『新商品には気をつけろ!』  
 
陸奥の日常生活の中に、いつの間にやら坂本との行為が組み込まれ、仕事だけでなく褥でも翻弄されるのに、  
最近どうにか慣れてきた。彼女は自分の順応性と相手の手腕に感心し、時に呆れる。  
たまに自らの欲にがく然としたり、坂本の欲求に辟易したり興味を持ったりと、新しい習慣は驚きと発見を  
日々にもたらす。素直に認めたくはなかったが、陸奥はこの状況を案外悪くないと思っていた。  
 
今だってそうだ。こんな深夜に出張先の惑星から旗艦に戻ってきた坂本を自室に迎え入れたのは、なにも  
商談の成果を聞きたかっただけではない。  
 
寝台とサイドテーブル、椅子と机で構成された小さな部屋で、寝台に腰掛けた陸奥に、坂本はコートの  
ポケットから魚肉ソーセージ色のかたまりを取り出し、手渡した。  
「おんしに土産じゃ、可愛いろうー」  
「なんじゃこりゃあ?人形か?」  
それは握りこぶしより少し小さく、タコのような丸い頭と短い八本の足を持ち、きょとんとした小さな瞳の  
大きな目には、ちょぼちょぼと睫が生えていた。心持ちへの字になったぶ厚い嘴と合わせて顔全体が  
とぼけた味を醸し、なんとなく坂本の旧友である長髪の攘夷浪士あたりが好みそうな造形だ。ふにゃふにゃ  
した感触のそれを陸奥がつねったりつついたりすると、居心地悪そうにモソモソとうごめいた。  
「出張先の惑星で昔からペットとして飼われてる生き物ぜよ。学名はerotica octopoda、直訳すれば  
エロタコちゃ」  
「エロタコ?食えるがか?地球の海産物ばしばらく食べちゃあせんから、この際代用品でも…」  
「タコに似ちょるだけの違う生物やき、多分食えんろう。そがあ事より」  
椅子の背にコートをかけた坂本は、手の中の生き物をいじくり回す陸奥の隣に座り、肩に両腕を回す。  
「一週間ぶりじゃな…寂しかった」  
 
衿も抜かずにきっちり着込んでいた寝巻きの帯を坂本が解き、肩口を肌蹴させられると陸奥の頬は薄紅に  
染まる。二人でいやらしいことは何度もしてきたが、全てを脱ぎ捨てるこの瞬間に未だ馴染めない。  
 
外した黒眼鏡とタコもどきをサイドテーブルに置いた坂本は自分も服を脱ぎ、寝台の上に横座りする陸奥を  
背後から自分の身体で囲うように抱き寄せる。部屋の照明がまだ煌々と灯っているのに気付いた陸奥は、  
坂本の腕から逃れようともがいた。こんなに明るい部屋で事を為すのは初めてで、何を今更と思いつつも  
気恥ずかしさを感じる。  
「待ちや、明かりを消しとおせ」  
「だめじゃ、そがあ時間ももったいない」  
坂本は笑って腕の力をますます強め、女の背中に、肩に、うなじに、口付けた。唇が触れた場所から、  
陸奥の身体に一つずつ火が灯る。身体を衝き動かす何かが、じわじわと湧き上がろうとする。  
「さかも…」  
振り向き、抗議しかけた陸奥の言葉は、坂本の唇に奪われた。押し付けられた温かな感触に乞われ、陸奥が  
かすかに唇を開くと、たちまち柔らかでとろけるような舌に咥内を絡め取られる。  
 
口付けに気を持って行かれている間に、坂本は片手を胸元に這わせ、指の腹を使って陸奥が一番好きな  
力加減で乳首を転がした。  
「ふぁ…ぁ…」  
咥内に坂本の舌を受け入れたまま、陸奥は我知らず声を漏らす。その拍子に重ねられた唇が離れ、男の  
指先が生み出す感覚が、ひときわ大きな火を点ける。  
 
坂本が片手だけでなく両手で綺麗な形の乳房を柔らかくこね、指の股でその先端を挟み刺激し始めると、  
陸奥は危うい所で鼻にかかった吐息が漏れそうになるのを耐えた。まるで迫力のない顔の陸奥に  
ねめつけられた坂本は、得意げに口角を上げ、女の耳たぶを甘く食む。  
「っ…!」  
不意を突かれた身体が強張った。  
 
火が急激に燃え広がる。片手で弾力のある乳房の手触りを楽しみながら、陸奥の身体をなぞって這い下りた、  
男のもう片方の手が、女の太腿とその内側を丹念に撫で回す。ゆっくりと焦らすように、そっと。  
 
その手に陸奥は促がされ、ためらいながらも少しずつ脚を開く。悪戯な手は程なく緋色の花弁に隠された  
小さな芽を見つけ出し、花弁ごとやわやわといじくりだした。  
 
呼吸が荒くなり、鼓動は速く打つ。幾度となく受ける口付けに身体は震え、座ったまま背中から坂本に  
抱かれて施される愛撫に、陸奥は飲み込まれて行く。明かりを消すのはもう諦めた。湧き上がる  
はしたない欲がこの先を求め、身体は熱を帯びる。指が秘裂を探り膣口に浅く入り込むと、粘度のある  
液体がじわりと滲み出た。  
 
体液で濡れた指が敏感な芽をなぞる度に、くすぐったさの混じった甘い痺れが繰り返し陸奥を襲う。  
背がしなり、目がきつくつぶられ、噛み締めていた桜色の薄い唇から抑えられた声がこぼれ落ちる。  
「んっ…あぁ…」  
その反応に気を良くした坂本は、さらに陸奥を追い立てた。熱く潤った狭い隙間に中指を押し進めて  
内壁をこすり、充血したぬめる芽を時おり思い出したように親指で軽く撫で上げる。男の腕の中で浅い  
息を吐きながら、陸奥は訴えた。  
「坂本ッ…いかん…外に、声ば聞こえよる…」  
「こんな時間にゃ誰もおらんちや、もっと出し。ほれとも、まだ足りんがか?」  
余裕綽々な坂本の口調が、陸奥は少しだけ悔しい。体内で指がぐいと曲げられ、高い悲鳴が上がる。  
 
ねちゃねちゃと響く音が次第に大きく、水っぽくなって行く。身体を伝って滴り落ちた蜜は、敷布に  
小さくはない染みを作った。いやらしい音と共に指の埋まる場所から、居てもたってもいられなくさせる  
疼きが生じ、肌を汗ばませ、息を切らせ喘がせる。  
「陸奥はいやらしいのおー。見てみい、はやこがあになっちゅう」  
坂本の言葉につられて下を向いた陸奥は、あふれ出る体液でどろどろになった自分の秘所に、節くれだった  
指が音を立ててゆっくりと抜き差しされる様を、明るい部屋ではっきりと見てしまった  
「あ……」  
羞恥で赤くなった女に追い討ちをかけるかの如く、坂本が囁く。  
「…いやらしいおなごは大好きぜよ」  
耳に直接吹き込まれる、いつもより低い坂本の声。その言葉で陸奥の顔はさらに赤らむ。指を引き抜かれる  
のかと思いきや、もう一本添えて押し込まれた。  
 
二本の指が体内でバラバラに動き、じりじりと陸奥を追い詰める。うっすらと開いた目で見やった坂本の  
顔は嬉しそうだ。小ぶりな乳房を覆っていた手が這い登って頬に宛がわれ、汗の浮いたこめかみに、  
頬に口角に唇を押し当てられるのを感じる。縋る物が欲しくて、陸奥は自分を抱く坂本の腕にかじりついた。  
「はぁ…はぁ…ぁふ……あ、ん…あぁっ」  
喘ぐ息に抑えきれない声が入り混じる。それは陸奥自身ですら自分のものとは思えないような、切羽詰った  
甘い響きを伴う。  
 
まだ足りない、奥まで欲しい。指よりももっと質量のある物の侵入を待ち侘び、無意識のうちに腰を浮かす。  
だが、この欲望は自分を見失ってしまいそうで恐ろしいとも陸奥は思う。体内をかき回す体液にまみれた  
指がずるりと抜かれ、乱れた息をつく女の秘所を、身に覚えの無いひやりとした触感が覆った。  
 
 
 
「…………?」陶然としていた陸奥が自分の身体を見下ろすと、坂本が股間に押し付ける魚肉ソーセージ  
色のかたまりと目が合った。「おい坂本……こりゃあ何の真似じゃ」  
「ああ、言い忘れちょったなあ。こやつは他の生き物に一時的に寄生するんやけど、宿主を性的に  
興奮させてそのエネルギーを食べ物にするがちや。やき、陸奥にエサをやってもらおうかと…」  
屈託のない顔で坂本が答える。  
 
自分に回された腕を振りほどくと、陸奥はくるりと身体の向きを変え、坂本に迫った。  
「なんじゃほりゃあ、気色悪い!ペットはペットでもオナニー用のオナペットかい!そがあ訳の分からん  
生き物なんぞ真っ平御免じゃ!」  
 
謎の生物を身体から外そうとする陸奥の手を押さえながら、坂本は真顔で諭す。  
「まあ待て陸奥、こりゃあビジネスチャンスじゃ」  
ビジネスの一言で商魂逞しい強かな副官の眉が上がり、手も止まる。しかし目は疑いの色を孕んでいる。  
「こやつはきっとでかい商いのネタになるぜよ。『大人のおもちゃ・さかもっさん2号』とでも名付けて  
ウチで商品化するつもりちや。ここは一つ人類初のモニターとして、ちくと試してみてくれんかのう」  
「人類初!?人体実験か!?わしはモルモットがやない、尚更御免じゃ!それに1号はどうやっちゅう。  
そがあ商品聞いた事がないぜよ!」  
坂本はにっこり笑って自分の股間を指差した。  
「おんしゃあいつからウチの商品になったがだ!」  
「非売品の一点物ぜよ」坂本の顔がにやける。「それに正直、ワシ以外の何かでこう、色っぽく悶える  
ムッチーが見てみたい」  
「結局、最終目的はそこか。こん変態エロ毛玉が!」  
「…たまにゃ一緒に、ちくと変わった事もしてみたいと思うて…。だって、おんしゃあワシに、近ごろ尺八も  
ようしてくれんし…」  
 
いい歳をした大人とは思えない坂本のいじけた表情に、陸奥はブチ切れた。  
「ありゃあおんしゃが、いっつもものの2分もしやせんうちに、いきなり出しやっちゅうからじゃろうがァ  
ァァ!!!」  
「あははははははははは」  
「笑って誤魔化すなやァァァ!!!とにかく、わしは嫌じゃき!!!」  
ストレートに自分の要望を伝えればたいてい陸奥に制裁を食らうのをやっと学習したのか、坂本の言い分は  
無駄に回りくどい。小賢しくなったものだと陸奥は心の内で舌打ちする。が、当面の問題はそこではない。  
 
取れない。  
 
陸奥は「大人のおもちゃ・さかもっさん2号」を掴んで引っ張るが、いくら引っ張ってもそれは餅のように  
伸びるばかりで、へばり付いて離れない。  
「これは…どうすれば取れるがか?」  
焦り気味の陸奥を見て坂本はにやりとした。  
「こやつは宿主から満足するまで食べ物ばもらえんと、いつまで経っても離れんそうちや。せいぜい可愛い  
声で啼いてみい」  
「はあぁ!?」  
信じられないといった面持ちの女をよそに、「大人のおもちゃ・さかもっさん2号」の八本の脚がおもむろに  
動きだす。取引相手の天人に銃を突きつけられても冷静な女のうろたえ振りに、坂本の頬は緩む。  
 
己の快楽原則に忠実な坂本からすれば、生真面目な陸奥は褥ではまだまだ自分を抑えているように感じ  
られた。いつもは毅然としたしっかり者の陸奥が、恥じらいながらも乱れる姿は坂本をそそり、確かに  
美しいが、それ以上に陸奥自身が心身共に解放され、快楽を心ゆくまで享受して欲しいと願った。  
 
何かがきっかけで彼女は変わるかもしれない。  
 
男と女が一番手っ取り早く、かつ気持ちよく解り合えるお楽しみの方法は、この世の中に沢山ある。  
坂本は手を変え品を変え努力する。陸奥に対して真面目に使うと、照れられそっぽを向かれてしまう、  
とある言葉の代わりに力を尽くす。ましてや、その言葉を陸奥に囁いて欲しいなどと贅沢は言わない。  
だから、せめて。  
 
そんな思惑が本人に知れたら、その労力を少しは仕事に振り分けろと、どやされるのに決まっているが。  
 
 
 
陸奥が満身の力をこめて引き剥がそうとしても、「大人のおもちゃ・さかもっさん2号」は離れない。  
表情の読めないつぶらな瞳で、じーっと陸奥を凝視する「大人のおもちゃ・さかもっさん2号」の  
脚はするすると伸び、身体のあちこちでうねる。  
「なんらぁせんか、坂本!きもい!」  
「心配しな、生きてる大人のおもちゃだと思えばええ」  
「わしは生きてない大人のおもちゃも使った事がないちや!」  
 
すぐにそのうちの一本が秘裂を発見して花弁と芽の間に潜り込み、その感触に陸奥はゾクリとして身を  
竦ませる。感情や知能があるのかどうかも怪しい生物なりに、陸奥の反応から何かを感じ取ったのか、  
脚が一斉に下半身へと向かい始めた。  
「性的に興奮させるって、こやつ、一体わしに何をするがだ!?」  
坂本は半狂乱の陸奥を宥めようとして言った。  
「ワシにもようわからんが、大丈夫大丈夫、こやつを信じろ。何十万年もオナペットとしてあの惑星の  
生き物と共生しちょったがじゃ」  
「答えになっちょらんわ!!このとぼけた顔が信用こたわん!(できない)なんかムカつく!!」  
「ほんならワシを信じろ」  
「余計に信用こたわんわ!!!」  
 
陸奥は「大人のおもちゃ・さかもっさん2号」ではなく、坂本の両頬を左右に引っ張る。  
「痛い!なんでワシが!ワシのさかもっさんが縮むろー!!」  
「きさんのモンもこいつと一緒に剥がれ落ちてしまえェェェェ!!!」  
完全にやつ当たりだ。  
 
自分から手が離れた隙に、「大人のおもちゃ・さかもっさん2号」はそそくさと目的地を目指して脚を進める。  
「ひッ!!」  
突然悲鳴を上げた陸奥に、いきなり頬から手を離された坂本は、わななく女の顔を覗き込んだ。  
「陸奥?」  
「こやつ…入ってきよった……!!」  
 
触手は陸奥の体内で膨張し、ねっとりと這いずった。その異物感と圧迫感にうっかり声が絞り出される。  
「う…!」  
「……ちくと見せてみい」  
商材を見極める怜悧な商人とエロ親父の混じり合った顔で、坂本は弱々しく抵抗する陸奥をそっと押し倒す。  
膝頭を押さえつけられ、曲げた脚を割り開かれて、あられもない恰好で横たわる女は居た堪れなさに顔を  
そむけた。女の秘肉に入り込んだ触手は用心深く内部を探り、様々な箇所で手応えを確かめるように、  
擦り付け、押し、振動した。遅れてやってきた他の触手が芽に吸いつき、別の物が下の穴までも舐るように  
さする。坂本に点けられ、鎮火しかかった火が再び燃え広がり始める。  
 
陸奥が声を漏らしたり身体を引き攣らせたりすると、わずかな快楽も逃さぬように、触手はその都度  
まさぐっていた場所をしつこく責め立て、別の触手で新たなポイントを探した。  
今や陸奥の体内には柔軟な触手が何本も潜り込み、それぞれが違う動きで、官能を刺激する。  
その刺激に堪えかねて声を上げ、頭を振ると、長い髪が艶めかしく乱れた。  
 
触手は陸奥にすっかり染みこんでしまっているのとは、全く違うやり方で身体を火照らせる。  
 
「ほおー、食事中は色が変わるんじゃな」  
男は魚肉ソーセージからトマト色に変わった生き物の頭を指で撫でた。感心した素振りを装うが、坂本の  
声は少しばかり上ずっている。まったく、一体何を見ているのやらと、荒く息を吐きながら、頬を上気  
させた陸奥は苦々しく思う。  
「ん…いやじゃ!嫌…!!」  
「何を怯えちゅう、ワシと同じがやないか。穴に棒を差し込んで、ちっくと擦れば一丁上がりじゃ。  
リラックスして楽しめばええ」  
「やめや!人の気も知らんで…!あ!」  
セックスは陸奥にとって、坂本の言うようなお気軽なものではなかった。  
 
坂本は惚れたなんとやらをそれとは知らずに感知し、いつでも陸奥を振り回す。なんだかんだ言いながらも、  
陸奥は坂本を許してしまう。ずるい男だ、酷い男だと陸奥は思う。だが、抱く大義も陽気さも、女好きな  
所も掴み所の無さも、全部まとめてこの男でなければ駄目なのだ。坂本でなければ嫌なのだ。  
 
そんな事を口にすれば、コイツはますます付け上がる。だから絶対に絶対に、面と向かっては言うものか、  
思い通りになるものかと、意固地になった陸奥は歯を食い縛り、懸命に声を堪えようとする。  
 
けれども身体は触手の動きに疼き、意思を裏切って、どうしようもなく感じさせられる。  
 
体内に与えられる振動に、快楽を知る身体は更なるそれを欲した。坂本を受け入れている時と同じように、  
自然に腰が動き、腹や足にも力が入る。  
 
陸奥は汗でじっとりと湿った身体をくねらせ、腹の奥底でわだかまる焦れったさに身悶える。目を閉じても  
瞼を通して感じられる白っぽい天井からの光がまぶしくて、片方の腕で目元を遮った。  
「あ…っ!」  
新たに侵入した触手が一番奥まった場所を突き、その衝撃に陸奥は大きな声を上げ、背中が浮き上るほど  
身体を仰け反らせた。そのとき、何か温かく濡れた物が、突き出された乳房の先端をぬるりとなぞる。  
 
腕をずらし、細めた目の隙間から覗き見ると、「大人のおもちゃ・さかもっさん2号」とその周辺を  
じっくり観察していたはずの坂本が、いつの間にか陸奥の膝の間に身体を割り込ませ、身を乗り出していた。  
「見てるだけじゃー我慢できなくなってしもうた」少しだけすまなさそうに、男は悪さを自己申告する。  
「いきそうがか?」  
蕩けきった目で陸奥が小さく頷くと、坂本は女を抱き起こし、小さな子供をあやすように背中を撫でる。  
亜麻色の頭を抱き寄せ、男はその耳に囁く。  
「陸奥、ワシを信じろ」  
坂本の肩に頭をもたれかけて広い背中に腕を回すと、快楽にもみくちゃにされながらも、言いようのない  
安堵に包まれる。  
 
ああ、この男はやっぱりずるいと陸奥は思う。坂本はなんだかんだ言いながら、いつでも陸奥を甘やかす。  
 
触手に再び最奥を強く突かれ、陸奥の身体は大きく跳ねた。  
「あ…っ!」  
寄り集まった小さな火が、マグマとなって身体の奥からせり上がり、爆発するような感覚を覚える。  
汗が吹き出し、何度も突かれるごとに、その快感は陸奥を貫く。  
「あぁん…んっ…!…あっ…あっ!あっ!」  
陸奥は無我夢中で男の身体にしがみつく。背中に爪を立てられた痛みで、坂本が小さく息を詰める。  
「あぁっ…あっ!…辰馬……たつま!!……ぁぁ」  
際限の無い狂おしい快楽に、身体は痙攣し、頭がクラクラする。声は声にならず、上手く呼吸が出来ない。  
陸奥はただ、それを受け止めるだけで精一杯だった。  
 
ようやく火は治まった。息を弾ませる陸奥は、坂本の身体にもたれかかったまま呟く。  
「辰……」  
陸奥の髪に鼻先を埋めた坂本は、それに応えるように、汗だくの背中をぽんぽんと叩いた。  
 
だが、いつものような心まで満たされる充足感は陸奥にはない。  
 
ろくに声も出せず、息も儘ならぬ陸奥の腕が、力なく坂本の背中から滑り落ちる。それと同時に「大人の  
おもちゃ・さかもっさん2号」は脚を縮めて元の形状に戻り、陸奥からころりと剥がれ落ちると、  
満足そうに小さくげっぷをした。  
 
 
 
「こじゃんと気持ち良さそうじゃったがやないか。ちくとだけ妬けてしもうたぜよ。おんしゃが  
エロ過ぎるき、ワシのさかもっさんがムズがって仕方がなかったちや」  
寝台の上で自分の腕を枕にしてうつ伏せに横たわる、汗をかいた陸奥の背中を手拭いで拭きながら  
坂本は続けた。  
「けんど女装した金時とヅラを想像したら、あっちゅう間に治まったぜよ。あははは」  
坂本にされるがままで、陸奥は黙り込んでいる。その顔は豊かな髪に覆われて、表情がよく見えない。  
 
坂本は手拭いの代わりに自分の手の平を女の背骨に沿わせ、そろそろと滑らせた。背中はすでにさらりと  
乾いていて清潔だ。  
「ちくとだけらぁて嘘じゃ…。まっことは、こじゃんと妬けた」手はなだらかな斜面を描く背中から  
浅い谷のような腰のくびれを過ぎ、こんもりと盛り上がる双丘に差し掛かる。「疲れたかえ?」  
相手をいたわる声音の中に、隠しようのない艶が滲む。  
 
心ここにあらずといった体で陸奥はのろのろと起き上がると、無言のまま項垂れた。その様子に驚いた  
坂本が、腰掛けていた寝台の上をいざって陸奥の正面に回りこみ、俯く女の肩に触れ、心配そうに  
尋ねた。  
「どがぁした?どこか痛むがか?」  
「わしはあがあな事は…嫌じゃ」長い亜麻色の髪が邪魔をして、ほとんど隠れた女の顔から涙が一滴  
こぼれ落ちる。「…ただあそこを擦るだけらぁて、好きじゃあない」  
そんな陸奥を、坂本はあ然として見つめるばかりだった。  
 
今まで泣くのを数えるほどしか見たことが無かった女の、涙の理由を深く理解してはいなかった。  
が、陸奥にとってひどい事をしてしまったのだけは、坂本にも嫌と言うほどよく分かった。  
 
女は分からん。強かで欲深いかと思えば、こんなにも脆い。女には敵わん。涙の一粒でいとも簡単に  
陥落させられる。とりわけ目の前で俯くしっかり者に自分が滅法弱いのを、坂本はしみじみと自覚する。  
 
「すまんかった、おまんがそがあ嫌がるとは思わのうて……許しとおせ…」  
自分の真正面で正座して謝る坂本の途方に暮れた顔に、頭を上げた陸奥は涙の溜まった目でじっと視線を  
そそいだ。やおら坂本の大きな手を取ると、いとおしむように細い指を太い指に絡めて、厚い手の平を握る。  
その行為とは裏腹な、彼女をよく知らない人間が聞けば、機嫌が悪いのかと疑うようなそっけない口調で  
陸奥は言った。  
「あがあ生き物より、この指がええ」  
「陸奥…?」  
「辰馬でないと、嫌じゃき」  
陸奥は坂本の唇に触れるだけの口付けをする。女の唇が離れるまでの間、男の目はずっと見開かれていた。  
 
繋いだ手を名残惜しげにするりと解くと、坂本の身体にその手でそっと触れながら、陸奥は首筋に、  
鎖骨に、ゆっくりと唇を寄せる。脚を崩し、身体を支える腕とは反対の手で亜麻色の頭を撫でながら、  
坂本は黙って陸奥の好きなようにさせた。  
 
柔らかな感触が少しずつ男の身体を下りて行き、胸を、肋骨の上を、腹を、小さな唇と手が辿る。  
もどかしい刺激に体温は上がり、熱が一点に集中した。  
「おんしが…ええ」  
真摯な瞳に上目遣いで囁かれ、坂本は思わず目を閉じる。膨張した坂本の自身に華奢な両手が  
添えられた。陸奥の唇と濡れた舌が、坂本を優しく包み込む――  
 
――包み込む、はずだったのだが一向にその気配が無い。焦れた坂本が目を開けると、珍しく笑みを  
浮かべる陸奥と目が合った。それはとてもイヤな感じの笑顔だった。  
「新商品の栄えあるモニター第二号はきさんじゃ、坂本。こやつにじっくりと包み込んでもらえ」  
陸奥は「大人のおもちゃ・さかもっさん2号」を、臨戦体勢の陰茎に勢いよく突き立てた。  
 
 
 
お客様各位  
平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。  
このたび弊社にて輸入、販売を予定しておりました新商品  
「大人のおもちゃ・さかもっさん2号」でございますが、  
飼料をやりすぎると増殖するという商品の不具合が発覚し、  
急遽販売の中止を決定いたしました。  
弊商品を楽しみにして下さったお客様におかれましては、多大なる  
御迷惑をおかけいたしまして誠に申し訳ございませんでした。  
尚、御予約下さいましたお客様の中で代替品を希望なさる  
方には、旧商品「大人のおもちゃ・さかもっさん」を先着一名様に  
送料代金無料にてお送りいたします。  
今後とも弊社を何卒ご愛顧のほど、宜しくお願い申し上げます。  
株式会社 快援隊  
 
「……というメールが届いたゆえ、代替品を希望したのだが、該当する商品がカタログにもサイトにも  
載っておらんのだ」桂小太郎は傍らのエリザベスに携帯の画面を示した。「これはどういう事なのだろう?」  
『さあ…?』と書かれたプラカードを掲げたエリザベスが首をかしげる。  
 
「かつらさーん、宅急便でーす」  
シロネコヤマトの配達員が、縦横1メートルはありそうなダンボール箱を玄関に運び入れる。  
『随分と大きな荷物ですね』受け取った箱の封を切る桂の横で、エリザベスが新しいプラカードを  
掲げた途端、緩衝材を撒き散らしながらモジャモジャ頭が蓋を押し上げ、顔を出す。  
「大人のおもちゃさかもっさんでーす!」  
呆気に取られる桂とエリザベスを見とめると、坂本の顔が輝いた。  
「おおおっ〜!ヅラにエリザベートがやーないか!!!とすると、ここは地球か!?いやー、あの  
クソ女もたまにゃあ粋な計らいをしてくれるなあ!よっしゃ、今夜の酒はわしがおごっちゃる!  
サービスするぜよ〜、アッハッハッハ!!!」  
坂本が箱の中で楽しそうに笑うそばで、一人の攘夷浪士と一匹の宇宙生物は色々と突っ込みたい事も  
忘れ、ひたすらクーリングオフの方法について考えていた。  
 
 
 
「えーっ、ワシ、また返品?これで4回目ぜよ、勘弁しとーせ」  
 
完  
 

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