近藤が声を限りに名前を叫ぶと、まるでそれが合図のように
地響きをたてて山が崩れた。
一瞬の出来事に土方は何が起きたのか、理解するまでにしばらく時間がかかった。
前日まで降り続いた雨で地盤が緩んでいたとはいえ、まさか近藤の声がそれを
刺激するなどと誰が想像できたであろう。
―――しかも。
近藤が名前を叫んだ相手は今まさに崩れた山の下、原形をとどめていない
建物の中に居たのだ。
「………嘘、だろ?」
そして、一直線に建物へと走り寄った近藤もまた、泥の中へと姿を消した。
今日、ここで、近藤を交えた妙と土方の3人で話をするはずだった。
本当なら絶対にこんな話などしたくはなかったが、
少しずつ目立ち始めた妙のお腹を隠し通すことは出来ないと、考えあぐねた結果だ。
まさか尊敬する相手を裏切り、こんな話をすることになろうとは夢にも思わなかった。
けれど、芽生えた命に罪はない。
近藤にどんなに罵られようと受け入れよう。
そう心に決めて臨んだ場所だったはずなのに……
「嘘、だろ……」
受け入れがたい現実を目の前にして土方は立ち尽くす。
ただ、咥えられたタバコの煙が静かに立ちのぼっていた。