本当にしんどいときに、無理して笑ったりするような人。
どれだけ傷ついても、そのうち平気な顔して飲み込んでしまう人……
もしかして似てるから気になるのかしら。
「銀さん……」
思わず呼び止めてしまった。
だって、こちらも見ずに片手をあげて背中を向ける仕草が本当に、いたたまれなかったから。
「……なんだよ、お妙」
いつもと同じ、面倒くさそうに振り向いて、面倒くさそうに私の名前を呼ぶ。
どうしたらこの人を私に本気にさせることができるのだろうか。
「あの、ちょっとそこでお茶でもしませんか?」
「お前のおごりならいいぜ、銀さんいくらでもつきあっちゃう」
大人の余裕なのか、特に照れもせずOKの返事がくる。それがなんだか悔しい。
「んで? なにこれ、デート?」
テーブルに向かい合って座って、何を話すでもなくお互いのパフェを見つめ合っていると、銀さんが唐突に
ジャブをくり出してきた。
その口のまわりに少しだけチョコがついている。
そっと手を伸ばして、チョコをとるフリして唇に触れてみたい。驚くだろうか、それとも引かれるかしら。
内心を押し殺しつつ私がにこにこ何も言わずにいると、銀さんがため息をついた。
「焦ったり慌てて否定したりとかしねーのかよ、ったく可愛げのねー女だぜ毎度毎度」
一息で言い終わると細長いスプーンを持ったまま、ぐーっと伸びをしてソファに大きくもたれかかる。
無防備な喉元。
下手したら女の私より白いんじゃないかしら……
「なに、今度はなに怒ってんの」
「いいえ、怒ってなんかいません。何言ってるんですか銀さんたら」
いけない、つい……それにしても、改めてこうふたりきりになれても、何を話題にすればいいのか
まったく皆目見当もつかないわ。世の男女のデートっていったい何してるのかしら……
本当に理不尽だわ。私がこんなに胸を焦がしているっていうのに、この人ときたらのらりくらりで、
いったい何を考えているんだか……
「オメーさァ……」
「はい?」
「似合うよな、その髪……」
唐突にそう言われ、不覚にもぼっと顔が熱くなった。これって褒められてる……?
気が動転するあまりに私が何も言えずにいると、銀さんは視線をはずしながら淡々と言葉を続けてきた。
「ポニーテールっての? いいよな……」
また訪れた沈黙の中で、私の鼓動だけがやけにうるさかった。
こういうのってどうしたらいいのかしら。
もやもやするような、うずうずするような、肌淋しいような、強くぎゅっとしてもらいたいような、
したいんじゃなくてしてほしい、ってところがますます淋しいのよね。
……こんなこと言えるわけないわ。
思わず溜息が出る。
夜風の寒さを遮るために襖を閉めながら、剣術道場の娘らしくない女の弱音、いや本音を胸中でつぶやく。
熱心に口説かれて、身体を求められて、心の奥まで犯されたい。
例えばこの、目の前の酔っ払った愛しい天パに。
私たちはパフェの後もなんとなく別れるきっかけがなくて、新ちゃんがライブで蝦夷に遠征に
出かけているから、とか、最近は女ひとりじゃ物騒だから、とか、もっともらしい理由を並べる私の話を
興味無さそうに銀さんは聞いていたけど、特に嫌がるそぶりも見せずに家に来てくれた。
父上が残していた未開封のお酒をどこからか発見したのは銀さんだった。
うん、これは名誉のために言っておくべきよね。……器をふたつ用意したのは私だけど。
つまみは丁重に遠慮してきたし、卵も無かったから作らなかった。
そうしてごくささやかな晩酌が始まった。
「ちょっと待って銀さん! 私べつにそんなつもりじゃ……」
「そう思ってんのは女だけ。よくあることなんだよなこれがまた」
「でもこんなの、こんな……やっぱりダメよ、私たち恋人でも夫婦でもないじゃないですか……」
「キャバ嬢がどの口でそんなこと言ってんだ? ここか? ん?」
「きゃ! あっ……ちょっと待ってちょっと待って、もう酔ってるんですか?」
