりと浮かび上がっている。  
先端の紅い実はあっという間に近藤の唇に飲み込まれたが、口内で紅い実が固く熟し  
始めると、一度は飲み込んだそれをわざと唇から零して長い舌で弄んでは太い指先で弾いた。  
 
「はぁっ……ああっ」  
 
意に反して漏れ出す声を押し殺しつつ、足を地面に踏ん張って今にも崩れてしまいそうな  
身体を必死に支えた。  
近藤はもう妙の身体を塀へと押し付けては居なかったが、塀に背中を預けていなければ  
地面へと倒れこんでしまいそうだった。  
妙の胸元に顔を埋めた近藤の舌先が幾通りもの道筋を描いて妙の白い膨らみを  
隙間なく舐め上げる。艶やかに濡れた紅い実を確認するように顔を離した近藤を、  
妙は喘ぎながら懇願するように見下ろして口を開いた。  
 
「もう、お願いだからやめ……」  
 
頭の芯が熱に浮かされてぼうっと痺れていた。  
近藤の舌先以外、もう何も考える事が出来なくなってしまいそうになる意識を必死に保って  
頼み込んだが、普段の妙の態度を知る近藤に、懇願は逆効果だろう。  
 
「あ、はい、すいません」  
 
条件反射なのか、直ぐに謝罪を述べた近藤だが、言葉とは裏腹に妙から離れることなく  
ゆっくりと地面へとしゃがみ込んでしまう。  
 
――妙が殴らない事を教えてしまっただけだった。  
 
不意に、あれ程熱を持て余していた下腹部が冷えていくのを感じて慌てて顔を俯かせた。  
其処には近藤の黒い髪が揺れているだけで何が起きているのか直ぐには分からなかったが、  
身体の中心から頭の天辺に突き抜けるような刺激を感じて思わず身体を小さく跳ね上げる――  
 
「あっ……!」  
 
妙の胸元に左手を置いたまま、近藤の右手が帯の下に入り込んで着物の裾を割っていた。  
着物の裾は綺麗に左右に開かれていて、隠しておかなくてはならない中身を近藤の  
目の前に曝け出している。  
 
くちゅっと身体の内側で猥らな水音が響いた気がした。  
近藤の指先が足と足との間の隠された部分に捻じ込まれた時に発せられた音だった。  
 
「……はぁあんっ」  
 
ぴったりと閉じた足と足との間に入り込んだ近藤の指先が、白い布地の上から妙の  
中身を探るように行き来している。  
その場から逃げ出すように目蓋を閉じたが、固く閉じた目蓋の裏には近藤のゴツゴツした  
指先しか存在しない――  
 
「あ…いや……止めて」  
 
喘ぐように言葉を紡いで目蓋を開くと、地面にしゃがみ込んでいる近藤の後頭部を見下ろして  
もう一度懇願する。  
妙の白いショーツの真ん中を指先で擦り続ける近藤は返事をすることなく夢中で動作を  
繰り返していたが、何かを思い出したように不意に指を止めると妙の顔を見上げた。  
 
「――もう、止めて」  
 
念を押すように言う妙に、近藤は妙の陰裂を撫で擦った指を股の間から引き抜くと己の  
鼻先に近づける。  
意識を掻き回す近藤の指先から解放されて妙は幾分安堵したが、そんな妙が見守る中、  
近藤は指先を鼻面に押し付けた後、舌を覗かせてその指先を口に含んだ。  
 
汚いと妙が羞恥に頬を染め上げるのもお構い無しに、近藤は口尻を持ち上げると恍惚の  
表情を浮かべる。  
 
「想像以上じゃないですか、お妙さん」  
 
濡れたショーツが外気に冷えていくのとは真逆に、その内側の熱は高まる一方で  
最早押さえ込むのは無理に思えた。  
嫌だ嫌だと思うのと同時に、持て余した熱をどうにかして欲しいと願っている自分が居た。  
 
「いつも想像してたんです、お妙さんの此処はどんな匂いがして、そしてどんな味がするのか、を」  
 
意識はとうに逃げ出していたが、身体は全く動かなかった。  
何をされるのだろうと言う恐れと、何かをして欲しいと言う欲求が入り混じって何も  
考えられなくなっている。  
真夜中の裏路地とは言え、誰も来ないと言う確証は無い場所で、近藤の手が  
ゆっくりと冷えたショーツを引き下しても、誰かに見られたらどうしようなどという正常な判断  
を妙は失くしている。  
それは近藤も同じなのだろう、妙のショーツを右足から引き抜くと途端に、待ちきれない  
とばかりに秘所に顔を埋めた近藤の荒い息が、熱い。  
 
「直接味わってもいいですか」  
 
散々指先で撫で擦られた陰裂に、生暖かな舌先が入り込む。  
近藤は閉じられた足と足との間に再び指先を捻じ込むと、ぴったりと寄り添った陰裂を指で  
割って露わにした中身を味わう。  
 
「や……め……」  
 
柔らかな陰裂の中を隅々まで舐めまわす近藤の舌を補助するように、襞を押し開く指先が  
奥へ奥へと入り込んで甘い蜜を追い求めている。  
狭い静かな裏路地に、近藤の舌先と指先とで奏でる猥らな水音だけが響いている。  
 
「いやぁ……ああっ……!」  
 
柔らかな襞の内側を辿っていた近藤の舌先が強張った芽に触れた。  
たったそれだけで、妙の張り詰めた意識は弾け飛んで真っ白に塗り潰された。  
 
 
 
「お風呂が出来ましたよ、姉上」  
 
気がつくと、自宅の居間に置かれた炬燵に足を突っ込んで  
畳の上に無造作に身体を投げ出していた。  
眠っていたわけではなかったが、瞬きも忘れて開かれた瞳に映っているのは  
襖の脇に立って心配そうに妙の顔を窺っている弟ではない。  
長谷川の陰茎を口いっぱいに頬張り、下腹部を近藤の舌に蹂躙される猥らな夢が  
いつまでも妙の頭の中を満たしている。  
 
いや。  
あれは夢なんかではないことを知っていた。  
いっそ夢なら良かったと願い、あれは悪い夢だったのだと繰り返し自分に  
言い聞かせたりもした――が。  
猥らな行為を受けて現実から遠く引き離された自分を抱きかかえて  
家まで運んでくれたのは近藤だ。  
 
「お風呂は明日にして、このまま眠りたいんだけど」と。言えずに妙は身体を起こすと、  
立ち上がって風呂場へと向かう。  
眼鏡の奥から真っ直ぐに自分を見詰めている弟の視線が痛い。  
自分を慕う弟の気持ちを裏切ったような気がして、正面から顔をあわせる事も、  
まともに会話を交わすことも出来ない。  
長谷川と近藤から受けた行為が彼を裏切っているような気がした。  
――いや。  
行為を受けてあられもない声を発し、誰に見られるとも知らない場所で痴態を晒し、  
身体の奥底からもっともっととせがむ声に身を委ねた猥らな自分が、彼を裏切ったのだ。  
 
「お蒲団は僕が敷いておきましたから」  
 
「お風呂から出たらそのまま眠れますよ」という新八の声を背中に聞きながら  
脱衣所の扉を開く。  
結婚するまで貞操を守ると言った自分に弟は「今時」と口ではバカにした様子だったが、  
見詰め返す視線は嬉しそうに柔らかく微笑んでいたのを不意に思い出す。  
姉上、姉上、と。無心に慕ってくれる弟を裏切ってしまったという事に胸が痛んだが、  
未だ身体の奥底からじんわりと沁み出ている甘い痺れが妙の意識を掴んで離さない。  
 
「新ちゃん、ゴメンね」  
 
脱衣所の中はひんやりとしていたが、浴室の中は真っ白な湯気で満たされていた。  
崩れた帯を解きながら、あれ程嫌っていた近藤の舌先が生々しく残る下腹部を意識する。  
新八が慕ってくれる自分には戻れない気がして小さく呟いた――その時だった。  
 
「随分とお疲れのようですが、お風呂に入ってよーく身体を綺麗にして下さいね」  
 
着物を脱ぎながら、近藤に引き下されたショーツを失くしていることに気が付いた。  
が、不意に脱衣所の外からかけられた新八の声に驚いて、妙は急いで湯気で満たされた  
浴室に飛び込むと湯船に身を沈めた。  
 
 
「湯加減はどうですか」  
 
妙が浴室の扉を閉めるのと同時に、脱衣所の扉が開かれる音がして新八が入ってきた。  
暗黙の了解というか、異性である姉の妙が入浴している時には決して浴室へは  
近づかない新八が今、曇りガラス一枚で隔てられた場所にまで近づいている。  
暑い夏の夜に妙がバスタオル一枚で新八の前を横切っただけでも目を三角にして怒る新八が、  
裸の妙がそこに居る事を承知で近づいた意図が見えない。  
新八の声に妙な緊張感を覚えつつ、妙は湯気の立つ湯船の中に深く身体を沈める。  
 
「うん、丁度いい」  
 
努めて冷静に言って返しながら、近藤に担がれて帰って来た姉を弟は心配して  
いるだけなのだろう、と妙は思う。  
新八が玄関を開けた時には既に近藤から身体を離していたが、あれだけ嫌っていた  
近藤を殴ることなく、肩を並べて立っていた姉はどう考えても不自然だろう。  
 
”あれだけ嫌っていた近藤を”  
 
湯は温かく、冷えた身体をゆっくりと温めている。  
手に触れる事さえ許さなかった、あれだけ嫌っていた近藤に夜中に担がれて帰って来たのは  
確かに不自然には違いないが、その理由が彼に秘所を散々いいように弄られて失神したから  
なのだと弟が知ったら卒倒してしまうかもしれない。  
 
「ちゃんと綺麗に洗ってますか」  
 
――が。  
そんな事は分かる筈が無い、と。  
妙が自分に言い聞かせていると不意に、新八と妙とを隔てていた曇りガラスが開かれた。  
湯気は一気に新八へと流れ出て、彼の眼鏡を白く曇らせる。  
 
「ちょ、ちょっと新ちゃん!?」  
 
肩まで湯船に浸かっていたので見えるはずも無かったが、言いながら妙は両腕で  
身体を抱きこんで胸元を隠す。  
裸にバスタオル一枚でも顔を赤らめて怒る弟とは、もう何年も一緒に風呂に入っていない。  
 
湯気の引いた浴室にすっと踏み込んだ弟は青いパジャマを着たままだった。  
弟が裸で無かったことに安堵するも、一緒に風呂に入るわけでもない弟が何故姉が入っている  
浴室に足を踏み入れているのかが分からなかった。  
 
「……な、なに?」  
 
湯船の脇に立った弟を見上げて尋ねた。  
必死に目を凝らしたが、妙を見下ろしているであろう瞳は白く曇った眼鏡の奥に隠されて  
しまっている。  
 
無言のまま、不意に新八は妙に手を伸ばすと濡れた白い腕を掴んで引っ張り上げた。  
新八の意図がまるで見えない妙は驚いて彼のなすがまま、立ち上がる。  
片方の腕が新八に強く掴まれていたので残された腕で必死に前を覆い隠したが、  
胸と下腹部のどちらを隠そうか迷うばかりで上手くいかなかった。  
 
「よーく洗いましたか」  
 
ぐっと胸元に引き寄せられて思わず倒れそうになる。  
慌てて湯船から足を引き抜くと、洗い場へ下りた。  
青と白の細いストライプで構成されたパジャマの胸元に引き寄せられ、寄り添うと、  
梳いた髪から落ちた滴が新八のパジャマを濡らす。  
 
「い、今からちゃんと洗うから……」  
 
何が起きているのか、混乱する頭を必死に整理しつつ、新八の問いに答える。  
「何してるの、濡れちゃってるじゃない」と。口早に続けて新八の腕を解いて胸を突き返し  
たが、新八は微動だにしなかった。  
 
「ここ」  
 
妙の腕を強く掴んだまま、新八の右手が踊るように動いて、隠し切れなかった妙の胸元に  
下りる。  
妙が「え」と短い驚きの声を上げる間も無く、男にしては繊細な新八の指先が妙の小さな膨らみ  
の天辺を摘み上げた。  
 
