襖の向うの世界で、男が膝の上に兎を乗せて戯れている。  
 ちゅっ、ちゅっと雛鳥が餌をついばむような幼い口付けを、男の首に手を回して繰り返している少女。  
 たどたどしく口付ける彼女を、男はただ目を細めて受けとめている。  
「……っ、ん、銀ちゃん、もっとアルよ……」  
 銀時を熱っぽく見つめて、神楽がそう囁く。  
「駄ー目。お前、まだ風呂入ってねーだろ。ほら、お湯が冷める前に入ってきなさい」  
「……銀ちゃん、いつになったら私を大人の女にしてくれるアルか?」  
「ブフゥッ!?……か、神楽ちゃーん、そういう事どこで聞いたの?  
銀さん、息子のベッドの下からホ●雑誌発見したお母さん並に反応に困るじゃねーか。」  
ぷぅ、と頬を膨らませて言う神楽に、銀時は本気で焦ってしまう。  
「姐御アルよ。女の子は好きな男に女にしてもらえる生き物だって、そう言ってたアル  
『こうぞうかいかく』みたいなものだって」  
痛みを伴うけれど必要なこと。お妙の奴、なんつー絶妙な比喩を使うんだ。艶やかな着物姿の笑顔が脳裏に浮かぶ。  
 
まあ、確かに神楽と自分は恋人同士ってヤツであり。  
しかも神楽は時々、少女から女になる途中の時期特有の、危なげな色香を発していたりして。  
そんな太股があらわなチャイナ服で膝にまたがって、あまつさえこんな台詞。  
……ハイ、生クリームの神様。正直に言います。俺、今にも欲望に負けそうです。  
 
……けれど。  
「そのうち、な」  
銀時は笑って、神楽の背中をぽんぽんと叩いてやる。  
「なぁ、神楽。心と体ってヤツは、どーしたって切り離せるモンじゃねェんだ。  
だから、片っぽだけ大人になろうとしたって傷つくだけなんだよ。」  
娘に語るように、銀時はゆっくりと言葉を紡ぐ。  
「焦る事ァねェ、ゆっくり大人になりゃあいいんだよ。」  
 銀時はあくまでも優しく、神楽に微笑む。  
そう、まだ女にするには早い。  
だって、  
「俺は、何時までだってお前の銀ちゃんでいてやるからよ」  
果物は、熟してからの方が旨いだろ?  
 
「……銀ちゃん、大好きアルヨ!」  
どうやら納得したらしく、神楽はちゅうっともう一度銀時の唇を吸うと、  
そのまま風呂場の方へぱたぱたと駈けていった。  
銀時はそれを見送ると、天井を仰いでにやにやと溜息をつく。  
「いやー、銀さん五年後が楽しみだよ本当。」  
 
戸の隙間からの少年の視線に気付く事なく、銀時は何処かに電話を掛け始めた。  
 
 
数日後の夜。  
 
「どうだった?今回、ちょっと味付け変えてみたんだけど」  
割烹着姿の新八が、てきぱきと皿を片付けながら問う。  
「んー、まぁ豚の餌から犬の餌には昇格した感じアル」  
「あはは、喉に拳突っ込むよ神楽ちゃん」  
「何言ってるアルか、ほんのめきしかんじょーくネ。  
美味しかったアルよ、新八」  
そう言って、神楽はくすくすと笑う。なら良かった、と新八は御長寿クイズを真剣に見ている神楽を残して台所に向かう。  
「銀ちゃんも食べられれば良かったのにネ」  
ーーーーぴくり。  
新八が手を止めた事に、彼に背を向けてテレビを見ている神楽は気付かない。  
銀ちゃん。神楽は愛しい人の名前を心の中で呼ぶ。 クッションを抱きしめて顎を伸せ、視線は画面に向けながらも考えることはいつも同じだ。  
 
