宇宙海賊春雨のいかつい戦艦の中に、荒々しい海賊には相応しくない、上品な調度品を備え付けた一室があった。  
その異空間の中で、その部屋には相応しくない派手な格好の女性が足をがばっと開いて座っていた。ミニスカートだというのに、はしたないこと極まりない。  
そんなことは気にもせずに女性はむんずと目の前のコーヒーカップをひったくる。中のコーヒーを口に含むと、これまたはしたなくゲホゲホとむせた。  
「うえェェェ!苦ッ!!砂糖ぐらい入れろっつーの!!武市変態!!」  
眉をしかめながら女性……来島また子は砂糖壷から大量の砂糖をすくってコーヒーに投入した。  
「変態じゃないです。先輩です。何ですか、来島さん。貴女ブラックも飲めないんですか。」  
「うるさいッス。女の子にはコーヒーなんてカフェオレが丁度いいッス。カフェオレは女子高生の昼飯の聖書ッスよ。」  
「そんなんでモテようったって無理だ諦めろ。可愛い子ぶんな馬鹿。」  
「ロリコンに言われたくねーよ死ね変態馬鹿。」  
目が見開かれた不気味な顔で武市は手元のブラックのコーヒーを啜った。それにしても不味い。春雨の連中は食には無頓着らしく、食材がまるでなっていない。  
インテリな武市には辛い。だがこれも敬愛する首領、高杉の意向なのだから仕方があるまい。  
「しっかし不味ッいコーヒーッスねー。ケーキも食えねえし有り得ないッスよ。」  
「仕方がないでしょう。宇宙空間では食料を調達するのも一苦労ですからね。まさか江戸からデリバリーしてもらうのも無理がありますからね。」  
「全く晋介様もよくこんなヤツらと組む気になったッス。……晋介様、美味しいもの食いたいとか思ってないかな……何ならアタシが」  
「お前が作った料理なんか食ったら高杉さんが死ぬわ馬鹿。」  
「違うッスからね!べ、別に頑張って料理するんじゃないもん!!むしろ作るんじゃなくて私が食べら」  
「お前完全に頭おかしいだろ。無駄な妄想はやめなさい馬鹿。」  
「頭がロリコンでできてるお前が頭おかしい言うな馬鹿。」  
そういいながらもまた子はまんざらでもなさそうだった。この娘なら本当にやりかねない。  
ある日高杉の部屋に潜り込んでプレゼントはワ・タ・シ☆なんて、いつのバブル女だよ!ということもやりかねない。  
……実はその作戦は以前実行して、彼女の愛しの高杉がやってくる前に万斉に見つかってしまったために失敗に終わったが。  
(ああっ……でも晋介様の為なら、肉じゃがでもガラナチョコでも女体盛でも何でもやっていいッス……!)  
それを実行される本人の被害も全く気にもせず、また子は妄想を膨らませてニヤついた。  
頭にこの世で服従してもいいと思ったあの人のことをいっぱいに満たしていると、目の前に彼がいるような錯覚に陥る。  
しかしそれはあくまで錯覚であって、妄想に過ぎない。だが、今日は違った。頭に描いたその人が、すぐ目の前に現れたからだ。  
「し……ししし晋介様ァァァ?!」  
嘘だ。今高杉は春雨の連中と重要な話し合いだか何だかの最中のはず。この場にいることなどあってはならない。  
(も、もしかして、会議ほっぽってアタシの為に……?!)  
