心地よいまどろみの中で夢を見ていた。なんて事のない昔の夢。  
攘夷戦争に参加した頃やカンパニーを立ち上げたばかりの頃の夢。  
ついこの間のように感じられるのに、今や自分が立ち上げたカンパニー快援隊は巨大に成長を遂げ、メンバーも大分変わった。  
夢の中に出てきた昔の仲間の多くはもういない。  
自分もいずれ宇宙の塵となって消えてゆくのだろう。  
 
自分が死ぬことについて、さして怖いと思ったことはない。  
ちっぽけな人間が一人消えるだけだ。宇宙の広さが変わる訳でなし。どうということはない。  
自分の命とか名誉とか権力なんて小さい事を気にするより、もっとでかくて面白いことが宇宙には広がっている。  
大儀を前に自分なんて小さい枠の事は拘る気になれない。  
死ぬ時だって笑っていたい。大したことではないのだから。  
大企業の頭と言われるようになった今でも、その考えは変わらない。  
いつ塵に還ってもいいように生きる。それだけだ。  
それだけの筈なのに。  
 
…淋しい。  
 
先ほどの夢を見て、柄にもなくそういう気持ちになった。  
 
今でも楽しくやっている。  
なのに。  
 
淋しい。  
 
失うと云うことはいつになっても淋しいものだ。  
寧ろ年を取れば取るほどその気持ちは大きくなる。  
昔の仲間が消えて、自分も消えてしまったら……何も残らない。  
残らなくて良い。良いのに変わりは無いのだが、以前は感じなかった感情が付きまとう。  
 
…淋しい。  
 
以前は自分に関すると言えば淋は淋でも淋病だけだと思っていたのに。  
全くもって似合わない。  
全くもって柄じゃない。  
 
夢から覚める直前に、坂本はそんなことを考えていた。  
 
その坂本の視界を突然眩しい光が襲った。  
「んー何かやー、もうちっと寝かせてくれんかやー」  
まだ頭が完全に覚醒していない。  
うっすらと眼を開けると鼻先5pの距離で不機嫌な表情の美女と眼があった。  
 
「うおっっ!!陸奥じゃなかがか!!ビックリさせんでくれんかやー」  
 
この女性は坂本の腹心で仕事上のパートナーである。  
無愛想な態度や容赦ない毒舌は頭に来る事も多いが仕事はキチンとこなすし、的確な判断も下せる。  
坂本は彼女を信頼していた。  
「………。」  
陸奥は坂本の黒眼鏡を持ってその眼をのぞき込んでいる。  
坂本が眩しいと感じたのは彼女が坂本の黒眼鏡を外したかららしかった。  
何時まで寝呆けゆうがか、こんモジャモジャ!  
この部下にそう叩き起こされる事はよくあるが、こんなに長い事見つめられる事はそう無い。  
陸奥の長い睫が切れ長な瞳を縁取り、彼女の白い肌に陰を落とす。  
形の良い薄い唇は紅でも差せばより美しく艶やかに見えるだろう。  
黙っておればコイツもなかなか別嬪なんじゃがのー、と呑気に考えながら坂本も部下の顔をぼーっと見つめ返す。  
 
「…どうしてあんな事したんじゃ」  
 
ようやく陸奥の桜色の唇が動いて言葉を紡ぐのだが、寝呆けた頭で見惚れていた坂本には言葉の意味まで届かない。  
既に脳みその半分は二度寝の態勢に入りかけている。  
ぼーっと涎を垂らして自分を眺めるだけの坂本に陸奥の表情が固まる。  
「何時まで寝呆けゆうがか、こんモジャモジャ!質問に答えんか!」  
これが上司に対する部下の口調かとも思うが、陸奥の鉄拳を鼻ッ柱に食らって坂本はようやく覚醒した。  
「なんじゃあ。ワシが何ぞしたがか?」  
涙目になりながら鼻を押さえようと右手を上げると坂本のわき腹に鋭い痛みが走った。  
「〜〜〜〜ッッ!!!!」  
声も出せずに身悶える坂本を見て心底呆れた顔をして陸奥が洩らす。  
「昨日のことも覚えちょらんのか」  
坂本が傍らの姿見に目をやると上半身裸で腹から肩にかけて包帯巻きにされた自分が映っていた。  
 