ねぇ、銀ちゃん。  
「ーーーー…大人になるって、どういう事アルか?」  
 
誰に聞いても、いつだって答えは同じだ。神楽がどんなに尋ねてみても、「そのうちわかる」と言って笑うだけ。  
「そのうち」はいつ来るのだろう。答えを全て知っているくせに、大人は何も教えてくれない。  
 子供は触れてはいけないのに、大人だけが楽しんでいるものが世の中には溢れている。  
マダオのグラサンや土方の煙草、銀時が時々ちびちびと飲んでいるお酒。  
それに、と神楽はこの前見つけた漫画を思い出す。  
ありきたりな少女漫画のようだったが、ぱらぱらとそれを捲るうちに、彼女はあるページに目を奪われた。  
それは、数ページに渡る熱い接吻の描写だった。  
自分と大して離れていないであろう男女が、互いの舌を絡ませて抱き合っている事に、彼女は衝撃を受けた。  
これが『大人のキス』だと、恍惚とした表情で女が言う。  
普段の自分と銀時との口付けとは全く違うそれは、ひどく甘美なものに映った。  
神楽がどんなに頑張って「きす」をしても銀時は涼しい顔のままなのに、  
紙の上で接吻を受けていた男は真っ赤に頬を染めていた。  
ーーーー銀ちゃん、ひょっとしたら私の「きす」じゃ気持ち良くないアルか?  
それは、まだ子供の私じゃ「大人のきす」かできないからアルか?  
だとしたら、私はーーーー  
 
「……早く、大人になりたいアル」  
でも、それは到底自分ではどうにもならない話で、  
考えたところで仕方がないのは、解っている。  
解っているけれど、考えずにはいられないのだ。  
神楽はぎゅうっ、とクッションを強く抱いて顔を埋める。  
……ずっと考え事をしていたからだろうか、なんだか体が重い気がする。  
ああ、もう眠いだなんて、私もまだやっぱり子供アル。  
あれ?でもあまり眠くないし、まだ眠くなるにはいつもよりずっとーーーー  
 
「神楽ちゃん」  
何時の間にか目の前に新八が立っていた。  
優しく話し掛けられて、神楽はゆっくりと首を上げる。それと同時に、唇になにか柔らかい物が触れた。  
数十秒後に、神楽はやっと触れているそれが新八の唇だと気付く。  
神楽の桃色の唇をてろりと一舐めしてから、漸く新八は唇を離した。  
「何……するアル」  
「何って……わかるでしょ?」  
 かすれた声の問いに、新八はいつもの笑顔で答える。  
「愛してるよ、神楽ちゃん。だから」  
 
僕が大人に、してあげる。  
 
神楽はなぜか寒気を覚えた。  
 
 
 
「お前、神楽になんつー事教えてんだよ」  
「ん……何のこと?」  
「構造改革がどうの、とかよォ。女にしてもらうとか。  
年端もいかない女の子にそういう事言っちゃダメでしょ?銀さん怒っちゃうよ」  
「あら、恐いわね。でも、女の子なんてすぐに大人になるものよ」  
「……そういうもんなのか?」  
「ふふっ、そうよ。きっかけさえあれば、どんなハナタレ娘だって杉本彩になれるわよ」  
「ちょっとそれは極端な気が……いえ、すんません」  
「ふふふ、んっ……や、ぁ、あ、んっ」  
「女になる、ねェ……」  
いつか神楽も、自分の知らないうちにそうなってしまうのだろうか。  
 まだ開花するには至らなくとも、かぐわしい香りを放つ幼い蕾。  
 摘み取りたいと男が切望するようになるのも、そう遠くはないだろう。  
 繋がったまま妙の首筋に塗り付けたクリーム(金欠につき植物性)  
を舐めながら、銀時はふと不安を感じる。  
……まさか、な。  
首を振って想像を打ち消すと、銀時は妙に溺れることに専念した。  
 
 
 
 同刻・万事屋にて。  
 
 
新八がもう一度唇を重ねてくる。  
顔の後ろを掴まれてさりげなく体を足で固定され、神楽の唇が吸われる。  
抵抗する気は何故か起きない。耳を塞がれて心臓の鼓動が響く。  
ぬるりと舌が侵入して歯列をなぞられる。  
「神楽ちゃん、口開けて」 神楽は言われるままに口を開けた。普段の彼女ならこの駄眼鏡に従う事などない筈だが、今は違う。  
本能が告げている。  
今の新八に、逆らってはいけない。  
 