着物の裾から手を差し込まれて、太ももを這いのぼる銀さんの手を慌てて上から押さえつけた。
いつもゴリラにするように、顔面潰して投げ飛ばしても良いはずなのに、酔っ払ってる銀さんがなぜか
いつもより真剣な目をしているせいで、胸が落ち着かない。
口調はあれだけど、発散してくる雰囲気が違う。
おちゃらけるでもなく、あわよくば的でもなく、なんというか、この人実は私のこと好きだったりするんじゃ
ないかと錯覚してしまうぐらい、真剣な瞳。
「なんだよ、逃げねーじゃねーかよ……」
耳元に唇を近づけられ、切なく囁かれて、身体の芯が震えてしまう。
熱があがるのを隠すように、私は身をすくめてじっと黙った。
「お妙よォ……ホントは俺のこと……」
カッと頬が熱くなる。
気がついたらキスをされていて、心臓が痛いくらいに跳ね回る。
突き飛ばそうか投げ飛ばそうか迷いながら、心は流されたいと願っていた。
絡みつくようなキスと指先と、火照る頬が理性を溶かしていく。
酔いのせいにして、求められるままに身を委ねてしまえたらどんなに楽か。約束も未来もない、けれど
焦がれるような恋慕を満たすためだけに抱かれるのは、そんなに悪いことかしら……
だってこの人、誰のものにもなりそうにないんだもの。
せめて今だけ、私のことだけに夢中になってくれるのなら……
葛藤してる間にもゆっくりと畳へ押し倒されていく。
答えが出ない。まともに目が開けられない。
衿に手が滑り込み、優しい動きで肩まで肌蹴けさせられていく。
さすがに恥ずかしくて身をよじったら、キスで濡れたままの舌を首筋へと這わされて胸元に吸いつかれる。
「ん……っ、銀さ……ん……」
拒否したいのか抱きつきたいのか自分でもよくわからなくて、怯えるみたいに銀さんの着物を必死で握りしめた。
「お妙……力抜いて」
聞いたこともない優しげな囁きに身体が勝手に言うことを聞く。
ゆるんだその隙間にやわらかく銀さんの手が入り込み、下着に触れ、布越しに敏感な箇所をなであげてきた。
その瞬間、快感よりも恐怖が背を走った。
「だめ……やっぱりダメっやめましょう銀さん……!」
「なんで」
「私……っ知らないんです! こういうの今まで何も……」
反論しようとする私の唇をキスでふさいで、そしてつぶやく。
「今更だけどよ、嫌われてもいいから俺、お前の初めての男になりてーんだ」
「冗談……」
「抜き。本気。マジ。……嫌か?」
何も答えられない、頭が混乱する、胸が苦しい。
「ま、嫌でも、もうやめられねーけどな……」
じっとこちらを見つめる瞳が、小さい男の子のようにも、成熟した大人のようにも見える。
「お妙……」
さっきまでとは違う、許しを求めるかのようにそっと、唇を近づけて同意のキスをねだってくる。
銀さんにはどういう意味に解釈されるかしら……
ありったけの想いを込めて、だけど黙って、私は目を閉じた。
無い物ねだりはもうたくさん。
一晩だけでも私だって……この人が欲しい。
この人のものになりたい。
銀さんの指先が大事なところを拡げていくのがわかる。
お酒に酔った熱い指先、その淫らな熱がクリトリスにじんわり伝わってくる。
「……濡れてる」
弾んだような声が聞こえた。
「ばか……」
銀さんは私の精一杯の虚勢を鼻で笑って、もてあそぶようにクリにふうっと息を吹きかける。
背まで鳥肌が立ち、ぶるぶると膝が震える。
「こんな時まで意地張ってんじゃねーよ……」
「あなたこそ……こういうときまで意地悪なんですね」
「心外だな、俺はいつでも優しいぜ?」
こんな感じでな……という呟きは自分の喘ぎでよく聞こえなかった。
無防備に身をさらしていたクリを両側から指ではさみこまれて、そっと上に揉みあげられる。
こりこりとした小さく固い感触を確かめるように何度も両側から指でクリを揉まれ、恥ずかしさと気持ち良さに
