世間の人が思っているほど、私は強い女の子じゃない。
何度も何度も、生きているのが嫌になった。どんなに頑張っても、結局全て無駄になるんじゃないか。
私を応援してくれていた人たちだって、簡単に私のことが嫌いになってしまう。
そんな風に、積み重ねてきたものが、崩れる時にはいとも容易く崩れてしまうのなら、
もう頑張ってもしんどいだけだよ・・・
でも、そんな時に、あなたに出会った。
あなたがいたから、私はまた頑張ることができた。
あなたという素敵なひとに出会えたこの世界なら、私はもう恐れない。
わたしは、強くなれたの。
あなたのおかげで・・・
「ねえ、つんぽさん。」
「何でござるか、お通殿。」
某大手音楽会社の一室にて。
お通は、万斉に呼び出されていた。新曲の打ち合わせである。
「私、今度はつんぽさんが作った曲の作詞をしてみたいなぁって思うんですけど・・・」
「ほう」
楽譜に目を通しながら万斉はこたえた。そして、お通に顔を向けぬまま問い返した。
「作曲もしたいとは思わぬのか。作詞だけでござるか?」
そう聞かれて、お通は少し頬を紅くした。
「あ、はい!作曲もいいんですけど、あの・・・『作曲:つんぽ 作詞;寺門通』っていうのがいいんです!」
「ふむ」
「えーと、つまり・・・。私とつんぽさんが二人で作った・・・そういうのがいいんです・・・。
言ってて恥ずかしくなり、お通はうつむいた。しかし、万斉は涼しい表情である。
「何故そうしたいでござるか」相変わらず、視線は楽譜の方だ。
「なぜって・・・わ、私もつんぽさんに協力したいんです!!」
「拙者が作った歌をそなたが完璧に歌う。それで協力できているではないか?」
万斉はそっけなく言い放つ。
「そ・・・それはそうですけど・・・」
「そなたは歌手でござる。プロデューサーに協力したいから作詞したいと思う暇があるのなら、歌手として他にすべきことがあるでござろう。」
「あのっ、違うんです!私は・・・」
お通が何か言いかけた時、部屋に携帯の着信音が響いた。
万斉の携帯からだ。
万斉は立ち上がり、「しばし待て」とお通に言って部屋を出た。
部屋の中が静まり返った。
「はあ・・・・。」
お通はひとり溜息をついた。
「そうじゃないのに・・・」
万斉が座っていた向かいのソファーに目を移すと、ふと、三味線がソファーの横に立てられてあるのが目についた。
万斉が普段背負って持ち歩いているものである。
「いつも持ち歩いているよね、つんぽさん。これで作曲しているのかな?」
お通は立ち上がり、三味線のほうに近づいた。そして、それを手に取ってみる
思っているより重かった。
「うわっ。三味線って結構重いんだぁ・・」
いつも背負って疲れないのだろうかとお通は思った。
「まあ、つんぽさんは男の人だしね。力あるし平気か。」
あまり勝手に触っていても失礼だと思い、再び立てかけようとした。が、
「おっととと!」
立てたと思ったそれは、バランスを崩し、重い音をたてて床に倒れた。
「あわわわ・・・!どうしよう、大丈夫かな!?・・・ん・・・?」
倒れた三味線に手を伸ばし、傷がついていないか確認してから立て直そうとした。
見てみると、先端部分がパックリと割れている。お通は、青くなった。
「ど、ど、どうしよう!つんぽさんの大事な三味線壊しちゃった!!って、・・・あれ・・?」
冷静に見直してみると、その二つに割れた部分から何かが飛び出していることに気が付いた。
何かと思い、恐る恐る見てみると今度は鼓動が速まるのを感じた。
飛び出しているのは、日本刀であったのだ。
廃刀令のこのご時世、刀を差しているのは真選組のように幕府の役人か、
あるいは
攘夷浪士か、である。
「そんな、どうして三味線の中に・・・」
割れているのは倒して壊れたからではない。もともと二つに分かれて刀が取り出せるように改造してあったのだ。
「仕込み刀」というやつだ。
「い、いけないっ。」
我に返ったお通は、急いで三味線を元の形に戻し、ソファーの横に立てた。
(つんぽさんが、攘夷浪士・・?)
動揺していると、ガチャリとドアが開く音がした。お通はびくりと肩を震わせ後ろを振り返った。
万斉であった。通話が終わったらしい。
「すまない、お通殿。拙者急用ができてしまった。呼び出しておいて何だが・・・・どうしたでござるか?」
さっきまでとお通の様子が違うと感じた万斉。
そう聞かれてお通は、無理に笑顔をつくった。
「な、なんでもないですよ!それより、急用なんでしょう?私のことは全然いいですから、行ってきてください!!」
「そうか。・・すまぬな。」
「いえいえ、それじゃあ私はこれで!気を付けて行ってくださいね!」
そう言うとお通は足早に部屋を後にした。
その後ろ姿を見送るサングラスの下の万斉の目は、訝しげであった。
帰路の途中でも、お通は万斉のことが気がかりであった。
帯刀が禁じられている今の世の中において、楽器の中に忍ばせてでも持ち歩く理由。
よっぽど愛着があるものだからか?
しかしそれなら尚更持ち歩くのは変ではないか。
(それじゃあ、やっぱり・・・。)
攘夷浪士か。
しばらく顔を出さない日が続いたことは何度もあった。会う予定であったのを突然
万斉の都合でキャンセルになったことも、そして、今日みたいに「急用ができた」と
言って打ち合わせが途中で終わったことも。
それらを考えると、可能性が高くなってくる。
(そういえば、つんぽさん、本当の名前おしえてくれないもんなぁ・・。)
小さな頭の中で色々な考えが交錯する。だんだん頭が痛くなってきた。
「やめたやめた!ひとりで勝手に考えても仕方ないヨーグルト!
今日はもともとオフだったんだし、買い物して遊んで、そして家でゆっくり休まない父さんの頭超さみしい!」
そう思い直して、お通は繁華街へと向かった。
帰った時にはすっかり日も落ちていた。夕食を済ませ、明日からのスケジュールを
確認しつつテレビを見、それからシャワーを浴びることにした。
(今日は変なことがあったけど、可愛い服やアクセサリーも買ったし、ゆっくりして
リセットして、また明日から頑張るゾウさんのお鼻めっさ長い♪)
シャンプーを洗い流しながら、お通は思った。
浴室から出、頭と体をふき、体にバスタオルを巻き、リビングに出た。
母親がまだ帰っていないことが確認できた。お通の母はマネージャーも兼ねており、
お通が帰宅する少し前に「事務所に用事がある。」という旨のメールが届いたところだ。
「お母さん、遅いなぁ。」
時計は夜の10時を回っている。ツアーが近いからそのことで時間をとっているのだろう。
お通は階段を上がり、自室へ向かった。
「ふう・・・。」
バスタオルを取り、浴衣のような薄い生地の寝巻に着替え、帯を締めている
その時
「いい湯であったか?お通殿」
背後から、艶を含んだ低音の、そして聞き慣れた声がした。
「えっ・・・・」
今、家にはお通以外誰もいないはず。
声がした方を振り向いた。
そこには、万斉が腕を組んで壁にもたれかかり立っていた。
「つ・・・つんぽさ・・ん・・・?」
一瞬、思考が止まった。居るはずがない男がそこに居るのだ。
しかも、声をかけられるまでまったく気配を感じなかった。
「どうして・・あなたが・・・。」
やっとのことで口を開く。当の万斉はいつものように涼しい表情のままだ。
「そなたに、用があってな。また呼び出すのも悪いと思い、こちらから参った次第でござる。」
そう淡々と言いながら万斉はお通との距離を少しずつ詰める。
それに合わせて、お通も反射的に後ずさる。
