「銀ちゃん」
その唇から洩れる声は鈴のようで、男の耳奥を心地よく刺激する。
今まさに花開かんとする少女の、大人とも子供とも言いきれぬ危なげな色気が漂っている。
常の少女からは想像もつかぬ艶を含んだ目に男は知らず息をのんだ。
「銀ちゃんが私のこと子供みたく思ってること、私知ってるヨ。それはそれで嬉しいネ。私もそれに甘えてる。
でもね銀ちゃん。私、もうそれだけじゃ我慢できないアル。
銀ちゃんに私のこと、女としてみてほしいヨ。それで私も、男の銀ちゃんを知りたい」
言って、するりと衣服を脱いだ。
緊張の為か、すでに淡い胸の先端はわずかな兆しをみせている。
地球人とは比べようもない極上の白い柔肌が安っぽい電灯の下で不思議と輝いて見えた。
微動だにできないでいる銀時の手に、神楽はそっと己のそれを重ねた。
「ねぇ、抱いてヨ。贅沢言ってるって自分でもわかってるアル。
せっかく銀ちゃんが私のこと、娘のように思って受け入れてくれてたのに。、
そのまま何もしなければ家族としてずっと仲良くやっていけるってこと、わかってたのに
それを今、私ブチ壊そうとしてるネ。ごめんネ銀ちゃん。ごめん、ごめん……っっ」
反応を示さぬ銀時になけなしの勇気が崩れたのか、言葉の途中で神楽の顔がくしゃりと崩れた。
「ごめん！！やっぱいいアル！！！私おかしいネ！！」
背を向けて逃げ出そうとした神楽を銀時が抱きしめた。
正確には抱きしめる、というよりは顔を神楽の背に埋め、すがりつくような格好になっている。
「あー……全くもう、ほんと駄目な奴だわ俺ぁ。お前に、ここまで言わせちまうとはよう」
「銀ちゃん……？」
「謝んのは俺の方だよ、神楽。いつか、俺の方から腹くくって言おう言おうと思ってた言葉を
おめーに先に言わせちまって……。情けねぇ男だよ。俺ぁ」
「銀ちゃん。それって……」
「ああ。俺はお前が好きだよ、神楽。情けねぇことにな。
子どものように、大切にしようと想ってた奴をいつの間にか女として見てんだからなぁ。
しかもおめぇにヒかれんじゃねぇかと、この関係すら壊れちまうんじゃねぇかと心配で
結局今日まで言えずじまいだ。許してくれっか？神楽。こんな年ばかりくったちっぽけな男をよ」
泣き笑いのような表情を浮かべる銀時に、神楽はしばしぱちくりとその大きな瞳を瞬かせ
しかし次の瞬間華のような笑みを浮かべた。
「何言ってるアルカ……銀ちゃんがこう見えて結構弱っちい男だってこと、
私や新八はとっくにお見通しネ。それでもそんな銀ちゃんが好きだから私たち、ここに居るアル」
「そうだな…………あぁ、そうだよな」
「そうネ！……んっっ」
感慨深げに頷いた銀時に勢いよく応えた次の瞬間、神楽は唐突に唇を奪われた。
キスをしているということはすぐに理解できた。嬉しくて不器用ながらも必死に応戦する。
「んっ……んぅ……！はっ、ん……！」
少しして銀時の舌が神楽の歯の間を割って口内に侵入してくる。
あぁ、気持ち良い……。と、神楽はぼうっとしびれる頭でそれだけを思った。
舌と舌とを合わせるなんてどう考えても気持ち悪そうなものなのに、
なんでこんなにも気持ち良いのだろうか。それに身体が熱い。
まるで実力の均衡する者と闘っているときのように、心の底から喜びが湧いてくる。
もっとほしい。もっと……―――
「はぁい終了」
「へ？」
続きを求めること以外何も考えられなくなったところで、銀時がふいに離れた。
ぽかんとした表情を浮かべる神楽を余所に、銀時は乱れた神楽の衣服を整える。
「続きは、また今度。な？」
「な……何アルカ！？空気読めヨこの天パ！こんなとこで止めるとかそれでもお前男かよ！！」
「天パはそこで関係ねーだろーが！！お前ね、今日告白して今日ベッドインとか、
そんな盛りのついたお猿さんみたいなことしちゃいけません！
というか銀さんはそんなだらしのない女の子に育てた覚えはないからな！今日は遅いからもう寝なさい！」
背を向ける銀時に神楽はヘタレだのなんだのと可愛らしい悪口をぽんぽんと投げかけたが
次の銀時の言葉を聞いたとたんその目を見開いた。
「大切な女との大切な初夜は、そう簡単に済ましちまっていいもんじゃないんだよ。
―――わかんだろ？」
「うん…………うん！！ありがとう銀ちゃん！大好きヨ！！」
「俺も好きだよ。神楽。これからもよろしくな」
互いの鼓動を感じ合うかのように、二人はぎゅうと相手を抱きしめた。