「Killing me Softly」  
 
 
 暗い部屋の中で女は左右ともに手首と足首を縛られていた。  
 窮屈そうに膝を立てた女の上に馬乗りになっている男は、女の首に右手をかけていた。  
「…っ」  
 一瞬、苦しそうにした女は、悲しそうに微笑んだ。  
「銀さん……ごめんなさい。最後まで、迷惑かけて」  
 涙ぼくろが、涙でにじんだ。  
 
 
 
 
 
*  
 
 男はぐっすりと眠っている。  
 だらしなく伸びた体を見ていると、いつでも寝首をかけそうな気になってしまう。  
「…はあ……、銀さん…」  
 天井に張り付いたまま、くノ一さっちゃんはうっとりとした溜息をついた。  
 自分は何度彼の寝顔を見つめてきただろう。影に影に影に、時々日なたに積極的なストーキングを続けてきた。  
 よろず屋に忍びこむことなど今やメガネがなくても完璧だ。  
 しかし、今日のさっちゃんの心はいつものように浮かれてはいなかった。  
 メガネもちゃんと、かけていた。  
 
 しばらく恋しい男の寝顔に見入っていたさっちゃんは、やがてひらりと降りた。変態だが優秀なくノ一であることを示すように  
天井から床に降りても物音ひとつしない。  
 そして立ち上がったさっちゃんの手には、暗闇でもそれと分かる刃物があった。30センチほどの匕首だ。  
「銀さん……、ごめんなさい」  
 刃を手にしたまま眠る銀時に歩み寄る。  
 爆睡状態の銀時は、たとえ足音を消さなくても絶対に目を覚まさないだろう。もちろん、さっちゃんが声を出したところで聞こ  
えてはいまい。  
 それでもさっちゃんは言葉を続けた。  
 
「あんなにガードが固いくせに、本当に無防備なんだから。私でも、簡単に殺せちゃうゾ☆」  
 言葉はいつものように軽い。なのに、震えているのは涙のせいだ。  
「もっと、銀さんと一緒にいたかった……な」  
 やがてさっちゃんは己れを奮い立たせるように、匕首を握りなおした。  
 
*  
 
「糖尿が怖くて甘党がやってられるかぁァァァ!」  
 銀時は叫んだ。  
 叫びながら飛び込んだのはイチゴクリームのプールだ。今や、銀時の目の前には巨大なパフェやプリンやムースがある。  
「さーて、どいつから片付けてやろうかなぁー」  
 ニヤリと笑いながら手にしたのはパフェを食べるための先割れスプーン。  
 …ではなかった。  
 
「ちょっ! えっ!? 何これ…!?」  
 握り締めていたのは先割れスプーンではなくて、白木の柄の刃物だ。極道の人たちがよく懐にしのばせているような30センチほど  
の刃物は、もしかしなくても匕首、俗称ドスである。  
 
「いやいやいや、いくら俺が甘党道を極めていてもこれじゃ食えないから! っていうか怪我するから!!  
 だいたいスイーツと刃物ってどんな夢占いだコレ」  
 フロイト先生連れて来ーい!  
 と叫んだところで、あ、そっかあ俺夢見てたんだと気がついた。  
 
 夢と思うと目の前の美味しそうなパフェも色あせてくるもので、気持ちが冷めると目まで覚めてしまった。  
 目を開ければ案の定、見慣れた貧乏くさい天井だ。  
 が。  
 握り締めている先割れスプーンならぬドスだけは夢のままだった。  
 
「へ?」  
 寝ぼけ眼でぎらつく刃物を追っていくと、その視線の先にはさっちゃんがいた。  
 握り締めていると思ったのも勘違いで、さっちゃんが銀時に無理矢理ドスを握らせているのだ。おまけにメガ勘違いくノ一は、  
刃物を自分の首のほうへ向けている。  
「さよなら……! 銀さん…っ」  
 さらにさっちゃんは、銀時に握らせたドスを自分の首に突き立てようとした。  
「ぅおおおおおおい!!」  
 もう少しで刃物がさっちゃんを貫く寸前で、銀時はさっちゃんを振り払い自分も数メートル後ずさった。  
 
「おい…」  
 銀時は手の中のドスを見る。どう見てもホンモノの真剣だ。  
「こんなもん持ち出して危ないだろうが。刺さったら大惨事ですよっていうか死にますよ? お母さんに刃物は危ないって言われ  
なかったのか?」  
 それともMがどんどんエスカレートして行くところまで行ってしまったのだろうか。  
 縛ってくれだのロウソクを垂らしてくれだのはドン引きする程度ですんだが、流血沙汰までおねだりされるとさすがに困る。  
 