息が荒れていく。
少しずつ充血してクリがふくらんでいく感覚に、自分の身体を操られているかのような気分になっていく。
やっと満足したのか今度は滑り下ろしながらゆっくりと左右に開き、舌先でぬめりを少しだけ先端になすりつけ、
濡れたクリを指でくるくるともてあそぶ。
あまりにも急に快感が強く襲ってきて、たまらず喉をのけぞらせてシーツにしがみついた。
「ここまで優しい奴はそういないぜェ? お妙さんよォ」
喘ぎ声を聞かれるのが恥ずかしくて枕元に散っていた帯締めを口にくわえる。
「よけいやらしいんですけど。そういうの」
にやにやと指摘されてしまった。
ああもう、どうしたらいいのか混乱ばかりが増していく。
「いいじゃねーか、喘いどけよ」
片腕をばっと伸ばし、私の口から細長い紐を取り去ると、銀さんは躊躇なくクリに吸いついた。
あたたかい舌がぬめってクリにまとわりつき、うごめくたびに身体の奥底から快感をひきずりだしてくる。
「あぅっ……あぁ……はぁっんあっ……」
どう喘いだら喜んでくれるのかなんて考えてしまうのが嫌で、自分の指を口にくわえて声を殺そうとするも、
すぐに銀さんは察したように私の両腕を押さえて動きを封じる。
身動き取れずに悶えさせられて、喘がされる。
羞恥が心を支配していき、目眩がするほど息苦しい。
それを凌駕する銀さんの舌が憎らしい。
クリを深くねぶり、柔らかく責めてくる。口の中でくゆらすようにクリを転がされる。吸いあげられる。
熱い舌で根元から小刻みに上下になぶられ続け、とうとう我慢できずにイってしまった。
「いくぅいっちゃう銀さ………あぅぅっ」
のけぞり硬直して絶頂の深さに酔っているところに、指が入ってきた。
鋭く突き抜ける感じたことのない類の快感に、知らず腰を浮かしていた。
指が中に潜りこもうと動くたびに腰が悶えて吐息が荒れる。
「やっ……やだ……いやぁ……!」
恥ずかしくて顔が痛いほど熱くなる。
「説得力ねーなァ」
唇を離した銀さんは指を中に入れたまま楽しそうに笑った。
指と愛液とで響く卑猥な音を聞かせるように私の乱れた髪の毛を片手でかきあげ、耳を晒す。
「最後まですんだろ? ほぐさなきゃ痛ーんだから、もう少しイっとけ」
ばかばか、キライ!
私がそう口を開くより早く、銀さんの唇がクリを責めだして、私を無理やり黙らせた。
気持ち良すぎる。こんなの知らない。
指と舌がクリを同時にいじめて、またすぐにイってしまった。
なのに、終わるかと思ったのに全然動きがとまらない。
いっそうふくらんだクリを舌先が躊躇なくねぶりあげ、中の指が押し上げ執拗にこすってくる。
激しい昂ぶりが身体の芯をはい上がり、耐え切れずに背中が弓ぞる。
白い光が脳天を貫き、意識をくまなく焼いていく。
「いくぅぅだめぇ……もう、もうおかしくなるからぁ……ゆるしてぇ……!」
子猫みたいな声しか出ない。悔しい。
一向に銀さんからの責めはゆるまず、むしろ指が増えていった。
容赦なく長い指を抜き差しされ、自分の中から何かがあふれて太ももを伝っていく。
ああ、頭より先に身体のほうがおかしくなったみたい……
ビクンビクンと勝手に跳ねて、銀さんの指をぎりっと締め上げて抜けないように噛みついてるような、
自分の知らない自分の身体をこのひどい男にひっぱりだされた気分だった。
どうしようもない快楽だけが頭の中を漂って、少しずつ理性のタガをはずしていく。
「ぎんさ……ん……」
いっそのこと想いを告げようとするも、執拗で優しい舌がまだクリを大事に大事に狂わそうと動くから、
最後まで言えずに私は意識を手放してしまった。
サディスティックな男がこんなにもツボだったなんて。
乱暴とは違う、肌でなく心をねじりあげて、縄でなく快楽で縛り上げて、独占欲と執着心を丸出しにした、
それでいておそろしく官能的だとは、思ってもいなかった。
普段と全然違うじゃない……
