今日、一月十四日は柳生四天王のひとり、東城歩の誕生日であった。
変態の二文字がこの上なく似合う男だが、それでも幼少の頃から世話になってきたし
せめてプレゼントくらい用意してやるかと九兵衛は考えた。
しかし東城が好きなものなんて卵かけご飯くらいしか浮かばず、
頭を悩ませながらふと壁を見たら、
そこにはいつものようにゴスロリ衣装が一着掛けられていた。
思わず反射的にロケット砲を手にとったとき、
もし僕がこれを着たら東城は喜ぶだろうか、という考えが頭を掠める。
今までいくつ爆破したかわからないが、心のどこかで着てみたいと願う自分も居る事を知っていた。
自分が女だという事実が周りに知れ渡った今でも、女の格好をして人前に出るのは
まだ勇気が出なかった。
それでもこの間、妙の頼みできゃばくら嬢として可愛らしい服を着せてもらった時、
恥ずかしいと同時に凄く満たされる気持ちがしたのを覚えている。
かなり迷ってから、
そうっと、壁にかけられたその服を手にとった。
夜も更けたころ、
東城歩は自室でいつものように「若の成長記録」をつけていた。
今日も麗しかった九兵衛を思い浮かべながら、こっそり部屋に置いてきたゴスロリ衣装は
やはり燃やされただろうか…と軽く溜め息を吐く。
いつか九兵衛が何の気後れも無しに可愛い服を着て女の子として
暮らす日がくればいいと、そのせめてものきっかけになればと
無数に仕込んできたが、未だ着てくれたことは一回も無かった。
照れ隠しなのか、それとも本当にそんな服は着たくもないのか、判然としなかったが
九兵衛のためなら例え財布が空になろうとも、いつかその日が来るまでは
毛頭諦めるつもりはない。
それでも少し気落ちして、もう一度溜め息を吐いたとき、
突然部屋の戸が叩かれる音を聞く。
「…僕だ、東城。」
我が主君である九兵衛の声が響いて、驚きとともに嬉しさがわく。
しかしこんな夜更けにどうしたのだろうと戸に手をかけたら、
「まて…っ!やはり、だめだ…っ、開けるな…っ!」
と、大層慌てた声がして、東城は手を止める。
「若?何かあったのですか?」
「なんでもないっ、なんでもないんだ…っ!」
そう言われても明らかにいつもと違う様子が心配で仕方なくて
思わず戸を引き開けていた。
そして目に写ったものに全身を硬直させる。
今日忍ばせておいたゴスロリ衣装を身に纏った九兵衛が
恥ずかしそうに下を向いて立っていたからだ。
「あ、開けるなと言っただろう…っ!!」
九兵衛は顔を真っ赤にして後ろを向いてしまう。
「若…着てくださったのですね…。」
感極まるとはこういう気持ちなのかと思った。
東城が想像した以上にその服は九兵衛によく似合っていて
細い身体のラインが際立って、短い丈の下からは綺麗な白い太ももがよく見えた。
ミニを選んでよかったと心底思った。
その髪はいつぞや妙にしてもらったように二つに結い上げられていて、
九兵衛の動きに合わせてよく揺れた。
「若、こちらを向いてくだされ。」
触ったらまた投げ飛ばされるだろうと覚悟しながら、そっとその細い肩に手を置いた。
しかし九兵衛は微かに身体を震わせただけで、なぜか東城の身体が宙を飛ぶことはなかった。
「…おかしいだろう…。」
少しの沈黙のあと、ポツリと呟かれた言葉に首を傾げる。
「?…何がでございますか?」
「僕が…僕がこんな、女の子みたいな格好をしているのはおかしいだろう、と言ったんだ…。」
「若…、まさかそんな、そのようなことは一切ありませんぞ、若!
