「ねえ、なんで俺と付き合ってるの?」  
「さあ?地味だからじゃないかしら?」  
 艶やかな黒髪がさらりと彼女の白い頬にかかる。座卓の向かいに座るのは上司の想い人  
である女性志村妙。あんなストーカー男にしつこくアタックされながらも、全く隙を見せ  
ず、いやむしろ返り討ちにして泣かせる豪腕の持ち主。でも美人。ここ重要。俺より遥か  
に金も権力も人徳もある局長ではなく、一介の隊士の俺なんかと彼女が付き合っているの  
か?ぶっちゃけ俺にもわからない。俺は監察という職業柄、表面的な彼女の情報には通じ  
ているとは思う。少なくとも俺にとっては顔見知り以上の存在ではあった。だって、本気  
で局長の嫁、おれらの姐さんになってもらおうと思っていたわけだし――。  
 しかし、彼女の中に俺の存在感など虫けら以下なんだろうなと思っていたある日、彼女  
に唐突に告られた。どうせなんかの罰ゲームなんだろ!知ってるよ!女子の間で男子をか  
らかって遊ぶゲームだろ?俺が何度それで女子に心をときめかされ、何度手ひどく種明か  
しをされ泣かされたことか!女性に告られると突如として人間不信に陥ってしまう俺。そ  
の時ばかりは感情的に、え?嘘じゃん?絶対からかってるんでしょ?冗談よしてください  
よーやだなーなんて卑屈になっていたら、顔面に彼女の強烈な右ストレートが――。道端  
に大量の鼻血を撒き散らす俺。あ、やっぱり罰ゲームなんじゃん。ハハハ、もう人間なん  
て誰も信じねー、世の中の純愛カップルなど全員爆発しろ!と世の中を呪いながら、見上  
げた志村妙の顔。頬を赤く染めて、瞳を潤ませたりなんかして、「夢じゃないわ。信じて…  
…?」なんて言われて、頷かない男がいるだろうか?多分、いるだろうけど、俺は頷いた  
わけだ。俺はね?  
 
 自分が彼女を好きかどうかもわからぬまま、局長に罪悪感を抱きつつも、俺達のお付き  
合いは始まった。だからって突然Aに発展することも、はたまたCに発展することもなく、  
健全なお付き合い――というよりも、俺は監察の仕事で不規則な生活状態、彼女の方もシ  
フト制の仕事のため、なかなか彼女と過ごすという機会は少なかった。それでも、数少な  
い時間を見つけては、彼女は俺のために劇薬もびっくりな真っ黒こげな料理を作ってくれ  
たり、俺も彼女の家の壁からこんにちはして彼女の好きなアイスクリームをプレゼントし  
たり、信じられないくらい月9や少女漫画のようなことをしちゃってる俺ら。正直、雰囲  
気はめちゃくちゃいいさ。ミントンしか楽しみのない殺伐とした日々を送る中でこんなに  
心が穏やかになれるなんて考えられなかった。相変わらず彼女の腕力は失礼ながらゴリラ  
並だったけど、一緒にいることで見えてくるそれまで知らなかった彼女の人柄に俺が心を  
惹かれているのもまた事実。付き合う以前まで俺は彼女を一本筋の通った美女としか認識  
していなかったけど、実際の彼女はまだ18歳と俺よりも全然年下で、弟と亡き父の残し  
た道場を守るために気丈に振舞ってはいるが、まだ存分に少女のような純粋さだって残し  
ていた。ファーストキスが俺とだなんて本当に良かったのだろうか?  
 
 そして話は冒頭に戻る。  
「でも謎だよ。道場ためにはやっぱり局長はお買い時だと思うよ。金持ってるし、なによ  
り人がいいじゃん」  
「別に……退さんだって、悪くないわよ。地味だけど……」  
 俺と地味はどれだけセットなんだよ。わかってるけどさ。  
「ほら、退さんだってなんだかんだいって公務員じゃない。私みたいな仕事してる女には  
堅いと思うわ。退さんは派手に使ってるって感じじゃないし?」  
 ああ、やっぱり俺ってそこなんだ。女の人ってそうゆうとこはちゃんと見てるんだ。  
「うーん。でも普段使わなくても、刀がさ。絶対必要じゃん?結構そうゆう時にぶっとん  
でくよ?」  
 残念ながら貯まってはいないです。はい、すみません。何が良くて俺なのかは未だもっ  
てわからないけど、彼女が思ってるほど、俺という人間はできてない。これだけは自信を  
持って言える。  
 