私は朦朧とした意識にさまよいながら、ぼやけた視界の中で銀さんを見つけた。
息ひとつ乱していない銀さんは腕で自分の口元をぐいっとぬぐうと、動けない私を見据えて愉しげに笑った。
「乱れ方すげーのな、お前……」
「あなたのせいでしょ……」
「なんだ、たまにゃァ可愛いいことも言うじゃねーか」
おかしそうに笑いながら私の髪をなで、余裕たっぷりにキスをしてこようとするから思わずにらみつけて
しまったけど、そんなのお構いなしに舌を入れられて貪られた。
そうしながら銀さんの手が胸へと這い、肌をすべり、腰のくびれを辿って、脚に伸び、膝を抱え上げるようにして
私の身体を折り拡げる。
何も言わずに熱く猛ったものをあてがい、沈み込むように深く鋭く侵入してきた。
そのあまりの太さと硬さに息がつまる。
「……痛くねーか?……」
銀さんが吐き出す溜息みたいなつぶやきに、何も言い返せない。
痛くて焼けそうで、涙がでてくる。
なのに私悦んでる。気持ち良さに困惑してる。
どうしたら伝わるのか、好きだと伝えるより難しい。
「だい、じょうぶ……」
そう言ってはみたものの、うまく微笑めなかった。眉根がかすかに寄る。
「お前はほんと……ずるい女だよなァ……」
困ったような、でも喜んでるような、なんとも言えない優しい瞳で私を見つめて、そっとキスをしてきた。
繋がっているままだというのに、長い時間をかけて丁寧に、ある意味紳士的な感じのキスが続いた。
「ん……そろそろいいかな」
何かを待ってでもいたのか、銀さんは唇を離してにやっと笑った。
「……そろそろって何です?」
「お妙のここが俺のに馴染んだ頃かな、てな」
さわさわと下腹部をなでられて、大事なところに侵入している異物感にいまさら怯えてしまった。
ゆっくりと銀さんが私の中を犯していく。
じわじわと引き抜いて、抜けそうになると、ぐっとお尻をつかんでずぶりとねじこんでくる。
どこまで入っちゃうのかしら、なんて考える余裕があるはずもなくて、熱くて卑猥な感触を教え込むかのように
じっくりと中を進んでいく……
耐え切れない、こんないやらしい動きで奥まで入ってくるなんて、考えたこともなかった。
銀さんのものが私の子宮にあたる。それだけでもう張り裂けそうなほどなのに、銀さんの動きがとまらない。
「はっ……入らないわ……もう奥まで、いっぱいなんです……」
苦しくて喘ぎながら声を出すも、
「まだ入る」
と嬉しそうに囁かれる。
「ぜんぶ咥え込んでくれよ、お妙……根元までずっぷりとよォ」
「はあああっこ、こわれっこわれちゃ……銀さっ……だめぇぇぇぇ……!」
私の懇願などかけらも聞き入れられず躊躇のない動きで奥まで貫かれ、火照る肌と肌が隙間なくくっついて、
ねっとりと濡れる。息がとまる。膝がふるえる。
銀さんは力強く全てを入れ終わると溜息のように深く息を吐き、腰をまわすように押しつけ私の中をかきまぜ、
「ほら入るだろ……そういうふうに出来てんの、女の体は……」
舌をぺろりと唇にはわし、上気したような瞳で見下ろしてくる。
こわいくらいに官能的で、ずるいくらいにテクニシャンで、女好きで、サディストで、私こんな人とこんなことに
なっちゃって大丈夫なのかしら……
もう逃げられない、そんな気がする。
「動くぜ」
短く宣言し、銀さんはまたゆるゆると引き抜いていった。
その途中で、
「締めてみ」
と言われたけど、身体が痺れて頭がついていけない。
「俺のが抜けないように力いれんだよ」
抜けない、ように?
あっ! と何のことかやっとわかったけど、そんなふしだらなこと出来るわけない。
想像してしまい思わず目をぎゅっとつぶったら、弾みで自分の中がきゅうっと締まっていくのを感じた。
「そうそう、ねっとりとな……絡みつかせて離さないようにして……お、上手い上手い」
やだこれ、どうしたら止められるの?! さっきよりも感触が全然違う……!
自分の中が銀さんにまとわりついて、いやらしく蠢いて、まるで誘い込んでいるみたいに絡みついていく。
「や〜らし……処女のくせに」
銀さんが喜んでる……もういい、何言ったって、見抜かれちゃうだけだもの。
気持ちいい、銀さん、気持ちいい……
ずん! と押し込まれた。
衝撃が激しくて吐息も出ない。
そんな私に銀さんは楽しげな声を出して要求する。
「……もいっかい、締めて」
またじっくりと引き抜かれる感触に身悶えし震えながら、感覚をそこだけに集めて、握り締めるように
銀さんのものを貪ろうと中を締めた。
「……あっ……?」
軽い驚きの声が銀さんの口から漏れ出た。
彼の瞳に雄の色が滲む。
「そういうことなら、こっちも容赦しねーぜ」
容赦なんてされてましたっけ?……
言い返す暇もなく腰をつかみなおされて、力を込めて突き上げられ、揺さぶられる。
「ひっあぁっ……すご…い……だめぇこわれちゃ……ん、んんっ……!」
いきなりのキスに言葉を奪われ、もうされるがままに犯され続けた。
もっと、なんてとてもじゃないけど言えない。燃えワードだって職場で教えてもらったけど、これ以上
激しくされたら本当に壊されてしまう。
舌を絡ませあって、吐息も許されずに、体中を快楽で縛り上げられる。
銀さんの手が肌をすべり、指が胸の先端をつまみあげ、クリトリスもつかまえ撫で回す。
はいのぼる悦楽に身体をどう明け渡せばいいのか悩むいとまもなく、背がのけぞり脚が震える。
絶頂の凄まじさに銀さんの舌を思いっきり吸い上げてしまった。
自分から頭を振って顔を離し、涙目で懇願する。
「ゆる、してぇ銀さんゆるしっ……」
見上げる愛しい顔には笑みが浮かんでいて、それはもうとてつもなくサディスティックだった。
「これからだろ? 何甘ぇーこと言ってんだ」
ああ、壊されちゃう。狂っちゃう。
それなのにどうしてこんなに私悦んでるのかしら。
優しく、残酷に微笑んで私を犯す愛しい男……
もう何もかも放り投げて狂おしい繋がりに酔いしれていたい。
中を貫く熱い肉棒を締め上げ、銀さんのいやらしい腰の動きに合わせて、自らも腰をふった。
奥まではいるように、抜けないように、カリ首がこすれるように、銀さんが喘ぐように。
銀さんが唇をかみしめるのが見えた。そのかわり瞳が壮絶な色を放つ。
愛液が粘膜が淫靡な音を撒き散らし、互いの肌に滴をこぼす。
腰を持ち上げられ、執拗にこすりあげられ、得体の知れない絶頂に連れていかれる。
貫かれる鋭さが脳天を揺さぶり、簡単に意識が飛ぶ。
一瞬一瞬の記憶が飛ぶ。
浅く抜かれて強く挿れられる度に深く達してしまう。
腰を打ち付けられる度に喜びで涙がでる。
彼の声で名を呼ばれるたびに愛しさで死にそうになる。
イってイって逝きまくって、彼の指がクリトリスと乳首を容赦なく責めあげ、体の境界線がとけてなくなって、
かすかに聞こえた切実なうめき声の意味すらわからず、喘いで叫んで悦楽の悲鳴をあげた。
繋がっている部分だけがリアルで熱くて、快楽の意味をあざ笑う。
激しいピストンで揺さぶり壊れるほど奥にねじこむと、銀さんは私をきつく抱きしめ唇を貪る。
動けないほど銀さんの身体が強張り、遠慮なくドクドクと中へ何かを注ぎ込んだ。
燃えるような、征服の証のような微笑。
それを見て私もなぜか微笑んでいた。
満足の極みを確認し合うかのごとく激しいキス。
呼吸がうまく出来ずに何もしゃべれないまま、溶け合うように抱き合って堕ちていった。
少しの目眩と少しの空白、私気を失っていたのかしら……
私たちはまだ繋がっていた。
もう何度イったかわからない、ふらふらになった身体を持ち上げられて、銀さんの上にまたがさせられる。
ずぶずぶともはや抵抗感もなく、私の中が奥深くまで猛りをのみこむ。
「う……んん……」
「自分で動いてみ」
手で身体を支えるのもやっとの状態で、腰を浮かすのさえ気力がいる。
しかも擦れるたびに快感がはいのぼり膝が震えた。
銀さんの両手が汗に濡れた胸をつかんで、指の間に乳首をはさみこんでくる。
こまかく揺さぶられるとなぜかクリトリスに甘く響いた。
ああ、もっと……
自分から腰を動かし快楽を貪る。
身体が上下に揺れ、つままれた乳首もそれに合わせて揉みあげられる。