「どうした?怖いのか?怖がる必要はなかろう。拙者はそなたもよく知っている『つんぽ』で
ござる。」
二人の距離が徐々に狭くなる。
「だ、誰だってびっくりします!い、・・いきなり部屋に人がいるんだから・・たとえ、よく
知っている人でも・・・・。」
「フッ・・・。そうでござるな。」
少しずつではあるが、お通は落ち着きを取り戻していった。
ただ、今のこの状況が「普通」でないことはハッキリと分かる。
後ずさるお通の体は、ついに壁にあたってしまった。万斉が近づいてくる。
二人の距離が一尺ほどにまで縮まったところで万斉は足を止めた。
「あ・・・・。」
お通は体が強張るのを感じた。長身の万斉に見下ろされ、その視線から目を逸らすことができなかった。
万斉は、お通の逃げ場を阻むかのように両手を壁につけた。
そして、じっと見下ろす。
少女は、まっすぐに自分を見つめ返してくる。
「あ、・・・あなたは・・・。」お通が口を開いた。
「お願いです、教えてください・・・・あなたは・・・誰ですか・・・?つんぽさん・・・・。」
「・・・・。」
「実は、わたし、今日見たんです。・・・つんぽさんが電話に出ているときに、その、勝手にあなたの
三味線さわっちゃって・・・そしたら、中に・・・・・」
言い終わる前に、何か風を切る音がしたと思ったら、お通の首に刀があてられていた。
「これを見た。・・・・で、ござるか?」
「!!・・・・。」
「そう、真剣。まがい物などではない、殺人の道具でござる。」
「つんぽさ・・・」
「拙者は河上万斉。攘夷集団『鬼兵隊』の幹部、そして人斬りでござる。」
「!!」
お通の目が、大きく見開かれた。
万斉は刀を背中の三味線に収め、さらに続ける。
「音楽プロデューサー『つんぽ』としての仕事は、攘夷活動の資金源を確保する為のものでござる。
そなたが知っている『つんぽ』は拙者であり、拙者ではない。」
「つんぽさん・・・」
「そなたが知りたがっている様であったのでな。突然変な場所で知り、変に騒がれると困るゆえ、拙者から申したまで。そして・・・。」
うつむき加減になっていったお通の顎に指を添えて、クイッと再び上に向かせた。
「安心しろ。真実を知ったからといってそなたを殺しはせぬ。手放すつもりもない。そなたは組織の大事な資金を稼ぐための可愛い人形でござる。」
「・・・・・」
「無論、口外でもすれば、ただでは済まさぬがな・・・?」
万斉は、お通から手を放した。再び、お通はうつむいた。そして、静かに口を開いた。
万斉にとっては、意外すぎる言葉であった。
「そう、だったんですか・・・。良かった・・やっと、あなたを知ることができました・・・。
ありがとうございます、万斉さん・・・・。」
動揺するわけでも、泣き叫ぶわけでも、自分を騙した人斬りを罵倒するわけでもない。
それどころか、礼を言っている。しかも、顔を上げたお通の表情は弱々しいが、優しさに満ちた笑顔であった。
その柔らかい少女の表情を見て、万斉は眉を寄せた。
「万斉さん。私はこれからも万斉さんが・・・つんぽさんが作った曲を、心をこめて歌います。
私を応援してくれるファンのために、私の歌を聴いた人が少しでも元気になれるように、
そして、」
お通は、万斉の手をとった。柔らかく、優しく包み込むように。
「万斉さん。あなたのために・・・。これは、私が私であるためでもあるんです。」
「そなた・・・。」
「私、つんぽさんが、万斉さんのことが好きです。」