「ほら、銀さんはやっぱり止めた。分かってたの、銀さんは止めるって分かってたの。だから、寝てる間にって思ったのに……」  
 うなだれたまま、さっちゃんは呟いた。  
「お前、寝てる間にナニするつもりだったんだ? 俺は寝込みを襲われるとこだったのか、それとも寝込みを襲わせるつもりだった  
のか!?」  
 畳み掛けるように問うが、さっちゃんは俯いたままだ。  
「………」  
 おかしい。  
 さしもの銀時も黙り込んだ。  
 いつものトンデモテンションと違う。  
 むしろ、暗い。  
「………」  
 すっかり興が削がれた様子で、銀時はポリポリと頭をかく。  
 
「さすがね」  
 しばらくしてから、さっちゃんは言った。笑っているのに、泣いているような声だった。  
「あんなにぐっすり寝ていたくせに、刃物の気配で目を覚ますんだから。惚れ直しちゃったゾ」  
「?」  
 口調はいつものうっとおしいものだ。しかし、語尾が震えている。  
 
「おい…? いったい」  
「お願い銀さん!」  
 銀時の疑問をさえぎるようにさっちゃんは顔を上げた。  
 
「私を殺して」  
 
 さっちゃんはきっぱりと言った。  
 一瞬、銀時は息を飲む。そのくらいさっちゃんの目は真剣そのものだった。だが、銀時はわざと目を逸らして大きな溜息をつく。  
「俺、そういう過激なプレイは趣味じゃないんだよねー」  
「そうね、銀さんはいつだってソフトSMよね。せいぜい放置プレイが関の山」  
「SMでもねーしプレイでもねー。俺は真剣に放置してたんだ」  
 そもそも、いやしくも少年マンガの主人公たるものがそんな変態プレイに手を出したら色んなところに訴えられてしまう。だから  
ちょっと興味があってもクールぶっていたわけだ。  
 
「でもプレイはおしまいよ。いいえ! 私の何もかもがここで終わるの。さあ、分かったらそれで私を殺して、銀さん!」  
「ぜんぜん分からないんですけど!!!?」  
 さっき一瞬暗いと思ったのは気のせいだったのか、さっちゃんのイミフなテンションはエスカレートするばかりだ。  
「殺してくれなきゃ、私が銀さんを殺さなきゃいけないの!!!」  
「!!?」  
 銀時のツッコミを上回る声をさっちゃんは上げた。愕然とした銀時の前で、さっちゃんは大粒の涙をこぼしていた。  
 
「……新手のプレイじゃなきゃなんなんだ? とりあえず、俺にも分かるように三行で説明しろや」  
「銀さんを  
 殺せと依頼  
 されました」  
「…はぁ?」  
 本当に簡潔な説明をされるが、今度は簡単すぎて分からない。  
 
「いや、それお前、三行じゃなくて俳句になってないか?」  
 
「でもできない  
 銀さんだけは  
 殺せない」  
 さらに三行でさっちゃんは説明する。  
「それなのに  
 掟にそむけぬ  
 始末屋稼業」  
 
「すでに三行越えてるし、もう九行になってるぞ。ついでに季語も入ってないぞー?」  
 
「出来ぬなら  
 影に滅ぶが  
 忍びのさだめ」  
「…」  
 そういやコイツは始末屋で忍びだったと思い出す。それも、変態のくせに仕事だけはきっちりやり遂げる忍びなのだ。  
 春雨の残党か、それともヤツの嫌がらせか、誰かがさっちゃんに銀時を殺すよう依頼したのだろう。それも、正式な依  
頼を。  
 変態のくせに真面目なさっちゃんが公私の板ばさみの挙句に決めたのが、銀時に返り討ちにされて殺されたというシナ  
リオなのだろう。  
 
「で、なんで殺してくれって話になんだよ? 失敗して返り討ちにあってすごすご帰ったって設定でいいだろうが」  
「バカね」  
 さっちゃんは肩をすくめて呆れたように笑った。  
「銀さんは忍びの掟を少しも分かってないんだから。死んでも標的を殺す――逃げることなんて許されないわ。よしんば  
逃げても、誰かが殺しに来る」  
 メガネの奥の両目はゾクリとするほと冷たかった。  
 この女は本来、白夜叉と呼ばれた自分と同じほどに修羅の道を歩んできているのではないか。ひょっとすれば、葬った  
命の数は自分よりも多いかもしれない。普段の変態なメスブタからは想像もできないが、さっちゃんは本物の忍びなのだ。  
 