「!?むー、んん、んぅ!?」  
口の中で新八の舌が生き物のように這い回り、神楽は思わず声を上げた。  
それでも、新八は解放してくれない。口内の敏感な場所をなぞられて次第に力が抜けていく。  
 普段はツッコミにしか使われない舌が、  
まさか自分の口に突っ込まれるなんて……ってあれ?同じ?  
「ん……」ようやく新八が唇を放すと、神楽の口から唾液の糸が零れた。  
「新、八」  
荒い息で名を呼ばれ、新八は興奮を煽られる。  
 
銀時と妙の仲は、もう随分前から知っていた。  
ある時は万事屋のソファーの上で、あるいは道場の床を軋ませながら。  
銀時と妙が交わるのを、新八は幾度となく見てきた。 そりゃあ最初はショックを受けもしたが、姉が選んだ相手だし、銀時なら悪くないと納得していた。  
だから、情事の度に使う生クリーム代が少々痛くても目をつぶった。  
でもね、銀さん。  
実の姉と好きな女の子の間で二股かけられて黙ってられるほど、僕は馬鹿でも駄眼鏡でもないんですよ。  
 
「神楽ちゃん、服脱いで」「え……」  
神楽が驚いて顔を上げる。キスだけで済むとでも思ってた?  
「神楽ちゃん、僕のこと嫌い?」  
新八は悲しそうな顔を作って問う。嫌いじゃないアル、と神楽は答える。それも予想済み。  
「じゃあ、好きじゃない?」  
「ちがっ……好き、アル、けど」  
「なら、いいでしょ?」  
大人はみんなそうするんだよ、と新八は潤んだ目を見て諭す。  
神楽は言葉に詰まった。新八に対する「好き」と銀時への「好き」は、似ているようで全く違うものだ。  
けれど、ここで新八を拒んだらどうなるだろう。神楽には解らない。  
解らないから、恐ろしい。  
 
頭の中をよぎるのは、父と殺し合い、自分を置いて去っていく兄の後ろ姿。  
新八は神楽にとって、地球で見つけたかけがえのない家族だった。  
 
神楽は目を伏せて、寝巻の釦を外しはじめた。  
 
ーーーーそれでいいんだよ、神楽ちゃん。  
 
頬に伝う涙を舐め取って、新八は神楽をソファーに押し倒した。  
 
「ひ……うぅ、厭アル、ぅ」  
新八の腕の中で兎がその身をくねらせる。  
 
首筋、脇腹、内太股。神楽は白い躰全体に赤い跡を刻まれ、桃色の突起を弄ばれて喘いでいた。  
 ーーーー私は、どうしたアルか。  
 こんな、裸にされて触られて舐められて。しかもそれが気持ちいいだなんて。  
恥ずかしさと奇妙な罪悪感で紅潮した頬に涙が伝っても、新八はそれを端から舐め取ってしまう。  
「可愛いよ、神楽ちゃん」  
新八は心底嬉しそうに、濡れた桃色の秘所に指を這わせて刺激する。  
こんなに無抵抗なら一服盛らなくてもよかったかもしれない、などと考えながら。  
対照的に、神楽には余裕が全く無かった。  
「やだッ!?……ッ、何処触ってるアル、か、新、あっ」  
もういない母親に綺麗にしておくようにとだけ云われていた、正確な名前すら知らないその場所。  
新八の指が敏感な肉芽を擦り、入り口の襞を解していく。  
「あ、は……ぅ、やだぁ……っ!」  
馬鹿眼鏡、何処触ってるアル!お前、そこって大と小の間アルよ!?  
汚いからやめてと哀願しても、新八は手を止めるどころか  
ますます動きを速く、激しくしていく。  
「ねぇ聞こえる?神楽ちゃんのここ、凄く濡れてるよ……  
ぐちゃぐちゃになってる。可愛い顔してえっちなんだね?」  
 耳元で囁かれる、粘ついた卑猥な台詞さえも快楽を煽る。  
「厭ぁ……はっ、ちが、違うアルよッ……っあ、あぁぁぁん!?」  
言葉を遮るように陰核をつまんで刺激され、神楽は仰け反りながら軽い絶頂を迎えた。  
「何が違うって?」  
腿まで溢れる蜜を舐めて、新八は笑った。  
 