ためらうことなく、お通は告げた。万斉は、表情を変えることなく聞いている。
「たとえ、万斉さんが攘夷浪士でも人斬りであっても、私の心の中の、そっけないけれどとても優しいあなたが消えてしまうことはありません。・・・・万斉さんはつんぽさんで、つんぽさんは万斉さんです。
今日初めて知ったことも受けとめて、あなたを好きでいたいです・・・・これからも・・・。」
そう言って、お通は少し頬を紅くした。にっこりと微笑みながら。
やっと、自分の思いを告げることができたのだ。
しかし
「片腹痛いでござるな。」
無表情に、そして冷酷に万斉は言い放つ。その声には温度など感じられない。
「ぬしのような小娘にくだらぬ感情を持たれても拙者は煩わしいだけでござる。」
「万斉さん・・・・。」
「ぬしは、これからもただ人形として拙者の言う事を聞いていればよい。そこに恋慕の情などいらぬ。
あるべきは・・・」
片腕をお通の細い腰に回し、グイッと引き寄せ、もう片方の手で顎を持ち無理やり自分の方を向かせた。
「拙者に対する『畏れ』を含んだ従順さでござる。」
そう低く囁くと、突然、万斉はお通の唇を奪った。
「んんっっ・・・・!!」
万斉の舌が、お通の唇をなぞり、歯列をなぞり、そして、口内に侵入し、舌をからめる。
「んっ・・ふぁ・・・ぁむ・・・・」
お通が想像していた接吻よりも万斉のそれは、遥かに激しいものであった。身体の芯が熱くなり、
疼くのを感じた。
鼓動も激しくなる。
「ぁむん・・・ん・・ふぁ・・んんんっ・・!」
息苦しくなってくる。それでも接吻は終わらない。唾液があふれでてきた。
「んんっ・・・ぷはぁ!!」
限界寸前のところで、唇が離れた。二人のあいだに、糸が引いている。
「ばん・・さい・・さ・・ん・・・・。」
「これから・・・」
万斉は耳元で囁いた。ゾクリと、寒気のようなものが背中を走るのをお通は感じた。
「ぬしに絶望を見せてやろう。二度とくだらぬ感情を拙者に抱けぬように・・・。ぬしは、己を騙し続けてきた血生臭い人斬りに貞操を奪われるのでござる・・・。」
「ち、が、・・う・・・・」
「そしてこれからは、拙者を畏れ、ただ人形のように従順に歌うがよい。」
「ちがう!!あっ・・・・!」
何かを否定するお通を尻目に、万斉はその小柄な体を抱き上げベッドへと向かう。
「は、放して・・・!きゃっ・・・」
お通をベッドに降ろして寝かすと、馬乗りになり、こんどは細い首筋に接吻をする。
「ん・・・・」
首筋を舐められたと思ったら、耳朶を甘噛みされ、またお通は身体がカーッと熱くなった。
すると、万斉の手が寝間着の隙間から侵入し、お通の白く形の良い乳房をまさぐった。
「ぁ・・はぁんっっ・・・・っ!!」
鷲掴みにされ、強く、激しく揉まれたと思えば、次は焦らすように乳輪をなぞってくる。
その時も万斉は首筋をペロリペロリと舐め回している。
「ぁ・・・んんっ・・ふぅん・・・あっ!・・」
お通は肩を揺らした。乳輪をなぞっていた万斉の長い指が、乳頭に触れたのだ。
そのまま、指はクリクリと乳頭を刺激する。
「はぁぁんんっっ・・!ぁ・・いやぁ・・・」
「嫌、でござるか?」万斉は口角を上げて妖しく笑った。
「ならば身体に聞いてみるか・・・。」
そう言うと、お通の寝間着の帯を片手で解いた。白く、華奢で柔らかな美しい裸体が露わになる。
「ほう・・・。小娘かと思えば、身体の方はなかなかでござるな?」
「み、見ないでください・・・」
万斉に視姦され、お通はたまらなくなり羞恥のあまり顔を横に逸らした。
「恥ずかしがることはない。ぬしは上物の類に入ると見た。・・・さて・・・」
さすがに鬱陶しくなったのか、ヘッドホンとサングラスを外す。
サングラスの下を初めて見たお通は、妙に胸が高鳴るのを感じた。
切れ長の、鋭く、そして恐ろしいほど美しい瞳が、お通を見下ろした。
万斉は、舌舐めずりをし、ニヤリと笑った。
その姿がひどく艶めかしく、お通は腰の辺りが疼いた。
すると、万斉は乳房に顔をうずめ、舌で乳輪を舐め回した。
「んん・・・・ふぅ・・ん・・・」
そして、先ほどと同じように、乳頭も刺激する。舌で突き、吸い上げる。
「やぁんっ・・・!」
片方の乳房を舌で弄んでいる間、もう片方の乳房を強く、激しく、そして焦らすように揉みほぐした。
すると、その手は乳房から横腹へとゆっくりたどり、やがて、内腿に到達する。
万斉の筋張った手が、白く柔らかなお通の内腿を撫でる。
「あ・・・はぁ・・んん・・・あぁ・・」
顔を乳房から放し、快楽に悶えるお通を再び見下ろした。湯上りでまだ充分に乾いていない紫の長い髪はふり乱れており、汗で額や頬にべったりとくっついて、それがまた普段の彼女よりも数段色っぽく見せた。
生理的な涙なのか、その瞳は若干潤んでいた。お通も、万斉を見上げた。
「ばん・・さい・・さん・・・」
「そんな表情をして・・。感じているのか?人斬りに犯されて。」
言いつつ万斉は内腿を撫でていた手を足の間に移した。
そして、割れ目をなぞるようにして指を動かす。
「あっ・・・!」
割れ目をなぞっていた指を二本に増やし、お通の中へクチュリ・・と音をたてて入っていった。
「あっ、あっ・・・はぁん・・んんっ・・・!」
「お通・・・分かるか?ぬしのココは愛液で溢れておる・・・。拙者のような血生臭い人斬りに犯されておきながらな・・・。ぬしも淫らなおなごでござるな・・?」
「・・・・んっ・・くぅっ・・・・」
中に入れた指をゆっくりと上下に動かし、それから、ぐるりと円を描くようにかき乱した。
「はぁん・・・!!あっ、あぁ・・・・」
「ぬしは、実に良い声で鳴くな。・・お通。」
指を引き抜いた。二本の指は、愛液でべったりしていた。万斉はそれをお通の口にあてがり、
「舐めろ」
と、低く言った。
お通は言われるがまま、万斉の長い指を口に含み、愛液を舐めとった。
「あむ・・・んん・・ちゅぱっ・・ふぁ・・・」
「フフッ・・・。お通。ぬしの愛液だけでない。血の味もするであろう?今まで拙者が斬り捨ててきた者どもの血が・・・。この手で何人殺めたのか、もう分からぬ。」
「・・・・・・・。」
「そして、この手から曲を生み出し、ぬしに歌わせてきた。そして、これからも・・・・・」
「万斉さ・・ん・・・!!」
お通が万斉の言葉を遮った。
「どうして、・・そんなことを言うんですか?・・・なぜ、無理に自分の事を悪く見せようとするんですか・・!?」
「無理に・・?だと・・・」
万斉は眉を寄せた。
組み敷かれながらも、自分を見上げ、真っ直ぐに見据えながらお通は続けた。
その表情は、凛としたものであった。
「そうです!万斉さんは・・・自分で自分を傷つけています・・・!本当は優しいあなたを・・・温かいあなたを、なぜ万斉さん自身で殺してしまうのですか・・・・・っ!!・・・ひぃっ・・・・!」
万斉は、無理矢理お通の細く美しい脚を胸につくくらいに折り曲げ、M字に開かせた。
「まだ、そのように達者な口がきける余裕があったか。」
殺気立つ鋭い目で、お通を睨みつける。情など微塵も感じられない、冷酷な目であった。
「万・・斉、さん・・・」氷のような視線に射抜かれ、お通は恐怖と痛みに顔をゆがませた。
「そう・・・その表情だ。とても良い表情でござる・・・。」
そう言うと、万斉は片手で素早くベルトを緩め、猛々しく筋の走った自身をとりだした。
お通の腰を少し上げ、そして、
一気に挿入した。
「あああああぁぁっっ・・・・!!!」
身体を裂かれるような激しい痛みが、少女を襲う。処女膜が破れ、シーツが点々と紅く染まった。
万斉は容赦なく膣内を蹂躙する。
「・・・っやはり・・生娘であったか・・」
猛った雄を、子宮に届くくらい深く打ち込む。お通は、身体を反らした。
「あっ・・!!はぁんんっ・・・ふぅ・・ん・・・!!」
年齢の割には豊かな乳房を揺らし、白い肌を紅潮させて悶える。
万斉は、一層激しく腰を振った。それに合わせて乳房も激しく揺れる。
「あっ・・・あっ・・んん、ひゃうっ・・・!!」
「っ・・・良い声だ・お通。もっと奏でるがいい・・・美しき狂想曲を・・・。」
挿入したまま自分も身体を曲げ、お通に覆いかぶさる。猶もピストンは続く。
摩擦による二人の体液の音が、グチュリグチュリと部屋に響く。激しく、深いピストンに、
痛みからくる呻きではなく、甘い嬌声がお通の口からもれる。
「ばん・・さい・・・さん・・・」
徐々に意識が遠のいていく中、お通は無意識に自分が愛する男の名を呼んだ。
「ばん、さい・・さん・・・」
その頬には、涙が伝った。目の前の男を見つめるお通の瞳は、ひどく悲しい色をしていた。
生理的な涙ではない。
ただ、悲しかった。
快楽に反応する身体とは反して、その心は、ただ空しかった。
「んん・・・くっ・・・ふっ・・ひっく・・・・。」
「・・・お通・・・・。」
ぼんやりとした意識の中、万斉が自分の名を呼ぶ声がした気がした。
「泣くな。お通・・・・。」
その声は、さっきまでの凍りつくような冷たいものではなく、悲しく、そして優しいものに聞こえた。
「泣くな・・。そなたに泣かれると、拙者は・・・」
万斉はお通の目尻にたまっている涙を舌で舐めとった。
ピストンを止め、一旦自身を引き抜いた。そして、再びソレを激しく、奥まで一気に打ち込む。
「ああっ!!・・・んっ・・ふぅ・・ん!!ああああっ・・・・!!!」
「っっ・・・・・!!」
膣の襞が中を蹂躙する雄をぎゅうっと締め付けた。それでも、万斉は奥までの侵入を止めない。
いっそう、内壁が狭くなった。
「はあああぁぁんっっ・・!!う、やあぁ・・・あっ・・・!!!」
お通は昇天し、完全に意識を失い、がくりとうなだれた。
達する寸前、万斉は自身を引き抜いた。外気にふれた途端に白濁液が放たれ、それはお通の白く美しい裸体に飛び散った。
スキャンダルの件以来、私は芸能界から消えたも同然だった。
何もかも嫌になって、やるせなくて、それでも何だかくやしくて、
ただ、がむしゃらに毎日路上で歌い続けていた。
あなたに出会ったのは、そんな時だった。
『聴くに耐えぬものでござるな?』
あなたが私に最初に話しかけた時の言葉は、ちょっぴりムッとくるものだった。
『ひどく雑で、本能的で・・・喧嘩を売るようなリズムでござる。』
『そ、それなら、聴かなければいいじゃないですか!』
『だが・・・いじらしく、そして可愛らしい。』
そう私に言った時のあなたの表情、声は、とても温かかった。
刺々しくなっていた私の心が、柔らかくなる気がした。
『え・・・。』
『拙者、音楽プロデューサーをやっている『つんぽ』と申す。』言いながら、私に名刺を渡した。
(男の人なのに、なんて長くて綺麗な指・・・)
名刺を持つあなたの手を見て、そう思った・・・。
『どうでござるか?拙者と共に来ぬか。もう一度そなたを返り咲かせてみせるぞ。・・・寺門通殿?』
復帰してから初めてのライブの前夜。緊張のあまり、知らず知らずのうちにあなたの携帯番号を押していた。
『つ、つんぽさん・・・ど、どうしよう!すっっごく緊張する・・・。』
『ライブは初めてではなかろう?』電話越しで、あなたは可笑しそうに笑った。
『だって、久しぶりなんだもん!しかもスキャンダルの後だし・・・。どうしよう、ステージに上がった途端いきなりヤジとか飛んできたりして・・・か、「帰れコール」とか・・・・ああ、どうしよう!』
『お通殿。』
勝手な想像をして勝手に動揺する私を、あなたは温かく優しい声で慰めてくれた。
『そなたは何もやましいことをしていないのだから、堂々とすれば良い。
人の目ばかり気にしていては、身動きがとれなくなるぞ?』
『あ・・・・』
『ステージの上で、そなたは独りで歌うのではない。・・・拙者も共にあると思え。
大丈夫でござるよ。そなたは拙者が見込んだだけのおなごだ。自信を持て。』
その言葉に、私はどれだけ勇気づけられただろう。
『ありがとうございます・・・つんぽさん・・。』
『ライブが終わったら、どこか食べに行くでござるか。拙者が御馳走するぞ?』
『は・・・はい!!』
あなたに出会って、私は歌手として、寺門通として、もう一度生まれ変わった。
あなたといると、温かくなった。優しい気持ちになった。強くなれた。
あなたの全てに惹かれた。ずっと、好きだった。
長くて、綺麗な指をした筋張った手。そこから生まれてくる音楽。低くて、色っぽくて、落ち着いた声。
そして、
そっけないけれど、とても優しいあなたが
好きだった。
間違いなく、私が大好きなあなたは、万斉さん・・・あなたなのです・・・。
『「つんぽ」は拙者であり、拙者ではない』
あなたはそう言ったけれど、それは、ちがう。
なのに、
あなたは、自分で自分を否定するのですか・・・?
私が大好きな優しいあなたを、なぜ否定するのですか・・・?
自分の体液で汚れたお通の身体を拭き、乱れた寝間着を整えてやり、掛布団を掛けた。
お通は、寝息をたてて深い眠りについている。
万斉は、その紫の長く美しい髪に指を絡めた。
「そなたは、救いようの無いほど愚かだな・・・そして・・・」
指の間から、髪がサラリとすべり落ちた。
「なんと、美しき調べを奏でることか・・・」
そう言って、ヘッドホンとサングラスをつけて、窓から出ていった。
夜道を歩いていると、前方に人影があった。笠をかぶっている。煙管もくわえているようだ。
「よお・・・」
影の主・・・高杉晋助が声を発した。
「テメェもなかなか罪な男だねぇ・・」
「鬼兵隊の総督は、随分なヒマ人でござるな?」
そっけなく答える万斉。
「ククッ・・・そう怒るなよ?」
そう言って高杉は横に並んで一緒に歩いた。
「あの小娘の気持ちをテメェから引き離そうとしてヤッたんだろうが・・・。ヤりまくって餌付けして、テメェ無しでは生きられねえくらいにしたほうが、あいつも「従順」になると思うぜ・・・?ククッ・・・。」
「晋助」
「ん?」
「ちと、喋り過ぎだ。」
「ククッ・・・。へいへい・・・。」
二人の影は、闇の中へ消えていった。
終わり