「…そうかよ」  
 銀時の瞳にも、冷たい光がよぎった。  
 
「けど、お前の指図を受ける気はないぜ。もちろん、殺されてもやらねえ」  
「きゃっ!」  
 言い終わらないうちに銀時はさっちゃんの手を取っていた。  
「な、何っ?」  
「大人しくしてろや、メスブタ」  
「!」  
 手にしている刃物よりも冷徹な目を向けられて、不覚にもさっちゃんのM心がずきゅんと疼く。  
「ああん……銀さん…。そんなドSな顔されたら私……」  
 本当に大人しくなってしまった間に、さっちゃんの体は煎餅布団の上に横たえられていた。  
 
「え?」  
 気付いた時には身動きもできなかった。  
「よっ、と」  
 きゅっと縛られたのは左手首と左足首だ。縛っているものは柔らかい布で、それが銀時が普段着に使っている帯だという  
ことはしょっちゅうつきまとっていたさっちゃんにはすぐに分かった。  
 同じように右手首と右足首も縛られている。こちらは少し硬く細いものでぐるぐる巻きにされている。たぶんこちらは、  
銀時が普段着に使っているベルトのほうだ。  
 
「なあ、さっちゃん」  
「は、はい?」  
 訊かれて、さっちゃんは緊張の面持ちで答える。銀時は先ほどとは打って変わってユルい表情だ。  
「ケータイ持ってる?」  
 質問もユルい。  
「え? は、はい、持ってます。懐に……」  
「そ、フトコロね」  
 答えた銀時は無遠慮に懐を探り出した。  
「きゃあっ」  
「おいおい、ドMのくせにこの程度で声上げんなよ。痴漢された女子中学生ですか?」  
 思わず声を上げてしまったさっちゃんに対して、銀時は心底ダルそうな顔だった。  
 ダルそうな顔のまま、携帯電話のレンズをさっちゃんに向ける。  
「おーいい絵だ」  
 カシャ。  
 フラッシュと同時にシャッターが押された。  
 唖然としたのはさっちゃんで、口をぱくぱくさせているが手足は縛られていて動けない。  
「お、その顔もいいねえ。女殺し屋が返り討ちにあってリョージョクされてますってかあ?」  
 カシャ。  
 
「ぎ、銀さん? な、何を……っ」  
「ほれ」  
 さらに数枚の写真がさっちゃんの携帯に収められ、銀時はフリップを閉じた携帯電話をぽいと投げた。  
 
「これ以上俺の命を狙ったら、ネットに恥ずかしい写真がばら撒かれますとでも言っとけよ、依頼主に」  
 恥ずかしい写真と言っても、今のさっちゃんは縛られているだけでちゃんと服は着ている。どうやら銀時もそれ以上  
何かをするつもりはないらしい。  
「……」  
 さっちゃんは思わず茫然と銀時のほうを見た。  
 銀時は、さっちゃんの縛めを解く様子も見せずそっぽを向いている。  
 やがてさっちゃんがこぼしたのは溜息だった。  
 
「無駄よ……そんなんじゃ」  
 忍びの掟は絶対だ。  
「銀さんがやってくれなくても、私はいずれ」  
 殺される。  
「ッ!」  
 最後の言葉が終わらないうちに銀時はさっちゃんに鋭い眼光を投げていた。  
 
「ったく……イラつくようなこと言うんじゃねえ。それともアレか? マゾからメンヘラに路線変更か?  
 似合わねえっつーの」  
 舌打ちしながら向き直る。  
 本当にイラついていたが、何に対してイラついているのかは分からない。  
 だいたいなんだってんだ、この女は。特にこれといった恋愛イベントも起こっていないのに、すっかり俺にメロメロ  
だ。  
 それも、テメェの命と俺の命を秤にかけて、俺の命を取りやがる。  
 そのくせ、依頼された仕事を断れもしねえ。  
「不器用どころの話じゃねえだろ」  
 伸ばした右手が、さっちゃんの首にかかった。  
 思わず力を込めれば、さっちゃんは苦しげな呻きを漏らす。  
 そのせいだったのか、それともさっちゃんの首が見た目以上に細くて驚いたのか、込めた力はすぐに抜けた。  
 
