ひざ裏を持ち上げると、月詠の女の部分が眼前にあらわになった。  
 たぶんオナニーもろくにしたことねぇんだろう。色素の沈着もほとんどない、綺麗な赤い肉の穴がひくひくと濡れて震えていた。  
 ギンギンに勃った俺の赤黒いムスコを宛がい、一気に突き挿れる。  
「……っ」  
 亀頭が入ったばかりなのに、月詠は明らかに苦痛で顔を歪めた。おまけにこの締め付けっぷりだ。間違いない。  
「やっぱ未通女かよ!? 初めてならてちゃんとそう言え馬鹿! てかこういうのは大事な時のためにとっとけって前に」  
「ぬしもたいがい野暮な男じゃの」  
「ああ?」  
「わっちに全部言わせる気か」  
「……慰め半分に抱かれることが大事だってのか」  
「そうではない」  
 荒い息で、俺の頬に手を伸ばす。  
「ぬしに、抱かれることが大事なのじゃ」  
「……」  
 確かに、女のほうから言わせるにゃ野暮なことだった。  
 犯されたいぐらい好きなんて、普通の男なら狂喜乱舞するんだろう。男は下半身の生きモンだ。顔がそこそこよくて、エロい体してて、抱かせてくれる女がいればこれ以上のことはない。  
 けど俺は、その嬉しくてたまらない状況が、俺を好きでいてくれてるこいつが、可哀想でならなかった。  
「なんで俺なの」  
「銀時……?」  
「もっといい奴いっぱいいるだろうが……」  
 
 女遊びはさんざんやってきた。イイ女はけっこういたはずなのに、本気で入れ込んだ女はいない。  
 
 本当は、女とまじめに向き合う方法がが分からないからだ。  
 
 物心ついたころから親がいなかったからだろうか、どういう感情が愛ってもんなのか知らない。  
 その結果がババアや神楽や新八たちとのいつもひねくれている関係だ。向こうもひねくれているから気を使わないでいいし、たまにぶつけてくるストレートな感情ものらりくらりかわすことができる。何よりあいつらは仲間だ。昔の高杉や桂や坂本たちと同じだ。  
 鳳仙と戦った時は同じように仲間だった。同時に、吉原を背負う強さに驚きもした。  
 自分を裏切った師を背負う姿に、臆病者の俺は一生追いつけないぐらい強い女だと思った。  
 最近じゃ打ち解けて、かわいい顔も見せるようになった。  
 
 こいつは、イイ女だ。  
 だからこいつの本気をちゃんと返せない自分が嫌になる。  
「銀時」  
 俺のくせ毛をくしゃりと撫でて、月詠は俺の頭を引き寄せて抱きこんだ。俺の身体を、白く、細くしなやかな体が受け止める。温かい、血の通った女の身体だ。  
「これは、戯れじゃ。そう思いなんし」  
「……月詠」  
「不器用な男と不器用な女が、互いに傷をなめ合う戯れじゃ」  
「……」  
 これは優しさなんだろう。ひねくれた俺を許してくれる優しさだ。  
 顔をあげて、月詠の顔をじっと見る。紫色の瞳が俺を見返す。  
 何も言わずに、俺たちは互いに深く口づけた。  
 
「ん……っ」  
 慰めるように全身を愛撫しながら、じわじわと肉の棒を埋めていく。  
 戦いで傷を受けることと身体の内側を抉られることはまったくの別物だろう。それでも手が真っ白になるまでシーツをつかんで、月詠は破瓜の痛みに耐えていた。  
「は……っ、あ……」  
「もう、少し……!」  
「う、あああっ!」  
 わずかに残っていた根元は、強引に押しこんだ。拒絶するように肉のひだに締め上げられる。それに耐えて、月詠の身体を抱き締めた。  
 すっぽりと腕の中に収まる細身の体に、そういえばちゃんと抱き締めたのは初めてだったと思い出す。  
「……痛ぇか」  
「平気じゃ……」  
 お互いすっかり息が上がっていた。俺から落ちた汗が、月詠の肌を伝っていく。体温を上げた柔らかな身体が心地良かった。  
「……?」  
 背に、細い指が伝う感触。  
 顔を上げると、紫の目のまなじりから涙が一滴、こぼれた。  
「どうした。やっぱ痛ぇのか」  
「違う……」  
 抱き寄せられるままにまた月詠の身体の上に身を横たえる。しっかりと、しかし優しく背に添えられた手に、俺は何となく理解する。  
 ――嬉しいのか。  
 胸が、苦しいような、痛むような気がした。それなのに、どうしようもなく俺も嬉しかった。  
 