本当に、本当によくお似合いです、どこから見ても可愛らしい女の子でございますぞ!」
咄嗟にその両肩に手をかけて、そう叫んでいた。
「東城…」
九兵衛は驚いたようにこちらを振り向いた。
「僕は…今の僕はちゃんと女の子に見えるか?普通の…妙ちゃんみたいな、女の子になれているだろうか…?」
心細そうに聞く九兵衛があまりに可愛くて、思わず抱き締めそうになるのを我慢して身体を離した。
「もちろんでございます。妙殿に匹敵するどころか、この江戸で…いや世界中で若より美しい女子を私は見たことがありません。」
「それはちょっと言いすぎじゃないか…?」
東城の大げさな言葉にツッコミを入れながら、その言葉に喜ぶ自分が居る事を九兵衛は感じていた。
「こんな夜更けに大声を出すのもまずいぞ。パパ上に怒られる。…とりあえず中に入ってもいいか?」
「え?…あ、はい、それはもちろん…」
九兵衛の思わぬ申し出に驚いたが、断る理由があろうはずもなく、
部屋へと上がる彼女の後を追って戸を閉めた。
適当にその辺に座る九兵衛に、東城も畳へと腰を下ろす。
なんとなくこの状況が落ち着かなくて、誤魔化すように口を開いた。
「それで若、今日は何のご用事でいらっしゃったのですか?」
「今日は…お前の誕生日だと南戸から聞いたんだ」
思わぬ名前に東城は驚く。
「あの全身男性器からですか…!?」
「ああ。それで、お前には日頃世話になってることだし
何かプレゼントぐらい用意してやろうと思ったんだが、お前の好きそうなものなんて皆目検討がつかなくてな…。
だからせめてこれぐらいはと思って…。」
そこまで聞いて、九兵衛が何故あれ程嫌がっていたゴスロリ衣装を着て自分の元を訪れたのか
やっと気が付いた。
「若自ら私のために着て下さったのですか…?」
思わぬ九兵衛の言葉とその行動に、東城の中で何かがプツリと切れる音がした。
それには気づかず九兵衛は未だ恥ずかしそうに畳へと視線を落としながら早口で言う。
「だってお前…その、こういうやたらヒラヒラした可愛い服が好きなんだろう?
いつもいつもいつのまにか僕の部屋に置いてあるし…。」
「ええ、それはもちろん好きですが…。でも、若に似合うと思ったからこそ、
私は若のために用意したのですよ。」
ふと気づけば、東城がすぐ傍に立っていた。
「東城…?」
「若…、若は女の子になりたいとお思いになりますか?」
「え?」
突然の質問に九兵衛は首を傾げる。
「なりたいも何も僕はそもそも女だろう。今まで男として生きてきたが、もうその必要もなくなったしな…。」
先日、妙とその仲間を巻き込んでしまった辛い事件を思い出して、少し表情が曇る。
「いえ、そうではなくて。身も心も女の子として…ですよ。」
「それはどういう――」
意味なんだ、と問おうとしたとき、その口を何かに塞がれた。
それが東城の唇だと分かると同時に反射的に投げ飛ばそうと滑らせた両手は
大きな手でガッシリと掴まれて、そのまま畳の上へと押し倒される。
唇が僅かに離れたと思ったらまたすぐ塞がれて、呼吸の為に口を開いたところに
生温かいものが割って入ってきて、とっさに自分の舌で押し返そうとするが
そのまま絡め取られて吸われて、今まで感じたことのない感覚に身体が震えた。
唾液までもってかれて、段々頭がぼーっとしてきた時に
やっと解放されて大きく息を吸った。
「はぁ…はぁっ…、い、いきなり何をするんだっ…!東城…っ!」
両手は東城の右手によって頭の上でひとつに拘束されて、
覆い被さっているその体重のせいで身動きも取れない。
すぐ上の細目を睨みつけてそう叫んだら、
「何って、おわかりになりませんか?」
やけに静かな声が降ってきた。
その言葉の意味を九兵衛が探り当てたとき、ボッと顔が赤くなる。
いくら初心な九兵衛でも、男女が二人きり、床に寝っ転がってする事と言ったら
ひとつしかないと知っている。
『すまいる』に差し入れに行くとき、妙やその同僚と話をする機会も多く、
昨日は恋人とキスしたとか、寝たとか、こっぴどく振られたとか、よくそんな会話も耳にしていた。
男になりたくてがむしゃらだったとき、知識が欲しくてそんな関係の本をパラパラ読んだこともあった。
恥ずかしさで本を閉じてしまうこともしばしばだったが…。
「わ、わかるとかわからないとかそういう問題じゃなくて、何故僕にこんなことをすると聞いてるんだ…っ!!」
