風が揺れる。
少女がさらわれたのは一人の男の命令でだった。
姫と呼ばれる身分にあるがゆえの誘拐、空に浮かぶ船上で夜の空気はただ静まり返っていた。
連れていかれた奥座敷に、その男は居た。
「……よォ」
気軽な口調に鋭い嘲りが混じっていると、すぐに少女は察する。
さるぐつわのせいで返事ができないが、どうせするつもりもなかった。
己の身分をわきまえ、常に覚悟はしていた。
今日、その日がやってきただけだ。
「泣きわめくかと思っていたが……存外、気丈なタチってわけかい……」
ニヤニヤして少女を眺めていた隻眼がすっと細くなる。
「まァ、殺すつもりはハナからねェ。お前には人質になってもらおうと思ってな」
煙管をくゆらし紫煙を吐き出す。
「丁重におもてなししようってこった。……オイ」
男が一声かけると、少女を連れてきた屈強な男達がノソリと部屋を出ていく。
その中で、また子だけが鋭く目を光らせて柱に背を預けたまま立っていた。
「お前も下がれ」
「いやっス。子供といえど、晋助様に危害を加えるような真似をするなら、一発であの世行きに
してやるっスから」
ちらりと一瞥を投げかけただけで男はまた子から目を逸らす。
「……少し遊び相手をしてくれねェか」
カン!と煙管から灰を落とし、視線を窓の暗闇へと向ける。
「お姫様がどんな味なのか、興味があってなァ」
己が壊そうとしている国の大事なお姫様。
この手で汚しておきたいと思ったのは、あまりにまっすぐ見つめてくるからだった。
怯えた瞳で、泣き叫んで絶望するように目の前にひきずられてくるものだとばかり思っていた。
それなのに、今目の前にいる少女の心は折れてもいないし、瞳にも恐怖の揺らぎがない。
刹那に手折ってみたくなった。
はかない花をもぎとるように、ただ単純にそう思った。
「また子、押さえろ」
「……え」
意味をはかりかねる表情をしたものの、すぐにまた子は動く。
「手を膝で踏め」
男と少女を交互に見遣り、また子は少女を仰向けにさせてから、縛られている両手首に体重を
かけて膝を乗せた。
「……こうっスか?」
男は答えず、あぐらをといて立ち上がると、ゆったりと少女の足元へ近づく。
唇を噛んで睨みつけてくる少女の両足をぐっと持ち上げ、顎でまた子に指示を出す。
険しい顔をしたまま、また子は少女の細い白い脚を握りしめた。
少女は一連のやり取りの間中暴れてはいたが、大人二人に力で敵うはずがなく、傍目には
されるがままに押さえつけられ着物の裾をめくりあげられる。
「極薄の総レースかよ、顔に似合わずってやつだな」
縦に薄く秘部の肉色が透けて淡い桃色が映える。
まだ毛も生えていない少女の御開帳が生々しくて、また子は凝視することが出来なかった。
男は部下の反応をもまったく意に介さず、レースの上から肉芽を探る。
その指が冷たくて柔らかくて、少女はビクリと身をすくませた。
巧みにうごめく指先が快楽の芯を捕らえ、乱れるよう強制してくる。
声など漏らすまいと必死に堪える様が男の醒めた心にうっすらと火を灯す。
幼い肉芽が爪の先でひそやかにこすられ、指の腹でそっとつままれ、押し上げられ揉み込まれ、
ぷっくりと固くなっていく。
じわりとした熱いものが自身の中から垂れだすのを感じ、もがきながらも少女は顔を赤らめた。
すっと手が伸びさるぐつわが取り去られる。
喘ぎながら舌を噛み切るなど出来まいと男は踏んだのだろう。実際その通りだった。
少女ははしたなくも吐息を速くさせるだけだった。
小さくも完全に勃起した感触を確かめるようにコリコリと肉芽を転がされた後に、レースの隙間から
指が入り込み粘ついた音を立てさせられる。
男は濡らしてやがる、とは告げなかった。
部屋に響く淫らな音だけで少女には充分だった。
「……っいやぁ……!」
羞恥に負けて荒っぽい吐息とともに少女が濡れた声を出す。
少し染まった顔を見据えたまま、男は指を秘裂の奥へと進ませた。
しかしすぐに抜きとると、粘液をからませた指で大きく肉芽をこすりあげる。
「ああっ……い、や、やめ……」
慣れきった指が幼い肉芽に絡まるたび、逃れようのない快感が少女の腰を揺らしだした。
「晋助様……」
また子が苦しげにつぶやく。
男は見もせず答えもせず指の数を増やしていく。
それ以上は何も口にすることができず、また子はただ黙って少女の震える足首を強く握りしめた。
男は膝を少女の背にいれて身体を深く折りまげさせると、所作の合間に下着もずらし、両手で
白い太ももを押さえつけた。
ぱっくりと開いた秘裂に舌先だけを近づけていき、紅く充血した肉芽の先にそっと触れる。
繊細な愛撫に驚きと陶酔とを呼び起こされ、少女は快楽の渦巻く身体の芯をもてあまし、混乱していく。
チロチロと動くなめらかな舌先が小さく尖った少女の蕾を開かせるようになぞり、揺らし、根元から震わせる。
「く……う……ああ、はあああんんっ」
自身のよがり声の大きさにも気づけず、与えられる快感に酔いしれるままに少女は業の深い快楽を貪った。
「ああ、あぁ……」
痙攣のような身体の震えの意味を悟り赤面する暇もなく、責めが続く。
口に含み膨らんだ肉芽を男はじっくりと時間をかけて吸い上げこねまわす。
ドクドクと脈打つ音が耳にはっきりと聞こえるようだった。