普段のまた子ならば、いくらなんでもそんな馬鹿なことは考えないだろうに、今日の彼女はどうかしていた。  
目は虚ろになり、ふらふらとしてはいるが、良く見るとその目は据わっており、さながら獲物を目の前にした女豹そのものだった。  
「来島さん?おーい、来島馬鹿子〜。」  
急に高杉の名を叫び、立ち上がったまた子を武市は流石に様子がおかしいと思い、肩を掴んでその金髪の頭を日頃の恨みも込めて一発殴ってやろうと考えていた。  
が、逆に肩に延ばした腕を掴まれ、力いっぱい抱きしめられた。あまりの力に先ほど飲んだコーヒーを戻しそうになる。  
「オイ!やめろ猪女ァァァァ!!死ぬ!死ぬからコレェェェ!!」  
武市は必死でもがいて振り解こうとするが、また子は力を一向に緩める気配は無く、むしろ足を絡ませてきて更に拘束を強めてきた。  
「晋介様ァァァ!!今日という今日こそはこの来島また子を貴方の女にしていただくッスゥゥゥ!!」  
 
「だからァァァ!!私は高杉さんじゃないってェェェ!!離せこのボケェェェェ!!」  
一体何がどうやったら自分が高杉に見えるのか、武市にはわからなかった。しかし、ふとテーブルに目を移すと、また子が大量投下していた砂糖が目に入った。  
(し……しまった……!頭脳派の私としたことが不覚だったァァァァ!!)  
砂糖壷の中身は砂糖などではなかった。春雨の連中が転生郷に代わって新しく仕入れ始めていた麻薬、その名も桃源狂。  
その作用とは、使用者が愛しく思い描く人物像を記憶中枢から最大限に引き出し、目の前にいる人物を、思い描く理想の人物だと錯覚させるものだった。  
簡潔に言えば、服用すれば相手がどんな不細工だろうと好みから外れていようと、自分の理想の人物だと思い込める、モテない輩には最高の代物なのだ。  
無論、振られてしまった意中の相手に服用させて貞操を奪い、できちゃった婚に持ち込んで強制結婚もお手の物という恐ろしい使い方もできる。  
が、今の武市にとってこの状況はあまり嬉しくない。自分を愛しの高杉だと思い込んでいるまた子はいいかもしれないが、武市は全く嬉しくない。  
幼女に限りなく優しいフェミニストにとって、また子は好みから大きく外れるからである。  
(春雨の連中に貰ったはいいけど、入れる物がなかったからって空の砂糖壷に入れておくんじゃなかったァァァ!)  
武市はこの薬の作用を聞いた時、心に希望の光が差した。これを服用すれば妄想の中ではあるが、幼女とやりたい放題なのだ。  
相手がどんな年増だろうと、胸さえなければ幼女と認識できる素晴らしい代物なのだ。幼女に手を出せば犯罪だが、郭の年増になら手を出してもオッケーだ。  
しかもこの薬は、副作用というものが無い。正に楽園へのパスポート。そのつもりが、こんなことになろうとは……!  
(ああ……私のフェミ道の楽園が崩れ去っていく……こ、こうなったら!)  
酸欠で薄れ行く意識の中で、武市はとっさに機転を利かせた。流石は頭脳派である。  
(私もアレを飲んで、猪女を幼女と思い込んで楽しんでやるぅぅぅ!)  
手を伸ばして砂糖壷を掴もうとした武市であったが、また子が彼の腰を引っ掴み、そのまま押し倒したためにその望みは叶えなれなかった。  
「晋介様……今日という今日は逃がさないッスよ……ハアハア」  
うふふ、と微笑むまた子の姿は武市には悪魔に見えた。最後の望みも絶たれてしまい、武市は覚悟を決めることにした。  
「……ううっ……こんな乱暴な猪女に犯されるなんて……全く、屈辱ですよ……」  
「やけにしおらしいッスね、晋介様……ああ、でもこういうことになると実は弱々しい晋介様も素敵ッス……」  
恐怖のどん底になる武市とは正反対に、また子は幸せの絶頂にいた。冷たくドライな晋介が実はウブというシュチュエーションは彼女を興奮させた。  
……実際は先輩の武市変態が沈んでいるだけなのだが。  
「ホラ、好きなだけ触っていいんスよ、晋介様……この来島また子、晋介様になら何だって差し出す覚悟ッス……」  
また子は高杉(武市)の腕を掴み、その手を自分の豊かな胸に押し付ける。  
最初は自分で揉ませておき、ゆるゆると揉みしだく動作が見られると、その手を離して着物をはだけて直に触らせた。  
普段は恐れおののかれるテロリストの首領との交わりで主導権を握り、意のままにしているのだという支配欲がまた子を優越感に浸らせた。  
あの焦がれた高杉にまたがり、自分の胸を触らせているのだという優越感。  
「あん……いいッス……凄く、いいッスよ、晋介様ぁ……」  
乳房を口に含まれ、また子の快感は一気に昇った。  
「もっと、もっと吸って欲しいッス……はぁん……」  
赤ん坊のようになった高杉の頭を撫でて引き寄せ、また子は這い回る舌の感覚を楽しんだ。  
(……あーつまんねー……早く終わらせて夢から醒ましてやらないと。ホンットこの馬鹿女は……)  
悦に浸るまた子を差し置いて、武市はいつもの無表情でまた子の乳を弄繰り回していた。ロリコンの彼からすれば、この豊かな乳房は何の魅力も成さない。  
(せめてまな板ならまだ楽しめたんですけどねえ。)  
とりあえず彼女を絶頂させてさっさとこの呪縛から逃れよう、と武市は考えながらまた子の性感帯を刺激した。  
その度に髪を振り乱して乱れる彼女をぼんやりと網膜に焼き付けながら、どこをどうやったらこんな馬鹿が生まれるんだろう、と呆れた。  
 
「はあ……はあ……晋介様ぁ……もう、また子は我慢ができないッスよぉ……」  
胸への愛撫ですっかり濡れてしまったまた子は、おもむろにミニスカートをたくし上げ、パンツを引き摺り下ろした。  
小生意気なチャイナ娘に昔言われたように、そのパンツはシミどころか洪水を起こしていた。  
「……し、晋介様……お願いします、晋介様のを入れて欲しいッス……」  
卑猥に顔を上気させながら、また子は足を開いて高杉を誘った。  
(あーあ、来島さん、全く女らしくないですよ……こういうのはもっと焦らして恥らうのがいいのに……)  
これじゃあ高杉さんだって萎えてしまうでしょうよ、と軽蔑の眼差しを向けながら武市はまた子の腰を引き寄せ、己のドライバーを挿入した。  
「……はああああっ……!おっきい…晋介様のおっきいよぉ……」  
(アンタ高杉さんの見たことあるんですかァァァ?!もうこのアマなんなの?!どんだけ高杉さん好きなの?!)  
自分の膝の上でよがるまた子を尻目に、武市はさっさと彼女をイかせる作業に没頭した。  
「あああっそこぉ!胸も弄っちゃいやぁ……ん!」  
騎乗位という体勢で深く膣を抉られ、乳首を強く抓られて攻められたまた子は口を大きく開いて喘いだ。  
「……ハアッ……ハアッ……そこはちゃんとドSなんですね……晋介様ぁ……最高ッス……惚れ直しちゃいそうッス……」  
うっとりとまた子は高杉の顔をなぞった。見た目よりもすこし骨ばった感触から男らしさを感じ、また子はその首筋にキスを落としていく。  
さらに自らも腰を激しく動かし、室内に肉のぶつかり合う音と卑猥な水音がこだましていく中、音が耳に入るとまた子の羞恥心がむくむくと膨らんでいく。  
そしてそれはまた子の媚薬となり、更なる快感をもたらす。愛しい人とようやく一つになれたのだという幸福感が彼女の中を満たしていく。  
「ああ……夢みたいッスよぉ……晋介様ぁ……また子は幸せッスぅ……」  
(本当にお前の夢だけどな。つーか私は全然幸せじゃないんですけどォォォ!)  
目の前で完全に夢の中で一人上り詰めるまた子を見、武市はその憤怒を腰にぶつけた。  
(ホラホラさっさとイけェェェ!もう、ホントカンベンしてェェェ!)  
「ひぃんっ……晋介様……激し……っも、駄目……駄目ッスぅぅぅ……!」  
激しさを増す高杉の攻めに、また子は支配していた優越感から一気に服従させられるという劣等感を植え付けられる。  
しかし、それを行う者が高杉であると思うと、また子には快感でしかなかった。持ち上げておいて、落とす。その落差に快楽は比例して増した。  
「あっ…あっ…やぁん…イっちゃう……い、イくッスぅぅぅ!!」  
最後に奥深くまで一気に貫かれ、また子は絶頂を迎えた。頭の中は真っ白になり、不気味に微笑む愛しい男の姿だけが彼女の網膜に焼き付いて離れなかった。  
(……やっと終わったか……ああっクソぅ!すんごい悔しい!!何かもうすんごい悔しいいいい!!)  
ぐたったりと自分の身体に寄りかかるまた子を押しのけながら、武市は無表情で心の涙を流した。  
(ちょっとだけ……ちょっとだけ気持ちいいかもしんないとか思っちゃった自分がいてすんごいやだ!もう死にたい!)  
しかも顔をなぞられたりキスされたりもう踏んだりけったりだ。武市は恨めしそうなオーラを全身から放出し、砂糖壷を睨んだ。  
(よし。今度こそ。先ほどまでの仕返しですよ、来島さん。今度はあなたが泣き叫ぶ番ですからね……!!)  
ぐったりと力を失ったまた子の体の隙間から手をのばし、桃源狂の入った砂糖壷を掴もうとしたその時、また子が目覚めた。  
「……あれ?晋介様ぁ……?んー……何か体に刺さってる感じがして、気持ち悪いッス……」  
頭を抑えながらまた子は違和感の元凶である下半身に視線を落とし、そこで彼女の目が有り得ないほどに見開かれた。それはもう武市もビックリなくらいに。  
(ちょっとォォォ!早い!早いから目覚めるのォォォ!!普通こういうのって気がついたらベッドの上とかそういうモンでしょォォォ?!)  
また子の早すぎる目覚めに武市は焦りに焦った。これだからこの馬鹿女は……!  
「あ。武市変態。」  
まずい。目が合ってしまった。また子の顔がそのまま固まる。  
 
「変態じゃないです先ぱ……べぶらッ!!」  
武市が言い直そうとしたその刹那、また子の鉄拳が武市の顔面に炸裂した。  
「このド変態がァァァ!!よくもアタシに変なクスリ盛ってくれたッス!!絶対に許さんからなァァァ!!」  
「ち……違いますよ!お前が勝手に飲ん……ひでぶ!!」  
「言い訳は聞かないッスゥゥゥ!!女の夢をよくも踏みにじりやがったなコノヤロー!!」  
そのまま追い討ちを決めて馬乗りになり、顔面をボコボコに殴り続けるまた子に、武市はされるがままだった。頭脳派とは、こういうとき悲しいものである。  
「だから話聞けってこのクソア…うわらばッ!!」  
「お前アタシが晋介様に対して日頃思ってたキッショイ台詞とか全部聞きやがったッスか!うおおお!!忘れろ!!忘れろォォォ!!」  
「痛い痛い!死ぬ!死んじゃうから!!頭パーンッ!ってなるから!!頭脳派の私の頭パーンってなったら鬼兵隊もパーンッだからァァァ!!」  
「知るかボケェェェ!!何がフェミ道だァァァ!!何がロリコンじゃ貴様ァァァ!!」  
「来島さん、やめなさいっ!!……お願いだからもうやめてェェェ〜〜〜〜!!」  
 
 結局、また子の気が治まったのは、武市の顔がアンパンの顔で出来たヒーローのように腫れ上がった後だった。  
「ああ〜〜〜もう晋介様に合わせる顔がないッスよぉ〜〜〜……よりによってこんな武市変態なんかと……」  
「お前な、こっちだって心外だっつーんだよ。何が楽しくて幼女じゃない上に馬鹿とヤんなきゃいけないんだよ。」  
「じゃあヤんな。そんなに幼女好きなら勝手に一人でシコって楽しんでろ変態。」  
「お前が襲ってきたんだろボケ。」  
「お前が変なクスリ置いとくのが悪いわボケ。」  
襲ってきた当のまた子も、武市も凹んでそれぞれ悪態をつきまくった。もう最悪のパターンである。  
「来島さん、このことはお互いなかったことにしまよう。その方がお互い身のためです。」  
「ったりめーだ変態。もし晋介様の耳にでも入れてみろ。大筒ん中入れて爆死させんぞ。」  
「入れさせねーよ。お前こそバラしたらパンツシミだらけって言いふらすぞ。」  
そこまで言うとまた子は足で乱暴に扉を開け、ガン!というけたたましい音を立てながら足蹴で閉めて出て行った。  
「あーあ。もうこんなに散らかして……ったくあの馬鹿女は……」  
ハア〜と、長くうっとおしい溜息をつきながら武市は部屋を片付けた。また子が暴れたせいで部屋の中はぐちゃぐちゃに荒れていた。  
勝手に間違えて薬を飲んで、勝手に人を襲っておいてよくやるわ、と武市は不機嫌そうに眉をしかめた。  
「お前なんか高杉さんが一生抱くかっつーの、バーカ。」  
憎まれ口を叩きながら、武市は砂糖壷を戸棚の奥深くに仕舞った。  
 
 「ったく、散々な目に遭ったッス……!」  
戦艦内の廊下をドスドスと不機嫌な顔つきでまた子は歩いていた。ああ、胸糞が悪い。  
薬の作用とはいえ、よりによって武市と高杉を間違えてしまうなんて。  
(ああっ…しかも、しかもっ!!武市先輩に全部聞かれたッス!!見られたッス!!恥ずかしすぎるッスゥゥゥ!!)  