「や、厭、汚っ……っあ、あ……やだ、やだぁ……だめアル、しんぱ……あっ、うぅ……」  
神楽の制止の声も弱々しく、自分の濡れたその場所に  
新八の舌が出入りする淫らな音が耳につく。  
そろそろかな、と新八が呟くのが聞こえる。何が?と尋ねる前に新八は着物を脱いでいた。  
神楽は息を呑む。  
「…………グロ」  
おぼろげな記憶に残る父や兄のモノとは比較にならないほど  
大きく張り詰めたそれは、ひどく奇怪な生物のように見えた。  
(えいりあんに似てるヨ……)  
ぼんやりと考えている内に、新八のえいりあんは神楽の中に侵入してきた。  
「え……や、いやぁぁぁぁぁあ!!  
痛い痛い痛いぃィィィィィ!!」  
途端に、さっきまでの喘ぎ声とはうってかわって神楽が悲鳴を上げる。  
躰の内側から引き裂かれるような、体験どころか想像したこともない痛み。  
「ちょっ……!!痛、ぁぁぁ!なっ……ぅ、ぁぁぁぁぁぁ!」  
「はぁっ……入ったよ、神楽ちゃん……」  
ぼろぼろと涙を流す神楽の唇を、新八は恍惚とした表情で吸ってやる。  
「ンむ、ぅ、新八ィ……」 ぎちぎちと自身を締めつける圧迫感に、新八は今にも果ててしまいそうになる。  
幼い神楽の白く華奢な足の間に、自分のグロテスクなそれが埋め込まれている光景は  
この上もなく淫靡なものだった。  
「動くよ」  
 
「はぁ……っ、や、新、八、ん……んぅ」  
痛みはとうに消えていた。  
どれくらい時間が経ったのだろう。実際はそれほどでもないのだろうが、神楽にとってはひどく長く感じる。  
 ぐちゅ、ずちゅっと水音を立てながらゆっくりと、体内を行き来する熱い棒。  
「……はぁっ……神楽ちゃんの中、すごく、気持ちイイよ」  
「やだ、ぁ、ふ、ぅ……ん、あぁ、ぎん、ちゃぁぁっ!?」  
銀時の名前を無意識に口にした途端、新八の腰の動きがいきなり早まる。  
さっきまでの労るようなそれとは違い、神楽を抉るような暴力的な動き。  
「ひぅ、ぁ、あぁっ!や、あ、あ、やだ、あ、へ、変に、変になるアルぅぅ!、  
あ、ぁぁん、ン、新八、新八ィぃ……っ!!」  
仰け反った神楽の喉から悲鳴があがる。  
「神楽、ちゃ、ん……ん、ぅ」  
汗の玉を散らしながら新八は夢中で腰を振っていて、  
繋がった部分から液体を溢れさせながら激しく動く新八のえいりあんが見えた。  
 
ーーーーああ、そうか。  
銀ちゃん、私銀ちゃんが言ってたことの意味、ようやくわかった気がするヨ。  
大人になるってことは、きっと自分の中にあんなえいりあんを飼うことネ。  
あんなモノと同居するだなんて考えただけでしんどいし、実際入ってきた時は泡ふきそーな位痛かったヨ。  
けど、姐御だけじゃなくてさっちゃんもアバズレ巫女もお登瀬さんも、きっとそれを受け入れてきた筈アル。  
だから。  
ごめんね、銀ちゃん。  
私、たぶんちょっとだけ早く、大人になるみたいヨ。  
 
「あっ…や、なんか来る、来るぅぅぅぅ!ぁぁぁあぁぁっ!!」  
「うぁ……っ!神楽ちゃん、神楽ちゃん……ッ!!」  
所々綻んだソファーの上で、少年と少女は同時に果てた。  
 
 
「神楽ちゃん……このこと、銀さんには内緒だよ……」  
 繋がったままそう云われて、神楽は朦朧とした頭のままただ頷くしかなかった。  
「気持ち、よかった……?」  
息を整えながら新八が尋ねる。絹のような髪を撫でると、神楽はくすぐったそうに笑う。  
「あ……ん、えーっと……き……きもち、よかっ……た、アルヨ」  
「そっか、なら良かった」  
台詞と同時に躰をぐい、と起こされて新八にまたがる形にされる。  
すでに硬さを取り戻した新八は、最高の笑顔で命令した。  
 
「じゃあ、今度は自分で動いてね」  
 
兎の躾は、始まったばかり。  
 
 
了  
 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル