据え膳食わぬはなんとやら…  
頭に浮かんだ諺はまさに、今、この時を指しているのだろう。  
しかし、食うではなく、食われるが正しいこの状況下は、果たして男の恥になりえるのだろうか。  
そんな事を思った長髪の男は、目の前に立つチャイナ娘に視線を送った。  
「どうしたネ?早く座るアル」  
緊張して普段は白くてふっくらした頬が赤くなっているが、思っていたより声はしっかりと発せられていた。  
男は少女に気付かれぬ様、ため息を吐くとソファーに静かに腰を下ろした。  
座ったことを確認するかのように少女は数秒、男を見つめてからゆっくりと距離を縮め、男の前に来るとしゃがみこんだ。  
少女の白く小さな手のひらが、男の股間部分を怖ず怖ずといった形でまさぐりだす。  
必死に作業する少女を見おろしながら、秘かに胸の内でこの家の主であり少女の想い人、そして同志であった彼を罵った。  
 
事の発端は、少女からの夜中の突然の呼び出しだった。  
「緊急事態アル!今すぐ来るネッ!!」  
 
焦った声音に何事かと銀時の家に向かってみれば、呼び出した張本人である神楽が一人家で泣き崩れていたのだ。  
「どうした?何があった?」  
シン…と静まり返った家に神楽の啜り泣きだけ響き、桂は神楽が答えるまでの間に部屋を見渡し銀時がいない理由を最悪のケースで考え続けた。  
しかし、実際はそんな深刻なモノではなかった。  
「銀ちゃんが他の女のトコへ行っちゃったヨ」  
その一言で夜遊びに出かけただけだと分かり、桂は脱力しここまで走ってきたせいで乱れた髪を掻き上げた。  
「それは大変だな。じゃ。」  
真顔でそう言うと、回れ右をしてそそくさと部屋を出ていくはずだった。  
神楽に着物の裾を引っ張られ、一定の場所から動けなくなるまでは。  
屈強の男とはいかないまでも、桂がけして小柄というほど柔なわけではない。  
引っ張るこの娘の力が異常なのだ。  
「私が銀ちゃん誘うたび、少年誌の主人公は永遠の少年じゃなきゃいけねーんだよって言ってたネ。」  
 
神楽は藻掻く男を片手で捕まえながら、伏し目がちに言葉を紡いでいく。  
「今思えば体よく、かわされてただけだったヨ」  
少女のキュッと結んだ唇と震える手が、見たこともない女に対する嫉妬心を表していた。  
「子供だと言って相手にしてすらもらえないアル」  
今にも再び涙を流しそうな大きな瞳が、何かを決心したように桂を見上げた。  
瞬間、マズイと桂の何かが警告を出した。  
仕事柄、危険に対して察知する力が人並み以上に備わった桂は、神楽の目を見ただけで反応してしまった。  
「私、オトナになりたいヨ」  
神楽の声は部屋中に響いて、闇に吸い込まれるように消えていった。  
神楽の言う“オトナ”の定義が、お酒やタバコのように性交であることは明らかだった。  
「でも、銀ちゃん以外とはしないネ。まずは銀ちゃんをその気にさせるテクが欲しいヨ、ヅラ」  
ヅラと呼ばれ思わず「桂だ」と答えると「そんなこと、どっちでもいいネ」と返された。  
一先ず、神楽が性交を求めているわけでは無いと知った桂が、では何をするのかと問うと、神楽は急に押し入れを漁り始め一冊の雑誌を取出し桂に手渡した。  
パラパラとページを捲ると、際どい描写の漫画が短篇で載っているので青年誌系だとすぐに分かった。  
その中のワンシーン、やけに胸のでかい女が男のモノを咥えるところで神楽は指差す。  
「コレ、やってみたいネ」  
無邪気に言われ、軽い目眩を起こしかけた桂にかけられた言葉が冒頭の言葉であった。  
 
 
ソファーに座っている桂の前で、神楽は立て膝をついて彼のモノを取り出す。  
月の光だけが頼りの薄暗い部屋で不思議そうに桂のモノに手をのばし、どうしようかと悩んでから目線を上げた。  
「コレ、私の知ってるのと違うネ」  
神楽の男性器についての知識は、とにかく上を向いていてグロテスクな形…漫画のワンシーンのそれだった。  
だから、反応のないぶら下がるだけの桂の性器に戸惑っていた。  
「いつでも勃ってたるわけじゃない」  
「ふーん。知らなかったヨ」  
だらりとした性器の先に人差し指を軽く当てて、初めて見るソレを新しいおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせながら観察した。  
「どうすればいいアルか?」  
触られ少し反応しかけた桂のモノに両手を添えて、次の行動を問う神楽は、銀時のために頑張っている。  
そう思うと、なぜか桂は不快な感情にかられた。  
しかし、その理由を考えるのも億劫で、桂はさっさとここを出て自宅で寝たいためにイラついているからだと自分に言い聞かせた。  
 