くそ、と戦艦の壁を八つ当たりに思いっきり殴ると、よりにもよって、今一番会いたくない人物の声が頭から振ってきた。  
「来島ァ。あんまし、艦内壊すんじゃねェよ。ここはウチじゃなくて、賃貸住宅なんだからよォ。」  
包帯を巻いた隻眼に着流し、彼女が敬愛する高杉だった。今の心情でなければ、一番会いたかった人物である。  
 
「ハ、ハハハ……すいませんッス……ちょっと最近暴れてないモンだから、力が有り余っちまってッスね……」  
「そォかァ……なら次はお前ェに働いてもらおうかァ?賃貸住宅一軒ブッ壊されちゃァ、困るからよォ。」  
「こ、光栄ッス!この来島また子、全身全霊をかけて敵を殲滅するッス!」  
「へェ……楽しみにしておくぜ……」  
敬礼をしながらも、また子は冷や汗が背筋を伝うのを感じた。勘のいい高杉のことだ、自分が先ほどまで何をしていたかなどお見通しなのではないのだろうか。  
そんなまた子を楽しむかのように、高杉は煙草をくゆらせ、死人のような気味の悪い目を笑わせた。  
その目はまた子の全身に注がれ、まるで針を刺していくかのようにまた子は感じた。背筋にぞくっと寒気が走る。  
「あ、じゃ、これで……失礼しますッス」  
居たたまれなくなったまた子は、そのまま高杉の目の前から姿を消そうとした。が、  
「……来島ァ……」  
高杉に呼び止められる。振り返らずに彼の言葉をそのまま聞く。  
「……お遊びも程々にしとけよォ……?薬漬けの壊れた銃なんざ、俺ァいらねえからなァ……」  
また子はごくり、と唾を飲み込む。どうやら、他の男と情事に至ったことはバレていないようだ。しかし、薬の疑いをかけられてしまった。  
だが、それならまだいい。高杉以外の男に身体を開いたことを知られる方がまた子にとっては屈辱であり、彼女にとっての絶望だからだ。  
また子は素早く自分の腰の銃を引き抜くと、そのまま高杉の背後にある柱を打ち抜いた。柱には宇宙毒虫の死骸が飛び散って四散してた。  
「……早撃ち、鈍ってたッスか?」  
そう呟かれたまた子の台詞に、高杉はククク、と笑った。  
「面白ェ……やっぱお前ェ、面白ェよ、来島ァ……」  
不気味にニヤリと笑うと、高杉は廊下の外へと消えていった。彼の気配が完全に消えると、また子はふう、と息を吐いて自室に入った。  
(晋介様……最近貴方がわからなくなってきたッスよ……)  
確かにまた子にとって高杉は憧れであり、心酔する男だが、最近になって彼にいざ会うと、あのような寒気を感じることがある。  
(ま、武市先輩との不名誉なコトがバレなかっただけよかったッス……)  
まあ考えてもわからないしいいや、と勝手に決め付けて、また子はベッドに身体を投げ出した。  
 
しかし、武市もまた子も二人ともまだ知らなかった。あの不名誉なやりとりを密かに聞いていた者がいようとは……  
 
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