すぐに達してしまい倒れ込もうとしたら片手で軽々と上体を支えられて、顔に熱をもった手の平がふれる。
たくましい腕にしがみついてくねらすように腰を振りつづけて喘いでいるうち、中にすごく感じるところを
みつけたので夢中になってそこだけをこすりあげた。
すぐにイく。逝く。逝く。逝く。
銀さんの指が口の中にもぐりこもうとするので、受け入れ舌にからませなめあげた。
「俺はいいんだけどさァ、さすがにこんだけ大きいとな……ちっとはご近所に配慮しなきゃな、声」
そんなにすごい声出してるのかしら、私……
長い指を咽奥まで誘い込んで喘ぐかわりにしゃぶり尽くす。
「色っぺー……なァ、そんな浅いとこがいいのか?」
そう言われて、指を舐めながらこくこくと必死でうなずいた。
銀さんのあれの出っ張ったところが、腕によりかかる姿勢で腰を動かすと快楽の源に過激なほど擦れて
当たって意識が飛びそうだった。背がのけぞり、享楽の声をあげそうになるのに耐えながら腰を振る。
にやにやと見上げてくる銀さんがちらりと見えた。
なんだか悔しい。
息を吐いて深く身体を沈めた。
引き抜くときには精一杯締め上げて、震える膝の限界でまたじわじわと沈み込んでいく。
奥まで入れて、ねじりあげて抜いていく。
銀さんはいきなりの責めの為の動きに息を荒らして呻いたけど、
「オメーなァ……」
と呆れたような声をだした。
「長いこと入れとこうとしてたのによ……せっかくお前と……」
何か言いかけて、でもすぐ視線を横にずらして頭をぼりぼりかいた。でもため息ひとつの後、
「俺をイかそうってんなら、足りねーよ」
静かな口調で煽ってくる。
「もっと速く、だ」
私はぐっと唇をかみしめて、ありったけの力を注いで動いた。
だけど余裕たっぷりに銀さんは微笑むと、しゃぶらせていた指を口から抜いて腰をつかみ、すごい速さで
突き上げてきた。
「ひっあぅ、はぐ、ふぁ、は、あ、あ、ああっ!」
「こんぐらいはしてもらわねーと」
短く息をつきながら派手な音をさせて銀さんがピストンを強める。
「ご、ごめ、ん……なさ……っ」
泣きながら許しを請う私には答えず、がばっと身体をはねおこした銀さんは、横向きに私を押さえつけて
片足を抱え上げる。
「……じゃ、いくぜ」
これって確か松葉くずし……
体位の呼び方を思い出す間にも深く深く貫かれる。
激しいだけの感触とは違う、不思議な部分を探り出すように斜め上へと突き上げられる。
太さと硬さが容赦ない。
身体が壊されちゃう。
「ほらな……」
銀さんの短い吐息が荒っぽい。
「女がイク動きと男のとじゃ違うんだよ」
触れてはいけないところにまでグングン侵入するかのような動きに、何も言えずに悶え続けた。
これ、ちょっと、私にはまだ早いのかも……そうよ私処女だったんじゃない……
苦しくて押しつぶされそう……
「……また今度教えてやるよ」
私の眉間によっていたシワを軽く撫で、銀さんは入れたまま私をぐるっとうつぶせにさせた。
そしてさっきよりも激しく動く。
私は枕にしがみつき衝撃と快感の波に翻弄されながら、少しほっとしていた。
だけどそんなのもすぐに掻き消される。
ぬめりと滑りで締めやすくなっているのか、力を込めると体の芯を気持ち良さが駆け抜けていく。
イかされるたびに叫びたくなるのをシーツを噛んで耐えた。
急にお尻をわしづかまれ、どくん、と奥に注がれる。
そのまま躊躇もなくまた銀さんはピストンを続ける。
あふれだす精液と愛液がこぼれだしてお腹に流れ、あごまで伝ってきた。
揺さぶられながら指先で白いぬめりをとり、舌でなめた。
苦い……これが銀さんの味……
朦朧としながら全部なめた。
「すげーいやらしーんですけど……」
少し乱れた息で銀さんがつぶやくのが聞こえた。
「ここも大変なことになっちまって」
人事みたいに言って銀さんは自分の白濁を私のクリにぬりつけなぶりだした。
それがあまりに凄すぎて、ひと撫でごとにイってしまう。これじゃまた狂っちゃう。
「イキまくってんなァ、お妙」
息を整えようともしない銀さんの嬉しそうな声が耳をくすぐる。
身体のコントロールがきかなくなってきて、どうやって中を締めたらいいのかも思い出せない。
ゆるんでがっかりされたくなくて、きつく脚を閉じて身体中の力をふりしぼって銀さんを締め尽くした。