宇宙を航海していれば海賊なんていくらでも出会う。  
交易の盛んな惑星の周りは特に危険だ。  
ハイエナのような海賊たちに備えて、坂本の艦もそれなりの軍備をしている。  
そこいらの雑魚など軽く蹴散らせるだけの力は持っている。  
昨日の海賊たちもいつも通りに蹴散らした。  
陸奥の守備も手伝ってこちらは何の痛手も被らなかった。…筈だったのだが。  
 
戦いに気を取られすぎて、ネズミが一匹侵入していたのに気づかなかったらしい。  
 
坂本の革新的な商売の仕方は少なからず敵を生んでいた。  
また、一部の過激な攘夷派からは天人側に寝返った売国奴、などと目の敵にされていた。  
よって、坂本辰馬はしょっちゅう暗殺者に狙われる身分にあった。  
戦いの混乱に乗じて、その男は坂本の命を狙っていた。  
一番にそれに気づいたのは陸奥で、相手の武器を素早く蹴り落とし、取り押さえた。  
すぐに男衆が加勢して、男は拘束された。  
そのまま宇宙空間に捨てていっても構わなかったのだが、最寄の惑星の警察に引き渡すことになり、輸入動物を繋いでおく檻にひとまず閉じ込めておくことにした。  
武器を奪われすっかり大人しくなった男を檻に入れようとした直前、男はニヤリと笑みを浮かべ、常人離れした動きで短剣を振りかざした。  
 
坂本にではなく、彼の隣にいた 陸奥に。  
 
何故男が陸奥を狙ったのか、とか、どこから短剣を出したのか、とか、何も考えてはいなかった。  
 
 
ただ、  体が  勝手に。  
 
 
坂本は陸奥を庇う形で覆いかぶさり、結果男の短剣を右脇腹で受け止める形になった。  
男はすぐに射殺されたが、坂本の脇腹には深々と短剣が突き刺さっていた。  
坂本の腕の中で陸奥は大きく目を見開いていた。その瞳の中に映る自分の姿を見つめながら坂本は笑った。  
普段海賊に襲われても、殺し屋に殺されかけても眉一つ動かさない女が震えているのがわかったから。  
 
 
た  つ  ま  
 
 
陸奥の唇が震えながらそう動くのを眼の端に捉えながら、坂本は意識を失った。  
 
 
「何であんな事したんじゃ…アンタぁ、頭としての自覚はなかがか」  
陸奥が再び怒ったような顔で坂本に問う。  
「なんじゃぁ、せっかく助けてやったのに…可愛げのない女子じゃのぅ」  
やっぱりおりょうちゃんのが100倍可愛いぜよ、と思ったが口には出さない。  
何故かおりょうちゃんの話をすると陸奥の機嫌が悪くなるから。  
 
艦内の坂本の寝室に二人きり。  
陸奥はここまで朝食を運んで来てくれたらしい。  
それは有難い。有難いのだが。  
仮にも自分の身代わりになってくれた恩人に向かって。  
しかも命に別状は無かったようだが脇腹に重傷を負った怪我人に対して。  
感謝を述べるならともかく寝起きから説教するとは。あまつさえ拳で叩き起こすとは。  
 
可愛くないのぅ…  
 
仏頂面でこちらを見つめる陸奥を眺めながら坂本は溜め息を吐く。  
そんな坂本に相変わらずの調子で陸奥が続ける。  
「これくらいの怪我で済んだから良かったものの、本当に殺されちょったらどうするつもりじゃ!  
アシのような部下と頭のアンタだったら、アンタの命ば優先させるが道理じゃろう」  
アンタがおらんで快援隊ばどうするつもりじゃ!!  
説教臭くなる陸奥に坂本もいつもの調子で答える。  
「あっはっはっは!わしがおらんでも、陸奥がおりゃあ快援隊は機能しとるろー」  
自虐でもなんでもなく実質、快援隊は陸奥が仕切っているのだし、実際に自分がいなくても陸奥になら全て任せられるとも考えていた。  
またいつものように、頭のあんたがそんなこっちゃ困るぜよ!!とこの部下は怒るのだろうと思ったのだが。  
 