「っ……あ、っ……!」  
 緩やかに腰を動かす。やっぱりまだ痛みはあるようだけど、眉根を寄せて月詠は耐えていた。  
 初めて男に犯されるそこは、きつくてすぐに限界がきそうだ。  
「銀、時……んっ……」  
 俺の名前を呼ぶ唇に割って入って、舌を絡ませ口づける。吸い上げると、俺を咥えた内壁がきゅっと更に締め付ける。根元あたりにこみ上げた衝動を、ぐっとこらえてやりすごした。  
「っ、そんな締め付けんなっ……」  
「知らぬわ……っ、ぬしが急に舌を吸い上げるから……っ、あっ!」  
 敏感な芽を指の腹で撫でられて、月詠の背が弓なりに曲がる。  
「約束通り食わせてもらうぜ。お前も善がるくらい楽しくさせてやるよ」  
 言って、ぴんと立って存在を主張する胸の頂に舌を這わせた。  
「ま、待って、あ、あっ、やっ」  
 だんだんと抜き挿しを激しくしながら性感帯を攻めてやると、痛みはごまかせているようだった。白い胸元に舌を這わせる。滑らかな肌に傷跡が障るのが疎ましくて、強く吸い上げると紅い花が散った。  
「あ、あ、っ、あぁっ」  
 ぐちゅぐちゅと、粘ついた音を立てて月詠の膣に俺を突きいれる。初めてで中イきのは無理だろう。挿入に合わせてクリトリスを指先でぐり、と刺激してやると、月詠は快感に女の声を上げた。  
 必死に俺に縋りついて、嬌声を上げるのを耳元で聞きながら、俺はどうしようもない快感を感じていた。  
 肉体的にだけじゃない。俺を全部受け入れようとするこいつの奥底まで、全部俺で埋めてやりたい衝動に突き動かされていた。  
「ぎ、んとき、も、もう……あああっ!」  
「くっ……!」  
 激しく俺を締め付けた月詠の中に、何の躊躇もなく俺は白濁した精液を注ぎ込んだ。  
「はっ、はあっ……」  
「あっ……あぁっ……」  
 たまってたのもあるが、自分でも驚くほど長い射精だった。腰の奥のほうからせりあがってくる快感が止まらない。月詠の中に収まりきらなかった精液がこぽりと音を立てて結合部からあふれた。わずかに月詠の血がまざっている。  
 やっと全部吐き出したってのに、月詠の中に穿った肉の棒は全く萎えていない。  
 ――食い足りねぇ。  
 
 久しぶりに、俺の中で理性が灼けていく気がした。  
「え、や、あ、ああっ!」  
 律動を再開する。激しい抽送に月詠の愛液と俺の精液が混ざり合って、月詠のそこも俺のも泡立った粘液でぐちゃぐちゃだ。  
 初めてで二度は辛いだろう、けどもう気遣いながら加減することなんてできなかった。背筋を快感が這いあがって脳を焼いていく。  
 こいつは、こいつとのセックスは気持ちがいい。  
「ぎん、とき、っ、ぎ……」  
 必死に俺にすがりついていた腕が、力を失って布団の上に落ちても俺は月詠を貪り続けた。気をやっても身体は俺を求めてきゅうきゅうと俺を締め付けている。  
「月詠……っ」  
 最奥まで己を穿った状態で、俺は月詠の奥底に二度目の欲望を注ぎ込んだ。  
 
 結局、その後目を覚ました月詠と食事もとらずにもう一発しけこんだ。  
 夜の帳の中で、終わると同時に疲れ果てて深い眠りに落ちた月詠の髪を静かに梳いた。  
 唇はさんざんキスを繰り返したおかげで赤く腫れているし、ずっと泣かせたせいで目元も赤い。身体には紅いうっ血がところ構わず花を咲かせている。月詠が目を覚ましたら怒られそうな気がした。  
 ――新八と神楽が出かけててよかったぜ。  
 まだ己を埋め込んだまま、細い身を抱き寄せる。  
 
 こいつは俺に全て晒してきた。それに応えなきゃいけないのは分かっている。  
 いつまでもこいつの優しさに甘えて、ごまかしていくのは臆病を通り越して卑怯だ。  
 ――今だけ、許してくれ。  
 心の中でそう呟いて、腕の中にその身を閉じ込める。  
 抱き締められた月詠が、寝ぼけて胸板に頬をすりよせる。  
 
 窓の向こうの夜空には、満月が輝いていた。  
 さすがに俺も疲れを感じて目を閉じる。  
 ――いつか、言ってもいいかな。先生。  
 まぶたの裏に浮かんだ先生は、優しく微笑んだように見えた。  
 
 
 

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