察したのかどうなのか、優しく私の背中をなでると、銀さんは貫くかというほどに突いてきた。
速く激しく容赦なく、愛おしく。
がくがくと揺さぶられ酸欠で悲鳴すらでない。
握り潰されるようにして抱きしめられ、抑えた雄叫びが響く。
熱い奔流が身体の中を駆け巡りそのまま頭の中を蹂躙して、意識を持っていかれてしまった。
嬉しさに打ち震えながら、奇跡に酔いながら。
私の名を呼ぶ愛しい声を聞きながら──
ふたりだけで月を見た。
縁側で火照りをさまそうと寝床を抜け出た私を追いかけるように、銀さんが腕の中に私を囲う。
でも甘い言葉も何もない。あんなに乱れあった後だというのに、やっぱりこの人何を考えているのかしら。
父上も母上もいなくなって、道場も新ちゃんも私が護らなきゃと思っていたけど……本当は私も護られたい。
もしその相手を自分で選べるのなら、貴方がいいのに……
今夜限りで終わってしまうのかしら、この、不思議なくらいにあたたかい夜は。
「しょーがねーな、護ってやるよ」
「……なんです? いきなり」
「ん? 泣いてるみてーだったから」
「顔が見えないのにどうしてわかるんですか」
後ろから抱きしめてるくせに、そもそも涙だって出てないのに、と言おうとしたけれど、
「見えないからこそわかるもんなんだよ」
先にそう言われてしまっては黙るしかなかった。
いつもなら泣いてませんと更に意地を張るところだけど、今だけは甘えてもいいような気がして胸の中に
もたれかかる。
言葉通り護るようにそっと、銀さんの腕が私を優しく包み込んでくるから、そのあたたかさにほっとして、
心にずっと押し殺してきた想いが湧き出てしまい、本当に泣いてしまいそうになる。
素直に泣ければ、私もっと楽に生きられるのかしら。
でもただ甘えるだけなんて女がすたるわ。
「それじゃあ私はお礼に何かできるかしら?」
「そうだな……」
長い沈黙が夜空に漂い、やがて星のように瞬きながら愛しい声が降ってきた。
「生きて………笑って、いてくれ……」
銀さんの腕が小さく、小さくふるえる。
彼が護りきれずに死んでしまった大事な人たち。
私にその代わりが務まるのかなんて考えてしまうけど、「生きて笑う」ことでいいのなら、私にも
できるかもしれない。
きっと頭で理解できるところに心はないんだわ。だって万年金欠で天パでちゃらんぽらんで、それなのに、
こんなに泣きそうになるくらい好きだなんて、どう考えてもおかしいもの。
誰かのために血を流すことを厭わない人。
死をも恐れない人。
私はこの人にこそ生きて、笑っていてほしいと思う。
「約束するわ。いつでも私、笑ってることにする。そしてあなたよりも先に死なないわ」
しばらく考え込むように銀さんは黙って、それからいつものいたずらっぽい声が聞こえた。
「どっちが長生きするかは、競争だな。そこは譲れねーわ」
可笑しそうに、幸せそうに、私を抱きしめたまま、あの大人びた笑顔をしているんだろうなと思うと、
胸が苦しくて切なくてたまらなかった。
ふわふわした銀色の髪が私の後ろから風に揺れ、頬をなでる。
耳元で静かに声がささやく。
「お妙、オメーは一番近くで俺を見とけよ」
「……はい」
これは何の約束なんだろうか……でも今はこれだけで私には充分。
そのうち答えは出てくるはずだから。
本気の男を射止めるには急かさないこと、母の教えが役立つ時がきたわ。
今はこの満天の星と月をふたりで見上げていられることを、神様に感謝しよう。
私は自分を抱きしめる銀さんの手にそっと手をふれた。
すぐに優しく手を握りしめられて、やっぱり何も言わないまま、キスだけで愛おしさを伝えてきた。
目を閉じて身体を任せて、ふれあう指と唇と、お互いの心を、甘美なまでに夜の中で確かめ合った。
そうやって言葉のない契りを交わしている間にも私は、一度だけ約束を破らせて欲しいと思っていた。
だってもしあなたが先に死ぬときがきたら、私きっと泣くわ。
泣いて泣いて、泣きじゃくって……そうね、そのあとでいっぱい笑うわ。
だからいいでしょう?
愛してるわ銀さん、誰よりも、何よりも。
願わくば、これが運命でありますように。
いつか離れてしまう唇が切ない。
銀さんも同じように思っていたのか、このキスはなかなか終わらなかった。
...end.