「……わしらは坂本辰馬じゃき、ついてきたんじゃ。アンタがおらんようになったら…意味がないき…」  
 
急にしおらしく俯かれてしまい、拍子が抜ける。  
気丈な態度と辛辣な物言いから、日頃この部下を女と意識したことはなかった。  
女性の持つ柔和なイメージのかけらも感じることはなかったし、仕事の出来は男以上だ。  
実際、彼女は武芸にも秀でていたし、もし男女の体格差がなければ坂本より圧倒的に強いはずである。  
それが下を向いて小さくなってしまうと、頼りなげな、儚い印象しかなくなる。  
普段被っている笠を外して見ると華奢な肩のラインや絹糸のように繊細な髪の美しさが目立つ。  
背だって坂本の胸にも届かないし、こんなに細い体は抱けば折れてしまうのではないかとさえ思えた。  
黙っていれば美女、とは今朝も思ったことだが、本当に黙られると どきりとする。  
 
「痛かろー……」  
 
陸奥の細い手が伸びて包帯を巻かれた坂本の傷の上に触れた。  
触れるか触れないかのそっとした動きだったが、心臓を鷲?みにされた。  
坂本の傷口を見つめる陸奥の瞳が切なそうに潤んでいるのを見て、心臓の鼓動がやたら早くなるのを感じた。  
 
「……すまんかった………半分は、アシの落ち度じゃき…」  
 
うって変わって申し訳なさそうに項垂れる陸奥に、坂本はどうしてよいか解らなくなる。  
 
「あはっはははは…こんな傷よりおんしに殴られる方が痛いちやー」  
 
無理にいつものように軽口を叩くのだが、この部下はますます泣きそうな顔をするので、坂本はうろたえた。  
こんな陸奥は見たことがない。  
自分もこんな気持ちになることはなかった。  
今朝の夢といい、今のこの状況といい、変だった。  
坂本はまだ夢の中にいるような感覚に襲われた。  
陸奥がいつもより綺麗に見えたし、いつもより愛らしく思えた。  
傷口に添えられた陸奥の指先が熱く感じられて、良からぬコトばかりが頭に浮かぶ。  
この指先に繋がる腕や肩は抱けばどんな感触がするのだろうか。この細い体の芯も熱を持っているのだろうか。  
 
もし、 この女を抱けるなら、 この女はどんな声で啼くのだろうか。  
 
坂本はそんな考えを振り切るかのように、口を開いた。  
 
「はっはっは…そげにいつまでも触られちゅうと、傷口とは別の箇所が熱を持つきにー  
 ……抱いてしまいたくなるろー…」  
 
何言いゆうがか、こんたわけモンが!!と鉄拳の一つも喰らう……筈だった。いつもだったなら。  
 
ところが。  
 
「抱いてくれても…かまわんきに」  
俯いた陸奥が小さくポツリと呟いた。  
 
坂本はその時自分がどんな顔をしていたのか覚えていない。  
気づくと自分の膝の上に陸奥を引き寄せて彼女の唇を塞いでいた。自らのそれによって。  
 
突然の口付けに眼をシロクロさせる陸奥に構わず、角度を変えて何度も彼女の唇を啄ばむ坂本。  
その間に、両の手はちゃっかりと陸奥の服を脱がしにかかる。  
 
「ちょっ、…待ち…っ、んんっ…ま たんか!!」  
顔を真っ赤にして涙を滲ませた陸奥がやっとのことで坂本の髪の毛を掴む。  
「あだだだだ…! 抱いていいち言うたんはおんしぞ?」  
陸奥に髪を引っ張られて、こちらも涙目の坂本が返す。  
「……今 は、 傷口が開いてしまうき、 “激しい運動” は、 いかん」  
「………“優しい運動”程度に抑えるきに」  
坂本の体を気遣ってか、中止を訴える陸奥に即答して行為を続行しようとする坂本。  
だが次の瞬間、坂本は再び髪を引っ張られて行為の中止を訴えられた。  
「そう言いゆうが、一度火が点いたモンは簡単には治まらんぜよ」  
股間を指差して愚図る坂本に陸奥が仕方ない、とばかりに溜め息をつく。  
 
「…………アシが…口でしちゃるき…辛抱せぇ…」  
 
思ってもみなかった陸奥の言葉に、一瞬頭が真っ白になる。  
「…………そ、…………え……?」  
言葉にならない坂本を尻目に、陸奥の指が坂本の固く熱を持った芯に服の上から触れた。  
ゆっくりとジッパーを下ろして下着の中で窮屈そうにしているソレを取り出す。  
陸奥の美しい顔が男の匂いを放つ自分のソレに近づくのをいけないものを見るような気持ちで坂本は見つめた  
いや、尺八自体は好きなのだ。尺八の上手い娘に入れあげて通い詰めた店は一つや二つではない。  
むしろ、馬鹿が付くほど大好きなのである。  
が、陸奥にソレをさせるには何故か罪悪感が伴う。  
あの気位の高い陸奥が。男の股間に顔を埋めて。薄くて形のよい唇をはしたなく開いて。  
醜悪な男の肉棒をその柔らかい唇の中に…。  
「…あ…」  
ちゅぷ…と音を立てて坂本の亀頭が陸奥の口に含まれると坂本の全身にゾクゾクと快感が走った。  
更に裏筋から這い登るように陸奥が舌先を這わす。  
みるみる一回り以上も太さを増した肉の棒に僅かに眉根を寄せつつも懸命に口に含もうとする陸奥。  
その姿がいとおしく感じられて、陸奥が坂本のソレに口付けてから何分も経っていないというのに坂本は…、  
 
「……出る…ッ」  
「ふぁ?」  
 
びゅくびゅくどぷッ  
 
陸奥の顔面に白い欲望をぶちまけてしまった。  
 
どろりとした体液を顔に浴びながら幾分頬を染めた陸奥が訊ねる。  
「……満足…しゆうがか?」  
お互いに軽く興奮していて息が落ち着かない。  
陸奥と視線が合うと再び欲望が疼きだす。  
先程自分が脱がせかけた着物が肌蹴て、鎖骨から肩がむき出しになっていた。  
青磁のように肌理の細かいこの肌をもっと見たい、直に触れて感じてみたい。  
欲望には際限が無く、みるみるうちに坂本の雄は硬度を取り戻した。  
 
「まだ足らん」  
 
脇腹が痛むのも気に留めないで再び陸奥を引き寄せると寝台の上に押し倒す。  
「おんしの中に入らんことには、どーにも治まりがつかんようじゃ」  
抱かせぇよ、陸奥。と圧し掛かって耳元で囁くと、色ボケ毛玉!と小さく毒づかれた。  
陸奥の顔に彼女の髪の束が被さって表情が見えない。  
絹糸のような豊かな髪に指を通して掻き揚げると拗ねたように此方を睨み付ける陸奥と眼が合った。  
眼が合った途端に安心した。  
いくら毒づいて見せても、その眼が坂本を少しも拒んでいなかったので。  
 
「綺麗な顔が台無しじゃのぅ…」  
親指で陸奥の顔に付着した坂本の精液を拭ってやる。  
「誰のせいじゃ…」  
文句を言いながらも抵抗をやめて大人しくされるがままになる陸奥。  
 
そのまま顔を寄せて、今度は優しく口付けた。  
 
「ははは…青臭い味がするのー」  
「自分で出したモンじゃろ」  
「で?」  
「?」  
「抱いてもよかがか」  
「………傷口開いても知らんぜよ」  
 
ようやく陸奥のお許しを得て(?)、堂々と彼女の衣服を剥ぎ取っていく。  
陸奥はその間中、ずっと顔を横に背けて体を強張らせていた。  
羞恥のためか、または今更恥かしがっている自分にきまりの悪さを感じるのか、顔を真っ赤に染めて眉を顰めている。  
なんというか、初々しい。  
一枚ずつ脱がせていく毎に、何故かこちらも緊張してきた。  
普段身につけているお世辞にも女らしいとは言えぬ服の下には、透けるような瑞々しい肌があった。  
細く締まったウエストやそこから続く柔らかな腰のラインは紛れも無く女のものである。  
閉じ合わされた二本の脚は、腿から細く締まった足首まで見事としか言いようが無く美しく、思わず見惚れてしまう。  
遂に彼女の身を覆うものは上下の下着のみとなった。  
寝室の明りの元で恥かしそうに身をよじらせる陸奥を前に坂本の心拍数はピークに達した。  
まるで筆おろしの小僧のように興奮していた。全く余裕がない。  
そりゃあ、素人相手は久し振り、と言うのもある。自分の直属の部下に手を出そうとしている、と言うのもある。  
それにしたって、このテンパリ具合はどうなのだ。モジャモジャの鳥の巣は中身が真っ白の状態だった。  
 