赤くなった顔を見られたくなって、視線を反らしながら勢いだけで叫んだ。
「それは…」
そこで東城が黙った。どうしたんだと思って視線を戻したら、九兵衛の服の帯に手をかけているところだった。
「なっ…!?ま、まてっ…、東城、やめろ…っ!」
九兵衛の制止も空しく、帯はするすると解かれていき、その飾り紐で九兵衛の両手首を縛り始める。
そして東城は自由になった両手でますます九兵衛の服を脱がしにかかった。
すぐにその穢れのない肌が露になって、その白さに一瞬見惚れてから、鎖骨をなぞるように舌を這わせる。
「や、やめろっ…て…いってるだろ…っ!」
戸惑うような九兵衛の声が漏れた。
生温かいものが身体をなぞっていく感覚に九兵衛は思わず目を瞑る。
やがて九兵衛のやや小ぶりな胸を東城の大きな手がやんわりと包んだ。
そのまま大事なものを扱うように優しくもみしだかれる。
「…やっ…ぁ…っ!」
我知らず漏れた甘い声に驚く暇もなく、その頂きに東城の唇が触れたと思ったら
ちゅうちゅうと音を立てて吸われて、大きく身体が跳ねる。
「…ぁぁっ…んっ…っ!」
九兵衛の反応に気を良くしたのか、もう片方の頂きは指の腹で擦られて、
口に含んだものを何度も舌で転がしては吸って、しつこいくらいに弄ばれる。
「あっ…は…っ…やぁっ!」
そのあまりに強い感覚に九兵衛は身悶えた。
何か痺れるような甘い感覚が身体の奥にわいてきて、それから意識を反らすように
固く目を瞑るものの、ますます与えられる刺激が鮮明に写るだけであった。
「やめ…っ…東城…っ…ぁっ」
九兵衛が感じていることがわかって、喜びがわくと同時に今すぐ目の前の少女を貫きたい欲望を必死に抑える。
やっと胸から口を離して、左手で優しく揉みながら下腹部にいくつも接吻を落とし、
茂みの奥の秘所に右手を伸ばすと、そこは既に蜜が滴っていた。
とっさに大きく足を開かせて、じっくりとその場所を眺める。
「…ぁ…っ!」
綺麗なピンク色のそこはあふれた蜜でてらてらと光って、
何かを待ち望むように微かに震えていた。
「若…」
その淫靡さに吸い寄せられるように唇を寄せて、蜜を舌ですくうと、
「ばかっ…やめろ…っ……あぁっ!」
抵抗の言葉は甘い喘ぎに代わって、ますます蜜があふれていく。
何度も何度も花びらを舌でなぞって、蜜をすくっては飲み込んで、
秘所の中まで舌をねじこんで蜜をかき出した。
「ぁあっ…や…っ…は…ぁんっ!」
自分でもよく見たことがないそこをじろじろ見られて
消えてしまいたい気持ちだったのに
まるで何かの食べ物のようにしゃぶりつかれて
舐めまわされて、恥ずかしいとか止めて欲しいとかよりも
それを気持ちいいと感じている自分の身体が信じられなかった。
だんだんほぐれてきた九兵衛の秘所へ指を一本差し入れると
きゅうきゅうと締め付けられて、ますます固く膨らむ自分の欲望を宥めすかしながら
指を何度も抜き差しして、そのすぐ上の熟れた肉芽へと唇を寄せる。
舌でぺろりと舐めてから、優しく吸い上げた。
「あぁっ…っ!やぁ…っっ!」
九兵衛の身体が大きく跳ねて、その強すぎる刺激に涙を零す。
入り口に近い内壁を指で強く擦って、同時に肉芽を舌でしつこく嬲ると、
「ぃや…っ、やめ…っ…東城…っ!おかしく、なっちゃう…っ!」
九兵衛の絶頂が近いのを察して、指を二本に増やして激しくかき回した。
「ぁ…ぁあっ、やぁあああああ…っっ!」
びくんと大きく震えた身体からは高い嬌声が上がって、
秘所は東城の指をひくひくと締め付けて大量の蜜があふれ出る。
しばらく痙攣したあとぐったりと力つきて荒い息を繰り返した。
「はぁ…、はぁ…っ」
自分の身に何が起こったのか分からなくて、身体を起こした東城へと視線を向けると、
「ああ、若…、若は随分と敏感な身体をしていらっしゃる。こんなに早くイってしまわれるとは…。」
東城は何故か嬉しそうに微笑んでいた。
その言葉に九兵衛は戸惑って、思わず聞き返す。
「…イ、イく…って、どういうことだ…?」
「女子(おなご)は性の快感がたまると、やがてそれが弾けるようにもっと強い快感が押し寄せるのだそうです。
それにしても私の拙い舌技で達していただけるとは…。嬉しゅうございます。」
感極まったような東城とは対照的に、その言葉に九兵衛はいたたまれない気持ちになる。
東城の愛撫が上手いかどうかなんて分かる訳もないし、自分が敏感な身体だといわれても
