愛嬌のない女だとガキの時分からよく言われた。可愛気がない、とも。
普段何気なくしているつもりでも、怒っているのか等と聞かれて驚く事がままあった。
こちらは決して不満がある訳ではないのだが、顔が笑っていないのだと言う。
笑った方が可愛い、とか、もっと笑え、とも言われた。
実際、愛想のない態度で損をする事の方が多かった。
それでも陸奥は可笑しくもないのに笑うことはできなかった。
(‥これがアシの性分じゃき)
自分でも可愛くない、女らしいとは言えぬ性格だとは思うが、生まれついた性格はどうしようもない。
陸奥はそれでいいと思っていたし、自分の生き方に不満も無かった。
(アシは自分の決めた道ば進んでゆくだけじゃき‥)
快援隊に入ったのも自分の意志だった。
坂本の志に賛同できたからというのもあるが、なによりも陸奥を決意させたのは坂本が男女・身分の隔てなく仕事の出来る者を抜擢する男だったからだ。
…ただこの坂本という男。
「まっこと‥!おんしゃあ何べんゆうたらその放浪癖を治してくれるんじゃ!?」
「アッハッハッハッそうカリカリするもんじゃないぜよ、陸奥!」
ぽんと肩に手を置かれても納得がいかない。
久しぶりに艦に帰ってきた坂本に呆れる陸奥。
この艦内ではお馴染みの光景と言えた。
本当に何でこの男は行く先々の星で姿を暗ましては余所の女の寝所で発見されるのだろうか。
仮にも宇宙規模の企業のトップが。
陸奥はたまに‥いや、しょっちゅうこの男が馬鹿にしか見えなくなる。
ロクに物を考えて生きているとは思えない。
ただ、女の尻ばかり追いかけているかと思いきや、いきなりデカイ商談を成立させて戻って来たりする。
人の話なんか少しも聞きやしないのに、不思議と人を集めるのも動かすのもうまい。
この男が何を考えているのか陸奥には未だに掴めない。
(まあ、でも一番解らんのが‥)
どうしてこんな毛玉を相手にする女共がいるのであろうか。
これだけは陸奥には一生解る気がしない。
頭だってカラだし、人の話は聞かないし、金は持たせればすぐ使ってしまうのであまり持たせていないのに。
(ま‥どうでもいいことじゃ。)
陸奥は快援隊が機能しているならば、この大将の少々のトリッキーさには目を瞑るつもりでいた。
仕事に影響が出る事には苦言も呈すが、仕事以外の事は自分とは関係がないと思っていたからだ。
関係がない…筈だったのだが。
「アッハッハッハッそーか!おんしがカリカリするのは欲求不満のせいじゃ!」
艦内の自室で陸奥に小言を喰らっていた坂本がぽんと手を打った。
長い船旅では溜まるきにのー、と言いながら陽気な毛玉は陸奥の服を脱がしにかかる。
「はあ!?ちょ‥ッ違うきに!!」
突然の飛躍に混乱しながらも、力一杯否定する陸奥の話等聞いてはいない。
無理は体に良くないぜよ、わしでよければ相手しちゃるきに、と
誰もお前で良いとは一言も言っていないにも拘わらず、坂本は陸奥を寝室に引きずり込む。
「阿呆っ‥やめ‥っ」
陸奥は抵抗しようともがくのだが、のらりくらりと毛玉は攻撃をかわし、手慣れた手つきでベッドに押し倒す
「もー、カリカリしちょらんきに!!放せモジャモジャ!!」
「アッハッハッそれがカリカリしてない人間の物言いかやー」
もっとリラックスせにゃーいかんぜよ、と、殆ど裸に剥いた陸奥の胸を揉みしだく。
「んッ‥い‥やじゃ‥やめ‥ッぁっ」
男のでかい掌でこね回されて陸奥の形の良い乳房が歪む。
坂本は黒眼鏡を外して陸奥の乳房を口に含む。
「柔らかくてうまいのぅ」
その舌がいやらしく音を立てて陸奥の体を這い回る。
「ふっくぅ‥っんッ!」
顔を真っ赤にして喘ぎを堪える陸奥。
完全に坂本のペースに乗せられている。わかってはいるが、止める事ができない。
いつのまにか全裸に剥かれて、いいように組み敷かれてしまっている。
日頃意識したこと等なかったが、女の陸奥が男の坂本を跳ね除けるには体格差がありすぎた。
「おんしゃあ、いい匂いがするのぅ」
陸奥の太腿をかかえると彼女の脚の間に顔を埋める坂本。
「ば‥ッどこば舐めちょうッ‥!やっ‥んんッ‥!!」
陸奥のしなやかな体が退けぞる。
坂本の舌が陸奥の陰核を舐める度に彼女の体には電流が流れる。
否定したくとも女陰から溢れてくる熱い蜜は止められない。
坂本は彼女の秘唇に舌を差し込んで出し入れを繰り返す。
両の手は陸奥の体を愛おしそうになぜている。
(力が‥抜ける‥‥
いかん!だめじゃだめじゃ!!)
飛ばされそうになる理性を必死に保つ。
この男の触れる場所から熱が流れ込んで、身を焦がしていくような錯覚を陸奥は覚えた。
「陸奥」
陸奥の脚の間からいつのまに脱いだのか全裸の坂本がこちらを見上げている。
全く、これくらいの手際の良さをもっと仕事で発揮して貰いたいものだ。
既に力が入らなくなった体で荒い呼吸を繰り返しながら陸奥は思った。
「陸奥ー、すまんのぅ、おんしを舐めちょったらわしのきかん棒のが先に限界になってきたようじゃ」
入れてもいいかのぅ、と言いながら陸奥の鼻先まで顔を寄せる。
間近で自分を見つめる坂本の顔がなんだか泣きそうな顔になっていて、思わず陸奥は苦笑した。
…本当に全身の力が抜けて、どうでもよくなってしまった。
「‥かまわんきに」
陸奥のその笑顔に一瞬目を丸くした坂本が呟く。
「‥これはいいもんば見せてもろうたきに‥しっかりサービスせにゃあのぅ」
「え?今なんて‥」
聞き取れずに訊ねる陸奥の唇を吸って坂本はその質問の言葉を遮る。
そのまま秘唇に肉棒を宛い、腰を進める。
性器が擦れ合う卑猥な水音が部屋に響いた。
陸奥には坂本の腰の動きに合わせて紡がれる女の嬌声が遠くに聞こえていた。
その淫らな声が自分の唇から溢れているとは信じられなかった
膣口の天上に何度も執拗に擦りつけられる。
浅く深く緩急をつけて掻き回されて、陸奥はもはや己を保っていられなくなる。
必死に坂本の肩にしがみつく。
長く伸びた美しい脚は坂本の腰に絡み付く。
突かれる度に己が熔けていくような感覚に陸奥は怯えてもいた。
それまで男と肌を合わせた事がない訳ではなかったが、それは快感を得る行為とは程遠いと言えた。
いずれにせよ陸奥にはあまりいい思い出ではない。
それがこんな訳の解らぬモジャモジャにうやむやのうちに手を出されて。
(わからん‥)
この男の事はどんなに傍におってもわからん。
自分がこの男に触れられるとおかしくなる訳もわからん。
与えられる快楽に我を失うのが怖い。
しかし素直にこの男に身を委ねられたら、さぞ気持ちいいのだろう。
(ああ、もう自分がどうしたいのかもわからん!!)
眉根を寄せて苦しそうに喘ぐ陸奥の耳元に坂本は唇を寄せる。
「怖がらんでいいき、いらん力ば抜いて、もっと楽にするぜよ」
安心する、あったかい声と優しい口付け。
陸奥はもう一つ気付いた。
この男は強引な様で自分に触れるときはこの上なく優しい。
陸奥はこんなに愛しそうに自分に触れる人間を他に知らない。
「んっはぁっああっはぁんっ」
陸奥の上げる声に艶が増したのを察して坂本が腰のストロークを激しくする。
「あッあッいかん‥ッ!なんか‥クル‥!!」
陸奥の頭の奥で何かが真っ白に弾けた。
直後、ぴくぴくと痙攣する陸奥の白い腹の上に坂本の熱い精が放たれた。
「ひょっとすると‥おんしゃあイクのは初めてだったがか?」
深く絶頂に達した為に未だ荒い呼吸が治まらない陸奥の体を拭いてやりながら坂本が問う。
陸奥自身も初めての経験に驚いていて、素直に頷く。
「そーかぁ!!よかったのう!!」
てっきり、"わしのお陰じゃー、アッハッハー" とでも言われるかと思っていた陸奥は少々面喰らう。
まるで自分の事の様にうれしそうに笑い陸奥の頭をくしゃくしゃとなぜる。
陸奥にはその笑顔が眩しすぎて思わず目を逸らしてしまう。
「‥子供じゃないきに」
いつまでも陸奥の頭をなで続ける坂本に小さく抗議する。
しかしこの男の胸に抱かれて子供のように頭をなでられると、ひどく安心する自分もいた。
(‥コイツに魅かれる女衆がおるのもわからんでもないかの‥)
坂本の腕の中にすっぽりと収まってみて考えを改める。
この男の腕の中はひどく居心地がいいのだ。
しかし、と陸奥は考える。
この男の場合、一度寝たからと言って相手を自分の女扱いしない代わりに、この男自身も誰の物にもならないのだろう。
きっとどの女にも優しく接するだろうが、どの女にも縛られない。
どこぞのキャバ嬢には熱を上げて結婚してくれーだの軽口を叩いていたが、この男が大人しく一つ所に収まる事等考えられぬ。
(雲の様に留まらず、空の様にデカイ仕事を成し、陽の光の様に人を惹きつけ‥
そんなもん相手に太刀打ちなんぞできん)
「‥おんしゃあずるい‥」
うつむいて小さく呟く陸奥に何ぞ言うたがかぁ?と聞き返す坂本。
「‥おんしの体は熱いちゆうたんじゃ」
わざと違う事を言う。
?そーかのぅ?と首を傾げる坂本の背に腕を回す。
本当にこの男の体温は高いと陸奥は思った。
(傍におると焼かれてしまうやもしれん‥)
不覚にも自分の気持ちに気付きはじめた陸奥は、今更ながらに自分も女じゃったんじゃなぁと思った。
「陸奥ー」
それまで陸奥を黙って見つめていた坂本が口を開く。
「おんしにそげな姿でよりかかられちょるきに、またわしの息子が愚図りだしたんじゃが‥」
ちぃとなだめてやってくれんかのー、と言って擡げ始めた自身を指差す。
拭きとったとは言え、汗と男の精液に濡れた全裸の美女というのは充分扇情的なもので。
尚かつそれがあの陸奥なれば。
坂本はどうしても興奮を抑えられなかった。
「まだし足りないんか!?」
呆れた陸奥が見上げるとまたあの困ったような泣きそうな顔の坂本がいて。
陸奥は今度は盛大に笑った。
<了>