やたら大きく響く自分の心臓の音を聞きながら陸奥の体に触れる。  
ぴくり、と両腕で胸を隠していた陸奥の肩が震える。  
呼吸が熱を持ちはじめて互いに言葉数が少なくなる。  
どちらからともなく唇を求め、やがて長く深い口付けが始まった。  
後は体が勝手に動いた。  
もどかしげに陸奥の体を覆う布を剥ぎ取り、自分の下穿きも脱ぎ捨てた。  
脇腹の痛みは全く気にならなかった。  
ただ熱に突き動かされて互いの体を弄った。  
肌と肌が擦れあう感触だけで頭の芯に快感が走った。  
早くこの女の中に入りたい。この女をもっと深く味わいたい。  
いつもとは違う切羽詰まった感情が坂本を動かしていた。  
 
 
坂本は女を抱くのが好きだった。  
肌を合わせる女の多くは生活の為に春を鬻いでいる者たちだった。  
彼女たちは皆一様にいい匂いがしたし、柔らかく坂本を包んでくれた。  
坂本は彼女たちが好きだった。  
代価を支払う事とは関係なく、床を共にする時は互いが楽しくなければならないとも考えていた。  
坂本が腰を突き入れると彼女たちはそれぞれの「声」で「鳴いた」。  
演技で大げさに声を上げる者と快楽から声を洩らす者の「声」の違いは一発でわかる。  
坂本は演技から本当の喘ぎに「鳴き声」が変わる、その瞬間が好きだった。  
岡場所に通う目的の半分は女の褥で上げる声を聞くため、と言っても過言ではなかった。  
 
その自分が。  
こんなに余裕をなくして。  
一人の女を何故こんなに求めているのだろうか。  
 
陸奥の仕草の一つ一つ、表情の一つ一つが坂本を狂わせていた。  
仕事をしている時は隙のない身のこなしにポーカーフェイスで通している癖に。  
 
 
陸奥、  
おんしゃあ、 たまぁに 心臓に悪いぜよ。  
 
 
陸奥の切なそうに細められた瞳が、微かに漏れる擦れた吐息が、坂本の思考を停止させていく。  
陸奥の潤んだ瞳と目が合えば心臓を掴まれたような錯覚を覚えるし、その溜め息が耳に届けば体温が上昇していくといった具合である。  
今までに感じたことのないような高ぶりに支配されて、坂本は陸奥の片脚を乱暴に持ち上げた。  
露にされた花弁は既にたっぷりとした蜜で濡れ光り、羞恥の中にも快楽を求めて打ち震えていた。  
坂本は先走りに濡れた自身をゆっくりと味わうようにその奥へと沈めていった。  
 
ぐちゅ…ぐぷ…くちゃり…  
 
寝室に淫らな水音が響く。  
陸奥は一瞬びくりと体を痙攣させたが、シーツを強く掴んで侵入してくる異物感に耐えていた。  
反応から見て、経験は少ないのだろうが、真っ赤に染めた目元と無理に堪えている甘い声から感じていることはわかる。  
熱く潤った内壁も坂本の肉の形に添うように強く締めつけてくる。  
互いが少しでも動くと甘い痺れが全身に走ってすぐに達してしまいそうになる。  
 
「陸奥……声出しぃよ」  
 
漸く陸奥の子宮口に己の先端が届いた辺りで坂本が囁いた。  
陸奥は先程から己の手の甲で口を押さえて声を押し殺している。  
 
「阿呆……ッ…外に……聞こえる…」  
 
扉を隔てているとは言え、艦内には大勢の者が働いている。  
陸奥は他の者たちに勘付かれることを恐れて、極力声を噛み殺していた。  
「 … わし が  声出せ  ちゅうたら   出しぃ   」  
 
坂本は低く呟くと陸奥の腰を掴んで激しく揺すりはじめた。  
 
「やあぁ……ッ!!…ふっ…ぅあ…んん…ぅ…ッ…ひ…あ…!」  
 
乱暴にされて、けれど深く感じる箇所を攻められて、陸奥の唇から官能の声が溢れる。  
中で坂本の亀頭と陸奥の柔襞が擦れあう。  
頭の中が白く焼き切れそうな快楽の中で坂本は腰を振り続けた。  
繋がったままの体勢で陸奥の脚を抱えなおし、自分の肩に乗せる。  
より深く繋がる形で更に激しく攻め立てた。  
 
「うぅぅうっ…!ぁ…あ…ふぁ…っあああんっ!!!」  
 
陸奥は既に声を抑えきれなくなっていた。  
坂本の下で快感に眉を歪め、指が白くなるほどシーツを掴んでいた。  
お互いの繋がった箇所が熱くて、その部分だけが熔けだしそうに感じられた。  
こんなに激しく女を抱く事も、乱暴に扱う事も日頃はないのだが、自身の衝動を坂本は抑えきれなかった。  
理由はもうわかっていた。  
 
……甘えちゅうだけじゃ。   
 
陸奥はどんなに憎まれ口を叩こうが、結局は坂本のしたいように動いてくれる。  
坂本の気持ちを一番に理解してくれる。  
自分を受け入れてくれる陸奥が愛おしくてしょうがなく、その彼女自身に甘えてしまうのだ。  
陸奥に対してつい強引な抱き方をしてしまうのは、単に子供じみた独占欲だ。  
わかっている。わかってはいるが、 やめられない。  
 
陸奥。  
気づいちゅうがか。  
わしゃあ、おんしに なんもかんも握られちゅうぜよ。  
 
何故この女にこんなにも動揺して反応してしまうのか。  
答えは至極簡単だった。  
惚れている。それもかなり依存した状態で。  
 
抱えた陸奥の膝裏に舌を這わせると坂本を締め付ける力がより強くなった。  
限界が近いのだろう。  
ストロークを激しくした坂本の下で陸奥が絶え絶えにないた。  
 
「た…つ…ま…ぁ…ったつま…あッ!!」  
 
名前を呼ばれた瞬間、坂本は陸奥の上に倒れこみ、腰を痙攣させて彼女の奥に欲望を放っていた。  
 
 
 
「……だから、傷口開いても知らんち言うたんじゃ……」  
 
陸奥の溜め息が坂本の寝室に響く。  
真っ赤に染まった包帯を陸奥に取り替えて貰いながら、坂本は唸っていた。  
最中は気にならなくても、あれだけ“激しい運動”をしたのだから、当然傷口は開いていた。  
ズクズクと、脇腹が痛む。  
 
「おんしが あんまり可愛い声で鳴くきに いかんのじゃ」  
 
痛みで油汗をかきながら坂本が返すと、顔を真っ赤に染めた陸奥に思いっきりきつく包帯を締め上げられた。  
言葉にならない悲鳴を上げる坂本に向かって、エロ毛玉!と怒った顔で陸奥が毒づく。  
照れているらしい。  
坂本は陸奥のその顔を見ると思わず微笑んでしまった。  
今朝は可愛げがないと思ったこの仏頂面を愛らしいと感じるから不思議だ。  
「なんじゃ、ニタニタ気持ち悪いの!  
アンタぁ昨日刺し殺されそうになったときまでヘラヘラしちゅうたきに、  
いっぺん頭の方も医者に見てもらうがいぃ!!」  
坂本と目が合うとますます顔を赤らめる陸奥を可笑しそうに坂本が見つめる。  
「ありゃあ、おんしが珍しく震えちょったんが可笑しかっただけじゃ」  
だが、坂本の言葉を聞くと急に陸奥の表情が変わった。  
 
「……あんときゃあ、本気で心臓が止まるかと思うたきに……  
あしゃあ、あんなことは 金輪際 御免じゃ」  
 
今朝見た泣きそうな顔に戻ってしまった。  
 
「何度も言うが、アシの命よりアンタの命じゃ。  
アシの為にも、快援隊の為にも、あんなことはこれぎりにし…」  
 
真剣な顔をして訴える陸奥を遮って、坂本も今まで見た事もないような真剣な顔で応える。  
 
「じゃけどよ、陸奥。 …おんしがおらんようになったら、…わしゃあ 淋しい」  
 
「………。」  
 
「今朝、死んでいった仲間の夢をみたんじゃ。  
 わしゃあ、さみしいち思うた。  
 快援隊がこれだけ活躍しちゅうても、わしが毎日笑っちょっても、あいつらがおらんのは、淋しいちや。  
昨日は何も考えんで動いたがの、陸奥。  
わしゃあ、おんしの事だけは何があっても守るぜよ。  
おんしがおらんようになったら、わしゃあ、もっともっと何倍も淋しいきにの」  
 
面と向かって真剣な顔で話す坂本。その姿を映す陸奥の瞳から涙が零れた。  
この女が涙を流す姿を見るのは初めてかもしれん、と坂本は思った。  
 
「……阿呆。アンタに守ってもらわんでも、平気じゃ…」  
 
下を向いてしまった陸奥を抱き寄せて、坂本はまた笑った。  
 
この可愛げがなくて可愛い、自分を王のようにも奴隷のようにもしてくれる部下が心底愛おしく感じられたから。  
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル