新八と文通をしている女の子が近々江戸に遊びに来るらしい。しかも妹のほうは来れないらしく、姉一人じゃ心配だから夜は新八の家に泊めてあげてほしいと頼んできたそうだ。
「いやー良かったじゃねーか、これで新八もチェリー卒業だな。あ、避妊はちゃんとしろよ?デキちゃっても銀さん知らねーかんな」
「何言ってんですかあんたは。まぁ姉上は朝まで帰ってきませんけど、それ以前に僕ときららさんはただの友達ですからね」
そう言いつつも満更でもない表情の新八。
何アルカあれ。だらしない顔しやがってヨォ。大体なんでこんな近くにこんな美少女がいるのにこいつは遠くの女しか見ないアルカ。
「ケッ、可愛い娘って銀ちゃんから聞いたアル。お前なんか相手にされないアルヨ。お前はずっと一人寂しくシコシコやってるヨロシ!」
「あんだとぉぉクソ女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!……っと、もう行かなきゃ。とにかく今日僕は一日お休みするんで、あとはよろしくお願いしますね銀さん」
「おー、せいぜい頑張ってエスコートしてこい。そしてそのまま夜のほうもエスコートしてこい」
「はいはい、それじゃ行ってきます」
「……ふー、これで新八もチェリー卒業だな。いや〜めでてーじゃねーか。…それにあちらさん実家が結構な金持ちらしいからな、新八とお姉さんがうまいこといけば毎日パフェ食い放題…げへへへへ」
「銀ちゃんキモイアル。大体銀ちゃん、あの娘とはすべて丸く収まったとか言ってたじゃないアルカ!なんでまだ文通続いてるネ!?」
「あん?何言ってんだオメー、一騒動あったけどすべて丸く収まって、現在無事に文通してますって意味で言ったんだよ。それともお前なに、新八が女と上手くいっちゃダメな理由でもあんのか?」
「……童貞ネタでからかえなくなるネ」
「ばっかオメー、そんなネタ一つ消えたところで痛くもかゆくもねーだろ。いいか神楽、新八が女といい感じになろうが脱チェリーしようが俺が毎日パフェ食おうがダメガネはいつまでたってもダメガネなんだよ。
からかうネタなんざたくさんあるだろ。…それになぁ」
銀ちゃんの目がちょっと優しくなったような気がした。
「…あいつは俺たちの仲間だろ。家族だろ。あいつが幸せつかもうとしてるんだ、俺たちゃ応援してやるべきだろ」
「……そうだネ」
その通りだ。新八は私たちの仲間であり、家族なのだ。本来応援してやるべきネ。…でもなんでだろう。なんかすごくもやもやするアル。
いつからだろう。新八を見てると、突然胸が苦しくなる時があった。特に新八が私に笑いかけたとき、ほかの女と話してるのを見たとき、そして私を護ってくれたとき。
この気持ちを何と呼ぶのか、私はまだ知らない。大人になればわかるのかもしれないけれど、私はまだ子供だから。銀ちゃんやアネゴにも相談しようと思ったけれど、もし言ったらなんだか今の関係が崩れてしまいそうで怖かった。
変なのとは思うが、本当に理屈では説明できない、心の深い部分がそれを妨げたのだ。
銀ちゃんは相変わらずいちご牛乳に砂糖入れながらジャンプを読んでいる。なんでこいつはこんなにのんきアルカ。やっぱりあの時、意地張らないで私も銀ちゃんたちについていけば良かったネ。
そうしていればその女の子の顔も詳しい事情もわかっただろうに。でも、嫌だったネ。新八とその娘をくっつけるために一芝居うつなんてことは、私はやりたくなかったアルヨ。でも、そんなことを思っても過ぎた時はもう戻らない。
私は新八が脱チェリーにならないように、からかうネタが消えないように、ただただ祈ることしかできない。
夜。
新八から電話が来た。銀ちゃんが話してる。
「おー、こっちは別に何もなかったよ。特に依頼もなく。…なんだコノヤロー、俺のせいじゃねーだろ。大体お前がいない日に依頼なんてきたら俺次の依頼お前一人に全部やらせるからね。深爪しろコノヤロー、お前のような恩を知らないやつは。
…あ、そういえば文通の姉ちゃんはどうした?」
心臓がはねる。
「…へーそうか、良かったじゃねーか。これでお前も本当に童貞卒業だな」
え?なに?どういうことアルカ?
「銀ちゃん代わるネ!!」
銀ちゃんから電話をひったくる。
「新八、何がどうしたアルカ!?」
うおっ、と驚く新八の声。
「か、神楽ちゃん?なんか銀さんの悲鳴が聞こえたけど大丈夫?」
「いいから答えるネ!!」
「え、いやあの、特にそんな大事なことは言ってないんだけど、とりあえず今日の万事屋の様子を聞きに……あと、きららさんから告白されてね」
「!!!」
さっきとは比べ物にならないくらい心臓がドキドキいってる。
「…そ、そうアルカ……、返事は…どうするネ?」
「………まだ考えてるんだ。今朝銀さんと話したけど、まさか本当にこんな状況になるとは思わなくて。きららさんは今部屋で待たせてるよ」
「…ふ、ふん。良かったアルナ、脱チェリーの希望が見えて。せいぜい頑張って腰振るヨロシッ!!」
「あっ、ちょ、神楽ちゃ……」
ガチャンッ。
思いっきり電話を叩きつける。
「か、神楽ぁ、お前コレ電話壊れてんじゃねーがふぉっ!!」
さっきから床に伸びてた銀ちゃんを思いっきり踏んづけて押入れへと駆ける。
「ったく、なんだってんだよ、これだからガキは……」
訳のわかってない銀ちゃんは、ぶちぶち文句を言いながら夜の街に消えていった。
バカバカバカ、私はバカアル!!
押入れの中で膝を抱いた手を握り締める。
なんでこんな時にまで、私は意地を張ってしまうんだろう。
なんでこんな時にまで、素直になれないんだろう。
悲しみと悔しさとやり場のない怒りがぐるぐると頭の中を駆け巡る。こんな私の葛藤を知らずに、新八は今別の女と体を重ねているのかもしれないと思うと、頭の中のぐるぐるがもっと苛烈なものになった。
「新八…」
小さな声で名前を呼ぶ。
「しんぱち…」
自分でも気づかぬうちに、私の手は胸へと伸びていた。
「あっ…んんっ…し、しんぱちぃ……」
服の上からない胸を弄る。乳房があろうがなかろうが、胸であることは変わりない。そして、敏感な突起があることも。
「あっ、やぁっう…し、しんぱちぃぃ……」
こういう行為は頭で考えるものではなく、本能に従うものらしい。いつの間にか私は全裸で、夢中で胸の突起を弄んでいた。
「んんっ…あっ、やん……」
くりくりと指でこねくり回し、ぐっと押しつぶす。その度に私の体は敏感に反応し、今まで味わったことのないような快感をもたらす。
もっと、もっとほしい。
何も考えられなくなった…なったつもりの私は、さらなる快楽を求めて脚の間へと手を伸ばす。
「ふぁっっ……!!」
先ほどとは比べ物にならないほどの快感。私の恐らく発育途中であろうオンナは、指が擦る度にくちゅくちゅといやらしい音を立てた。
「はっ…あっ…いやっ……!」
オンナを擦る手がどんどん速くなる。それにつれて、音もより大きくいやらしくなっていく。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ……
「はっ…はっ…っはあっ…」
夢中で股間を擦る。だけどどれだけ快楽に溺れても、どれだけ本能に身を預けても、どうしても忘れられない男が、私の中にあった。
地味で、ヘタレで、ダメガネなあいつ。
ああ、やっぱり…………。私は認めたくなかっただけなんだ。なんでこの私があんな奴なんかにとか、何かの間違いだとか自分に嘘ばっかついて、本当の私を見ようとしてなかったんだネ。
だって、こんなに焦がれているんだもの。これで気付かなかったら私はどんだけニブイ奴ネ。
「しっ…しんぱちぃ……」
必死に名前を呼ぶ。私が求めているその男の、名前を。
「なんで…私を見てくれないネ…もっとこっち見ろヨ…あんっ!しんぱちぃ……」
私の布団はもう飛び散った私の体液でびしょびしょだ。でもそんなのお構いなしに、私は呼ぶ。叫ぶ。何度も何度も。例えあいつに届かないとしても。
「しんぱちっ…しんぱちぃっ……」
ぶちゅぶちゅとナカから掻きだされた飛沫が四方に飛ぶ。もう肢が言うことをきかない。がくがくと腰を震わせながら、滅茶苦茶に指を突っ込む。もう限界が近い。
(やっぱり、私は……)
好きだったんだ。地味でヘタレでダメガネだけど、誰よりも優しくて、誰よりもまっすぐで、そして、誰よりも強い心を持っているあいつを。
『帰るなよォ!!まだ一緒に万事屋で働こうよォ!!』
『お待たせ、神楽ちゃん!』
『神楽ちゃんは、僕が護ります』
こんなにこんなに、大好きだったんだネ。
「しっ、しんぱちっ、しんぱちぃっ、しんぱちぃぃぃぃぃぃ!!!!」
盛大な音をたてて、私は果てた。そして後に残ったものは、いつの間にかむなしさに変っていた私の「葛藤」だったものだった。
「うっ…う、ああ、あ、しんぱちぃ……、さびしいよぉ、くるしいよぉ………まもってよぉ………………」
暗い部屋の中で、私の泣き声だけが静寂に虚しく響いた。