「漫画で見たとおりにすればいい」  
神楽は「分かったヨ」と呟くと、漫画を思い出しながら見よう見真似で、両手で支えた桂のモノの先端に小さく出した舌を這わせた。  
とたんに神楽は眉をひそめて、口を放す。  
「不味いアル」  
一言そう洩らした神楽に、桂はもう止めるのかと思ったが、そんな予想は裏切られた。  
「ん。」  
神楽は目を瞑ってから唇を先端にくっつけて、軽い音を立ててキスをした。  
そうして、唇をつけたまま今度は裏筋をたどってキスをして、根元に着くともう一度舌を這わせ先端まで、ツー―っと舐めた。  
その一連の動きに桂のモノが反応を示し持ち上がると、神楽は目をしばたたかせながら桂を見つめる。  
「これ、動いたヨ!?」  
少し興奮気味に神楽が話し、白い小さな手を桂のモノを絡めた。  
どうしたらもっと動くのかと、神楽はゲームに夢中になる子供のように積極的に触れては反応を示す性器をおもしろがった。  
「ヅラ、何して欲しいアルか?」  
手をゆるゆると動かしながら、神楽は桂に聞いた。  
桂はそっと神楽の唇に視線を落とすと、指をふっくらとした唇に這わせ次の行動を促す。  
「口に含んでくれ」  
そう言われて、きょとんとした神楽が、次の瞬間には口を開いて桂のモノを咥えこんだ。  
 
「ふ、く‥っん」  
半分ほど口に含んだところで、神楽は苦しそうに眉をひそめる。  
息がうまく吸えない様だった。  
それでもなんとか態勢を整えて、もう一度口から寸前まで出し括れた部分に舌を這わせる。  
唾液と先走りが交ざり、唇が動くたびにくちゃくちゃ濡れた音を立てた。  
「んぅ‥ッ、ン」  
温かい神楽の口内は、桂のモノを包み込むように柔らかく、ねっとりと絡み付いてくる。  
鼻にかかった息をつきながら、前後に頭を動かし桂を悦ばせようと挟む唇の力を入れたり緩めたりし、それを一定のリズムに合わせて行う。  
初めてで拙いながらの行為ではあったが、桂を追い詰めるだけのテクニックは持ち合わせていた。  
先端を啜り上げられ、そこから吸い込まれそうな感覚が桂を襲った。  
「く‥っ!!」  
「んぁ?」  
小さく声を洩らした桂をどうしたのかと思い口を離しかけ見上げた途端、ビュッと液体が神楽の顔に弧を描いてかかった。  
べっとりとしたソレは青臭く、神楽の髪と頬を汚した。  
「………」  
驚いて声も出ないのか、神楽は頬を手のひらで拭うと、その粘り気のある液体に鼻を近付け、その匂いにビクリと顔を歪める。  
 
「どういうことネ?」  
赤い服に着いてしまった白い液体は、神楽の肌と同じようにぼんやりと闇に浮かび上がった。  
「これが“イった”てことアルか?」  
「そういうことになるな」  
桂の言葉に「ふーん」と鼻をならしてから、神楽はニッと笑みを作った。  
「気持ち良かったってことネ?」  
嬉しそうに聞く神楽に、桂は「ああ」とそっけなく答えると、神楽はスッと立ち上がり桂に抱きついた。  
「これで銀ちゃんも子供扱いしないヨ!」  
抱きついてくる小さな体に、そっと腕を回して桂は小さく同意した。  
ひどく遣る瀬ない気持ちになるのは、なぜなのだろう。  
いっそこのまま抱いてしまいたい衝動を押さえて、嬉しそうに銀時の話をし始めた神楽を、彼女が眠りにつくまで暗闇の中で複雑な気持ちで見つめ続けた。  
今夜のことは夢だと思って忘れるべきだと、間違っても銀時に知られるようなことが無いようにと、桂は夜道を自宅に向けて歩いた。  
 
 
「は?」  
記憶の中から消した夜から数日後、再び神楽に呼び出された桂は思いもよらぬ報告を受けることになった。  
「だから、あんな子供騙しじゃ銀ちゃんは悦ばなかったネ」  
ふるふると肩を震わせて瞳に涙をいっぱいためた神楽は、桂をその目でキッと睨み付けた。  
今夜も銀時は家を抜けたらしく、家はシン‥としていた。  
「今度はコレを試すヨ!」  
バッと出された漫画はやはり青年誌で、開かれたページを桂は覗き絶句した。  
「これなら銀ちゃんも悦ぶに決まってるアルッ!」  
燃える神楽を尻目に、桂は絶対に不可能だと確信した。  
見つめた先の漫画では、女が胸で男の性器を扱いている。  
「ヅラ、私と練習するヨ」  
決意に光る瞳を見ながら、桂はため息を吐いた。  
「ヅラじゃない、桂だ」  
返し慣れた言葉を吐きながら、この練習はそうとう長引くだろうと思うと自然と笑みが浮かんだ。  
 
END  
 

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