「……知ってた」  
 首に手をかけられたまま、さっちゃんは呟いた。  
「銀さんが私のことを嫌ってることも、避けてることも、知ってた。でも……好きだった。ごめんね、銀さん……本当は  
私に触るのも、イヤよね」  
 細い首を絞めるのに、両手を使うまでもないだろう。  
 それなのにさっちゃんの唇は微笑んでいるようだった。嬉しそうというよりは、悲しそうな、すまなさそうな微笑だった。  
「銀さん……ごめんなさい。最後まで、迷惑かけて」  
 涙がこぼれた。  
 本気で殺される覚悟ができているらしい。ドMの彼女のことだから、それすらひょっとしたら嬉しいのかもしれない。  
 だが、銀時のイラ立ちはいや増すばかりだ。  
 
「ああそうだ」  
 銀時はさっちゃんの首に手をかけたまま馬乗りになる。  
「俺はお前を避けてた。会いたくなかったし、口も聞きたくなかった」  
「…」  
 じわ、とさっちゃんの眉が悲しげに寄った。  
「けどな、」  
 潤んだ瞳を、銀時はまっすぐに見据えた。珍しく眉と目が近づいた顔つきだった。  
「嫌いだったからじゃねえよ。  
 ――逆だ」  
「…え?」  
 
 聞き間違いだろうかと思った。  
 だから聞き返そうとした。  
 だが言葉は続かない。  
 
「ん…ぅっ!?」  
 馬乗りになった銀時がさっちゃんの唇を奪っていたのだ。  
 油断していたさっちゃんの口の中にあっさりと入り込んだ舌先が、さっちゃんの舌に絡み付いてくる。  
 そのままジュルジュルと唾液を吸い上げられて、頭の中が真っ白になる。  
 
「は…っ」  
 ようやく唇が離れて、さっちゃんは大きく息を吸う。頬が上気して赤くなっていた。  
 そしてすぐ鼻先には、まだ銀時の顔がある。  
 
「一回でも触っちまったら、戻れなくなるだろうが」  
「え……?」  
 きょとんとした目を向けられて、銀時はそっぽを向いた。すでにさっちゃんは真っ赤なのだが、銀時の頬も赤いような気がする。  
 
「んなことも分かんねーのかよ、バカが」  
 銀時はぼそっとこぼした。  
「あ、あのぅ……」  
 さっちゃんの口からはずいぶん気弱な声が漏れる。  
「今のって……何かなー?」  
 予期しなかった出来事に、すっかり混乱しているようだ。  
 
「あっ! もしかして私、さっき銀さんに首を絞められたところで死んじゃったとか!?  
 それで天国に来たのね! 私の健気さをかわいそうに思った神様が、銀さんソックリの天使を遣わせてくれたんだわ!」  
「……おい」  
 またもやさっちゃんは自分の妄想の世界に入ってしまった。  
「そっかぁ……死んじゃったのかあ……」  
 トホホーとでも言うようなさっちゃんに、銀時のこめかみがぴしりと鳴る。  
 
「おいって!」  
 言って、さっちゃんの耳をつねりあげる。  
「あああん(ハート)! じゃなくて、痛い痛い痛い」  
「死んでねーし、天使でもねー。  
 分 か っ た か !!?」  
「はっ、はい、分かりました! 死んでません、天使じゃないです…っ。  
 でも、だったらどうして…?」  
「あーあー、本当に分かってねーよ」  
 あきれ返った顔で銀時は頭をかく。  
 
「俺ァ、お前が好きだって言ってんの。そんな鈍くてよく忍者やってられんな」  
「あ? あーあー! なるほど!  
 って、えええェェェえ!!?」  
 こいつ、わざとやってんのか。  
 さすがの銀時も嫌気がさしてきた。どうも彼女の調子に合わせていると、こちらのヤル気が萎えてしまう。  
 
「……もう遅せーぞ」  
 さっちゃんの驚きを華麗にスルーした銀時はそう言って忍装束の襟に手をかける。  
「俺なんざに命かけるお前が悪い」  
「きゃっ」  
 襟をつかんで、ぐいっと引き下ろす。乱暴なやり方のせいで、服のどこかが引きちぎれる音がした。  
 
「俺今から、さっちゃんのことリョージョクすっから」  
「はっ!? え、どどどうして……ッん!?」  
 さっちゃんの訊くことにいちいち答えていては、盛り上がった気分も台無しになってしまう。  
 あわあわしている間にさっちゃんの胸はすっかりはだけさせられて、暗い中には白い乳房が浮かび上がっている。  
「おお、やっぱでけー……! それにやわらけー!」  
「んあッ!?」  
 いきなり鷲掴みされて色っぽい声があがる。  
 
 銀時はさらにぐにぐにと揉みしだいた。溶けるのではないかと思うほど柔らかいのに張りのある胸は手のひらに吸いつくようだ。  
 
「やっ、銀さ……っ、そんなにしないで」  
 しばらくの間ずっと胸を揉んでいた銀時に、さっちゃんはたまらず声を上げる。  
「いやー、こりゃ気持ちいいわ。さすがくノ一忍法帳」  
「だっ、だって、そんなに強くされたら……痛い」  
 ぎゅっと目をつぶって、真っ赤になった顔をそむけているのが妙に嗜虐心をそそる。  
 
「痛いだぁ?」  
 銀時はニヤリと唇をゆがめた。  
「さっちゃんはMだから、痛いほうがイイんだろう? だいたい、そんなにビックンビックンしてたら縛ったトコが擦り切れるんじゃね」  
 それともそっちのほうがイイんだっけか?  
 などと言いながら、今度は体を倒してさっちゃんの耳を舐める。  
「きゃうっ」  
 舐めるだけでなく、ギリギリ痛みを感じる程度に歯を立てられて、またさっちゃんの体が跳ねた。同時に、馬乗りになった銀時にもさっちゃんの体の柔らかさがダイレクトに伝わった。  
 
「痛いことされてて気持ちよさそーってお前、ほんとに変態な」  
「んんん…っ」  
 耳に口をつけたままで囁く銀時の息に合わせて、さっちゃんの体はビクビクふるえた。  
 手足を縛られて不自由な上に、特にベルトで縛られたところは痛いと思うのだが、本当のところはどうなのだろう。  
 訊こうとしたところで、さっちゃんが銀時を呼んだ。  
 
「銀さぁん……」  
 助けを求めるような、哀願するような声。  
「んだよ? 今度またKYなこと言い出したら本気でブッ飛ばすぞ」  
 言葉とはうらはらに熱っぽい囁きで耳をくすぐる。するとさっちゃんは細い声でうめいた。  
 
「はっ、んっ…銀さん、お願い。もう一回だけキスしてもいい? 今度はちゃんと、信じるから」  
 銀時はさっちゃんの顔の横に肘をついて身を起こし、望み通り口づけた。  
 唇を合わせると、さっちゃんのほうから舌を絡めてきた。もっと納豆臭いと思っていたさっちゃんの唾液は意外にも甘かった。  
 
「(うわ……やばいかも)」  
 熱いキスで銀時の体も熱くなってくる。それはさっちゃんが銀時の唾液を飲み込んだコクンという音でピークに達した。  
「はっ……」  
 あわてて唇を離した銀時は、腰を浮かしながら体を前方にずらした。  
 銀時自身がとっくに固くなっていることはさっちゃんだって気づいているだろう。  
「銀さ……あっ……」  
 再び両手で胸を捕まれて、さっちゃんのおとがいが反り返った。そればかりか銀時は、怒張したものをさっちゃんの胸の間に突っ込んだ。  
「ぅあ……、やっぱ気持ちいー……」  
 柔らかくてあたたかくてすべすべした肉の感触は想像以上のものだった。  
「(ってコレまじヤベェ…。あ…、動いたらいっちゃいそう)」  
 思わず銀時は息を止めて身を固くする。  
 そうしなければ本当に射精してしまいそうになったのだ。新八ではあるまいし、いくらなんでもそんな早漏ぶりは見せられない。  
 
 しばらく歯を食いしばって耐え、ようやく落ち着いてきたところでゆっくりと腰を使い始めた。  
 
「あっ…あン…」  
 動きに合わせてさっちゃんも身をよじる。  
「銀さんの…、ビクビクして……あっ、あっ…」  
「なんだよ、こんなんでも感じちゃうの? じゃ、こーゆーのはどうだ?」  
 銀時は掴んだ両乳房をさらにわしゃわしゃと乱暴に揉み、自身にすり付け、人差し指の先で乳首を引っかいた。  
 
「ふぁ…っ!? あああっ…!!」  
 どうやら乳首も弱いのか、体中が打ちふるえる。あまりに激しい身悶えに、手足を縛った帯とベルトがぎちっと軋んだ。  
「そこ、そんなにしたら……っ、やあぁ…ッ」  
 何度も声を上げておとがいをそらしている内に、銀時の煎餅布団に明るい紫色の髪が広がってゆく。  
 あの髪も触り心地がいいんだろうな、そんなことを考えながらさらに豊かな胸を犯してゆく。  
「ほれ、さっちゃん、悶えてないで顔上げてみろよ」  
「? ……ッ!」  
 言われた通り顔をあげたさっちゃんの目の前に、胸の間から覗いた亀頭が見えた。  
 部屋が暗いせいか、黒々とした怒帳はやはりびくびくと痙攣している。  
 
「見えたか? じゃ、舌出して舐めてくんない? しっかり伸ばさないと届かねーかもしれねえからな」  
「は……い」  
 言われた通りさっちゃんは、顔を上げて精一杯舌を伸ばした。  
 ピチャ…。  
 かろうじて先端が舌にふれた。先走りで濡れたそこは、濃い味と匂いをもたらしてくる。  
 その男臭さを感じたとたん、さっちゃんの体もじゅんと濡れるような気がした。  
 頼んでもいないのに、舌先でぺろぺろと先端を舐める様子がとんでもなくいやらしい。銀時の先端もさらに我慢汁を漏らしてしまう。  
 
「よし、ご褒美だ……、口、あけろよ?」  
「はぃ…んむっ!?」  
 ペニスはまだ胸に挟まれている。しかしさらに体をずらした銀時の亀頭がさっちゃんの口を侵犯した。  
「ッ!」  
 雁首のそばにさちゃんの舌を感じた銀時は、またも絶頂しそうになるのをこらえて動きを止めた。しかしこちらが止まっても、さっちゃんの舌の動きは止まらない。  
 どこか切なそうに眉をしかめながら大きく口を開いて銀時のものに吸いついている。  
 手足は縛られたままで苦しいはずなのに、歯を立てないようにしながら先端を舐めしゃぶる様子は卑猥なくせに健気でもある。  
 
 銀時は再び小刻みに腰を使い始めた。相変わらず胸を乱暴に揉みながら、コリコリの乳首を淫茎にこすりつけたりもする。  
「はっ、ああぁ……っ」  
 するとさっちゃんはくぐもった声を上げて切なそうに身をよじる。動かされても口の中の亀頭には舌を絡ませたままだ。  
「く……っ……、出…っ」  
 いい加減我慢も限界に達していた銀時は思わずそう呟いて、己れの精を解放した。  
「…ッ!?」  
 突然口の中に溢れだした塩っぽい青臭さに、さっちゃんの体もびくりと止まる。  
 だが吐き出したりはしない。  
 むせるような苦しさに耐えながら、流れ込んできた精液を余さず飲み込んだ。ごくりという音とともに喉仏が上下した。  
 
「はあ…っ、はっ」  
 荒い息を吐く銀時の下で、さっちゃんはぼんやりと薄く目を閉じていた。唇には白い液体がほんの少しこびりついていた。  
 
 
 
 
 
 脱がせやすくて触りやすい上半身と違って、下半身はピッタリとしたスパッツに守られていた。  
 当然、手足を縛った今の状態では、膝あたりまで下げることができても脱がせられない。  
 そこで銀時は、先ほどのドスでスパッツを下着もろとも切り裂いてしまった。  
 
「やだ、銀さん……、恥ずかしいから見ないで」  
「何が恥ずかしいだ」  
 すっかり濡れそぼった股間からは、濃厚な雌の匂いが漂ってくる。  
 
「お前の普段の言動のほうがよっぽど恥ずかしいっつの。しっかし、濡れてるとは思ってたけど、こんだけ濡れてるとは思わなかったぜ?  
 縛られたのがそんなに嬉しいのか?」  
 むき出しの秘所を指で開いてみた。さほど力を入れずとも、胸同様に柔らかいところはくぱぁと開いてますます強い匂いを発した。  
「おーおー糸まで引いちゃってるし…。えろいなー、さっちゃん」  
「そっ、そんなこと言わないでよ」  
 真っ赤になって顔を背けたさっちゃんの反応は思っていたよりずっとうぶだ。  
「だからいつものほうが恥ずかしいことしてるって自覚ねえのか? ま、そういう反応は嫌いじゃないけど」  
 そして、くぷくちゅとわざといやらしい音を立ててまさぐる。  
 
「だ、だって……っひあ……っ!」  
 銀時の指は難なくさっちゃんの中に飲み込まれた。決して深いところではないが、異物感も否めない。  
「ああ、こりゃ気持ちいーわ」  
 さっちゃんの胎内は柔らかくずぶ濡れで、指くらい簡単に挿入できる。それでも、濡れた肉はきゅんと締め付けてはわななくようにふるえている。  
 
「(先に一発抜いといてよかったあ…)」  
 こっそりと銀時はそんなことを考えた。  
 別に女に飢えているわけではないが、溜まっていたのはまあまあ事実だ。  
 それにしたってあまりに早くイッてしまっては――まして指を挿れただけで射精してしまっては男の沽券に関わる。  
 そのくらい、さっちゃんの体は気持ちいい。  
 さすがくノ一にんp(ry  
 