ただ与えられる刺激に身体が勝手に反応しただけの事で、それがまるで素晴らしいことのように言われる事が
恥ずかしくてたまらなかった。
「…も、もういいだろう…っ、東城、はなしてくれ…っ!」
とにかく一刻も早くこの状況から逃げ出したくて、視線を反らしながら
手を縛る紐を外してくれるように仕草で示す。
「いえいえ、若。まだ、これからが本番でございますぞ。」
そんな九兵衛を愛おしそうに見てから、東城は着ているものを脱ぎ始めた。
そして表れたソレに九兵衛は視線を奪われる。
「な、なんだ…それ……」
赤黒いグロテスクな色をしたソレは大きく膨らんで天まで反り返り、
先端からは何かの汁を垂らしていた。
「おや?若はこれを目にするのは初めてでございますか?」
「はじめてじゃないが、そ、そんなに膨らんだのは知らない…」
小さい頃に風呂でパパ上やおじい様のを見たことはあったが、今東城の股間にそそり立つソレは
まるで別の生き物のように思えた。
そして、『すまいる』や本で聞きかじった知識を思い出して更に青ざめる。
「そ、そんなのが本当に…僕の、中に……?」
九兵衛が何を言いたいのかすぐに察して、東城はやんわりと微笑む。
「ええ、はい、そうです。今からコレを若の中へと入れるのでございます。」
「む、無理だ…っ!そんな太いの入るワケないだろう…っ!!」
ぶんぶんと首を振って抗うが、東城は手早くコンドームを装着するやいなや
九兵衛の足を大きく開かせてその濡れた秘所へ己の欲望をあてがった。
「…やっ…やだ…っ!」
九兵衛の懇願も空しく、ゆっくりとソレが沈められていく。
「……ああっ…!!」
充分に慣らされていたとはいえ、処女である九兵衛にとって
その侵入するモノはあまりに大きく、引きつるような痛みが身体に走る。
「…若…っ」
まるで侵入を拒むかのようにぎゅうぎゅうに締め付けてくる九兵衛の内壁(なか)に
東城も余裕がなく、九兵衛が確かに処女であることが嬉しいとともに
今にも精を吐き出しそうなのを堪えていた。
「や…っ…ぬい、て…ぇっ…東城…っ!」
九兵衛が痛がってるのは重々承知していたが、ここで止められるわけもなく
半ばまで入れてから九兵衛の唇を塞いで深く貪る。
「…ふ…っ…んぅ…っ」
いきなりの事に驚いたが、されるがままに舌を交わらせていると、
少しだけ痛みが引いてくるのを感じた。
九兵衛のなかの緊張が緩んだのを見て、すかさず東城は奥まで貫く。
「…んんっ…っ!!」
突然の衝撃に九兵衛は身体を震わせた。やっと唇が離されて、大きく息を吐く。
「若、はじめは辛いでしょうが、辛抱くだされ。」
そう耳元で言われて、何がと問い返す前に
その圧倒的な質量が引き抜かれて、
「…ぁ…っっ!」
また蘇ってくる痛みに表情が引きつる。引き抜かれた途端にまた押し込まれて、
目尻から涙が零れた。
東城はそれを舌で拭い取ってから、九兵衛の胸の頂きを口に含んで転がした。
両手は九兵衛の腰を支えたまま何度も抽送を繰り返す。
「ぁあ…っ…は…ぁっ」
やがて、少しずつではあるが九兵衛の喘ぎに甘みが交じり始めた。
「んんっ…あっ…っ」
痛みの代わりにやってきたその不思議な感覚に九兵衛は困惑していた。
未だに胸は東城にしゃぶられていて、そこと貫かれているところから
痺れるような快感がわいてきて、その激しさに身を捩る。
九兵衛の内壁(なか)がすっかり蜜で潤ってきたのを感じて
東城は胸から口を離した。
腰を支え直して繋がりを深くしてから、早い動きで猛りを打ちつけていく。
「…ああっ…や…っ…んぁっ」
時折回すように腰を動かして、九兵衛が感じるところを探りながら、何度も奥まで貫いた。
「ふぁっ…あっ…とう、じょう…っ、東城…っ!」
名前を呼ばれてその唇を再び塞いだ。
「んっ…ふ…ぅっ」
これ以上ないほど深く突いてから、ついに東城は精を吐き出す。
「ぁ…っあ、あああああああっ……!!」
それと同時に九兵衛の中でたまりにたまった快感が弾けて、その身体を駆け抜けていった。
「はぁ…、はぁ…っ」
しばらくお互いの荒い息だけが部屋に響く。
そして東城はゆっくりと猛りを引き抜いた。
用済みとなったコンドームを手早く処理してから、九兵衛の両手の戒めを解いてやる。
やっと自由になった両手をさすりながら、九兵衛は身体を起こした。
「若、申し訳―」
東城が自分に謝ろうとしているのを知って、とっさにその唇を手で塞いだ。
「…若?」
「謝るな。僕はお前に謝って欲しくなどない。」