「ほら、俺なんていつ死ぬかわからない仕事してるわけだから、貯めこんで残しててもし  
ょうがないっていうかさ?残したい人間なんて……」  
 嗚呼、でも思う。思ってしまった。でも下手に残して遠い知らない親戚がしゃしゃり出  
てくるよりは――。  
「君に、残せたら、いいのかも」  
 道場の復興費用、最悪アイスクリーム代に消えるのかもしれないけれど。彼女と血のな  
り肉となるのなら、いいんじゃないかななどと思ってしまった。なんだ俺。夫面かよ。彼  
氏の立場ですら曖昧な癖に。さっきの発言重すぎじゃね?ドン引きじゃね?彼女の顔を見  
る勇気が持てず、視線を外す。視線の先には彼女の父の仏壇があった。彼女の父の遺影が  
俺を見て笑っているような気がした。行過ぎた発言失礼しました。  
「ごめん。今の発言忘れてほし」  
 俺の言葉を遮るように、座卓が宙を飛んで、彼女の父の仏壇に。親父さんんんんんん!!  
ちょっ!遺影割れた!遺影!仏壇遺影大惨事!親父さん泣いちゃう!座卓ぶっ飛ばしたの  
はきっと彼女で、一体何事かと、彼女に恐る恐る視線を戻そうかどうかとしていると、ぐ  
いっと顔の向きを強制的に変えられ、そして――。  
「んんんっ!?」  
 キス――つーか思いっきり俺の唇に彼女の唇がぶつけられた。猪突猛進な彼女の性格を  
物語るアグレッシブかつバイオレンスなキスだ。それだけに留まらず、その勢いのまま俺  
は畳の上に押し倒された。えええええ、嘘おおおお、マジでえええええ。俺の心臓もあわ  
や大惨事寸前。と思いきや、俺を見下ろす彼女の泣きそうな顔を見て、別の意味でドキリ  
としてしまった。  
「そんなこと言わないで」  
 そんなこと?はて、俺は何を言ったっけ?  
「なんで俺と付き合ってるの?」  
「戻りすぎよ」  
「局長はお買い得」  
「私が付き合ってるのは退さんよ」  
「刀と仕事と貯金の話?」  
「死ぬなんて言わないで」  
 そこか!確かに両親を早くに亡くしている彼女には些か軽率な話だったかもしれない。  
謝罪の気持ちをこめて、彼女の体を抱きしめる。俺と彼女の身長はほとんど変わらないけ  
れど、骨格ってものが違う。彼女の体は俺なんかよりも全然細くて、そして柔らかい。あ  
といい匂いがする。せっかく彼女が俺のことを心配してくれたのに、このシチュエーショ  
ンはちょっとヤバいかも?よからぬことをしてしまいそうかも?もう今日はここいらでお  
暇したほうがいいなと口を開きかけた瞬間、彼女がもぞりと動いた。  
「今夜、新ちゃんいないの」  
 これはきっと夢に違いない。夢だったら何してもいいよな?体を反転させて、彼女を畳  
の上に寝かせると、夢の中の彼女の唇を奪った。  
 
 帯を解き、着物を脱がせ、襦袢も彼女の肌からはらりと落とす。彼女の透き通るような  
若い肌を隠すのは、純白のブラジャーとパンツだけになった。ごくりと唾を飲み込む。フ  
ァーストキスでさえまだだったんだ。この彼女の肌に触れるのは、おそらく彼女の父と弟  
以外、俺が初めてだろう。彼女からも緊張が伝わってくるが、俺だって緊張している。処  
女は抱いた事がない。処女喪失は相当痛いと聞くが、彼女にできるだけ痛みを与えず処女  
喪失させられるのか――不安だ。いや、でもここで俺が不安がってたら、その不安が彼女  
に伝わってしまうだろう。俺だって経験豊かとは言えないが、ここはリードしてこそ男だ  
ろう。彼女の額や頬にキスをしながら、下着を取り払う。眼下には一糸纏わぬ彼女の裸体。  
彼女という新雪。そこは踏み入って足跡をつけるのは自分。自覚すると下半身に熱が集ま  
る。彼女のことを好きかどうかわからないとほざいていたが忘れてくれ。俺は間違いなく  
志村妙が好きだ。局長、すみません。相思相愛の俺らは事に至ります。  
 
