「総悟、ただ今江戸から帰省しやした。姉上様には益々ご健勝で何よりで・・・」  
「くすくす。なぁに、そーちゃんたら。自分のおうちなのに、畏まって可笑しいわ」  
夏の休暇で、久々に里帰りした総悟を、笑いながら姉のミツバが迎えた。  
 
「疲れたでしょう?さあ早く上がって上がって!」  
総悟の荷物を受け取り、手を引いた。  
「あっ、姉上、待って下せぇ」  
慌てて玄関を上がったので、靴がバラバラに脱げてしまった。  
暖かいミツバの手に、あぁ帰ってきたんだ・・・しみじみそう思う総悟だった。  
 
「あ、お風呂沸いてるわよ。入る?」くるりと振り向いてミツバが尋ねる。  
「あっ、へい。入りやす。姉上、どうぞ構わないでくだせぇ」  
「私は構いたいわ。だって久しぶりなんだもん」本当に嬉しそうに笑顔を浮かべる。  
ついつられて笑顔になってしまう。  
 
ミツバを一人きりで置いて旅立った過去を振り返り、総悟の胸の奥がズキンと痛んだ。  
(休みの間、姉上孝行たくさんしやすから)ミツバの後姿に、心の中でそう呟いた。  
 
トプンと檜の湯船に浸かり、ふーっと大きくため息をつく。  
「湯加減、どうかしら?」外からミツバが声をかける。  
「はいっ、丁度いいっす。気持ちいいっす姉上」  
湯船に浸かって、顔をばしゃばしゃ洗う。タオルを畳んで頭にのっけようとしてたら、  
「そーちゃん」  
さっきまで外にいたミツバが、脱衣所から声をかけた。  
「背中、流してあげる。入っていい?」  
湯船のふちに頭を乗せてくつろいでた総悟は、バシャンと湯の中に沈んでしまった。  
「うえっごほっごほっげほっ、姉上いいです!自分で洗いやすから!」  
「いいでしょ?せっかく久しぶりに二人きりなんだから」  
がらりと戸が開いて、裾を絡げたミツバが入ってきた。  
真っ白で細い足首に目を奪われる。  
「いや、でも・・・」うろたえる総悟は、「昔は一緒に入ってたでしょ?」と  
恥ずかしい過去を口にされ、しぶしぶタオルを下半身に巻いて湯船を出た。  
 
「大人しくしててね」ミツバの声は楽しそうだった。  
石鹸をタオルで泡立てて、ミツバは総悟の背中を洗おうとして、ハッとした。  
たくさんの傷跡・・・浅いものから、きっと深かったであろう傷まで、  
逞しくはなったけれど、その背中にたくさん刻まれていた。  
 
武装警察真選組、一番隊隊長。  
事件の戦場(いくさば)へ、いの一番に飛び込んでいく切り込み隊。  
 
この子はまだ少年なのに・・・  
 
総悟は、自分の背中を指でなぞるミツバの手が、震えてるのに気づく。  
ミツバはひとつひとつの傷跡を、柔らかな指でなぞる。  
ビクっとして、総悟はミツバに声をかけた。  
 
「姉上?どうしやした?気分でもわるくなったんじゃ」  
「そーちゃん・・・逞しくなったわね。立派なお侍さんになったのね」  
か細く聞こえるミツバの声は、涙ぐんでいる。  
「でも約束してね。絶対無理はしないって・・・約束してね」  
「当たり前でさぁ。姉上残してあの世に行くようなヘマはしやせん」  
振り返ってミツバの手をがっしと握り、そう告げた。  
 
いつか、多分、どこかの戦いで命が尽きることがあるだろう。  
それでも今は、このか弱い姉を安心させたかった。  
 
総悟の言葉に安心したのか、涙を拭きもせず、にっこりとミツバは笑った。  
 
その笑顔を、弟ながら綺麗だ・・・と、心の中で思う。  
幸せになってほしい。誰か優しい男と一緒になって欲しい・・・  
一瞬、マヨラーの顔が浮かんだのを、風呂の壁に頭をぶつけてねじふせる。  
(むかつく。なんであんな野郎が!)  
「ど、どうしたのそーちゃん!?怪我するわよ」  
「すいやせん。マヨネーズがニコ中なんでさァ」 振り返ってそう言った。  
「え???」何を言ってるのかわからないミツバは、不思議そうな顔で弟をみつめた。  
 