自分でも考える前にそう言葉が滑りでて、驚いたように固まる東城に微笑む。
「お前はさっき僕に言ったな。女の子になりたくはないか、と。
…初めは嫌で仕方なかったが、でも、これが、この感覚が、僕の女子としての証なのだな…。
その…よくは分からないが、気持ちよかったぞ、東城。」
最後の言葉はとても小さい声で、恥ずかしそうに俯いて九兵衛は東城へとその事実を告げた。
「ああ、若…っ!!」
東城は嬉しさを通り越して、これは夢じゃないかと思った。
でもとっさに抱き締めた九兵衛の身体の温もりは紛れもなく現実で、ますます
今感じる幸せが怖いほどだった。
「と、東城…っ!?」
いきなり抱き締められて九兵衛は戸惑った。
「若、私は幸せ者でございます…。若のような方に仕えることが出来て、若にそう言っていただけて、これ以上の幸せがこの世にありましょうか…。」
相変わらずな東城の言葉に九兵衛は笑みを零した。
「まったく大げさなやつだなお前は…。」
いつもいつも大げさな東城は、九兵衛が女の子になりたがっているのを誰よりも理解して
誰よりも九兵衛の幸せを望んでいた。
いくつも可愛い服を忍ばせたのも、いつだかはバベルの塔建設を勘違いして合コン騒ぎを起こしたのも
全ては九兵衛を思ってのことであった。
ただの変態行動としか周りには写らなかったが、九兵衛もそんな東城の気持ちをどこかで察していた。
でも長年、男として生きてきた自分がそんなにあっさり変われるはずもなく、
未だに道行く可愛らしく着飾った女の子達に羨望の眼差しを送る日々だった。
東城が欲望のままに行動した結果が、初めて実を結んだ日が今日だったのかもしれない。
強引な形ではあったが、東城から与えられた刺激と、それに反応した自分の身体は
九兵衛に自分は紛れもなく女子なのだという自信を与えるには充分だった。
「東城…ありがとう…。」
「若…?今、なんと?」
聞こえるか聞こえないかぎりぎりで呟かれた言葉を、東城の耳は聞き逃した。
「なんでもない…っ!」
恥ずかしさを誤魔化すように九兵衛は勢いよく立ち上がった。
そして畳に脱ぎ散らかされたゴスロリ衣装を手に取る。
「ああ、皺になってしまったな…」
結構気に入ってたのに、と胸中で呟くと、東城がひょいとそれを取り上げた。
「私のせいですね…、申し訳ありません。クリーニングに出しておきましょう。」
「ああ、頼む。…いや、待て。そうすると、僕はどうやって部屋に帰ればいいんだ?」
未だ裸の九兵衛は激しく戸惑った。当然、それ以外に着るものなど持って来ていないのだ。
「それにはご心配及びません。若はこちらをお召しください。」
そう言って東城はクローゼットから一着の服を取り出す。
九兵衛はそれを見て固まった。
それはいわゆる学校で女子が着用する体操服とブルマだったのだ。
「こ、このド変態がぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
思わず勢いよく東城の顎へ蹴りを決める。
東城は「それでこそ若です…」と嬉しそうに呟いてからガクリと気を失ってしまう。
「まったく、この男は変態趣味(それ)しか頭に無いのか…っ!」
さっき感じた思いも何処へやら、恍惚の表情で伸びている東城に思い切り侮蔑の視線を送ってから、自分で勝手にクローゼットを漁る。
しかし出てくるのは似たような変態嗜好な衣装ばかりで、苛々しながらもう一つの箪笥を開けたら
東城が普段着る着物がでてきた。
こっちの方がまだマシだと思い、何枚か羽織って帯を結ぶ。丈がかなり余ったが、まあ部屋に着くまでの短い距離、手で持ち上げてればいいか、と東城の部屋を出ようとしたとき
その着物からある香りが立ち上って、思わず足を止めた。
それはさっき抱かれているときに東城から感じたものと同じ香りで、我知らず頬が染まって、
それを振り払うように勢いよく廊下へと飛び出した。
全力で部屋まで走りきり、着いたとたんに全部脱ぎ捨てる。
「はぁ…はぁ…っ、なんで、僕がこんな目に……っ」
そしてふと視線を落とすと、自分の身体にいくつも赤い跡が残っているのを目にする。
東城がつけたものだと分かって、それを隠すようにとっさに布団に潜り込んで身を丸ませた。
この激しい動悸が、走ってきたせいなのか、それともはたまた別のモノなのか――。
それを九兵衛が知るのはまだ当分先のことである。
<終わり>