 俺がじろじろ見すぎたせいか、彼女は両手で胸を隠して「小さくてすみませんでしたね」  
と、拗ねた顔をする。彼女の胸は慎ましいけど、それ以上に今は自分の胸の大きさを気に  
したり、拗ねたり姿が何だか愛らしいと思えて仕方がない。唇を重ねて、彼女の口腔に深  
く舌を潜り込ませる。キスに不慣れな彼女の逃げる舌に自分の舌を絡めながら、頭の隅で  
今から行う行為に似ているなと思った。唾液を絡め、彼女に送り込み、手は彼女の胸を包  
み込み、愛撫を始める。彼女は小さいと気にするけれど、確かにその場所は柔らかく、男  
の俺はやわやわと揉んでいるだけで不思議と幸せな気持ちになる。少し硬くなってきた薄  
桃色の先端を強めに刺激する。  
「ふぅ……んんっ……」  
 感じているのかはわからないが、刺激に確かに反応はしているっぽい。首筋を舐め上げ  
てみたり、乳首を口に含んでみたり、彼女の柔らかな内腿を撫で上げてみたり。いつにな  
く熱心に愛撫する。過去の女性からしたら、俺と言う男は前戯に時間をかける男ではなか  
ったんだろうが、今日は気の遣い方が違う。特別中の特別だ。彼女が感じるところを見つ  
けられるのならば彼女の体のどこにだって指と舌を這わせるつもり。彼女の肌の熱と息が  
上がってくるのを見れば、煩わしさなんか忘れた。  
 いよいよ彼女のほっそりと長い足を割り開き、彼女の秘裂に触れると、びっしょりとは  
いかないまでも、濡れてはいた。内心ガッツポーズ。指を一本滑り込ませる。  
「痛い?」  
「痛くはないけど変な感じ……」  
 そのまま指一本のまま、彼女の中を解していく。解すように掻き混ぜていると、その途  
中でもじわりと中が濡れ、とろりと中から愛液が溢れてくる。頃合を見計らい、指を二本  
に増やし、それでも痛がらないので徐々に指を出し入れさせる。ぐちゅぐちゅと秘部を掻  
き回すいやらしい水音が室内に響き始める。彼女は声を出していいのか悪いのか戸惑いが  
ちなくぐもった声を出している。そういえば俺は彼女の敏感な場所に触れていなかったな  
と親指でぐっと押し潰すように刺激すると、途端に彼女は足を跳ねさせて悶えた。  
「あっ……いやぁ!そこはやめて……あっあっ……」  
 やはりそこは彼女にもイイ場所だったらしい。嬌声の漏れ出した彼女の口を再び自分の  
それで塞ぎ、びくびくと蠢きだした中へ指を激しく出し入れさせる。彼女の中が柔らかく  
なってきたなと思い、指を引き抜くと、指から蜜が滴り落ちた。息を切らして、胸を上下  
させる彼女の横で、一応持ち歩いていたコンドームを装着し、彼女の膝裏を持ち、さらに  
大きく割り開かせる。  
「背中に手回して。いくよ」  
 自身の先端を彼女の入り口にあてがい、ぐっと割り入っていく。たっぷりと濡れてはい  
るものの、初めて男を受け入れるそこは狭く、俺を締め付ける。俺にしがみつく彼女の腕  
にも力が入る。痛いとは言わないけど彼女の眉間に入った皺が俺に向けて痛いと叫んでい  
る。ゆっくりと根元近くまで押し込み、そこで一旦休憩して小刻みに震える彼女の体を抱  
きしめた。  
「大丈夫?」  
 訊ねると、俺の腕の中で彼女はこくこくと頷いた。うん、声も出ないほど痛いんだね。  
ごめん。彼女と俺の結合部からは愛液とは別の、破瓜の証が滴り落ちていた。  
 
 長生きするのか明日死ぬのかわからない俺に比べ、いかにも長生きしそうな彼女にとっ  
ては俺との付き合いはもしかすると一時のものなのかもしれない。それでも思う。今夜、  
確実に、志村妙は俺が死んでも忘れられない俺の女になったのだと――。  
 
 

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