わずかな抵抗もなくなった両脚から手を離すと、男は指で秘裂をひろげていき、中指をずぶりとねじこませる。
そうして中を探って少女の反応と指先の感触とから女の弱いところを容赦なく責めだした。
嬌声が一段と大きく跳ね上がる。
つられるように愛液があふれかえり少女の尻を伝う。
指を増やし、じゅぽじゅぽと音をさせて抜き差しを続けながら、もう片方の手の指で肉芽を挟み込んで、
ねっとりと撫で回した。その動きは執拗で容赦がない。
少女が涙を流し脚を硬直させ始めてもそれは変わらなかった。
むしろさらに勢いをまして手加減なく責め抜く。
細い身体が達するたびにビクンと跳ね、喉をふるわせ悦楽の声をあげる。
幼い唇が何度も絶頂を告げ、中でうごめく指を締め上げ噛みつく。
快楽に溺れていく少女を見るのは愉しい。
「……晋助様ぁ……」
何故か赦しを乞うたのはまた子だった。
目の周りが真っ赤に染まっている。
絶頂の荒波にもまれ、それでも続く饗宴に少女は狂う寸前で、それをこうも目前にしてしまっては
女の部分が強く疼く。
部下の様子を察しているそぶりすら見せずに男は少女を無理やり開花させていく。
いたいけですらある唇からはヨダレがこぼれ、頬は涙で濡れ、潤んだ瞳は虚ろで、もれでる吐息は
もはやただの女のそれでしかなかった。
男の指と舌がもたらす快楽に溺れ喘ぎ意識すら流してしまう。
ついに激しい痙攣と潮を吹き上げ、つま先まで硬直してから、少女はゆっくりと気を失っていった。
それを見届け静かに身体を離すと、男は口元をぬぐいながら立ち上がり、
「……もういい、行け」
と、呆然とするまた子に反論を許さぬ口調で命じた。
衣擦れの音がした。
男はそちらを見ようともせずに声だけで少女を呼ぶ。
「こっちに来ねーか……江戸城が見えるぜ……」
夜空の暗さに肌を刺す風。
顔におちる影に彩られる様々な想い。
城では語られない本当の歴史もこっそり独自に学んできた少女には、何が善で何が悪か、自分には
決められるものなど何もないと、そう感じていた。
それを体現しているかのような男を目の前にして、少女は息が詰まる。
「お遊び」を終えた今こうして対峙していても、何故かこの男には恨みを持てずにいた。
「どうしてそう、哀しそうなんですか……」
「……言ったところでお前に何が出来る」
胸に開いた穴に苦しんでいる、泣くかわりに嘲笑っている、高杉という男に少女はどうしても憎しみを
持てないでいた。
刻み込まれ、植え付けられた快楽の為す錯覚なのだろうか。
埋めたい。
この男の欠落を、自分が埋めたい。
前にしゃがみこんで奉仕の姿勢をとる。
少女といえど歌舞伎町に出入りしては何も知らずに済ませてはいられない。
横目で見下ろしながら、少女の動きを男は制止しない。
やがて取り出した一物に少女は唇を近づけ、慣れない舌を使いだした。
あまりにも静かすぎる愛撫が始まり、濡れた音だけがひそやかに窓辺に響く。
男は空の向こう、高層ビルに囲まれくぼんだように映る天守閣をぼんやり眺めながら、まるで
他人事のように身体を任せていた。
稚拙で幼稚で初々しい口淫だが、天賦の才か、勘どころは悪くない。不思議と漲っていった。
口だけでは足りないと感じた少女は、おそるおそる手を肉棒に絡ませ、しごきあげ始めた。
どんどん口の中で大きく膨らんでいく感触が少女を喜ばせていく。苦しいのも構わず口に咥え込み、
いっそう舌を使い出しては頭を上下させ、先走りを絡ませた指で竿の根元をもみしだく。
男からは吐息すら聞こえないが、口の中で強まる脈動と怒張具合に興奮するままに少女は動きを
速めていった。
少女から発散される奉仕の雰囲気の中に、悲壮感がないことは男にもわかっていた。
身体の芯にあたたかい何かが流れ込んでくる。
目を閉じて少女の口に射精した。
むせこむ音に目を開け、膝の間にうずくまる髪を撫で、しかし何の感慨も込めずに口を開く。
「……帰れ」
「でも……わたし人質なんじゃ……」
およそ状況にそぐわない、去りがたい、悩ましい色気がそよ姫から放たれる。
それに気づかぬふうに高杉は続ける。
「お前に人質の価値なんぞねェんだよ」
何が本当なのか、何が真意なのか、そよ姫にはわからない。
「また子、いるのはわかってる。連れて行け」
襖が開き、仏頂面でまた子がはいってくるなり、か細い腕を取って強引に連れ出していく。
そよ姫の唇から男の名がこぼれる。
「……っ晋助さま……!」
真似するんじゃないっス、と口にだして言えない雰囲気をまた子は感じていた。
それだけにいっそう、早くこの娘をこの場から追い出したかった。
足音が去り静まり返った部屋の中で、脳裏から離れない何者にも負けない強い瞳を、昔から知っているような
重苦しい気分で男は思い返す。
──あれは誰の瞳だったか……
気にくわねぇアイツラだったか、それとも……名を口にするのさえ苦しい、あの人か……
己が選んだ道を突き進むしかもう道は残ってはいない、それだけはずっと変わらず背を押し続けている。
──進むしかねぇ、世界が壊れればそれで終われる。
長い悪夢も、意味のない現実も。
うたかたのような交わりが、少しだけ色をともなって心の片隅にこびりついていたが、それもまもなく消えるだろう。
高杉は唇を歪めて小さく笑った。
完