時々大金を持って新八を訪れ、しかも"金を仕入れたから遊ぼう"なんて言葉を使うものだから
新八は神楽がおかしな金の稼ぎ方をしているのに不安を覚えていた。
が、神楽がそんな事をやるわけがないし、
家族同然である自分にまさか汚い金を使わせるはずはないと信頼していた。
はっきり言って、その金を使う時の神楽を新八は恐れていた。
普段儲からない万屋で切り詰めた生活をしている少女が、唐突にポケットに大金を入れて
銀時にばれないよう深夜に志村家に忍んでくる様子は、異常だった。
それでもなにか日常ですっきりしないことがあるのだろう、だから浪費をしたがるのだ。
たまに父親から仕送りがきているのではないか、と新八は自分を納得させて
本当に時々、神楽の我儘に付き合って家を抜け出す。
いつか打ち明けてくれるまでは、気の済むまで付き合ってやればいいという思いだった。
なのでその事実を知った時、新八はすっかり気が動転してしまって汚い言葉が止まらずに、
頭が冷えて気付いてみれば神楽は酷く複雑な表情で新八を真直ぐ見つめていた。
(だってオマエは言えるカ?)
神楽は決して目をそらさなかった。目をそらしたら終りだと感じていた。
黙秘しようか、それとも全て今この澄んだ空の下に晒して、新八を苦しめてしまおうか。
神楽はこの後の自分の返事とそれに対する新八の言葉、すべてを頭の中でシュミレートしてみた。
傷つかない道はなかった。
なんで子供の君がそんなことをする必要があったんだ。と新八は静かに続けた。
悩んでいるなら打ち明けて欲しい、そういうニュアンスだった。
打ち明けて欲しいと思うのならばしっかりと受け止めてもらわなくては困る。神楽は躊躇った。
珍しく口元を迷わせた神楽に、新八はこの事情が簡単なことではないことを悟った。
もともと簡単でないことなんてわかっていたけれど、
男相手に体の取引をして作った金を、無理矢理一晩で使い切るのだ。
(好きなやつは自分のことを家族のように信頼してくれてるアル。
いつも一緒に居られる。惜しみない笑顔をもらえる。
そんなやつに今更好きだなんて、言えるかヨ?)
神楽は頭のなかで繰り返した。
騙すとか騙さないとかそんなつもりではなかったのだ。
ただ、日に日に大きく膨らんでしまう気持ちをどうにかして押さえつけないと、
いつか無意識に口からこぼれてしまいそうだったのだ。
好きだと。どうしようもないほど好きなんだと。
自分を抱いた男が出した金を新八が使うのを喜ぶ。
そうでもしないと自分を保てなくなるほど激しく歪んでしまった。
(どうしようもないほどバカだって知ってたヨ。でも、そんなことで私は満足できてたアル。
汚れた金を、新八の手に触れて使い果たしたとき、私はオマエに抱かれているような気になったヨ。
そうやって、今まですべて心の中に押し留めることができていた、の、に。)
神楽は新八に思いを言おうか言わないか、いまだに悩んでいる。
新八は神楽の言葉を待っている。神楽は何も言えない。
耐えかねた新八は、月並みだけど体を粗末にしないで、と一言残した。
その声の温度に思わず視界が滲んだ。どうしようもない。
どうしようもなくて、私を抱いてヨ、と、遂に口が滑った。