そこは自分の居場所だった筈だ。  
 彼女は自分を愛していた筈だ。  
 それなのに。  
 一体どうしてこうなった。  
 神様よ、居るなら出てこい。痛くはしねえよぶち殺させろ。  
 
 
 
「やっ……あっ、金さん、神楽ちゃんと新八くんが帰ってきたら……あん」  
「なに?さっちゃんココこんなに硬くなってんのに、やめていいの?気持ちイイんだろ?……本当にやめてほしいのか?」  
「もう、……金さんの、いじわる……ぁ、や、そこ駄目」  
「すげー濡れてる……ぬるぬるで金さんの指締め付けてきて、どろどろ。なァ、何本まで入るか試してみるか?」  
「ぁ、や、あんっ!金さ、金さぁん!ん、ふぅ、ちゅ、んちゅ、んんん、んむ」  
 
 自分の家だった筈の家の、自分の部屋で広がる悪夢。  
 銀時は忍装束をはだけられたさっちゃんが、金時という自分の過去を盗んだ男と深く深く接吻をするのを只見ているしかなかった。  
 銀時が居るのは万事屋「金ちゃん」の自室であった場所の押し入れ。  
 変わり果てた仲間たちを元に戻す手掛かりはないかと忍び込んだその場所。  
 金時とさっちゃんが何やら親しげに入ってくるのに気付いて咄嗟に押し入れに隠れ――現在、激しく後悔している。  
 
 運が良いのか悪いのか、金時はこちらを向いてさっちゃんの足を大きく広げ、後ろから抱き抱える形で彼女を弄んでいる。  
 つまり銀時からはさっちゃんの表情も、たわわな胸も、髪と同じ紫の茂みに彩られた割れ目も。絶好のアングルで見えるのだ。  
 幸いにも二人は完全に自分たちの世界に入っており、銀時の存在には気付いていない。  
 ――あいつ、あんな身体してんのか。  
 さっちゃんに日頃さんざん迫られながらもそのアプローチを適当にかわしてきた銀時は、当然彼女の身体を見たことなどありはしない。  
 くのいちの成熟した身体はどこを触ってもきっと柔らかいのだろう。  
 金時に揉まれて形を変える胸、金時の指を入れられて蜜を垂らす秘所。知らず、銀時は生唾を飲んだ。  
 ――ああチクショー!アへ顔で喘ぎやがって!こんなことなら抱いとくんだったァァァァァ!!  
   
 ぐちゅくちゅ、ちゅぷちゅぷ、ぴちゃぬぷぬぷ、ぐちゅぶ!  
「あ、はぁ……や、あん、いく、いっちゃう、あ、あ、金さん、いく、いくいくいくぅぅっ!!」  
 びくりと痙攣して、さっちゃんはどうやら達したようだ。肌は上気して赤く染まり、眼鏡の奥の瞳は恍惚で潤んでいる。  
「かーわいい、さっちゃん」  
 再び唇を重ねる二人は、どう見ても仲睦まじい恋人同士だ。銀時は嫉妬と怒りと興奮で叫びだしそうになるのをなんとか堪えた。  
 はち切れそうなほど硬くなり熱を持った自身を音が出ないように取り出しながら、銀時はコンドームをつけて二人が繋がるのを横目で見た。  
「金さん……好き」  
 聞き慣れたハスキーボイスは、聞いたことのない熱を帯びていた。  
 
 自分のものだった筈の空間に響く、知らない男とよく知る女の獣のような喘ぎ声。  
 金時はさっちゃんの脚を抱え、慈しむようにゆっくりと動いている。  
 さっちゃんは金時の背中に長い手足を回して自分から腰を動かし、歓喜の声を上げていた。  
「あ……あ、あっ、やぁ、金さ、ぁ、ん、あっ!」  
「はっ……いいよ、さっちゃん。腰、すげえエロい」  
 
 本来ならそこで女を組み敷いて、喘がせているのは自分の筈なのに。  
 自分ならそんな責め方はしない。その雌豚のことなら自分のほうがよく知っている。  
 泣くまで焦らして叩いて。卑猥な言葉を言わせて責めて。首だって絞めてやろう。  
 ああ、ああ、理不尽だ。  
 何故、そこにいるのは俺ではなくてお前なんだ。  
 
 銀時の思考をよそに、金時とさっちゃんは昇りつめてゆく。  
 律動は激しくなり、首筋から胸元を金時の唾液でいやらしく濡らしながらさっちゃんは快楽で身をくねらせる。  
「あ!や!舐めちゃ、や、ぁん!も……気持ち、いぃっ!」  
「……ッ、舐められんの、好きだろ?ほら、もっとって言って?」  
「あ、あぁっ!金さん、金さん……もっと……ぉぉ!」  
「うあ、やべえ……は、締まって、気持ちいい……」  
「あ、あ!私、私もう、またいっちゃ、あ、あ、いく!いくっ!金さん!金さん、好きぃ!大好きっ!!」  
「俺も……出るっ!」  
 ぐちぐちぬぷぬぷと体液を泡立てながら二人は果て、少し遅れて銀時も掌に欲を吐き出した。  
 
   
 ――最低だ。  
 自己嫌悪と行為後独特の気だるさをまとわりつかせ、銀時は誰も居なくなった万事屋の押し入れで俯いていた。  
 こうしている間にもあの男や、神楽や新八が帰ってくるかもしれない。一刻も早くこの場から離れなければならないのに、銀時は動けなかった。  
 最初に浮かんだ背徳感。  
 次に浮かんだ嫉妬と悔しさ。  
 あの、興奮。  
 
 そして、最後に銀時の胸に沸き上がるもの。  
「……上等じゃねえか」  
 それは、悪意。  
 
 自分ならあんな責め方はしない。あの雌豚のことなら自分のほうがよく知っている。  
 泣くまで焦らして叩いて。卑猥な言葉を言わせて責めて。首だって絞めてやろう。  
 ああ、ああ、理不尽だ。  
 何故、あそこにいたのは俺ではなくてお前なんだ。  
 
 そう、理不尽だ。  
 ならばぶち壊してやろう。  
 
「俺を忘れたってんなら……今度は忘れられなくなるぐれェ、すげえことしてやろうじゃねえか。雌豚さっちゃんよ」  
 銀時の顔には、夜叉の笑みが浮かんでいた。  
 
 
 

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