次の瞬間、総悟は愛しい姉の体を抱きしめていた。  
細い体・・・誰よりも大事な姉。  
そこらの奴らにやれるもんかぃ。  
 
ミツバもそっと抱き返す。 そして呟く。  
「苦しい・・・そーちゃん」  
ハッとして、手を緩めた。「すいやせん、あとは自分でやりやすんで!」  
ドボンと湯船に飛び込んだ。  
「そう?じゃあ夕食の準備してるわね」  
にっこり笑って風呂場を後にした。  
 
その後姿に、「おねえちゃん・・・ぶくぶく」小さくお湯の中で呟いた。  
さっきの自分は、明らかに実の姉に劣情を抱いていた。  
だめだだめだだめだ!  
頭まで湯に浸かり、打ち消そうとする。  
護りたい気持ちはある。だが、こんな汚れた感情とごっちゃにしちゃいけねぇ。  
大事な大切な女性(ひと)。  
 
そう決意して、風呂を出た。  
脱衣カゴには、姉の手縫いの浴衣が綺麗に畳んで置かれていた。  
自分の里帰りの為、ミツバが縫ってくれた浴衣だった。  
 
それを着て、「どうっすか?」照れくさそうにミツバに見せる。  
「良かった。ぴったりだわ。とっても似合ってるわよ、そーちゃん」  
「よかったっす。ありがとうございやす、姉上」  
「ねえ、そーちゃん。ここにいる間は”姉上”はやめて、昔みたいに呼んでくれない?」  
優しい顔で言うミツバ。  
「昔みたいに・・・ですかぃ?」  
「そうよ。だめ?」  
「・・・ありがとう、おねえちゃん」俯いてぼそっと言った。自分の顔が赤くなってるのが、  
自分にもわかる。恥ずかしいが、「ありがとう」とミツバが喜んでくれたので、  
まぁ、いいか。と、思うことにした。  
 
「夕食、出来てるわよ。ささ、早く座って」  
久しぶりに姉の手料理を味わう。  
「江戸の飯は不味くていけやせん。姉・・・おねえちゃんの料理の腕は天下一品でさぁ」  
「たくさん食べてね。むこうでもちゃんと食べてるの?好き嫌いしてない?」  
「食える物は何でも食ってまさぁ。好き嫌いは・・・あ〜マヨネーズは大嫌いです。  
ノンオイルドレッシング派でさぁ」  
「そうなの?」ふとミツバの手元を見ると、味噌汁に七味唐辛子をザザザザと、入れている。  
「おっおねえちゃん!?そりゃいけやせん!体に悪いです!」  
「美味しいわよ?そーちゃんも試してみる?」唐辛子のビンを向けられて、  
「いや、俺・・・僕はいいです。ほんとに体に悪いっすよ」  
総悟の心配をよそに、真っ赤な味噌汁を飲んでいるミツバ。  
(マヨラーだの糖分王だの、なんで俺のまわりは味覚崩壊者ばっかなんでィ)  
 
「そーちゃん、誰か可愛いガールフレンドとか、いないの?」  
「えふっ!?」 飲んでた味噌汁を吹きそうになった。  
「があるふれんど・・・ですかぃ!? 」  
ふっと万屋のチャイナ娘「神楽」の顔が浮かんだ。  
「いや・・・ガールフレンドというか・・・喧嘩相手なら」  
「まあ。女の子と喧嘩するの?まさか叩いたりしてないでしょうね」  
きっとなって、ミツバが詰め寄った。  
「喧嘩と言っても口喧嘩すよ。これがまたすごい毒舌な娘で、決着が付いてないんでさぁ」  
「ふふふ」総悟の言葉にミツバが笑う。  
「そーちゃんはきっとその子のこと、好きなのね」  
「ぶはっっ!」今度はほんとに味噌汁を吹く。  
「べべべ別にあんなクソ生意気な女、好きなわけありやせん!!!」  
「そうなの?」  
「そうです!」  
「そーちゃんがいつか、可愛い女の子を連れて帰って来るの、楽しみにしてるのよ」  
笑顔でそう言うミツバに、(あんな大食らい連れて来ちゃ大変ですぜ)そう心で呟く。  
 
「久しぶりに並んでお布団敷いて寝てもいいかしら?」  
「懐かしいす。俺・・・僕も嬉しいっす。あ、僕がやります」  
布団を二枚並べて敷く。  
小さかった子供の頃以来か・・・  
 
ふと見ると、ミツバの姿がない。  
振り返ったら、縁側に座って月を見ていた。  
 
「おねえちゃん、夜風は体にさわりまさァ」  
「見て、そーちゃん。綺麗な満月よ」  
「ああ・・・ほんとに・・・綺麗っす」ミツバの隣に腰を下ろし、横顔を見てぽつりと言った。  
青白い月の光に、輪郭を縁取られ、妖しいくらい美しい横顔。  
団扇でゆっくり扇ぐ姿は、我が姉ながら見惚れるようだ。  
 
総悟は、自分の鼓動が早くなるのを感じていた。  
風呂の時のように、だめだだめだだめだ!自分に言い聞かせる。  
そんな均衡を破ったのは、ミツバだった。  
 
隣に座った総悟の肩に、コツンと頭を乗せた。  
「本当はね、ずっと寂しかったの」  
その言葉が、今までの凝縮された思いだと知ると、どうしようもなく姉が不憫になる。  
そして、愛おしくなる。  
 
そっと手を回し、ミツバの細い肩を抱いた。  
その細さに、胸がまたズキンと痛んだ。  
「みんな私を置いていったわ・・・あの人も・・・」  
その瞬間、自分の中でカッと熱いものが湧き上がるのを感じた。  
それは激しい嫉妬――――  
 
ミツバの肩をガッと握り、総悟はミツバに口づけをした。  
奴の名前が出てこないように・・・  
ただ唇で唇を塞ぐだけだった。  
 
ミツバの手が総悟の背中へ回り、ぎゅっとしがみ付いてきた。  
はっ、と総悟は目を見張る。  
ミツバの舌が総悟の口内へ侵入し、絡んできたのだ。  
目を閉じているミツバ。  
総悟は自分も目を閉じ、進入してきた舌に答え、自分の舌を絡め、ミツバの口内を  
激しく犯し始めた。  
舌を絡め取られ、吸われ、ミツバの息が絶え絶えになる。  
 
「んっ・・・ふっ・・・そー・・・ちゃ」  
苦しい息の下から総悟の名を呼ぶ。  
いつしか、彼女の白い手が総悟の首に回る。  
お互いに離したくない、離れたくないと言うように、舌を絡め合う。  
唾液が溢れ、ミツバの唇の端から糸のように流れ、胸元へ落ちる。  
 
口づけをしたまま、総悟はミツバの浴衣の上から、胸の膨らみを掴んだ。  
ビクンと彼女の体が反応する。  
そのままゆっくり、膨らみを揉みしだく。  
浴衣の帯に手をかけた時、ミツバが消え入りそうな声で「お布団へ・・・」そう告げた。  
 
色んな人間を斬って生きてきた。  
今さら「背徳」などと、罪の一つ増えるくらい、自分にはどうでもいい事だ。  
ただ、この大切な女性(ひと)を、今夜だけでも自分のものにしたかった。  
ミツバを抱きかかえ、布団を敷いた部屋へ入り、そっと布団へ下ろす。  
 
ミツバは上半身を起こして帯を解き、立ち上がって浴衣を肌からすべり落とす。  
 
月の光が彼女の白い肌を、豊かではないが整った乳房を、なだらかな腰を、  
浮かび上がらせていた。  
肌の色はとても白くて、青い血管が透けて見える程だ。  
下の茂みは薄く、柔らかそうで、うっすらと割れ目を覗かせていた。  
恥ずかしそうに片手で胸を、片手で下の茂みを隠し、目を伏せた。  
 
総悟は立ったまま、浴衣を脱いだ。  
先ほどの口づけだけで、もう彼の男根は起き上がっていた。  
あどけない少年の顔に似合わないそれに、ミツバが息を呑む。  
 
立ったまま、二人は抱き合った。  
そしてそっとミツバを支えて布団に横たえた。  
 
総悟の舌が、ミツバの形のいい胸を這う。突起を捉えて吸うと、くぐもった声が  
ミツバから漏れる。  
もう片方の乳房を鷲掴みにし、円を描く様に揉みしだく。  
 
空いた手を肌の上を滑らせ、下の茂みに這わせ、そっと差し入れる。  
ビクッとミツバの体が反る。  
 
中指で一番敏感な突起をさぐり、そっと撫で上げると、「はぁ・・っ」と  
甘く悶える声が漏れた。  
「そーちゃん・・・そーちゃん」総悟の首に手を回し、愛撫に溺れるミツバ。  
「そーちゃん・・・女の人、抱いた事あるの?」  
思いがけない姉の問いに、愛撫していた手が止まる。  
 
真選組の一番隊隊長になって間もない頃、年上の男連中に遊郭に連れて行かれた。  
化粧の濃い、積極的過ぎる女郎に辟易した総悟は、事が済むととっとと逃げ出した。  
嫌な思い出が蘇ってしまった。  
 
ミツバは殆ど化粧をしていないにもかかわらず、美しかった。  
奥ゆかしく、自慢の姉だった。  
 
「仕事に忙しいんで女には縁がないんでさァ」小さな嘘をつく。  
「そうなの?」  
 
ミツバの秘口はもう蜜が溢れ、茂みまで濡れそぼっていた。  
総悟は、ミツバの肌に紅い痕をつけながら、胸から下へ下へ、口づけして行った。  
そして両足の膝を抱え、敏感な突起へ舌を這わせた。  
 
「あっ」ミツバの体が跳ねる。ぐいっと押さえつけて愛撫をやめようとしない。  
敏感な突起から蜜を流し続ける秘口へ、舌を這わせ、蜜を舐め取り、秘口へ舌をすぼめて入れる。  
止まらない蜜に、そっと指を秘口へ差し入れた。  
「はあ・・・っ・・・ん」艶かしい声に頭の中をかき乱されそうになるのを堪え、  
もっと奥へ奥へと指を進め、抜き刺しを繰り返す。  
「そう・・ちゃん・・・私も・・・」布団に押し倒され、ミツバが自分の昂ぶりを  
そっと手に取り口に含んだ。  
ピチャペチャと、卑猥な音をたてて姉が自分の男根を口に含んでいる・・・  
そう考えるだけで、今にも爆発してしまいそうだった。  
それをぐっと堪える。  
「すごいのね・・・そーちゃんの」滑らかな手が、愛おしそうに握り、愛撫を繰り返す。  
舌が先端から陰嚢までも舐め尽す。  
「くっ・・・おねえちゃん・・・」思わず総悟の口から声が漏れる。  
「もう、いい?」  
総悟の体を跨ぎ、膝まづいて太く硬くそそり立った男根を、騎上位で受け止めようとしている。  
 
「大丈夫ですかぃ?俺が・・・」  
総悟の言葉を遮るように、それはずぶりとミツバの秘口に刺さり、ずぶずぶと飲み込まれていった。  
暖かく、柔らかな襞に包まれ、眩暈がする。時々、ぎちっと締め付けてくる。  
「あ・・・あああ!すごい・・・」総悟の上で、ミツバの体が仰け反った。  
「動いて、いい?」  
「はい・・・」  
ミツバは腰をゆすり始めた。  
初めはゆっくりと、段々早く、動くたびに乳房が揺れていた。  
下からそっと、両の乳房を掴み、揉みあげ、乳首を摘む。  
「ああ・・・っ・・・ふぅ・・・んん」  
 
目を閉じたまま快感に悶える姉の顔は、すごく淫らで、そしてとても美しかった。  
それを見ながら総悟自身も快感に溺れ、ひとつの疑問を持った。  
 
姉上は処女じゃない。  
 
快感の波に飲まれながら、起き上がってミツバの体を抱きしめ、  
「おねえちゃん・・・おねえちゃん」無意識にそう呼びながら姉の胸に顔を埋め、  
自らも腰を激しく揺らした。  
「射精(だ)しやす」と告げた時、「中はダメ!」ミツバの声がそれを止めたが、  
彼女の一番深いところで、昂ぶりの全てを吐き出してしまった。  
 
ミツバ自身も同時に「ああっ!そーちゃん・・・そーちゃん!」一際高い声で  
絶頂に達し、強張り、大きく仰け反った後、くったりと総悟の胸にもたれかかった。  
お互いに荒い息に汗だくの体を抱きしめ、姉の耳元で「おねえちゃん・・・」  
そう呟いた。  
ミツバは汗だくになったまま、涙を零していた。  
繋がった部分から、総悟が放った精液と、ミツバの蜜が合わさって漏れていた。  
 
あの涙は、何の涙だったのか。  
そして、彼女を最初に抱いた男は誰なのか。  
考えても詮無い事だ。今の姉を今の自分が愛してる。  
それだけでいい。  
今夜の情交でもしミツバが身篭ったとしても、それでもいい。  
 
姉の涙を唇で舐め取り、再び口づけをする。  
「おねえちゃん・・・」もう一度そう囁く。  
「そーちゃん・・・」総悟の胸の中でミツバが応える。  
二人は裸のまま、抱き合って眠った。  
 
これは二人だけの秘密。  
 
今宵の満月と、二人しか知らない「背徳」  
 
 
<< おわり >>  
 
 

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