「……っ!?」  
 
思わず漏れそうになる声を飲み込んで目を見張る。  
新八は摘んだ紅い天辺をそのまま指の腹で擦り合わせ、何かをぶつぶつと呟いている。  
 
「ぬるぬるしてるじゃないですか、ちゃんと洗ってください」  
 
何を言っているのだろう、と。新八の顔を覗き込みながら妙が必死に耳を澄ましていると、  
不意に妙を見詰め返して新八が言う。  
 
「ここも」  
 
いつの間にか眼鏡の曇りが薄らいでいる。  
尋常でない様子の新八の瞳が見えたと思った瞬間、妙の胸の頂を擦っていた新八の手が、  
滑るように腹部を撫で下りて下腹部へと到達する。  
 
「な……っ!?」  
 
湯で濡れた黒い茂みを乱暴に掻き分けてて、新八の指先が迷うことなく妙の陰裂へと  
差し込まれた。  
 
「ここもぬるぬるじゃないですか。もしかしてかなり臭うんじゃないですか」  
 
低く囁くような声に憤りを隠しているような新八の声に、妙の身体が凍りつく。  
 
「嫌いだなんて良く言いますね、あの男に何をしてもらったんです?」  
 
咎めるように言いながら、新八の指がぬめりを落とすように陰裂を前へ後ろへと行き来する。  
 
「このぬるぬるは何なんですか、あの男の唾液ですか、それともはしたなく姉上が涎を垂らした  
 からですか」  
 
「そのどっちもですか」と、強く言い放った新八の指先が、行き来するたびに襞を分け入って  
陰裂の中を深く深く沈んでゆく。  
 
「バレないとでも思ったんですか」  
 
耳元に唇を寄せた新八が、低い声で囁きながら徐々に硬く強張ってゆく芽を指先で摘む。  
 
「実は、姉上が遅いので心配して探しに行ったんですよ」  
 
囁いて、新八は強張った芽を指先で捻り潰すようにして摘み上げる。  
ひぃっと思わず小さく悲鳴を漏らして反射的に閉じた目蓋の裏に、あの暗い路地裏で近藤に  
秘所を舐められていた自分の姿を見た。  
 
「我が目を疑いましたよ」  
 
足元から何かが崩れていくような感覚を覚え、妙は身体をぐったりと新八の胸に凭れ掛けた。  
混乱を極めた頭の中では最早何も考える事は出来ない。  
ただ、強張った芽を指先で強く擦られる感覚だけが妙の身体を支配している。  
 
「気持ちいいんですか?」  
 
洗い場に置いただけの足が小さく震えていた。  
新八の指が動くたびに襲い掛かる快感によって、漏れそうになる声を必死に堪える。  
ぎゅっと閉じた目蓋を開くとことは出来ない。  
この快感をもたらしているのが弟だと認めるわけにはいかなかった。  
 
「弟に弄られて?」  
 
そんな妙の気持ちを見透かすように、新八が耳元で囁く。  
強張った芽は血液をたっぷりとその中に含んではしたなく膨れ上がっている。  
つい先程、近藤の舌先が触れただけで弾けた意識は、更に強い刺激を待って必死に耐えている。  
 
「こんなに洗ってるのにぬるぬるが全然落ちないですね」  
 
言って、擦っては摘む、を繰り返す新八の指先が不意に動きを止める。  
 
「――逆にどんどんぬるぬるして来てますよ、姉上?」  
 
もうこれ以上は耐え切れないと足を踏ん張る妙が安堵したが、薄っすらと閉じた目蓋を開いて  
余力で弟の胸を突き返そうとした瞬間、新八ははしたなく涎を垂らす陰裂の一番深い部分へと  
一気に指を沈めた。  
 
「でも、どんなにはしたなく涎を垂らしても、弟の僕は指くらいしか入れてあげられ  
 ないですよ?」  
 
「ああっ」と思わず漏らした声が狭い浴室に響いた。  
びくっと跳ね上がってそのまま新八の胸を離れ、洗い場に倒れそうになった身体を浴槽の淵に  
手をつく事でなんとか堪えている。  
漏れそうになる声を唇を噛むことで必死に堪えると、新八の指先が奏でる猥らな水音だけが  
静かな浴室を満たしていった。  
 
 

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