「やっ……、やっ……ん……っ」  
 だがさっちゃんのほうは、そうとうせっぱ詰まっている様子で耐えている。  
 さっきよりも深いところをえぐると、  
「はゥんっ!」  
 と、体が跳ね上がる。  
 手首と足首を縛るベルトが軋むほどだ。声と同時に指を締める肉もぐいっとひきつる。  
 ここに挿れてたら気持ちいいに違いない。そんなことを考えると、さっき射精したばかりのところがまたもや熱くなってくる。  
 
 俺そんな絶倫だったっけかなあ?  
 思いながらもさっちゃんの胎内をぐちょぐちょと探ってゆく。  
 時々指をくの字に曲げて強くこすると、さっちゃんは小さな声をあげて全身をおののかせる。  
 秘所に指をつっこんだまま、銀時はわななくさっちゃんの太股にほおずりしてみた。やっぱりここも柔らかくて白い。  
 ただ、肉感的なくせに締まった筋肉は極限まで鍛えられた忍びのものだ。その筋肉がひくひく震えてますます色っぽい。  
 
「いーのかヤなのか分かんないんだけど、ここ、気持ちいい?」  
「…んっ」  
 指はもう根本まで突っ込んでいる。  
 そこをつつかれて、さっちゃんは感じながらもこくりと頷いた。  
 ちょっとカワイイ仕草だった。  
 
「じゃあ、どうしてほしい?」  
 太股に口をつけて、やわやわと歯を立てながら問いかける。相変わらずさっちゃんの股間はぐちゅぐちゅいやらしい音を立てている。  
「あっ…! ふあぁあん…ッ」  
「アンアン言ってるだけじゃ分かんないですよー?」  
 意地悪そうにそう言って、ちゅっと太股に吸いついた。強めに吸われたところがジンとする。きっとキス痕が痣になったことだろう。  
 
「銀さ…っ、銀さんのぉ…っ」  
「ん?」  
 息も絶え絶えにさっちゃんは悲鳴のような声を上げた。  
 
「銀さんの…っ、したいこと全部してえ…っ」  
「っ」  
 ドキッとした。  
 たまにさっちゃんは無意識のうちにカワイイことを言うからずるい。  
「お前…、天然エロキャラってそれなんてエロゲ?」  
「だって、だっ……あっ、銀さんのこと……好きなんだも……っ、ぁンっ」」  
 目をうるうるさせながら銀時を見る。顔をそちらに向ければ、さっちゃんの股間に手をつっこんでいる銀時や、震える自分の足が見えてしまう。  
 それがよけいに恥ずかしい。  
 
「……そーかよ」  
 さっちゃんの男心をくすぐるおねだりに動揺しまくっているのを隠しながら、銀時はまさぐっていた手を離し、さっちゃんの太股にまた軽く歯を立てた。  
「ふあ…ッ」  
 ビクンとしたさっちゃんをしり目に、銀時は口唇で腿をたどって秘所をペロリと舐めただけで、「ひああん」と涙声のような悲鳴が上がる。  
 とはいえ、淫核には直接触れていない。しかしぽってりと充血した真珠は包皮からほんの少し顔を出して、触られるのを待っているようだ。  
 銀時は触れる前にそこにふうっと息を吹きかけた。  
「あ、ああっ…ッ!」  
 思わずさっちゃんは腰を突き出した。その拍子に、濡れたところが銀時の顎にあたる。  
 
「おお、積極的だなさっちゃん。ここ、舐めてほしいのか? ん?」  
 訊きながら、淫唇のふちをちろちろと舐める。トロトロのそこからもほんのり甘酸っぱい雌の味がした。  
「〜〜ッ……! ッ!!」  
 さっちゃんは唇を噛んで声を殺しながら必死でせりあがる開館に耐えている。  
 銀時はさらに意地悪い気分が高まって、さっちゃんの秘所に少しだけ舌を差し入れる。とたん、とろっとしたものが溢れ出た。  
 
「ほーれほれ、どうだ? どんな感じか言ってみろ。でなきゃやめちまうぜぇ?」  
 銀時は秘所に口をつけたままで問いかけた。  
「あ…っ、やっ! やめないで……ッ、気持ちイッ……からあ……」  
 まるで激しい快感に耐えられないとでも言うように、さっちゃんの腰も小刻みに揺れている。動くたびに秘所からはくぷくぷと、空気の混ざった音がした。  
「やらしーなあ、さっちゃん。ここ舐められんの、そんなに好き?」  
「はいぃ……銀さんに…ッ、舐められるの大好きぃ…」  
 手足を縛られたままでのけぞれば背中が弓なりに反って乳房が揺れる。  
 銀時の目からは、ちょうど陰毛の向こうのほうピンと勃ったふたつの乳首が見えた。  
 それを眺めながらさらに大きく口を開け、秘所ぜんたいとディープキスでもするようにすすり上げた。偶然にも鼻先が半ば剥けたクリトリスに当たって強い刺激になる。  
「はふうっ…!」  
 ほんの少し当たっただけで、体中が激しく波打つ。同時に口付けたところから熱い淫液が溢れ出る。そこ全体がとくとくと脈打っているようだ。  
 奇々怪々な言動が目立つさっちゃんも、そこだけはふつうの女性と同じくどこよりも感じるらしい。  
 口を離した銀時は、再び秘所に指を突き入れながら、今度は淫核に口を寄せた。  
 
「やっ、そこは……ぁあっ!」  
 唇できれいに包皮からむき出したとがりはくりくりとしこっていた。そこを舌でつついたら、それだけでも気持ちよすぎる。それなのにさらに強く吸いたてられて。  
「あっ、きあ……ッ! ひああーっ!!?」  
 大きな波にさらわれるように、さっちゃんはあっというまに絶頂した。  
 
 少し身を起こした銀時は、まだふるふるわななく太股にキスをした。  
「そんなに感じまくっちまったら、リョージョクにならねえな」  
 むしろ和姦。それもソフトSMに分類されるような気もする。  
「でさ、1コ教えて?」  
 銀時はさっちゃんの足の間に体を入れて上身を倒し、さっちゃんの頬にキスでもするように囁いた。  
 
「はぅ」  
 息をかけられただけで、さっちゃんの体はぴくんと震える。  
 
「そんなに感じまくってるのって、縛られてるから? それとも……相手が俺だから?」  
 つーっと、腰のあたりから手を滑らせて乳房を優しく揉んだ。さっきよりも汗ばんだ胸は、さっき以上に銀時の手のひらに吸いつくようだ。  
「銀さん……」  
 すがるような目がすぐそばの銀時に注がれた。  
 眼鏡はとっくにずれ落ちてしまったが、今のところは目の前の銀時を認識できているらしい。  
「銀さんでなきゃ……こんなにならな……あっ、あ!」  
 差し入れられた指をぐちゅぐちゅ動かされて目を開けていられなくなる。  
 
「……俺もだ」  
 銀時は言って、身を起こした。  
 すっかり元気を取り戻した固まりは、まるで吸い込まれるようにさっちゃんの秘所へと入り込んだ。  
 
「あっ、あああん…ッ」  
 指よりもずっと大きな異物感に、さっちゃんはがくがくと体を震わせながら反応する。  
「く…!」  
 思っていた通り、いや、思っていた以上にきゅんきゅんと締めてくる柔らかい肉に、銀時もたまらず目を閉じる。  
あとはもう、本能のおもむくままにがむしゃらに腰を打ちつけた。  
 ぐちゅっ、ジュッ、ジュッ、ジュッ、と短いスパンで打っていると、動きにあわせてさっちゃんの唇から小さな声が漏れた。  
 
「だめ、銀さァん…っ、そんなにされたら、私、イッ……ひあっ、ひああ……ッ」  
「ああいけよ、好きなだけイッちまいな。  
 そのうち、死にたいなんて思わなくなるぐれー、狂っちまえ」  
 銀時の額や頬にも汗が浮かんでいる。  
「ああっ、あっ、あっ、ひあ、あ、あ、あ……!」  
 さっちゃんの全身が波打って、ひときわ強く銀時のものを締め付ける。あまりに強烈な快美感に、頭の中が真っ白になる。  
 やがてさっちゃんはがっくりと意識を失った。  
 銀時自身も気がついたら射精していた。  
 
 精も根も尽きた銀時は、身を起こしていることさえできなくなって、さっちゃんに重なるように倒れ込んだ。  
 失神したさっちゃんの顔は、苦しそうなのにとても満足しているようだった。  
 
「死なせるもんかよ……、なあ?」  
 そのまま銀時も、泥の海に沈むように意識をうしなっていった。  
 
 
 
 
 
 翌朝。  
「来るなァァア!  
 あっちにはうす汚れた世界しか広がってねーぞ!!」  
 
 どこかで聞いたような新八の絶叫で、銀時とさっちゃんは目を覚ました。  
 何かを誤魔化したかったのか、銀時はさっちゃんが練った納豆をおとなしく食べていた。  
 新八の薄ら寒い視線を受けながら。  
 
終わる。  
 

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